軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#017 作戦終了!

「作戦の進捗は?」

「はい、大尉。少々ハプニングはありましたが、順調と言ってよいかと」

「ああ、あれね……罪には問わなくてもいいけど、しっかりと経費は請求するように」

「アイアイマム」

現時点で稼いでる傭兵は……と、表示タブを切り替える。そして切り替えた画面に表示された一人の傭兵が現時点で稼ぎだしている賞金額を見て私は思わず目を見開いた。

中型船をもう四隻撃破しているし、小型艦船の撃墜数も群を抜いている傭兵がいる。今も戦っているようで、見る間にどんどん獲得賞金額が上昇していた。

「うちの星系にこんな凄腕の傭兵なんていたかしら?」

「え? うわ、これは確かに……ゴールドランク、いやプラチナランク級の戦果ですね。見たことのない名前ですが」

通信兵は見たことのない名前だと言っていたが、私にとっては見覚えのある名前だった。

「データを出して頂戴」

「はっ」

データを確認すると、やはり彼だった。見覚えのない船に乗っていた、自称傭兵。今は正式に傭兵になっているようだが――。

「……ブロンズランク?」

「ブロンズランクの戦果ではありませんね。登録は――登録からまだ一週間くらいですか。登録時からブロンズランクでこの戦果ということは、元は軍のパイロットでしょうか? 間違いなくエース級ですね」

「そう、ね……」

あの自称傭兵の身なりを思い出す。年の頃は私より少し上くらいだったはずだ。引退した軍のパイロットではないだろう。それならもっと歳をとっているはずだ。

それに、彼から軍人らしい雰囲気は全く感じ取れなかった。どちらかと言えば、軍人というよりは……うん、普通の人間だったように思える。傭兵らしき雰囲気もあまり感じなかった。

考えてみれば、それも異常な話だ。戦果から考えても、彼が乗っている船は一級品の戦闘艦だということがわかる。しかし、船というものはどんな一級品でも乗り手にそれなりの腕が無いと性能を活かしきることはできないものだ。また、ああいった戦闘艦の操船には尋常ではない集中力が必要となる。

常に命の危機に晒される環境下でその集中力を保ち続けることは非常に難しい。人によっては薬物の服用や催眠暗示などが必要になることもある。

つまり、彼は船とは縁の無さそうな一般人でありながら、あれだけの戦闘艦を乗りこなす技術と胆力を兼ね備えているということだ。これを異常と言わずしてなんと言えば良いのだろうか?

彼は何者なのか……興味が更に深まる。

「どんどんスコア差が……これ、二位とトリプルスコアがつきそうですね」

トリプルスコアで済むかしら? このペースだとそれで済みそうには思えないけれど。

「注視しておきなさい。取れるだけのデータは全て取っておいて」

アイアイマム、という部下の返事を聞きながら私は再び戦場全体を俯瞰する戦術地図に目を向けた。

決着はもうじきだ。

☆★☆

作戦は終了した。宙賊の船は掃討され、今は生存者の探索と戦場に散らばった物資や有用なデブリの回収タイムである。

とは言っても俺の船には生存者探索に向いた装備は搭載されていないので、そういうのは星系軍の艦艇に任せて俺は戦利品の獲得に専念だ。

「ヒロ様、こういうのって取り合いになったりしないんですか?」

「船のカーゴから宇宙空間に飛び出してしまったようなのは早い者勝ちだな。撃破した船には撃墜した傭兵のタグが自動的につくようになってるから、そっちからのサルベージは心配ない」

ただ、今回俺はかなりの広域を飛び回ったから回収地点があちこちに分散してて七面倒くさいことになってるんだよな。

とはいえ、これをサボるのはありえない。討伐報酬と星系軍から出る成果給だけでも大幅な黒字なのは間違いないが、撃破した宙賊艦から剥ぎ取るサルベージ品もバカにならない金額になったりするのだ。

特に、こういう宙賊の基地を攻撃した時には宙賊どもはありったけの物資やレアメタルを抱えて基地から飛び出してくることが多いのだ。

「さぁて、お仕事お仕事っと」

「ヒロ様、楽しそうですね……」

「そりゃな。船でバチバチ殺し合いをするよりはよっぽど楽しいさ。思わぬお宝が出てくることもあるしな。ミミは楽しくないのか?」

「あの、私はエルマさんが心配で……」

「ミミは優しいなぁ……まぁ船は大破してたみたいだけど、幸いにしてというか不幸にもというか、突っ込んだ先が星系軍の戦艦だったし、間違いなく無事だと思うぞ」

「そうなんですか?」

「ああ。軍艦には本格的な医療設備もあるし、医者もいる。まず心配はいらないな」

「そうなんですか……良かった」

ミミがホッとした表情をする。

うん、命の危険は無いだろうけど金銭面ではかなりヤバそうなんだよな。ただでさえ高い船の修理費に加えて、中破した戦艦の修理費も負担させられるだろうから……おお、怖い怖い。

