軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

80話 勇者の一閃

「や、やってられるかぁぁぁ!!!」

その時、ゴドウィンが走り出した。顔には恐怖がありありと浮かんでいる。

「俺は関係ないだろ! 英雄は英雄同士で戦ってくれよ!!」

触れれば吹き飛ぶような戦いが繰り広げられる中、ゴドウィンの精神が耐えられなかったのだろう。

出口へ向かって必死の形相で走る。

「待て! 勝手に動くな!」

俺は慌てて叫ぶが、恐怖に駆られたゴドウィンの耳には入らない。

「サモン!」

アレスが笑って魔法を使う。

ゴドウィンが出口へたどり着こうとした時、目の前に魔力が集まり巨大な影を作り出した。

「ひっ!?」

ゴドウィンは目の前に現れた緑鱗のドレイクに悲鳴をあげて座り込んだ。

アレスの魔法によって召喚された 精霊竜(スピリットドレイク) が、鋭い牙の生えそろった口を大きく開けてゴドウィンに迫る。

危機だ、しかし俺が移動するとリットがシサンダンに追い込まれることになる、動けない!

「ギャガァァァァァ!?」

だが、ゴドウィンが精霊竜の餌食になることはなかった。

竜の右目にスローイングナイフが突き刺さり、竜は身をよじって悲鳴をあげている。

「私達の周りが一番安全なのですから大人しくしてください」

ナイフを投げたのはティセ。

表情を変えずに竜とゴドウィンの間に立つ。

「だ、大丈夫なのか? 相手はドレイクだぞ!?」

自分より小さい少女と目の前の巨像のような竜とでは、あまりに体格が違い過ぎるようにゴドウィンには見えたのだろう。

ゴドウィンは不安そうにそう言った。

「確かに私の加護はこういう状況には不向きですね」

「お、おい!?」

「私じゃ1分もかかります」

もちろん、ティセが精霊竜などに敗北することはない。

ゴドウィンを除くここにいる英雄たちの中で、精霊竜を倒すのに一番時間がかかるだけだ。アサシンの加護は有利な状況でより有利に働くスキルが多い。誰かを守りながら戦う状況は得意ではない。

それでもなお、ティセの能力は最上級魔法による精霊獣よりも強い。

ティセの言葉には強い力があった。ゴドウィンはそれ以上なにも言えず、腰を抜かしたままティセの背中を呆然と見ていた。

☆☆

(ここまで予想通り……!)

アレスの狙い通り、ルーティは1人になった。

仲間を引き剥がされたルーティはたった一人でアレスと相対する。

ルーティの敵意が自分だけに注がれているのを感じ、アレスはゾクリとした恐怖と同時に奇妙な高揚感を感じていた。

(ルーティはこれまではあの錬金術師らしい男がいたから身動きが取れなかったが、そちらはティセと共に出口側に移動した。この散開した状態で私の魔法を防ぎ続けるのは勇者であっても負担が大きい。であれば、剣で速攻をしかけてくるはず。接近される前に私がギデオンに魔法を使うこともできるが、そうすれば私は自分自身を守れない。私が自分の身を守ると考えてルーティは動く)

アレスの右手が腰の神・降魔の聖剣に触れる。

(それこそが私の狙い。シサンダンによれば、この剣を抜きルーティの身体のどこかに接触させれば、勇者の加護が強化される。勇者に戻りさえすればルーティはこの戦い行動不能になるに違いない。効率で考えたら私と組むのが一番のはずだからだ。勇者であるのならば私と敵対することはありえない!)

ルーティさえ動けなくなれば、あとは雑魚だ。ダナン、テオドラ、ヤランドララならばアレスも警戒するが、ここにいるのは勇者パーティーの落ちこぼれであるギデオンとリット、それに間に合わせのティセ。

アレスは勝利を確信した。

☆☆

俺とリットは前後からシサンダンに打ち掛かる。

(こいつ、前に戦った時より強い)

挟み撃ちという俺たちに有利な状況なのにも関わらず、シサンダンは俺とリットの連携を次々に受け流していく。

すぐに倒せるような相手ではない。だがじっくりともしていられない。

(ルーティ!)

俺はシサンダンと戦いながらも、ルーティの様子を気にかけていた。

今、ルーティはアレスと一対一で対峙している。

普通に考えればアレスに勝ち目はないはずだ。だがそんなことは、アレス自身が一番良く理解できているはず。

それでもあの状況でシサンダンの方にも精霊竜の方にも逃げないということは、何か策があるはずだ。

「シサンダン、お前やアレスの腰にある剣はなんだ」

「ほぉ、さすがはギデオン、気になるか」

シサンダンは感心したように言う。

「すぐにわかるさ」

にたりとシサンダンの顔に笑みが浮かんだ。

次の瞬間、俺もシサンダンも、おそらくこの場にいる全員が死を感じた。

俺達は一瞬、戦いを忘れ、思わず振り返り部屋の中央にいるルーティを見る。

「武技“大旋風”」

ルーティは加護よりもたらされる剛力をもって、剣を強く、そして疾く、円を描くように振った。

走る衝撃。硬質な遺跡の壁に深い傷跡が残される。

勇者の加護の力なのか、ルーティの武器による斬撃は、俺たちには影響を及ぼさなかった。

だが、敵には容赦なくその剣撃の旋風は振るわれる。

「ひ、ひぃぃぃ」

今の声はゴドウィンの声。

彼の目の前には精霊竜の首がごろりと転がり、光を放ちながら消えようとしている。

「これ程とは」

次の声はシサンダンの声。

防御に使われたウッドエルフ造りの剣は6本とも全て砕かれ、さらには下側2本の腕からは血が流れ、だらりと力なく垂れ下がっている。

「あ、あ……」

そして最後の声はアレスの声。

とっさに腰の剣で防御したようで、アレス自身は無傷だ。

だが、その刀身は無残に砕かれてしまい、剣の残骸と成り果てていた。

「ば、馬鹿な」

アレスはわなわなと震えている。

あれが対ルーティの切り札だったのだろうか?

これまで余裕を見せていたシサンダンの表情もこわばっていた。