軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新作ラノベ総選挙1位お礼SS その2 うげうげさんと黄金竜 中編

山道は大勢の人間が通った足跡がある。

「昨日出発した領主のズットーと兵士達のものだと思う」

足跡を気にしている様子のうげうげさんに少女は言った。

「外から集めた傭兵も合わせて29人。ズットーが竜を退治して財宝を手に入れるための軍勢なの」

うげうげさんはうなずいた。領主の軍が村を出ていったのはうげうげさんも見ていたのだ。

「この山には黄金竜が住んでいるの。その住処には山のように積まれた財宝が眠っている」

うげうげさんは頭をかしげた。

「どうして財宝があるなんて分かるのかって?」

コクコクとうげうげさんはうなずく。

「2年前、前の領主だったブラントと兵士達が山で黄金竜に襲われたの。村からも空を旋回する黄金竜が見えたわ。その時は傭兵もいなかったから、ブラントと一緒にいた兵士は5人しかいなくて、みんな殺されちゃった。でも1人だけ大怪我を負いながら村まで逃げた兵士がいた。その兵士は結局死んじゃったんだけど、死ぬ間際に『竜の洞窟に黄金の財宝を見た』って言い残したわ」

少女は一度言葉を切ってうつむく。

「私が竜の魔女って言われてたの聞いてた? あのね、ブラントが兵士を連れて山に行った理由は私のお母さんを探してたの。ブラントはお母さんを自分のものにしようとして、兵士と一緒に私達の家にやってきた。あの小屋じゃなくてね、昔はちゃんとしたところに住んでたんだよ。

お父さんは抵抗したんだけど兵士にたった1人じゃどうしようもなくて殺された。でもお父さんが戦っている間にお母さんは私を連れて山に逃げたの……小さな私を連れて山を逃げるなんて無理だって分かってたのに。

私達はどんどん追い詰められていって、私は途中で足を怪我して走れなくなった。お母さんは狙われているのは私だからって、私を茂みの中に隠して1人で遠くへと走っていった。私がお母さんを見たのはそれが最後」

少女は森の中の道を見て懐かしそうに目を細めた。

うげうげさんはトントンと少女の肩を元気づけるように叩く。

「ありがとう。あの時もこの山道を走ったの。ブラントはお母さんに拒絶されてすごく怒っていたから、お母さんは殺されるかもってすごく怖かった。でも日が落ちた頃に黄金竜が現れてブラントと兵士達を襲ったわ。兵士1人を残してみんな黄金竜に殺された。

村の人達はお母さんが魔女で黄金竜を呼び出したんだって。それまでこの山で竜を見た人はいなかった。こんな近くに竜が住んでいれば気がつくはずだって……村の人達はお母さんが竜に身を売った魔女なんだと言ってた」

