軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#016 流れ星

「ミミ、戦場全体の様子はどうだ?」

回収用ドローンで物資の回収を終えた俺はミミに声をかけた。

「え、あ、えっと……全体的に友軍が有利に事を進めているようです」

「苦戦していそうな場所はわかるか?」

「ええと……すみません、わかりません」

「だよな。まぁ、俺も感覚的なものでしかないんだけども……基本的に、傭兵艦と宙賊艦の間には一対三から一対四くらいの戦力差があると思って良い。その比率が宙賊側に寄っている地点が介入するべきポイントだな。ただ、一対十以上になっているようなところに突っ込んでいくのは一般的には自殺行為だ。俺ならそれくらいまではなんとかなるけど」

「なるほど……ええと、それならここから左下方向に見える交戦ポイントですね。星系軍にも近いポイントなんですけど、中型艦が三機ほどいて苦戦しているみたいです」

ミミが指定したポイントに船を向かわせながら確認してみると、確かに少々劣勢であるようだ。傭兵艦四隻に対して宙賊の小型艦が二十隻ほど。それに加えて中型艦が三隻。星系軍からの援護射撃もあって、なんとか善戦しているようだがあのままだと少々厳しそうだな。

「よし、介入する。ミミ、俺も注意するが不意打ちされないようにレーダーの監視を密にしてくれ。あと、介入する際の通信を頼む」

「は、はい! がんばります!」

気合を入れるミミの声を聞きながら脅威になるであろう宙賊の中型艦の装備を調べる。

こいつもさっきのミサイル支援艦と同じで民間輸送艦の改造艦だな。宙賊にはよくあることだ。襲った船を撃破せずにスラスターなどを破壊して拿捕し、乗員を排除して船を奪う。

そして返り討ちにした傭兵艦や商船の護衛艦などから剥ぎ取った武装をそういった船に取り付け、急造の火力支援艦に仕立て上げる――と、ステラオンラインの設定では語られていた。この世界でも実際にそうなのだろう。元々の乗員がどのような運命を辿ったのかはあまり考えたくないな。

さて、それはさておき……改造中型艦の武装は近接防衛用のマルチキャノンと、支援攻撃用の中型レーザー砲か。前衛である小型艦の後ろから高火力の中型レーザー砲で砲撃支援を行う砲撃支援艦といったところだろうか。近接防衛用のマルチキャノンは恐らく自動制御のタレットキャノンだな。

砲塔の配置的に真正面や上方、左右に対する火力はなかなかのものだ。クリシュナに装備されている高性能大容量のシールド発生装置であれば三機に一斉攻撃されてもそう簡単にはシールドが飽和するということは無いだろうが、わざわざ真正面から戦ってやる必要もない。

あの砲塔の配置からすると真下や後方は完全に死角だ。元輸送艦となると下部デッキには大型のカーゴスペースがあるはずだ。宙賊が増加装甲などを施す可能性は非常に低いので、十中八九無防備なはずである。そこを突かない手はないな。

そう判断した俺は機体のジェネレーター出力を落とし、ウェポンシステムをオフラインにして急速冷却システムを作動させた。

「少し寒くなるぞ、我慢してくれ」

「は、はい。何をするんですか?」

「なに、正面から突っ込んで戦うだけが傭兵の戦いじゃないってことさ」

船体温度が下がるにつれて、コックピット内の温度も下降し始める。三分もすると息が白くなるくらいにコックピット内の空気は冷え切ってしまった。ミミは大丈夫かと視線を向けてみたが、どうやらあの服の防寒性能はなかなかのものであるらしい。息は白くなっているようだが、あまり寒そうな様子は見えない。

「よし、行くぞ」

十分に機体を冷却した俺は最低限の出力でクリシュナを動かし、大回りして三隻の中型艦の死角に入り込む。宙賊の小型艦も中型艦も俺の行動に気づく様子はない。

「ヒロ様、何で気づかれないんですか?」

「戦闘中の船っていうのは、普通は高熱を発しているんだ。だから、戦闘中の艦を把握するのには熱源センサーに頼る比重がかなり大きい。こうやって多数の船が戦っている宙域には必然的に破壊された船のデブリなんかも多くなるから、通常のレーダーは役に立ちにくくなるしな。だから、こうして機体温度を極端に下げて熱源センサーの目をごまかすことでデブリに紛れて行動することができるのさ」

