軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

161話 ちょっと空を見たくなった

アヴァロン大陸各国の歴史を調べると、ヤランドララという名のハイエルフは歴史の脇役として度々登場する。

妖精海賊団を幾度となく追い詰めた武装商船団「 黒檀水軍(こくたんすいぐん) 」の提督。

北方の巨人戦争を終わらせた傭兵団「シロツメの姉妹団」の団長。

薬草学の大著「 百花万草礼賛(ひゃっかばんそうらいさん) 」の著者。

技術書が公開され各国の自警団で使われる万人棒術「 蓮華(れんげ) 流」の開祖。

そして、世界を救う勇者ルーティの仲間、『木の歌い手』ヤランドララ。

これらが同一人物だなんて誰が信じようか。

彼女は自分の経歴を語ることを、なぜかあまり好まない。

王都の花屋ヤランドララ。

そして今は、友人とピクニックに行くヤランドララだ。

☆☆

俺が薬草を取りに行く山の麓に広がる森。

走竜を借りて走ること1時間の場所へ、俺、リット、ルーティ、ティセ、ヤランドララはやってきていた。

「想像していた通りの良い場所ね!」

ヤランドララは嬉しそうにそう言った。

ここは森に入ってから少し歩いた場所。

ふかふかとした苔の生える地面にエルフ織りのシートを広げ俺達は座っていた。

ヤランドララに案内されたその場所は、穏やかな風が吹き、木漏れ日が射す気持ちの良い場所だった。

シートの上にはランチボックスが置かれ、中には俺の作った料理が色々詰め合わせてある。

「時間もちょうどお昼だし食べようか」

「やった!」

俺の言葉にリットは嬉しそうに声を上げた。

率先して全員分の食器を用意するリットを見て、ヤランドララは楽しそうに微笑んでいる。

「なるほどねぇ、リットはこうなったか」

「えへへ」

「あなたがレッドとどんな接し方をするのか色々想像していたけど、どの予想とも違ったわ」

ロガーヴィアでのリットを知っているヤランドララの予想か。

興味あるな。

「なぁ、ちなみにどんな予想をしていたんだ」

俺はお皿に料理を盛り付けながら聞いた。

「れ、レッド、そんなこと聞かなくても」

リットは何を言われるのかと顔を赤くしているが、聞きたいのだから仕方がない。

「ふふっ、えーとね、まず予想していたのがツンツンしてキツイ感じのリットにレッドが尽くしている姿」

「ええっ! 私そんなことしないよ!」

リットがすぐに声を上げて抗議する。

あまりに即座の抗議だったので、俺は思わず笑ってしまった。

「もちろんキツイだけじゃなくて、その中にレッドへの好きが見え隠れしてるの。たとえばね」

ヤランドララは歌うように呪文を唱え、印を組んだ。

ポコンと地面から小さなゴーレムが湧き出してくる。

1体は赤い花びらを首に巻いていた、多分リットだろう。

となると、もう一体の腰に木の枝がくっついているのは俺か。

俺のゴーレムは座って頬杖を付き、リットのゴーレムは両手を腰に当てて胸を張っている。

「ふーん、ここがあんたが作った薬屋なのね」

おおっ、喋った。ウィスパーの魔法か。

ウィスパーは風の精霊魔法の一種で、音を再現する魔法だ。

普通なら聞いたことのある音を再現するのだが、高度な術者はイメージから音を作り出すことができる。

ヤランドララはリットの声を再現しているのだ。

「でも全然お客も来ないわね、まっ商売のことなんて分からない騎士様が開いたお店なんて流行るわけないわ……ふん、情けない顔して。どうしてもって言うなら私が手伝ってあげてもいいわよ。でも勘違いしないでよね、別にあんたのためなんかじゃないんだから。ただ暇つぶしに付き合ってあげるだけなんだからねっ!」

「私はそんなこと言わない!」

リットも印を組み、小さなゴーレムを作る。

リットの作り出した四角いゴーレムはヤランドララのゴーレムに抗議するように両手を振り回した。

その光景を見て、俺達は声を出して笑った。

「ちょっと大げさだったわね」

「ちょっとじゃなくてすごく大げさ!」

3体のゴーレムは、トコトコと追いかけっこを始めた。

俺達はご飯を食べながら、その様子を楽しく眺める。

あ、俺の姿をしたゴーレムがころんだ。

すると、2体のゴーレムは追いかけっこをやめ、ころんだゴーレムのところへ走り寄り、起きるのを手伝っていた。

穏やかな時間が過ぎていく。

「あとはね」

食事も半分終わったくらいの時、ヤランドララが言った。

「もしかしたら……お互いの傷を舐め合うような、共依存の関係になってるんじゃないかって、そういう悪い予想してた」

「それはないよ」

今度は俺がはっきりと否定する。

「リットは強い女性だ。一緒になって堕落するより、2人で前に進むことを選ぶことができる。俺はリットの持っている強さを尊敬しているんだ」

「レッド、いきなり何を……」

リットが赤くなった。

だけどこれはちゃんと訂正しておかないと。

このゾルタンでどのような再会をしたとしても、リットと俺は逃げるためのスローライフではなく、人生を楽しむための前向きなスローライフを送るだろう。

「ふふっ、ごめんなさい。ええ、私の予想は大外れ。あなた達はずっと健やかな関係を築き上げていた。それが私にとってもすごく嬉しい」

ヤランドララは穏やかな表情を浮かべた。

でもヤランドララがそんな悪い状況を予想したのも無理はない。

ヤランドララから見えていた情報は、パーティーを追い出された俺と、故国から出ていかなければならなかったリットの姿なのだ。

俺達が傷つき弱っているかもしれないと思って当然だろう。

「お兄ちゃん」

ルーティが俺に抱きついてきた。

「むぅ」

なんだかちょっと膨れている。

「どうしたルーティ?」

「私のことは尊敬している?」

「もちろん、ルーティはいつだって俺の自慢の妹だよ」

「そう」

ルーティは俺にだけ分かるくらいの笑顔になった。

可愛い。

「予想していなかったと言えばルーティのことこそ驚いたわ」

ヤランドララは俺に抱きつくルーティを見て頷いた。

「どんな素晴らしい未来を予想しても、『勇者』から解放されて幸せに暮らすことができるだなんて、そんな奇跡があるとは思わなかった」

ヤランドララの言葉を聞いて、ルーティは少し首を傾げる。

「私はヤランドララのことをよく知らない」

「そうよね」

仲間であっても『勇者』ルーティは、俺以外の仲間と親しいとは言えなかった。

ヤランドララも例外ではない。

だけど。

「だから話をしたい、私も話をする」

「もちろん、たくさんお話しましょう!」

2人はそう言って楽しそうに笑い合う。

空を見上げれば、頭上の枝にきれいな白い花が咲いていた。

あれは何の花だったか、今は思い出せない。

ああ、今日は良い日だ……。