軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

162話 ハイエルフは提案する

「こうしてルーティとゆっくり話すのって初めてよね」

「うん」

ルーティは俺の隣に座り、ヤランドララと話をしている。

メインの食事は終わり、今はデザートのカップケーキとカフェオレ。

食後のゆったりとした時間が流れている。

「『勇者』の私は、これ以上余計なことに煩わされたくなかった。仲間の事情なんて知る必要を感じなかったし、私のことを話す理由もなかった。あの頃の私は、お兄ちゃん以外のすべてがどうでも良かった」

「そう……でも今は違うのね?」

「うん、ティセは大切な友達。うげうげさんは頼りになる蜘蛛。リットは優しくて、それにお兄ちゃんの良いところを分かっている」

剣も鎧も身につけていない、普通の少女ルーティはそう言ってカップケーキを頬張った。

ルーティは美味しそうに表情を緩ませる。

その様子を、ヤランドララは目を細めて見守っていた。

「それが本当のあなただったのね。レッドの言っていた通りの可愛い女の子。一緒に旅をしていたときは分からなかったわ」

「私はヤランドララのこと何も知らない、だからヤランドララも私のことを知らなくて当然だと思う」

「私はね、王都で花屋をしているヤランドララ。レッドが王都に来たばかりで小さかった頃からのお友達。勇者の仲間でレッドを追い出したことに腹を立ててパーティーを抜けた『木の歌い手』、そして今はいなくなった大切な友達を探しに来たヤランドララよ」

ヤランドララはちらりと俺の方を見た。

「ルーティ、これから色々お話しましょう。私のこと、あなたのこと、どんな食べ物が好きで、どんな歌が好きで、どんな花が好きなのか。たくさんお話しましょう」

「うん、私はヤランドララの友達になってもいい」

ルーティは変わった。

昔は『勇者』に縛られ、自由に友達を作るなんてことはできなかった。

誰もが『勇者』ルーティを特別視し、ルーティと対等の友達になろうなんて考える人はいなかった。

今は違う。ティセやリットやヤランドララ。

ゾルタンにもオパララやボードゲーム仲間の子供達。

町でルーティの姿を見かければ親しげに声をかけてくれる人達がいる。

『勇者』の加護を作った神様は間違っているのだと思う。

昔の孤独なルーティは、世界を守りたいだなんてちっとも思えなかったはずだ。

ただ世界を救うことを強制されているだけだ。

「ところでティセ」

「何でしょうレッドさん」

「どうして今日はそんな隅っこにいるんだ?」

ずっと気になっていたのだが、どうもティセの様子がおかしい。

うげうげさんもワタワタと脚を動かして慌てている。

「ええっと、その……」

「それはね」

俺とティセの会話にヤランドララが割り込んだ。

「昔、私とティセは殺し合いをしたからなの」

「「え」」

俺とリットは驚いて声を上げた。

驚いてスプーンからこぼれたカップケーキを、ルーティがすかさずスプーンで空中キャッチする。

「お兄ちゃんあーん」

「あ、ありがとう」

さすが俺の作ったカップケーキ。

程よく甘くて美味しい。

「いやいや、殺し合いってどういうこと!?」

我に返ったリットがたずねた。

ティセが手にしたカフェオレの入ったコップをおいて答える。

「そんなに込み入った話でもないのですが……あの時、私はとある奴隷商人暗殺の仕事を請けていました」

「ふむふむ」

「それでその奴隷商人が宿に泊まっているところを暗殺しようとしたんです」

うげうげさんぴょんと跳ねた。

「はい、うげうげさんも一緒でしたね」

ティセは暗殺者ギルドの暗殺者。

ティセが自分の仕事のことを語ったことはほとんど無かったが、当然、これまでたくさんの仕事をしてきたはずだ。

「それでヤランドララは? もしかして奴隷商人に雇われて」

「私が奴隷商人の護衛? まさか! あのときは路銀稼ぎにその宿の用心棒をしていたの」

「あー、なるほど」

普通なら気が付かれないはずの殺意。

だがヤランドララは気がついてしまった。

「用心棒としては宿で争いが起こるのは止めないとでしょ。それにその時の私は泊まっている客が奴隷商人だなんて知らなかったし」

「気が付かれたので、私は一度撤退しようとしたんですが、ヤランドララさんしつこくて」

「勢い余って道路をちょっと壊しちゃったりして、いい思い出だわ」

うげうげさんが抗議するように両前脚を振り上げている。

「ちょっとじゃないです、あんな町中で古代花の精霊なんて召喚するものだから、道路は滅茶苦茶になるし、建物は傾くし、ヤランドララさん町から追い出されたじゃないですか」

「あなたも一緒にね。暗殺者なのに町から追放されるなんて、戦った相手のことながら笑ってしまったわ」

「いや笑い事じゃないですからね。隠れて仕事する私があんなに目立ってしまって、あの一件でギルドからの評価下がったんですから」

2人にも色々あったようだ。

「……普通の色々とは違う、壮絶な色々だけど」

ティセは俺の言葉に苦笑した。

「というわけで、私はちょっと距離をとって様子をうかがっていました」

「私もあのときの蜘蛛を使って飛び回っていた剣士が、まさかルーティの友達になっていただなんて、これも予想していなかったわ」

「私もあの時のハイエルフがヤランドララさんだったなんて、本当に驚きました」

ヤランドララはティセに右手を差し出した。

「あのときはお互い仕事のために戦ったけど、どうか水に流してくれないかしら」

「もちろん、私は公私を分ける暗殺者でしたので」

ティセはヤランドララ右手を握り握手に応じた。

「よろしくティセ」

「こちらこそ、よろしくお願いしますヤランドララさん」

「うげうげさんもよろしくね」

声をかけられたうげうげさんも小さな前脚をヤランドララに差し出す。

ヤランドララは指先でうげうげさんと握手した。

「さて、ご飯も終わったし、皆との挨拶も終わった」

「ああ、そうだな」

持ってきたランチボックスは空っぽだ。

俺達は満腹感に浸りながら、心地の良い森の空気を楽しんでいる。

「じゃあ次は私の目的を話そうかな」

「目的?」

何だろう?

「ねぇギデオン、リット、ルーティ、それにティセとうげうげさん」

ヤランドララは俺達を見渡した。

銀色の髪が揺れる。

「あなた達をハイエルフの国キラミン王国へ連れていきたいの。あそこなら誰からも裏切られず平和に暮らせるわ」

「キラミン王国へ移住!?」

ヤランドララから提案されたその言葉は、今度は俺達にとって予想外のことだった。