軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35

数日後。

メイソンの元に届けられた火山学者の報告書には、ずらりと噴火の兆候を示す証拠が並べられていた。

「小刻みな振動が一刻に3度。これが一刻に8度になると、完全に噴火の前段階に入る。地熱も上がっており、温泉も源泉の温度も不安定になっているとの事です」

メイソンの報告に、フェリクスは歯を食いしばった。

前回の噴火は、かなりの大惨事だった。

噴火した噴煙が近隣諸国にも流れ、爆発した際の噴石で、王都は大きな被害を被ったという記録がある大噴火だ。

だが、噴火の際にアビーブの神亀の神霊が現れて、雷を落として火山の噴火が鎮静したという伝説がある。

その神亀の神霊は、未だに王家の森に彷徨い、時々村人を驚かせるという。

悪さをした子供達にはこの村の親たちは、「お化けが出る森においていくよ」と脅かす。

まだ警報段階ではない。

だが、王都とこの一円の村々には注意報が発令された。

実に三百年ぶりの、王家からの迅速なる火山噴火注意令の発令。国民は王家への信頼を、一層篤いものとした。’

このアビーブ離宮は大噴火の数年前に、王弟の一人によって建立された。

フェリクスは離宮の図書館に篭り、アビーブ離宮の歴史を調べる。

ナーランダの報告は非常に興味深いものだったのだ。

(第25代アビーブ王弟、マレイジア)

歴史書によると、ジア殿下の名で知られていた当時のアビーブ王の王弟の一人が、この離宮の建立者である。

元々は小ぶりな建築物で、改築を重ねられて現在の姿になった。

ジアはここには湯治に来ていたが、この地の温泉が気に入って、離宮を建立した。

(享年は、25歳。・・大噴火のその日が命日)

フェリクスは不自然な事に気がついた。

ジア殿下はこの離宮の建立者であるというのに、どこにもジア殿下のその肖像画がないのだ。

まるで、存在ごと消えてしまったかのようだ。

フェリクスもいくつか別荘を持っているが、別荘の歴代の持ち主の肖像画がどの別荘にも飾られており、当然輝かしい王太子の姿のフェリクスの姿絵も当代の主人として飾られている。

非常に、不自然だ。

フェリクスは一人、図書室で頭を抱えていた。

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「ナーランダ様! 本当に会いたかったわ!」

「やあベス、私は君に会えなくてつまらなかったよ」

ノエルに連れられて温室に誘われたナーランダは、ベスとの久しぶりの再会を喜んだ。

ひとしきり二人は話を交わすと、ナーランダは珍しそうに温室のあたりを見渡し呆れたように微笑んだ。

アビーブでベスが手をかけた温室も、命の息吹に満ちて、実に美しい。

ナーランダは思わずこの温室で、大きな息を吸い込みたくなる。

温室には光に溢れ、みずみずしく、健康な植物で満ちている。

この温室の特徴的な高い天井を利用して、何本もの白肌の木を温室に招き、木肌には、蔦がぐるぐると伝っている。

蔦の先にはもうすぐ小さな可愛い実がなりそうだ。

質の良い咳止めになる、薬効がある。

「素晴らしいね。まるで王家の森の中でまどろんでいるかのように感じるよ。どの植物も幸せそうで、どの生き物も、この温室の中の命の調和に喜んでいるようだ」

そして眩しそうに、木々の葉が生い茂る、天井の向こうの空を眺める。

「なるほど、あの尖塔になっている天井から湯気が逃げる作りになっているのだな。実に興味深い」

ナーランダは独り言を呟いた。

「湯気? 一体なんの話ですか、ナーランダ様」

ベスは顔を傾けて、不思議そうにナーランダの次の言葉を待った。

ベスには、この温室にまつわるあれやこれやは、まだ何も伝えられていないのだ。

ナーランダはべスの頭をくしゃくしゃと撫でると言った。

「ここの温室にはね、源泉を中に引いていた跡があるんだよ。源泉の近くでないとないと育たない植物が育てられていたみたいでね、この高い建物のつくりは、湯気を逃すための設計なんだって。地中を掘り返したら、きっと源泉がひかれていた跡があるだろう」

ナーランダの言葉にベスの顔はパッと輝いて、そして急にタタタと駆け出すと、黄色い実をつけた、多肉植物の鉢をじっと見つめた。

「・・ベス?」

ノエルは声をかけるが、ベスはじっと鉢植えを見つめたまま動かない。

ベスが、とても無口で、難しいと言っていた、よく正体のわからない源泉で見つけた鉢植え。

ベスは、鉢植えと呼吸を合わせる。鉢植えと、べスの境界線は緩くなる。

二つの生き物はやがて、ゆっくりと呼吸を重ね、自己の存在を手放す。自己を手放した二つの存在は、どちらがベスで、どちらが植物であるかわからなくなる。

二つの存在は混ざり合い、植物はベスとなり、べスは植物となる。

短くない時間が流れた。

二人の男は静かに、ただベスを見守っていた。

二人は知っているのだ。

この状態のベスは、何か植物から、声にならない声を受け止めている時だ。

急にベスはハッと顔を上げると、傍にいたノエルの手をぎゅっと握って、嬉しそうにその顔を見つめた。

「ど、どうした、なんだベス」

ノエルは急に愛おしい婚約者にキラキラとした瞳で見つめられて、ドギマギと不審者のように挙動がおかしくなる。

「ねえ、ノエル様、私はノエル様に、危ないからあの外の温泉に行かない約束しましたよね。その代わりをノエル様はどこかに外のお風呂を作ってくださるって」

「ああ、そうだな。国に帰ったら、庭にでも小さな外風呂でも作ってやるつもりだったが、どうした?」

ベスは、タンタン。と温室の地面の土を足で踏んで、大きな笑顔で言った。

「ノエル様!私、ここに温泉を引いていただきたいの!源泉のお風呂を作ってほしいのです!」