軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新作ラノベ総選挙1位お礼SS その2 うげうげさんと黄金竜 後編

少女とうげうげさんは来た道を戻って、今度は右の足跡の多い方へと進んでいく。

右の道は左の道よりずっと奥へと続いていた。

時折、ゴブリンの炭化した死体が転がっている。

そういえば村は昔はモンスターの襲撃もあったのに、今は襲われることが殆どない。

もしかすると竜がモンスターを襲って大人しくさせているのかも知れないと、少女はふと思いついた。

うげうげさんがトントンと少女の肩を叩いた。

少女は慌てて思考を目の前の状況に戻す。

ここは竜の巣なのだ。余計なことに注意力を割く余裕はないはずだ。

肩でうげうげさんが左腕を動かしている。

「松明を置けってこと?」

うげうげさんがうなずく。

少女は言われたとおり松明を地面に起き、剣を両手に持ってゆっくりと先へ進んだ。

だんだんと視界が暗くなり、少女の胸の中で不安が膨らんでいく。

そして、奥へと続く道を左へ曲がるとついに松明の光が届かなくなった。

「蜘蛛さん……」

不安の声を漏らす少女に、うげうげさんは“勇気を出して、でも気をつけて”と注意を促す。

少女は恐る恐る暗闇へと進んだ。

10歩歩いたところで少女の目は暗闇に慣れてきたのか、奥にあるぼんやりとした影が見えた。

「あれは……!」

少女が見たのは山のように積み上げられた金銀財宝。

これを持ち帰ることができれば王都で屋敷を建て、そこで一生遊んで暮らせるだろう。

少女にはその価値を正確に知ることはできないが、新しい居場所を見つけるという少女の目的のために十分な財宝があることだけは分かった。

「やっ……もが!」

思わず叫びそうになった少女の口にあわててうげうげさんが飛びついて塞いだ。

それからペシペシと少女の頬を叩いて、もっと注意するように伝える。

うげうげさんの必死さに少女はようやく自分が恐ろしい状況にあることに気がついた。

(財宝……だけじゃない!?)

財宝に見えた黄金の山が、よく見ればゆっくりと上下に動いている。

(黄金竜!!)

財宝の上で黄金の鱗を持つ竜が寝息を立てていた。

(黒い竜とは別物……やっぱり黄金竜がいたんだ!!)

少女は恐怖と、そして村の人にとっては逆らいようもない存在である領主を容易く殺した存在に出会えたことで足が止まる。

うげうげさんが、その小さな腕でまた頬を叩いてくれなかったら少女はいつまでも立ちすくんでいたかも知れない。

少女が注意を取り戻したことが少女の命を救った。

暗闇の中に敏感になっていた耳が背後に迫る気配を察知する。

振り下ろされた幅広の剣による一撃を、少女は危ういところで回避した。

「ズットー!!」

「ちっ、外したか。なんだ、村八分にされてるガキじゃないか薄汚いこそ泥め」

背後から襲ってきたのは領主のズットー。

どうやら黒い竜から兵士達を見捨てて逃げてきた様子で、髪は乱れ体中泥で汚れていた。

「ここは俺の領地だぞ。だからここにある財宝はすべて俺の所有物、法でそう決められている。それを盗んだ者に対する罰則もだ」

ズットーは少女を殺すために剣を振り上げた。

(こいつ……黄金竜に気がついていない!)

少女はとっさに自分の剣でガードする。

ズットーの力任せの一撃に対して、少女は父親から教わった通りに防御の技を実行した。

正面から受けず、刃に沿って力を受け流すイメージ。

ただの子供だと侮ったズットーの剣は左へと逸らされた。

「蜘蛛さん!」

一撃を受け流されてよろめいたズットーにうげうげさんが飛びかかった!

