軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

(ひゃー!!すごい数の薬草!見たこともない花!)

「ねえノエル様。あれ何?」

ベスはもう、ノエルが案内してくれた魔術院の中の全てに興味深々だ。

なんと言ってもベスは筋金入りの田舎娘。

森のほとりにずっと今まで住んできて、知っている場所といえば、村と、街と、そして森の中くらい。王都に出るのも初めて(前に魔女と勘違いされて攫われた事をカウントしないのなら)という筋金入りの田舎者。

村役場より大きな建物など、生まれてこの方見たことはなかった。

魔術院の扉の大きさにのけぞり、廊下に敷かれているカーペットの美しさに感動し、中の照明の壮麗さに圧倒され、温室の植物に興奮しっぱなしで、先ほどからずっとノエルに質問を重ねているのだ。

「ん、あれか?あれは眠り茸の亜種を掛け合わせたものだ。うまくいくと効き目が3倍になるが、まだ研究段階だ」

「あっちは? あんな花見た事ない!」

「あれは魔術で花の数を3倍にしている鈴蘭の一種だ。うまくいけば、ポーションの材料が一気に大量収穫できる」

魔術師は、ノエルと名乗っだ。

ノエルは、王立の魔術院の筆頭魔術師で、ここの責任者だという。

魔術院の温室はいく株も貴重な薬草や植物で満たされているといい、ノエルはベスに、見てほしい植物があると言って、わざわざこの貴重な温室にベスを連れてきたのだ。

厳重な管理がなされているこの温室は、ベスが入るだけでもいくつもの魔術を駆使して鍵を開けていた。

「登録外のものが入ろうとすると、こいつが反応する」

そう言って示した先にあった彫像は、かのゴーレムだという。

「侵入者が生きて帰る事はない」

そう淡々と言い放ったノエルに、ベスは背筋が寒くなる。

苦労して入った温室の中身は素晴らしいものだった。

森に生きているものとは違う植物で、満たされていた。

南の国から連れてきたという花や、氷の国の植物、魔女から株分してもらったものなど、貴重な植物がぎっしりと生い茂っていた。

温室の建物自体も、見たこともないほどの大きなガラスに覆われていて、前面全てに魔術が施されていた。

月の光だけ集めて、昼も煌々と月明かりで明るい月明かりの小部屋、魔素の含まれた霧の漂っている部屋、完全に真っ暗な闇の部屋。細かく用途別に23の部屋に分かれており、その部屋の一つ一つに、魔術的に重要な植物が育てられているという。

「うわあ、なんてすごい・・ノエル様、これ全部魔術?ねえ、あっちは?」

ベスは魔術を実際に見るのもつい先ほどが初めてだと言うのに、ここには建物自体に、大規模で、大変な高品質の魔術が、惜しみなくあちこちに施されている。

ベスが大事に読んでいる、魔術の本に書かれている魔術よりも、もっと壮麗で、もっと大規模。

現実に目にする魔術は、ベスの想像よりも遥かに荘厳だ。

ベスは目をキラキラさせながら、右や左ををキョロキョロと忙しい。

「お前なあ、この俺の名をそんなお気軽に呼ぶなんて、この王都ではお前一人だぞ・・」

ノエルは、実家は大貴族の出身だとか、父親はベスもどこかで名前を耳にしたことのある立派なお人だと、道道偉そうに説明してくれたらしいが、田舎娘のベスにとっては、人間は貴族とそれ以外、そして魔術師とそれ以外の区別しかつかない。

ベスの反応に不満そうなノエルは、温室の植物や魔術に夢中なベスを尻目に、ツカツカと月明かりの部屋の端にある、ガラスのカバーですっぽりと完全に覆われた、小さな白い花の鉢植えを手に取った。

「これだ」

そして、そうっと大切そうにガラスを外した。

可憐な白い花は、すみれほどの大きさで、月の明かりだけを浴びて、朝露の水分のみで生きているという。

「魔力を与えても、天界の光を与えても、どうしても実をつけない。かれこれ俺は3年はこの花と格闘している」

ノエルはため息をついた。相当大切にされている植物らしい。鉢には温度を一定に保つ魔術がかけられており、ガラスの中は無菌が保たれている仕組みになるよう、術式が組まれている。

「頼む」

そう不遜な所のあるこの男は、まっすぐにベスの目を見た。

ベスは、一つ頷くと、じっと息をつめて、この小さなすみれのような花を観察した。

耳を澄ませると、何かこのすみれのような花が、ベスに語りかけてくる、そんな気がするのだ。

ベスは、目を瞑る。

ゆっくりと花と呼吸を合わせて、息を吸って、吐く。意識を少しずつ手放してゆき、手放した意識に、花と合わせて、花の意識をを少しずつ、心に受け入れゆく。やがてベスと花の意識は混じり合って、一つとなる。

ベスが花であるのか、花がベスであるのか、個々の個々たらしめる、境界線が消えてゆく。

心を無にして、花と向き合っていたベスは、しばらくして、真面目な顔をして、急にノエルに向かった。

「かまいすぎ」

「え?」

「ノエル様はこの子を触りすぎ。毎日触られて、見られて、かまわれて、全然気持ちが落ち着かないらしいから、実をつけないんだってさ。お世話自体はまあまあいいらしいわよ」

「えええ???」

確かにノエルは、この花の記録を昼夜問わずに、交代で一時間おきに取っている。

徹底した湿度の管理と、観測。それが、ノエルを有能な研究者たらしめていたものであった。

頭をガツンと撃たれたようなショックに呆然としているノエルに、ベスは畳み掛ける。

「考えてもみなさいよ。ノエル様だって、ゆっくり実でもつけようかっていう時に、じーっと人間に見られ続けて、身をこねくり回されてたら、落ち着かないし、ちょっとそっとしてておいてもらって、外の空気でも吸いたくならない? このままガラスのカバーを取って、温室から出して、それからひと月くらい外に出して、灰の中にでも埋めてあげて、放っておいていたらいいわ」

戸惑いながら、ノエルはベスに聞いた。何せノエルの知っているこの難しい植物管理の方法とは全く異なるのだ。

「本当に、それだけでいいのか?」

「そうよ!うまく実がついたら、魔術を見せてもらうんだから、私が嘘言うわけないじゃない」

「・・そうだな、お前が嘘をついて得するような事は何もない。お前の言うその通りだ」

それだけ言って、あとはいろんな少し元気のない温室の植物たちの声をちょいちょい伝えてやり、その後はノエルから王都のお菓子をお土産に山ほどもらって、ベスはほくほくと帰路についた。それだけだったはずだ。

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それから一月後だ。

「今すぐ来い!!!!」

いつもの通り、のんびり粉を挽いていたベスに近づくと、急に現れたノエルは一言もなく腕を乱暴に掴んで、その美しい顔を憤怒で歪ませて、ノエルに大きな荷物のように肩に担ぎ上げられて馬車に押し込間れた。

デジャブだ。完全に。

「だから!! 私何もしてないって!!!」

ベスは大騒ぎをするが、もう2回目ともなると、馬車に入れられたらもう行き先は知っている。

「お前は何者だ、魔女め!!」