軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

36

ノエルは、ベスの望みであれば、なんでも叶えてやりたいと本気で願っている。

例えその望みがこの世で一番大きなサファイアであろうと、王国の一つであろうとも、ノエルはベスが望むのであれば、その能力の全てを駆使して、ベスの望みを叶えるだろう。

そもそもベスは物欲が薄く、ノエルは何か物をベスからおねだりされるなど、滅多にない。

そんなベスが温泉をノエルに強請っているのだ。

(全てに替えても)

ノエルは有頂天で温室の地盤の調査に乗り出した。

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かつてこの温室には、温泉が引き込まれていた形跡があるとナーランダの調査結果であったが、湯を引き込むのに使われていたと思われる管は、調査を始めたその日のうちに、非常に簡単な探知魔法で地中に見つかった。

ノエルが管の見つかったあたりを軽く探索魔法をかけてみると、見事な石造の湯船の跡が地中に埋まっているのも見える。相当な大きさで、温室の半分をしめる。

間違いない。この温室は元々温泉のために建立されたものだ。

(問題は、どこからどうやって湯を引き込むかだが、これは・・実に良い風呂になりそうな)

湯船は掘り出せば今からでも多少手を入れれば使えそうな、堅牢な作りのものに見える。

ベスの望みを叶えて温泉を作ってやるだけのつもりだったノエルだが、思わず生唾を飲み込んでしまうほどに、良い風呂になる予感がする。

温泉の再建のために掘り起こす予定の場所は、温室の中心、敷石が敷き詰められている中広場のような場所だ。

この場所は非常に広い温室の一部で、敷石とタイルが敷き詰められているのをわざわざ掘り起こすのも面倒なので、普段はベスは園芸用品の置き場所にしている。

探索魔法で地盤の奥をよく見ていると、固い岩盤をそのまま利用しており、岩盤の上に、大きな岩をぐるりと囲んで、浴槽として配置されている。

岩は白粉石と呼ばれるこの王国の名産で、美しい白い岩肌の、非常に美しく、価値の高い岩でのみ構成されている。

おそらくこれほど大きな岩が土壌の中あるとなると、植物を植えても根の育成の邪魔になると判断して、いつの時代にかこの場所を埋めて敷石を引くことにしたのだろう。

この白い岩で囲まれた大きな浴槽に、水色の源泉の温泉の湯を引き入れて、ベスの育てた深い緑の温室で入浴する自分の姿をノエルは想像してみた。

ゆったりと体を湯に浸し、白粉石に体を任せて源泉の水色の湯に体を預ける。

源泉の湯はとめどなく豊潤に流れて、全ての心の、体の重荷の何もかもを流し出す。

いつもの宿の風呂よりもよほど広い浴槽の中、生き生きとした緑の中で、鳥の歌を聴きながら、肺の奥の奥まで、深い呼吸をつくのだろう。

背の高い温室の尖塔になっている場所にある大きな窓を開け広げると、木々のざわめきと共に、そこから湯気が逃げいてくのが見えるだろうか。

うっとりとノエルは思いを馳せながら、温室から空をみる。

温室の尖塔の先にはこの国の建国の神、黒い亀の意匠の風見鶏がついていた。

離宮に到着当初、さすが王家の温室には不思議な意匠を利用するものだと感心してノエルは見ていたのだが、これが建築の当初から温泉の湯気でくるくると回るという作りになっていたとなると、また格別に意味合いが違って見えてくる。

ベスは、源泉の周りには例の黄色い実をつける多肉植物をぐるりと配置したいと、今から温室の模様替えに忙しそうで微笑ましい。

例の人外の温泉をここに再現するのだと、ベスはとても張り切っているのだ。

黄色いその多肉性の植物は、心なしかノエルの方を期待に満ちた視線を送っているような気がして、ノエルはクスリと微笑んだ。

源泉の湯気を浴びて、この黄色い実はみずみずしく輝いて、美しいのだろう。

このベスが妙にこだわっているこの植物は、なんの植物かは誰にもわからない。

特に目を引く植物でもないし、誰も気にしない雑草の類だと思われる。

だが正直ノエルにとって、どうでもいい。

ノエルは機嫌良く温泉に浸かって、あのフェリクスの浴槽の内部に描かれてあった絵画の建国の乙女のごとく、黄色い実と戯れるベスの姿をうっとりと想像する。

そしてその隣で、水色の湯に体を預けて、ベスと湯を楽しんでいる己の幸福そうな笑顔も。

(なんとも・・最高の温泉じゃないか)

離宮から、古いアビーブの民謡だというピアノとバイオリンの合奏が聞こえてくる。

ラッカと、メイソンの最近の午後の日課だ。