これはステラオンラインにおいてサーマルステルスと呼ばれていたテクニックだ。

本来、強制冷却装置はレーザー砲などの使用で上昇しすぎた機体温度を急速に低下させるための装備なのだが、そこはそれ、使いようというやつである。

「なるほど……色々なテクニックがあるんですね」

「いつでもどこでも通用する手口ってわけじゃないけどな。さぁ、完全に間合いに入った。行くぞ」

「はいっ」

完全に中型艦の死角に入ったのを確認した俺はクリシュナのウェポンシステムを再起動し、中型船の無防備な土手っ腹に重レーザー砲と散弾砲の照準を合わせる。

『っ!? 下方に敵機の反応!? 完全に死角に入ってやがる!?』

『なんだとぉ!? てめぇ、今まで何を見ていやがった!? 戦闘中に居眠りでもしてたのか!?』

『ちゃんと見てたよ! 幽霊みたいに急に現れやがったんだ!』

『そんなわけあるか! くそっ、回頭! 回頭しろ!』

「間に合うものか」

俺は四門の重レーザー砲を連続で発射し、三隻の中型艦のシールドを瞬く間に飽和させる。

『ひぃっ!? シールドが!』

『んなっ!? よ、避けろ! ブースターだ!』

『邪魔だ! 道を空けろ!』

おたつく中型艦の土手っ腹に散弾砲も連射をお見舞いしてやる。無数の弾丸が中型艦の柔らかい腹を食い破った。装甲の薄いポイントだ。飛び込んだ弾丸はさぞ盛大にジェネレーターや生命維持装置、配電装置や弾薬庫を蹂躙してくれたことだろう。

『ダメだ! 保たねぇ!』

『退避! 退避!』

三隻の中型艦が小爆発を繰り返し、最終的に大爆発を起こして機能を停止する。これで三つ。

「ミミ、介入の通信だ」

「は、はい! こちらキャプテン・ヒロ、コールサイン、クリシュナ。私はオペレーターのミミです。これより戦場に介入、援護します!」

『援護に感謝する、正直きつかったんだ』

『チッ、これ以上取り分を取られちゃかなわん。畳み掛けるぞ!』

『ぬぁー! 可愛い女の子のオペレーター付きだと!? 絶対に負けねぇ!』

『声だけだと可愛いかどうかはわからんぞ』

『いいや、声が可愛い。間違いなく可愛い。声が可愛い子は顔も可愛い』

援護しなくても大丈夫なんじゃないか、こいつら。結構余裕あるじゃないか。

「行くぞ」

「は、はいっ」

四本の武装腕から重レーザー砲を乱射し、擦れ違いざまに散弾砲を叩き込んで宙賊船を撃破していく。一瞬で三隻の中型艦を失った宙賊どもは浮足立っており、連携も崩れて操艦にも精彩を欠いていた。まさに食い放題だ。

『ひぃぃい!? 四本腕の化物が!』

『クソッ! あの腕付きを止めろ! 頭を抑えるんだよ!』

『ばっか野郎! 頭なんざ押さえたら散弾砲で木っ端微塵にされるじゃねぇか! お前がやれ!』

『逃げろ逃げろ! 勝てっこねぇ!』

『ばっ!? てめぇ! 逃げんな! 星系軍に狙われてるんだぞ!』

戦線を離脱しようとした宙賊船が遠方から迸ってきた極太の光条に貫かれ、爆散する。星系軍の艦砲射撃だ。『檻』の構築は完璧に終わったようである。

「逃げ場はない。ここで死ね」

『死ぬのはてめぇだ! 腕付きぃぃ!』

宙賊達が一斉に俺の操るクリシュナに向かって火器を向け、射撃してくる。どうやらまずは俺を集中攻撃して撃墜することにしたらしい。色とりどりの光条が一斉に降り注いでくるのを俺は急加速でやり過ごし、更に急旋回して追い縋ってくる宙賊艦を振り切ろうとする。

「ひううぅぅぅっ」

攻撃を受けているというAIからのアラートが鳴り響き、機体の状態を示すホログラム映像がシールドの被弾箇所を表示する。

被弾している。それを示す情報を見てミミがこの世の終わりみたいな悲鳴を上げているが、俺は冷静さを保ち続けていた。

確かに被弾はしている。しかしまだ三層あるシールドのうちの一層目にダメージを受けているだけだ。まだシールドは二層残っているし、このペースなら二層目が突破されてからシールドセルを使っても回復が間に合う。それに、万が一シールドを全て突破されたとしても強固な装甲が残っている。まだ慌てる時間ではない。

回避に専念しているため、俺からの攻撃は出来ていないが、宙賊どもは俺を攻撃するのに必死だ。そして、その隙を逃す傭兵達ではない。

『ヒャッハー! 食い放題だ!』

『俺達相手に余所見とは、舐められたもんだ』

『タイフーン、フォックス2、フォックス2!』

『ハリケーン、フォックス2、フォックス2!』

今まで防戦一方だった傭兵艦達が一転攻勢に転じ、宙賊艦を次々に撃破していく。俺も一方的に撃たれるだけなのは御免なので、頃合いを見計らって逆襲し、重レーザー砲を撃ちまくって宙賊艦を仕留め始める。

