軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87話 ルーティのワイヴァーン騎兵隊

アヴァロン大陸において、王の名を正式に名乗れる権利を持つ国は7つ。これらをアヴァロン七王国と呼ぶ者もいる。

七王国以外の国は慣例的に王を名乗ってはいるが、ロガーヴィア“公国”の名が示すように、正式には王ではない。

アヴァロン七王国各国の説明を簡単にすると。

ルーティやレッドの故国であり、アヴァロン大陸中央に最大の領土を持つ“アヴァロニア王国”。

西に位置し、魔王軍との戦いで壊滅した文武の国“フランベルク王国”。

巨大都市キラミンで名高いハイエルフ達の住まう北部の“キラミン王国”。

海賊覇者ゲイゼリクによって王位を簒奪され、南部沿岸一帯を支配する第二の大国へと伸し上がった“ヴェロニア王国”。

北東の高原を支配し、先代勇者の血を受け継ぐと自称する騎士王の“カタフラクト王国”。

“世界の果て壁”の先を支配する、老雷竜に守護された東方の大国“ティエンロン王国”。

さらに極東。世界の反対側で海峡を隔て暗黒大陸と接し、長年戦争を続ける“ヒスイ王国”。

王を名乗れるから強国であるというわけではない。領土の狭いキラミン王国や、都市国家にまで成り下がっていたゲイゼリク戴冠以前のヴェロニア王国などより、軍事大国であったロガーヴィア公国の方がよっぽど強大だった。

それでも各国の王冠は諸侯達に強い影響力を持っている。

『将軍』や『ザ・チャンピオン』の加護を持つような者が、その英雄的加護を理由に人心を集めないよう、長く続いた血統による支配の正当性が重視されるのだから皮肉なものである。

なおレッドやルーティ、それにゾルタン人が“王都”や“中央”という場合は、一般的にアヴァロニア王国のことを指す。

魔王軍との戦いは、本来であれば各王国が一致団結して戦うべきなのだろう。

しかし、ヴェロニア王国は中立を宣言しており、義勇兵が少数アヴァロニア王国に合流するにとどまっている。

やはり海賊は王にはなれないと、その日和見な態度を諸国から嘲笑されているが、今年で90歳を迎えた老王は黙したままだ。

前線からは離れていながらキラミン王国は魔王軍との戦いに積極的な参戦を表明している。しかし、人間とは価値観の違うハイエルフとは現在のところ満足の行く連携が取れていない状況だ。

カタフラクト王国は自身の前線以外にも、遊牧民達によって構成される自慢の重騎兵を大陸中に派兵している。

だが、そもそもカタフラクト王国の建国からして、かつて中央を支配していたガイアポリス王国をアヴァロニア王国が滅ぼした時に、ガイアポリスの 重騎兵(カタフラクト) 達が生き残ったガイアポリスの王族を自分達の故郷へかくまったことに由来する。

カタフラクト王国の騎兵達は、魔王軍と戦いはするがアヴァロニア王国の指揮下に入るつもりはまったくなく、勝手に戦っていた。

東方の2王国については、なにはともあれ“世界の果ての壁”の向こうのことである。戦況すらよく分かっていない。

一応は交易路である“夜明けの道”を踏破する商人などから情報のやり取りはあり、ヒスイ王国の武士達は、強大な魔王軍に対して抵抗を続けているという噂程度は伝わっている。

ともかく、2王国とアヴァロニア王国が“世界の果ての壁“を超えて連携することは不可能だろう。

結局のところ、アヴァロニア王国が盟主となり、諸国をまとめて魔王軍と戦争している状況だ。だが、勇者ルーティが現れるまで重要な局面で敗北を重ね、一時はアヴァロニア王国もかなりの領土を魔王軍に占領されてしまっていた。

だが勇者ルーティが登場し、各地を転戦して占領地を解放していき、また最大の脅威であった風の四天王ガンドール率いるワイヴァーン騎兵隊を壊滅させたことで、次第に戦況は好転していく。

