軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

122話 王都にて騎士達は悩む

アヴァロン大陸南部の沿岸。

貨物帆船ワルウェイク号。

大陸西部で魔王軍と戦う連合軍へと物資を運んでいたこの船だが、現在はその動きを止めていた。

甲板には全身に矢を浴び、血を流して倒れている船員達の死体が転がり、その中をカトラスを腰にぶら下げた男達が船員達の死体から金目のもの剥ぎ取っている。

ワルウェイク号の周りにはガレー船が3隻。

この船は襲撃されたのだ。

船倉を守るように、船長のホーレス卿はロングソードを構えて襲撃者達の前に立ちはだかった。

「海の屑どもめ。魔王軍と戦う兵士達のための積み荷を狙うとは恥を知れ!」

言葉を聞いて、襲撃者の男はニヤニヤと笑う。

「はー、さすがはアヴァロニアの騎士様は言うことが違うネ。そこは、命だけは助けてくださいって命乞いするところダロ」

「誇りを持たぬ海賊が! 成敗してくれる! 剣を抜け!」

剣を振り上げホーレス卿が叫んだ。男は面倒くさそうにカトラスの柄に手を触れ、おどけた様子で剣を抜く真似だけをした。

「貴様!!」

ホーレス卿が激昂して飛びかかる、そこへ襲撃者の背後から無数の矢が放たれた。

ここは狭い通路だ、ホーレス卿は矢をかわすこともできず全身に浴び、血を吹き出しながら倒れた。

「フフン、この状況でまともに戦ってやるわけないダロ」

襲撃者はうめき声を上げながら死にゆくホーレス卿を踏みつけて進む。

「ヴェ、ヴェロニアめ……」

ホーレス卿のかすれ声を聞いて襲撃者であるヴェロニア王国海軍提督は声を出して笑う。

「そいつを認めちまったら、一番困るのはあんたらダロウ? 楽な商売ダゼ」

ヴェロニアの男はそう言ってホーレス卿の反応をうかがった。だが、

「ありゃ、もう死んでラ」

つまらなそうに肩をすくめる。

「んじゃ、てめぇラ! とっとと積み荷を運びヤガレ!」

徴用された元海賊である彼らヴェロニア海軍の兵士達は、下品な雄叫びを上げながら、魔王軍から人々を守るはずだった物品を、次々に運び出していった。

☆☆

アヴァロニア王都。王宮の一室。

「またか」

前線に物資を運ぶ船が消息を絶ったという報告書を読み、白髪の老人はため息をついた。

「ホーレス卿も生きてはいまいな」

老人はホーレス卿の顔を思い出し無念だと首を横に振った。

老人の名はベアグノズ・オブ・クロービス・ソードマスター。

その身に宿す加護は『ウォードレイダー』。

王都を守る精鋭バハムート騎士団の団長であり、レッドに剣を教えた騎士。そしてアヴァロニア王国で3番目に強い戦士だ。

ベアグノズの言葉を聞いて、部屋の壁に持たれかかっている男が憎々しげにつぶやいた。

「ヴェロニアだな」

「おい、バードル、軽々しくその名を口にするな」

バードルと呼ばれた男は、身長150センチほどしかない小男だ。室内だというのに鎧兜を身に着け、兜の中から覗く黒い瞳は鋭い。

彼こそが王都の守護を任せられ、王宮を含むすべての場所で無条件に武装し、誰の許可を得ることもなく無条件で相手を殺害することを許された騎士。

バハムート騎士団と並び、王国軍の切り札ティアマット騎士団の団長バードル・オブ・ガーディアン。

アヴァロニア王国最強の戦士であり、世界に4組13人しかいないSランクを認められた冒険者でもある。

その身に宿す加護は『騎兵』。決して特別な加護とは言えないが、それでも彼はベアグノズやギデオンといった猛者にすら一度も負けたことがない達人だった。

バードルは兜の奥で不愉快そうに舌打ちする。

「海賊どもの名を呼んで何が悪い」

「海賊ではなく王国だ。我々は魔王軍を相手にするので精一杯なんだよ。確かに劣勢だった戦況も『勇者』の活躍のおかげで優勢になりつつある。王宮も士気高揚のため、盛んに勇者の活躍を喧伝している、まぁ結構なことだな。だが、王都の民も、そして王宮すらもこの戦争に勝ちつつあると思い込みつつある」

「実際は『勇者』が各地で遊撃して魔王軍の戦線をぐちゃぐちゃにしたから一時的に優勢なだけだな」

「ワイヴァーン騎兵を壊滅させたのも大きい」

「それにカタフラクト王国との国交が回復したのもな」

『勇者』の活躍を並べ、ベアグノズはため息を吐く。

「要するに、王国軍そのものが魔王軍より強くなったわけではない。それなのに王国の民も、そして王宮の連中すらも勘違いしつつある。頭の痛い問題だな。でだ、話を海賊に戻すがここで海賊の正体を報告でもしてみろ。王宮も民もヴェロニア王国の討伐を軍に要求するだろう。優勢ついでに成り上がり者の海賊を懲らしめろとな。だが魔王軍だけでも手一杯なのに、ここにヴェロニア王国にも参戦口実を与えたら王国は滅ぶぞ」

ベアグノズの言葉に、バードルはガチャリと鎧を鳴らした。

「気に入らん。俺のところが討って出れば魔王軍なんぞ蹴散らしてやるものを」

「王都守護の要が王都を空けるわけにはいかんだろうが。そういうわけで、海賊の件は静観だ」

「静観するといってもだな、どうにかする当てでもあるのか?」

ベアグノズは雪のように白い髭を撫でながら思案している。

「諜報によれば皇太子は親魔王軍派だそうだ。ゲイゼリク王が病床なのを良いことに、軍を掌握しているとのことだが、おそらくは我々に対する海賊行為も皇太子の指示によるものだろう」

「ウグス王子か。母親のレオノールのババアの言いなりだって話だが?」

「黒幕はレオノール王妃だな」

「だったら静観しても解決しないだろ。暗殺者ギルドに頼んだ方がいいんじゃないのか?」

「軽々しく言ってくれるが、万が一にでもバレたら破滅だぞ。博打は打てん」

「だがこのままウグス王子がヴェロニア王になっても同じだろう」

大陸連合軍と魔王軍との戦争で、中立を宣言しているヴェロニア王国。大陸南西部に君臨するこの国の動向が大陸の命運を左右すると言っても過言ではない。

「戦争への積極的な参加を推奨しているのはサリウス王子か。彼がヴェロニアの王位を継いでくれればすべて解決するのだが」

「うちが介入する余地はあるのか?」

バードルの言葉にベアグノズは渋い顔をする。古来から他国が王位継承問題にかかわると碌なことがない。

「だったらどうするつもりなんだ」

ベアグノズの顔を見て何を考えているのか伝わったのか、バードルはムッとした様子で言った。

「だから言ったろう。静観だと」

「あと何人の騎士を犠牲にするつもりだ」

ベアグノズの言葉を聞いて、バードルは不満げに文句を言う。

ベアグノズは再びため息を吐いた。

もしこの場に、勇者と共に行ってしまった優秀な副官が居れば、何か策を考えていたのだろうか。

無いものをねだっても仕方がないと、ベアグノズは気持ちを切り替えもう一度報告書に目を通し始めたのだった。