冷たいかもしれないが、流石にそこまでは面倒を見られないというか、見る理由は無いんだよな。

傭兵登録の件でもミミの件でも世話にはなったけど、あれもちゃんと大量の醸造酒っていう報酬を対価として支払ってのことであるわけだし、そういう意味では貸し借りはなしだ。

恩を感じていない訳では無いが、今回の件で彼女が大量の借金を背負ったとしても、俺がそれを肩代わりして助けてやる理由としてはあまりに弱すぎる。

そもそも、彼女は自立しているベテランの傭兵だ。頼まれてもいないのにお節介を焼くのは余計なお世話というやつだろう。助けてくれって言われたら出来る範囲で助けるけれども。

「さぁ、お宝を頂きましょうねー。ミミも俺の作業を見ながら手順を覚えてくれ。そんなに難しい作業じゃないから」

「は、はいっ」

漂流している船の残骸に回収用ドローンを飛ばし、内部をスキャンして積荷を回収する。ふむふむ、食料品、酒、弾薬ね。この辺りは定番だな。お、精錬済みの工業用金属か。これはそこそこ高値で売れるな。他には――空気清浄機とそのスペアパーツ、浄水器とフィルター、その他コロニーのメンテナンス系の部材ね。これも売れるな。この辺の商品はコロニーやステーションの維持管理に使うから、どこでもそれなりの値段で売れるんだよ。

しかしお宝と言えるようなものは……お、レアメタル。数は少ないけどこれは良いぞ。ストレートに良い金になる。

「ヒロ様、色々あるんですね」

「色々あるな。レアメタルとかが多いと嬉しいんだが」

「うん? これはなんでしょうか?」

「んー?」

ドローンが回収してきた物資の中によくわからないものが合ったので、詳細スキャンをかけてみる。水晶、か? 妙に厳重に封印されたコンテナに入れられた水晶だ。これは……いやまさか。

「あ、あー……これはアレだなぁ」

「なんですか?」

「これは『歌う水晶』というもので……ちょっとした危険物、かな?」

「そうなんですか。持って帰るんですか?」

「うーん、そうだなぁ」

一部の好事家に高く売れる可能性はなきにしもあらずか。

ちなみに、この歌う水晶というのはちょっと特殊なアイテムで、宇宙空間で破壊するとどこからともなく大量の宇宙怪獣が押し寄せてくるとても危険なアイテムである。

出てくる宇宙怪獣そのものはさして強い相手ではないのだが、問題はその数だ。

数百から数千単位の宇宙怪獣が一気に押し寄せてくるので、ぶっちゃけ単艦でどうにかするのは無理ゲーである。ステラオンラインでは最低でも一〇隻以上のパーティを編成して挑むべきであるとされていた。所謂レイドボスとかレイドクエスト的なものを発生させるアイテムなのである。

実は、こいつを使ったちょっとした裏技もあったりするのだが……うーん、今の状況を考えるとこいつをこっそりと隠し持っておくのは保険になるかもしれないな。国際情勢がキナ臭いみたいだし。

「持って帰ろう。こっそりと」

「こっそりですか?」

「うん、こっそり」

一応禁制品ではないはずだが、見つかると厄介な代物ではある。実はこの船にはスキャンを逃れられる特殊なカーゴスペースが少しだけ設置されているので、そこに格納しておくとしよう。

え? そんなもの何に使うんだって? ははは、イリーガルな品の中には役立つものもあったりするからね。仕方ないね。傭兵の嗜みってやつだよ。

カーゴが一杯になるまで物資を回収した俺達は他の傭兵や星系軍と一緒にターメーンプライムコロニーへと帰還した。エルマの白いフェ○ーリも曳航されていたようだが……あれ修理できるのかね。フレームそのものがひしゃげてたからほとんど買い直しじゃないだろうか。というか、船の質量差がとんでもないはずなのにも関わらず戦艦を中破させるってどれだけスピード出てたんだよ……本当にエルマが無事かどうか俺も心配になってきたな。

そう思っていたところに通信が入ってくる。俺に向けたものではなく、傭兵艦を含めた全ての艦船に送信されているもののようだ。

『これにて作戦の終了を宣言します。各員、ご苦労様でした。宙賊の基地は完全に破壊され、艦艇も大半が撃破されました。これで暫くはこの星系も安全になることでしょう』

しばらくは、ね。この星系は採掘資源が豊富だし、国境も近い。少し時間が経てばまたどこからか奴らは湧いて出てくるだろう。虫か何かかよ、と思わなくもないが実際に駆逐しても駆逐してもいくらでも湧いてくるのだから始末に負えない。

『傭兵の報酬については戦果の集計が終わり次第口座に振り込まれることになります。遅くとも二日後には支払われる予定です』

早いと見るか遅いと見るか微妙なところだな。ゲームなら拠点に帰還後、すぐに報酬が手に入ったのだが、これは現実だ。軍やお役所のような組織がたった二日で集計を終えて支払いをするというのは十分に早いように思える。