散弾砲は強力な武装だけど、撃てば撃つだけ経費がかかるからな。重レーザー砲だけで戦った方がコストは遥かに安い。稼ぐなら重レーザー砲だけで戦闘を行なったほうが稼げるのだ。

そうして十五分もしないうちに形勢は完全に逆転し、この宙域に展開していた全ての宙賊艦が掃討された。

『エリアクリア、俺達の勝ちだ』

『一時はどうなることかと思ったが、腕付きが来てから流れが変わったな』

『やるな、腕付き』

どうやら『腕付き』というのが俺のあだ名になりそうだ。ちょっと格好悪いような……いや、一周りして味があるあだ名かもしれないな。

「俺は次の戦場に向かう。幸運を」

『ああ、そっちもな。オペレーターのお嬢ちゃんも』

「は、はい、ありがとうございます」

『クソッ、やっぱ可愛い声だ。絶対可愛いって』

『お前そればっかりだな。そんなんだからいつまで経っても童貞なんだよ』

『どどど、童貞ちゃうわ!』

そのネタはこっちの世界でも共通なのか……なんか感慨深いな。

次なる戦場を求めて機体を加速する。その時だった、その機体が目に入ったのは。

「白い機体……エルマか」

「エルマさんが戦っているんですか?」

「ああ、向かうぞ」

前方で激しい光条が飛び交っている。ああ、不味い。エルマが相手にしているのは通称『ゲロビ』と呼ばれている種類の照射型レーザーを装備した中型艦と、その護衛部隊だ。

俺のクリシュナが装備している重レーザー砲はパルスレーザーという種類のレーザー砲で、ごく短い時間に強力なレーザーを連射して敵機を攻撃する武器だ。

対して『ゲロビ』と呼ばれる照射型レーザーは対象に発熱量の高い光線を継続的に照射して船体を焼き切ったり、オーバーヒートさせて機能不全を狙ったりする種類のレーザー砲である。『ゲロビ』の語源には様々な説があるが、基本的にはゲロ+ビームでゲロビーム、それが略されてゲロビと呼ばれるようになったとか、そんな感じの内容だったはずだ。要は垂れ流しのレーザーなのである。

今はそんなことはどうでもいい。それよりも早くエルマを助けないと取り返しの付かないことになる。俺は現場に向かおうとさらなる加速を――。

『なっ、なんでっ!? せ、制御が効かな――きゃああぁぁぁぁぁっ!?』

やめて距離を取ることにした。残念ながら手遅れだったらしい。

『うわっ! なんだあの白い機体!? こっちに突っ込んで――よ、避けろ!』

エルマの白い機体が無茶苦茶な機動で飛び回り始めた。ああなるともう手がつけられない。

「ヒ、ヒロ様、あれ大丈夫なんですか?」

「全く大丈夫じゃない。ああなると最終的には暴走の末にドカン、だ」

『いやあぁぁぁぁっ!? ちょっっと、どうなって――ひゃあぁぁぁぁっ!?』

あの様子だと『フェ○ーリ』の暴走機能を知らなかったみたいだな……エルマはわかっていて使っているベテランではなく、スペックだけ見て船を購入した間抜けの方だったようだ。

「あ、あの、助けないんですか?」

「助けようがないんだよ……あのスピードだ、下手に近寄ると衝突してもろともドカン、だから」

「そ、そんなぁ……エルマさん、エルマさんが……!」

「いや、あの機体のコックピットは異常に頑丈に作られてるって設定――作られているはずだから、多分死にはしないと思う。爆散したらコックピットだけは回収して――」

その時、エルマの白い機体が宙賊どもの包囲を抜け、見当違いの方向に爆走しはじめた。その勢いはまさに流星のようだ。

もしやこっちに来るんじゃないかと身構えたのだが、特にそういうこともなく明後日の方向に……いや、あの方向には星系軍の部隊が……。

『きゃー!? 避けて避けてぇぇぇ!』

『うわぁ!? つ、突っ込んでくるぞ!?』

『迎撃を……いや、しかしあれは傭兵――ぬわあぁぁぁぁっ!?』

エルマの機体が星系軍の戦艦に衝突し、大破してその動きを止める。コックピットブロックは無事なようなので、運が良ければ怪我一つしていないかもしれない。問題は、ぶつかられた戦艦の方も中破しているところだな……あれ、修理費いくら請求されるんだ?

「ええと……どうしましょう?」

「残念だが、本当に俺に出来ることは何もない……仕事に集中しよう」

「は、はい」

エルマの大暴走のせいで陣形が崩れ、混乱に陥っている宙賊の集団に飛び込んで散弾砲と重レーザー砲を乱射する。冷たいようだが、本当に俺には何も出来ることがない。エルマの無事を祈りながらお仕事に集中するとしよう。うん。