今の攻撃は少女を殺そうとしたものだった、だったら相手が領主だろうが蜘蛛であるうげうげさんには関係ない。

うげうげさんは躊躇なくズットーの顔に力いっぱい噛み付いた。

「うぎゃあ!!」

得体のしれない何かが顔に飛びつき激痛が走った。

命に関わるような怪我ではないが、そのことでズットーはパニック状態になり悲鳴を上げながら剣を取り落して顔を両手で掻きむしった。

少女とうげうげさんはすかさず地面へ伏せる。

「こ、このガキ、俺に何をしやがっ……た……!?」

目を開けたズットーが見たのは赤い目を輝かせ、牙の生えた大きな口を開く黄金竜。

「ひっ、たすけ!?」

避ける暇もない。

灼熱の炎が黄金竜の口から吐き出されて、断末魔を上げることもできずズットーは丸焦げになって倒れた。

死んでいるのは明らかだ。

「……!」

少女は目の前に落ちているズットーの剣に目を向けた。

領主の剣だけあって、ガーネットと黄金で装飾されたその剣はいかにも高級だ。

その時、うげうげさんが少女の目の前で飛び跳ね警告した。

少女が振り返ると、黄金竜が腕を振り上げ少女をその大きな爪で引き裂こうとしている。

少女は一か八かと歯を食いしばって自分の剣を振った。

剣は黄金竜の腕に当たり甲高い音を洞窟に響かせる。

少女の一撃は黄金竜の鱗を貫けなかったが、黄金竜は怯んだ様子で攻撃を止めた。

その隙に少女は走り出す。

床に落ちていたズットーの剣を掴むと竜の財宝には目もくれずに逃げた。

「この剣があれば十分お金は手に入るはず!」

うげうげさんは少女の肩に乗り、素早くズットーの剣を少女の背中に糸で結びつけた。これで少女の手はフリーになる。

少女は空いた手で地面においていた松明を拾い、うげうげさんと一緒に出口へ向かって必死に進む。

黄金竜が追いかけてくる足音がするが、狭い洞窟の中では全速力で走れないのか少女との距離は縮まらない。

うげうげさんは丸めた糸に松明で火をつけ、少女の進む先へとポイポイ投げている。

地面で燃える糸の塊の火は、小さなロウソクくらいの明るさだ。

その光によって地面が照らされているおかげで、少女は足場の悪い洞窟の中でも転ぶこと無く走ることができた。

分かれ道を越え、疲れで倒れそうになる足を励ましながら少女は走る。

やがて外の光が見える最後の通路へとたどり着いた。

「出口!」

少女は笑顔となって走る速度を上げた。

ラストスパートだ。

だが、少女の背中が引っ張られる。

「えっ!?」

少女は背中を激しく打って倒れた。

「かはっ!」

酷使していた肺に衝撃が加わり激しく痙攣した。

少女が何が起きたのか確認しようとしたとき、天井を見上げる少女の目の前を真っ赤な炎が通り過ぎる。

「きゃあああ!!!」

少女は悲鳴をあげる。

ブレスは追いかけてきた黄金竜に直撃したようで、洞窟の奥で咆哮が響いた。

少女は顔を上げた。

洞窟の出口、太陽の光の中に漆黒の影が浮かぶ。

「黒い……竜……!」

ズットーを追いかけてきたのだろうか。

少女がころんだのは、竜に気がついたうげうげさんが少女をなんとか助けようと背中と床に糸を張ったからだった。

少女は立ち上がろうとするが胸に激しい痛みが走りうずくまった。

呼吸が整うまで10秒以上かかるだろう。

うげうげさんは倒れた少女の肩から飛び降りると、黒い竜に向かって両腕を振り上げ威嚇した。

その体格差はあまりに絶望的。

だけれどもうげうげさんに友達を見捨てるという考えはない。

少女が立ち上がれるようになったとして、2体の竜に挟まれたこの状況で逃げ出せる可能性は低いだろう。

「蜘蛛さん……」

だが逃げない。逃げようという発想すらない。

小さな蜘蛛が背中の少女を守るように黒い竜へと立ちはだかる。

「グルル……」

黒い竜がうげうげさんと少女に襲いかかろうとした時、黄金の影がうげうげさんの上を飛び越えた。

「ガァァァァ!!!!」

黄金竜が黒い竜の喉に噛みつき組み伏せようとしていた。

黒い竜は驚き、黄金竜を振りほどこうと大暴れした。

ドーン!!!