これくらいのタイムラグはいつものことなのか、傭兵達から不満の声が上がることはなかった。多少時間がかかっても誤魔化される心配はないから構わないということであるらしい。確かに、軍や政府組織が約束した支払いを反故にしたりした日には権威が著しく失墜してしまうものな。

勿論俺も不満はない。すぐに金が手に入らないと明日をもしれない生活というわけでもないので。

「よし、ミミ、ドッキングリクエストを送ってくれ」

「はい、わかりました」

ミミがオペレーター用のコンソールを操作し、ターメーンプライムコロニーにハンガードッキングの要請を送る。程なくして管制からドッキングするハンガーベイが指定されてきた。これが初めてのドッキングリクエストなのだが、ミミは問題なく業務をこなせているようだ。

こんなところで接触事故を起こして面倒事は御免なので、ガイドマーカーに従って慎重に船をドッキングさせる。ガシャン、とハンガーベイとの接続音が鳴り響き、船が固定されてエアロックの中へと運搬され始める。

とりあえずこれで一安心だ。ハンガーベイに無事ドッキングした時のこの安心感はゲームでもリアルでも変わらないな。

「ヒロ様、これからはどうするのですか?」

「これから? そうだなぁ。まぁ、金が支払われるまでは休養期間かな。精神的にも身体的にも疲れたし」

シートベルトを外し、操縦席から立ち上がって身体をグッと伸ばす。意外と身体も疲れてるんだよな。戦闘機動中は強力なGに常に曝されることになるから身体中に力が入るし、操縦桿を握る両手にも自然と力が入ってしまう。なんか操縦席に座っていただけなのに激しい運動を行なった後のような疲労感があるな。

操縦席の横に立ったままコンソールを操作し、機体のセルフチェックプログラムを走らせておく。かなりハードな戦闘をやらかしたわけだし、今回はそれなりにメンテナンスが必要だろうな。弾薬と燃料の補充もしないといけないだろう。

「いえ、そういうことではなく。これから先、どこに行って何をするのかな、って」

「どこに行って何をするか、かぁ」

なかなか哲学的な問いだな。人はどこから来て、どこへ行くのか、何を成し、何を遺すのか……別にそんな重い意味は無い質問なんだろうけれども。

「まず、俺の旅の目的というか、目標なんだが」

「はい」

「どこかの惑星上居住地の一等地に庭付きの一戸建てが欲しいと思っている」

「それは……壮大な目標ですねっ」

「そうだろうそうだろう」

そして不労所得で好きな時に好きなものを好きなだけ食い、寝たい時に寝て、好きなだけ遊び呆ける。そんな生活を送りたいんだ。これを言うと幻滅されそうだから言わないけど。

「ミミも何か目標を考えておくと良いかもしれないな。ただ生きるためだけに生きるってのは辛いから」

「そうですね……そういうことはあまり考えたことがありませんでした」

「なんでも良いと思うぞ。全宇宙のグルメを味わいたいとか、宇宙に広がる不思議な景色を見て回りたいとか、そういうのでもいいと思うし」

グルメ旅に観光旅行か。自分で言っておいてなんだが、そういうのも悪くないな? よし、俺のサブ目標ということにするとしよう。

「全宇宙のグルメ、いいですね。それにしましょうか」

「いいね。じゃあ俺もそれに付き合おうかな」

「ではそういうことで。私の目標はヒロ様と一緒に全宇宙を食べつくすこと、これにします!」

「おー!」

両手をぐっと握って気合を入れるミミに拍手を送っておく。いま、ここに全宇宙を食い尽くすハラペコモンスターが誕生したのだ。

「太るわけにはいかないので、運動もがんばります!」

「そうだな。ミミはもう少し肉をつけてもいいと思うけど」

「……そうですか?」

自分の身体つきを確かめるかのように自分のお腹を撫でていたミミが突然ギクリと身体を震わせた。なんだ? どうした?

「え、えと、ちょっと汗をかいたみたいなので、シャワー浴びてきますね?」

「おう? ごゆっくり?」

下半身を隠すかのような不自然な動きでミミがコックピットから退出していく。どうしたんだろうか? と考えて思い至った。

「……もしかして漏らしてたのかな?」

船に被害こそなかったものの、今日の戦闘ではそれなりに宙賊艦に撃たれたからな。シールドで全部止まってたけど、戦闘初体験のミミには少々刺激が強かったかもしれない。クンクンと鼻を鳴らしてコックピット内の匂いを嗅いでみるが特にそういう匂いは感じないな。おむつでもしていたのだろうか?

「……変態っぽいな。やめておこう」

俺はこれ以上の追求をやめてキッチンに向かうことにした。水分とカロリーを補給したら俺もシャワーを浴びて休むとしよう。