ぴょんとうげうげさんが跳ねた。怒っているようだ。

「蜘蛛さんはいい蜘蛛ね。あのね、私はズットーと黄金竜が戦っている間に竜の財宝を盗み出すつもりなの」

少女は木々の間から見える高い崖を見て言った。

「一握りの銀貨でいい。それだけあれば私は別の場所で1人でも生きていける! もうお母さんとお父さんを見殺しにした村の人達にすがって生きていかなくてもいい!」

少女は少し歩く速度を上げる。

「蜘蛛さん見守っていてね。私、頑張るから!」

うげうげさんは少女の頭に飛び移ると、小さな腕で少女の頭を撫でた。

そうしながら……うげうげさんはちらりと森の中にある石を見る。

苔に包まれているが、石には不自然な傷が……人為的に彫られた文字と絵があった。

彫られてから200年以上経過しているだろう。

うげうげさんは文字を読めないが、抽象的なその小さな絵が何を示しているのかだけは理解した。

そこには財宝を守る竜の姿が彫られていた。

黄金竜は昔からここにあったのだ。

☆☆

「ちょっと休ませて……」

1時間くらい歩いた後、少女は表情を歪めて立ち止まった。

少女は器用な方だったが、やはり鎧については素人だ。彼女が仕立て直した革鎧はバランスが悪く、少女の左肩に重さが集中していた。

服の下では皮膚が擦り切れ血が滲んでいる。

少女は鎧を脱いでしまおうかとも考えるが、加護レベルの低い少女が身を守る防具も無くこの山を歩くのは自殺行為だろう。

「それにこんなボロボロの鎧だけど、これを身に着けているとお父さんが守ってくれているみたいで」

少女は鎧をずらしながら、なんとか左肩にかかる負担を分散しようとしている。

それを見てうげうげさんがぴょんと背中に降りた。

「え、なに?」

うげうげさんは素早く少女の鎧の上を走り回る。

どうしたのかと驚いていた少女だったが、すぐに左肩が楽になった。

「ええっ!?」

身体を軽く動かしてみると、左肩に集中していた重さが体中に分散している。

「もしかして蜘蛛さんの糸でやったの?」

うげうげさんは軽く飛び跳ねて答えた。

「すごい! 蜘蛛さんって器用だね!」

少女は再び歩き出した。

まだ肩はヒリヒリするが痛みに耐えられなくなるほどではない。

「ありがとう蜘蛛さん」

うげうげさんはどういたしましてと右腕を上げた。

☆☆

お昼を過ぎた頃。

うげうげさんと少女は山道を外れ、剣で行く手を塞ぐ草を刈り取りながら進んでいた。

「うん、ここからなら見える」

斜面から見下ろしながら少女は言った。

少女の視線の先には領主ズットーと兵士達がいた。

兵士達は山の開けた場所に陣を敷き、黄金竜を迎え撃つ態勢を整えているようだ。

とはいえバリスタなどの大型兵器は見当たらず、燃えにくい草で覆った即席の防火盾がある程度の備えだ。

火矢程度なら防げるかもしれないが、竜のブレスを相手にあまりに頼りない備えだ。

「……うん、もっと上に行こう、戦い始めたらすぐに洞窟に走れるようにね」

うげうげさんを肩に乗せ、少女は道なき道を進んでいく。

草を刈る父親の形見の剣は、若い鍛冶師が習作で鍛えたもので安物の剣だがよく斬れた。

「剣の手入れは、お父さんから教わったことだから」

少女はそうつぶやいた。

うげうげさんは少女の肩をポンポンと叩いて励ました。

辛い旅になると思っていた少女だったが、うげうげさんと一緒の旅はずっと心が温かかった。

2人はしばらく山の中を進む。

30分ほど歩くと急勾配の崖の下へとたどり着いた。

黄金竜の住むとされる洞窟はこの上のあたりにあると少女は聞いていた。

「登れそうな場所を探さないと……蜘蛛さん、どっちに進めばいいかな?」

崖を目の前にして右か左か悩む少女に、うげうげさんはぴょんと崖に飛び移った。

それから少女の方を向き、後ろ脚で崖の上を指す。

「こ、ここを登るの!? 私は蜘蛛さんみたいに身軽じゃないから無理だよ!」

それでも何度もアピールするうげうげさんを見て、少女は崖に近づいてうげうげさんの示す場所に手を置いてみた。

「これ……いけるかも!」

下から見上げると断崖絶壁にしか見えなかったが、こうして直接崖に手と足で触れてみると50度くらいの角度だと分かる。

少女はうげうげさんをもう一度見る。

うげうげさんは右腕を上げると、着いてこいと崖を登り始めた。

そんなうげうげさんを見て、少女は覚悟を決めると剣を鞘に収め両手で崖を登り始めたのだった。

☆☆

もうすぐ崖を登り切る。

少女はうげうげさんの糸に体を預け疲れた腕を休めた。

「蜘蛛さんがいなければここまでこれなかったよ、ありがとうね」

少女が笑うと、うげうげさんは腕を振って答えた。

うげうげさんはどこに手や足を置けばいいのか、少女の周りを行ったり来たりしながら導いてきた。

またうげうげさんの糸が壁と少女をつないで命綱となっており、少女が足を滑らせた時も落下することはなく無事だった。

「あと少し……!」

崖の上までもう残り1メートルを切った。

少女は疲れた腕を軽く振って力を振り絞ると再び崖を掴んだ。

その時、うげうげさんが慌てた様子で少女の目の前で両腕を振り上げると足を広げ身体をぺたりと崖に寄せた。

「え?」

少女は困惑した。だけども少女はうげうげさんを信頼している。

この小さな蜘蛛は、村に誰も味方のいなかった少女のたった1人の友達なのだ。

とにかくうげうげさんと同じようにしようと少女は崖に身を寄せた。

「ガア! ガア!」

崖の上で鳥が一斉に飛び立った。

「な、何!?」

驚き空を見上げた少女の視界を巨大な影が覆った。

「竜!!」

口から炎をほとばしらせ、身体の倍以上ある巨大な翼を広げて竜が飛ぶ。

竜種としては小柄な方だろうが、相対する人間と比べたらその十分に巨大だ。

少女とうげうげさんが見たのはまさしく竜だった。