激しい音が響いた。

2体の竜がもつれ合い、洞窟の壁に激しく激突した音だ。

洞窟の壁面にヒビが走り、壁と天井の一部が崩落した。

崩落したのはうげうげさんの真上。

小さな蜘蛛へ無数の瓦礫が落ちてくる。

どれもうげうげさんを潰すのに十分な大きさがあった。

「危ない!!」

少女がうげうげさんに覆いかぶさる。

瓦礫が少女の上へと降り注ぎ、少女の身体を無情に傷つけた。

少女の身体の下、うげうげさんは丸い瞳でじっと少女を見つめている。

「お父さんの鎧、役に立ったね」

形見の鎧がなければ、少女の身体はうげうげさんごと瓦礫に押しつぶされていただろう。

だが……赤い血が地面へ広がっていく。少女の身体から流れたものだ。

少女は最後の力でうげうげさんが外に出られるだけの隙間を作る。

少女はうげうげさんを見て笑った。

「短い旅だったけど……蜘蛛さんとの旅は楽しかったよ……」

少女の身体から力が抜けた。

血溜まりの中をうげうげさんは少女のところへ歩き、微笑んだまま動かない少女を小さな足でゆすった。

何度も、何度も、何度もゆすって、一緒に逃げよう、もう少しで外に出られると少女に呼びかける。

少女の身体が少しずつ冷たくなっていくのがうげうげさんにも分かった。

うげうげさんは小さな頭で、どうすれば友達を救えるのかをじっと考えた。

うげうげさんは少女をもう一度見つめ、その頬に優しく触れると、瓦礫の中から勢いよく飛び出した。

外では2体の竜が激しく争っている。

洞窟は揺れ、いつ崩壊してもおかしくない。

うげうげさんは再び洞窟の奥へと今度は自分の小さな足を必死に動かし走っていった。

☆☆

長距離の疾走は、小さなうげうげさんにとって身体を酷使する命がけの行動だ。

頭に小さな宝石を乗せたうげうげさんは、震えるほどに弱りながらも瓦礫に埋まった少女のところへ向かう。

もし今うげうげさんが竜に襲われたら避ける力も残っていないが、2体の竜は洞窟のすぐ外に戦場を移しており、うげうげさんは無事に少女のところへとたどり着くことができた。

うげうげさんが少女の顔に近づくと、弱々しいがまだ息をしていることが分かる。

生きている!