さらに勇者はカタフラクト国王とアヴァロニア国王の会談を実現させ、両者は多少の歩み寄りを見せた。

今は少なくとも同一戦場で肩を並べて戦えるほどには、両国の仲は改善されている。

反撃の兆しを見せたアヴァロン大陸連合軍ではあるが、それでもなお魔王軍は強大であり、戦線は膠着状態にあった。

またガンドールの後任である新たな風の四天王ウィドースラが、ワイヴァーン騎兵を再編しているという情報も王都に入っている。

アヴァロニア王国のバハムート騎士団を中心に反撃を続けているが、戦況はいまだ予断を許さない状況であった。

☆☆

「あ、野菜が値上がりしてる」

俺はゾルタンの市場で野菜を見ていた。

この間まで1本、5コモーンだった長ネギが10コモーンになっていた。

「ふーむ」

長ネギで料理するつもりだったが2倍は高い。それもほんの数日での値上がりだ。

「おばちゃん、なんで急に長ネギがこんなに値上がりしたの」

寒そうに火鉢にあたっていた店番のおばちゃんは着ぶくれした身体でのそのそとやってきた。

そして、じっと長ネギを見る。その目にはやむを得ない事情を理解してくれという無言の意思を感じた。

「あ、間違えてるわね」

「おい」

ゾルタンは今日も平和であった。

☆☆

食材を買い揃え、帰り道を歩いていると、空き地から歓声が聞こえた。

「すげえええ!」

「もうこれで5連勝だよ!!」

「王様だ! この人ワイヴァーンの王様だよ!!」

なんの騒ぎだ?

気になって俺は少し寄り道して、空き地を覗いてみた。

「姉ちゃんすげええええ!!!」

「ふふーん♪」

そこでは、ルーティが子供たちとボードゲームの“ワイヴァーンズレース”を遊んでいた。満足そうに笑っている。

どうやら連戦連勝しているようで、子供たちのワイヴァーン人形を大量に略奪しているようだ。

「も、もう一回だ!」

「いいよ」

ルーティがボードに置いたのは、ガラスのワイヴァーン人形。下町の子にとって、そのキラキラと輝く竜の姿は注目を引いていた。

負けじと少年達は、白石のワイヴァーン人形、黒鉄のワイヴァーン人形、紅玉眼のワイヴァーン人形をボードに置いた。

別に人形の質によってゲームが有利になることはないのだが、勝者がすべてを総取りにするゾルタンルールでは、特別なワイヴァーン人形は心理的なプレッシャーとなる。

木片にワイヴァーンの絵を描いただけのものや、ただの石ころでもゲームは成り立つが、最高の 飛竜(ワイヴァーン) には自分の持つ最高の 飛竜(ワイヴァーン) で迎え撃つべきというのが、騎士道精神であり、まず精神的に相手と対等になる勝利の秘訣なのだ。

「盛り上がってるな」

「お兄ちゃん!?」

俺に気がついたルーティは、まるでいたずらがバレた少年のように慌てふためいている。

その姿が可愛くて、俺は思わず笑ってしまった。

「すごいな、随分勝ってるじゃないか」

「え、ええっと」

「ずっとやってみたかったんだろ? いいじゃないか」

子供の頃から『勇者』であったルーティは、友達付き合いが苦手だった。なにせ子供のコミュニティからは完全な異物だったのだ。だから俺の知る限り、ルーティがワイヴァーンズレースを遊んだことはないはずだ。

だが、ルーティが旅の中でワイヴァーン人形を手に入る範囲でこっそり集めていたのを俺は知っていた。

子供から人形を取っていることを見られたことでルーティはちょっと気まずい思いをしているようだが、それは違う。

相手が子供だろうがお互い合意のもとに、ワイヴァーン人形を賭けてサイコロを振るのがワイヴァーンズレースの醍醐味だ。ルーティが勝利の結果ワイヴァーン人形を得たとして、何も悪いことではない。

俺は安心させるようにルーティに向けて笑いかけた。

「俺も騎士団見習いのときにちょっとやったもんだぞ」

「お兄ちゃんが?」

「今度、みんなでやってみるか」

「うん」

俺の言葉に、ルーティは嬉しそうに頷いた。