だが。

「黄金竜じゃない……!」

その竜の鱗は、光り輝く黄金ではなく艷やかな漆黒だった。

☆☆

崖の上に到着した少女とうげうげさんは下の様子を眺める。

「竜が戦ってる!」

兵士達が待ち構える陣地へ、黒い竜が猛然と襲いかかっていた。

上空を旋回する黒い竜に対して、兵士達の矢や魔法が飛び交う。

だが、どれも有効打にはならず、急下降してきた黒い竜の炎のブレスで兵士達は次々にやられていた。

小柄のズットー卿は竜から身を隠しながら、顔を真っ赤にして指示を出している。

……だがどうやら、「戦え」と「逃げるな」しか作戦はないようだ。

潰走は時間の問題だろう。

呆然とする少女の頭の上で、うげうげさんが飛び跳ねた。

「そ、そうだ、今のうちに宝物を!」

少女は我に返り、竜の洞窟へと急ぎ走っていった。

☆☆

洞窟はすぐに見つかった。

巨大な竜は生活している痕跡を隠そうともしていない。

なぎ倒された木々、食事の跡、巨大な足跡。

どれもはっきりと残っていたのだ。

竜の住む洞窟は、大きな横穴だった。

うげうげさんは、その壁面が人工的にくり抜かれたものだと気が付き警戒を強める。

虫の直感でうげうげさんはここに何か不自然な力があると感じていた。

「この中に財宝が……」

少女の願いは一掴みの銀貨。

冒険者なら駆け出しでも手に入るだろうささやかな金額。

新しい居場所を得るために命を賭けてでも手に入れなくてはならない財宝だ。

少女は担いだ剣を抜き洞窟へと進んでいった。

「あっ!?」

が、洞窟の入口で少女はつまずいた。

ころびそうになった少女の背中が引っ張られる。

「あ、ありがとう蜘蛛さん」

少女の背中についた糸が洞窟の天井へと続いている。

少女がつまずいたのを見て、うげうげさんがとっさに糸を張ったのだ。

「もう! こんなところに窪みがあるなんて!」

少女は恥ずかしそうに赤面しながら言った。

少女がつまずいたのは足元の岩に丸い窪みがあったためだ。

「これ……自然にできたものじゃないよね」

不思議そうに少女は屈んでくぼみを見る。

硬そうな岩の上に、真円で深さも均一な窪みがある。

とても風化や侵食など自然現象によって作られたものとは思えなかった。

その時、うげうげさんが糸を伝ってするすると天井へ登っていく。

「どうしたの?」

少女は不安そうにうげうげさんの行方を目で追った。

うげうげさんが向かった先、窪みの真上には天井に鏡が備え付けられていた。

外から差し込む光が当たらない影にあり、この鏡の存在は明かりをつけて天井をよく見ないと気が付かなかっただろう。

うげうげさんはたまたま糸が鏡にくっついたことで岩肌とは違う感触に気がついたのだ。

もしかすると魔法がかかっているのかもしれないが、それは蜘蛛であるうげうげさんには分からない。

うげうげさんは頭を傾げながら少女の元へと降りてきた。

「……分かんないけど、行こう」

少女はもう一度床の窪みと天井の鏡を見たあと、洞窟の奥へと進んでいった。

☆☆

少女は右手に剣を持ち、左手に枝にボロ布を巻きつけ作ったお手製の松明を掲げて洞窟を進む。

うげうげさんは少女の肩の上で捕まえた虫を食べていた。

糸を吐くのは体力を消耗するのだ。補給できるときに補給しないといけない。

「分かれ道だね」

少女は不安げに言った。

洞窟は目の前で左右に道が分かれている。

「どっちに行けばいいと思う?」

少女の言葉に、うげうげさんは食事の手を止め考えた。

地面を見れば右は頻繁に竜が出入りしている形跡があり、左はそれほどでもない。

うげうげさんはそのことを足をパタパタ動かして少女に伝える。

「うーん、宝物がある部屋って倉庫だよね。足跡が多い方が眠ったり生活する部屋のはずだから、足跡の少ない方が倉庫! 左へ行こう!」

少女は自分の言葉にうなずくと左へと進んでいった。

少し歩くと洞窟は行き止まりになっていた。

だが目の前には洞窟にそぐわない人工物がある。

「扉?」

そこには石でできた扉が壁に備え付けられていた。

少女にとっては問題ないが、大人からしたら少し小さめの扉だ。

もちろん竜は通れないだろう。

「鍵がかかってる」

少女は扉を押したり引いたりしたが、扉はびくともしない。

そこにうげうげさんが少女の肩から飛び降りた。

「蜘蛛さん、開けられるの?」

うげうげさんは鍵穴を覗き込み、糸を腕に取ると鍵穴の中へと投げ込んだ。

しばらくもぞもぞ動いていると……ガチャリと音がした。

「すごい!!」

少女は無邪気に感嘆の声を上げた。

これが分別のある大人なら、そろそろうげうげさんの蜘蛛離れした能力に「もしかしたらデーモンが化けているのでは」と疑い出すレベルなのだが、うげうげさんに友情と信頼を感じている少女にとっては尊敬の感情を抱くばかりだ。

この蜘蛛さんはなんてすごいんだろう!

重い石の扉を少女が頑張って開ける。

「ふぅ……中はちっちゃな物置?」

扉の先には奥行き50センチほどの空間があった。

中には台座とその上に置かれた古そうな鏡がある。銀製だが長年放置されていたにもかかわらず曇っていない。

魔法的な処理がされているのだろう。持ち帰ればそれなりの価値があるはずだ。

だが少女は磨き上げられた銀というものを見たことがなく、それがどれほどの価値がるのか分からなかった。

うげうげさんは台座に飛び移り、鏡の周りをくるくる回ると、少女に向かって腕を振る。

「え? これを持っていけって?」

うげうげさんはぴょんぴょん飛び跳ねて答える。

少女は両手で銀の鏡を持ち上げ、意外と重いことに驚きながら素直に袋に入れた。

「こっちは違ったみたいだね……戻って右の道に行こうか」

うげうげさんは少女の肩に戻るとえいえいおーと腕を振った。