うげうげさんは一度だけ飛び跳ねると、少女の手の中に持ってきた宝石を滑り込ませた。

少女のブロンドの髪が光り輝き、全身を包み込む。

うげうげさんが見守る中、光の中で少女の身体が膨れ上がり巨大な存在へと変化していった。

「グルァァァァ!!」

3体目の竜が現れた。

竜の身体は少女の髪の色と同じ黄金色に輝いている。

少女だった黄金竜は、うげうげさんに赤い瞳を向けた。その目は優しかった。

うげうげさんは右腕を振って答える。

黄金竜はうなずいた。

「ガァァァオ!!」

黄金竜が争っていた2体の竜へと飛びかかる。

少女だった黄金竜は、他の竜に比べて一回り小柄だったが戦いで消耗していた2体は抵抗しきれず組み伏せられた。

その間にうげうげさんは、少女の残した荷物袋から分かれ道で手に入れた鏡を取り出す。

確証はなにもないが、うげうげさんはこの鏡のサイズと入り口の窪みのサイズがぴったり一致することが分かっている。

糸を鏡にくっつけると、うげうげさんは身体を震わせながらがむしゃらに鏡を引っ張った。

うげうげさんの何倍も大きく、何十倍も重い。

それでもズルズルと少しずつ鏡は引っ張られていった。

やがて鏡はうげうげさんによって窪みへと収められた。

蜘蛛であるうげうげさんは距離を正確に測ることができる。

だから、鏡が窪みに僅かな隙間もなくぴったりと収まったことに驚きはしなかった。

窪みの鏡に太陽の光が当たり、天井の鏡へと反射する。

まるで鏡の間で反射する光が蓄えられているかのように、光はどんどん強く、眩しくなり洞窟の入口に白い光の柱を作り出した。

洞窟の中でうげうげさんが腕を上げる。

それを見て、少女だった黄金竜は組み伏せている2体の竜を洞窟の中へと突き飛ばした。

黒い竜と黄金竜は光を浴びて、洞窟が崩れるかと思うほどの咆哮を上げる。

だがそれ以上暴れることなく、2体の竜は地面にアゴをついて横たわり動かなくなる。

光りに包まれた竜はだんだんと小さくなっていき、やがて2人の人間に変わった。

「あいたた……」

そこにいたのは黒い髪の女性と、少女と同じ金色の髪をした女性だ。

うげうげさんは黒い髪の女性へと近寄る。

女性は身体を起こすと、うげうげさんを見て微笑んだ。

「ありがとう、本当に助かったわ。でも一体どうしてここにうげうげさんがいるの?」

女性の名はエリン。

『デッドリークルチザンヌ』の加護を宿すティセと同じ暗殺者だ。

ティセとうげうげさんがブルーサークルの開拓村にやって来たのは、任務中行方不明になっていたこのエリンを探すためだった。

ティセは領主に捕らえられたのではと町やその周囲を探していたが、さすがのティセもエリンが竜になっていたとは思わなかったようだ

うげうげさんは身体を揺らし、心配したんだぞとエリンに伝えた。

「危険な目にあわせてごめんね。まさか竜の正体が財宝の呪いで番人にさせられた人間だったとは。黄金竜の加護レベルが低かったから簡単に財宝が手に入ると思ってしまって」

それからエリンは2枚の鏡を見た。

「それにしてもうげうげさん。竜の正体によく気がついたね。奥にウッドエルフの文字で説明はあったけど、財宝のさらに奥だからたどり着けないし、それにうげうげさんは文字を読めなかったでしょ?」

うげうげさんはびしっとエリンを右腕で指した。

「近くで見たら竜が私だと分かったって? 本当? うげうげさんの目は人間よりもよく見えるのね」

黒い竜の正体が探していたエリンだと分かってから、うげうげさんは竜の呪いと解呪の方法を推測し、それを使って少女を救おうとしたのだ。

「ここは……」

遅れて金色の髪の女性も気がついた。

「私は……竜に変えられて」

女性はハッと我に返ったように外にいる少女だった黄金竜へと駆け寄った。

慌ててエリンが女性の手を掴み引き止める。

「竜になると理性が弱くなるのは身を持って知っているでしょ! 近づいたら危ないよ!」

「でも、あの子は私の!」

黄金竜はゆっくりと女性に顔を近づける。

エリンは警戒するが、うげうげさんがエリンの肩に飛び乗ると、大丈夫というようにうなずいた。

「私のアイリス! ごめんねずっと1人にして……会いたかった!」

女性は黄金竜の首に抱きつき泣いた。

黄金竜は目を細めて抱擁を受け入れる。

「どういうこと?」

事情がわからず首をかしげるエリンの肩で、うげうげさんは良かった良かったと嬉しそうに揺れていた。

少女と同じ金色の髪をした女性は少女の母親だった。

領主に追い詰められ、この洞窟へと逃げ込み竜になってしまったのだ。

竜である彼女が少女の一撃程度で怯んだのも、夫の形見である剣を見て僅かに自我が戻ったから。

そして黒い竜に襲いかかったのも、竜の凶暴性に翻弄されながらも少女を守ろうとしたからだ。

これで少女はもう1人ではない。

あとは黄金竜が少女に戻るだけ。

だが鏡へ連れて行こうとする母親に対して、黄金竜は首を横に振った。

「どうしたの?」

母親の隣をうげうげさんが歩いてくる。

地面にいる小さな蜘蛛と同じ高さになるよう、黄金竜は身体を伏せてうげうげさんを見つめた。

うげうげさんは黄金竜の頭へと飛び乗る。

黄金竜は嬉しそうに、大きな咆哮を上げると翼を広げて青い空へと飛んだ。

うげうげさんと一緒の旅はここまで。

少女はそれを理解していた。

だから少女は大切な友達にお礼がしたかったのだ。

誰も味方のいなかった少女のために戦ってくれた、大切な大切な友達のために、ずっと忘れないような幸せな思い出を作りたかった。

うげうげさんは空を飛ぶという体験に興奮して黄金竜の頭の上で両腕を振り上げた。

黄金竜は嬉しそうに笑うと速度を上げて旋回した。

キラキラと輝く黄金竜と小さな蜘蛛は、いつまでも一緒に空の上で踊っていたのだった。