軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

79話 勇者vs賢者

俺たちは遺跡を奥へと進んでいった。

奥の方はルーティも探索していなかったそうだが、防衛用のクロックワークス達は機能を停止しており、特に妨害されることもない。

不気味な静寂だけが、遺跡の中に漂っている。

「な、なぁ、ちっこいお嬢ちゃん」

ゴドウィンが情けない声でティセに声をかけた。

ティセはちらりとゴドウィンを目だけで振り返る。

「俺は完全に足手まといだろ? あんたが俺を護衛して俺たちは遺跡の外で待っていたほうがよくないか?」

「そのために私も外で待っていろということですか?」

「俺1人だけじゃ身を守れないだろ……なぁ頼むよ、お前らと一緒にいると生きた心地がしないんだよ」

「ここよりも安全な場所なんてありません」

ティセは無表情でそう言い切った。

ゴドウィンはがっくり項垂れながらも、古代エルフの遺跡の奥を1人で逃げ出す気にはなれず大人しくついていく。

そんな話をしながら先へと進んでいると、やがて広いホールのような部屋にでた。

天井には魔法による永遠のランタンがぶら下がっており、前面にはさらに下層へ降りる昇降装置が3つ並んでいる。

その上には何か看板のようなものがかけられていたようだが、強引に引き剥がされたような跡が残っているだけだ。

ここにたどり着いたウッドエルフ達が癇癪でも起こしたのか、ホールに設置してあったらしいテーブルや椅子はどれも破壊されている。古代エルフの家具はどれも非常に頑丈なので魔法やスキルを使わないと到底壊せないはずなのに、ウッドエルフ達はよっぽど腹に据えかねる何かでも見たのだろうか?

ガチャンと音がした。

昇降装置が動いた音だ。太古の時代から今なお残る古代エルフの魔法によって力場が発生し、昇降機がレールを滑る音が近づいてくる。

「アレスか?」

俺が銅の剣を抜こうとすると、横から白銀に輝くロングソードを渡される。

ルーティが差し出したそれは、俺のかつての愛剣サンダーウェイカーだった。

「取っておいてくれたのか。てっきり売られたものかと」

「売るわけないじゃない。お兄ちゃんの剣だもの」

その剣を握るのに少しだけ躊躇する。

これは勇者パーティー時代の象徴。今の生活とは相反するものだ。

しかし、俺はサンダーウェイカーの柄をしっかりと握った。リットが敵を討つためにもう一度冒険者に戻るというのなら、俺ももう一度ギデオンに戻ろう。

「ありがとう」

短くそう言って、俺は感覚を確かめるために、一度だけ素振りした。

その感覚はゾルタンで使っていた銅の剣とは全く違う。銅の剣では発動していなかった、“武器熟練【ロングソード】”のスキルも発動し、剣と自分が一体化したかのような感覚を憶えた。

「さて」

昇降機はもうすぐ近くだ。

ガチャリとレールをブレーキが噛む音が聞こえ、硬質の扉がひとりでに開く。

そこにいたのはアレスではなかった。

「久しぶりだな愛弟子よ」

リットの師匠であるロガーヴィア公国近衛兵長ガイウスの姿をした者は、リットのよく知る声でそう言った。

「その姿を汚すなァァァァ!!!!!」

リットが叫び両手のショーテルを振り上げて走った。

「待って! それは違う!!」

ルーティが鋭く警告する。

だがその時にはすでにリットは昇降機の中にいるシサンダンに斬りつけていた。

「!?」

ガイウスの姿をしたシサンダンは斬りつけられても微動だにしなかった。リットの剣は手応えなく空を切る。

「イリュージョンデコイ! 本体は……」

不可視状態のまま背後に立つシサンダンはリットの背中めがけて剣を振り下ろす。

だがリットは素早く反転し、見えないはずの剣を受けた。リットもまた、英雄リットと呼ばれるほどの凄腕なのだ。

剣がぶつかりあった衝撃でシサンダンを覆う不可視の魔法が剥がれ落ち、シサンダンの姿が目に見えるようになった。

「ちっ」

シサンダンは舌打ちすると、6本の腕のうちの2本を背後に回した。

背後から強襲した俺の剣を、シサンダンは2本の剣を交差させて受けた。

「どうするアスラデーモン。リットを罠にかけたつもりなんだろうが挟み撃ちだぞ」

リットは昇降機の中にいるため逃げ場がない。

だが昇降機の入り口を塞ぐシサンダンも、俺とリットに挟まれる形になり不利な状況だ。

(にしても、あれはエルフの剣? デーモンが使うにしてはめずらしい剣だな。それに腰に4振り、鞘に収まったままの剣も気になる)

剣を受けられた俺は半歩後ろに下がり、再び剣を繰り出す。

アスラデーモンは両足を開き俺とリットに剣を、6本の腕で防いだ。

その時、ちりりと後頭部に違和感が走った。

「魔法!?」

慌てて防御の姿勢を取ろうとする。

「パラライズフレイム!」

部屋の一面の壁が掻き消える、そのすぐ後ろにはまた壁があった。

幻影で本来の位置より手前に壁を作り、隠れられるスペースを作っていたのか。

迸った有毒の炎が俺とリットを目掛けて床を走る。

あれは触れると麻痺する攻撃魔法。俺もリットも麻痺耐性は持っていない。リットは精霊魔法で抵抗を試みることは可能で、俺は加護レベルの高さに頼って根性で耐えるしかない。

だが、それは相手がせめて同格だった場合だ。相手が人類最高峰の魔法使いでは、抵抗できる可能性はほとんどない。

「アレス!!」

魔法を放ったのは見慣れない剣を腰に佩いた賢者アレス。あいつ、血迷ってシサンダンと手を組んだのか!?

「死ね! ギデオン!」

炎が迫る。だが割り込むように白く輝く光の膜が、俺たちを包んだ。

「セイクリッドマジックシールド」

ルーティが左手で印を結んでいる。

魔王軍と戦い続け百戦錬磨のルーティはアレスが裏切る可能性を予測していたから、動かず構えていたのか。

「アレス、今なら許す。降伏して」

「ルーティ、まだ間に合います。私と共に勇者の旅を続けると言ってください」

両者は同時に再び印を組む。

「ガルガンチュアストームジャベリン!」

「サンダーオブジャスティス!」

嵐の投槍と正義の雷。

賢者と勇者の最上級魔法同士が衝突し、その余波だけで俺とシサンダンは僅かな間だが、戦いを止めなくてはならなかったほどだった。

激しい衝撃で未知の硬度を持つはずの古代エルフの建材にヒビが走った。

「魔法では互角ね」

ルーティが呟いた。同時に両者の魔法は拮抗し、霧散する。

この場合勇者と同等の魔法を使えるアレスを褒めるべきか、人類最高峰の魔法使いと同格の魔法を使える前衛ルーティに呆れるべきか。

ルーティのような存在がありふれてしまえば世界中の魔法使いは自分の加護を嘆くことになるだろうな。