軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28 くろすぐりのたべごろはまだもうちょっとさきですけどりょうりちょうならきっとなんとか

白い小花の咲く繁みはシルバープリペット。お爺に習いました。その後ろに誰かいるのはわかってましたけど、ほかにも隠れてる人はあちらこちらにいますし、その人たちに比べると少し弱いのでかくれんぼが苦手なのでしょう。かくれんぼはサミュエル様に教えてもらいました。ドリューウェットの城は広すぎるので大広間でやったのです。サミュエル様泣いちゃいました。隠れてって言ったから隠れたのに。いえ、それは今はいいのです。

このかくれんぼの苦手な人が第四王子だそうです。金色のうねった髪と緑色の瞳。瞳の色の揺らぎはそれなりの魔力量がうかがえますが、やっぱり旦那様のほうがずっとお強いです。身長も旦那様より低いし薄っぺらい。

旦那様はゆうべ何度も第四王子には気をつけなくてはならないと言ってました。女狂いと言っても、能力は高くて仕事もできるって。女狂いだけどって。だから何かに誘われてもすぐに答えちゃいけないのです。女狂いだから。

女狂いって何なのか聞いてみましたら、どうやら見境がないことらしいです。人間は番う相手が一人だったりたくさんだったり難しい。

「噂には聞いていたけれど、この目で見ても信じがたいですねぇ。あの!ジェラルド先輩が結婚したのすら驚きなのに、夫人の世話までこんなに甲斐甲斐しく焼いているだなんて」

第二王妃の隣に腰かけた第四王子は、あの!って強く言いながらにやにやしています。ロドニーもにやにやしますけど、少し違うにやにやですね。楽しそうじゃないですから。第四王子は旦那様を先ほどから先輩と呼んでいますが、魔法学校で一年だけ一緒だったそうです。でも第四王子が十三歳で旦那様が十六歳の頃だから、全然親しくないのに馴れ馴れしいって言ってました。

旦那様はおすましで紅茶を口に運びます。私もおすましです。旦那様が酸っぱいのじゃないハーブティに替えてもらってくださいましたし。

「……夫人、随分見つめてるけど、茶に何か?」

「まだ熱いので」

「そ、そう……ジェラルド先輩は普段夫人をなんと呼んでるの?」

「アビゲイルかアビーです」

「へぇ!じゃあ「ドミニク殿下。ノエル夫人でお願いします」……えぇ……」

人間は強いかどうかで偉さは決まらないとはわかってますし、多分王子なので偉いはずなのですが、旦那様の方がすごく偉い人みたいです。第二王妃は扇で顔を一瞬全部隠してから、すっと背を伸ばして軽い咳ばらいをしました。

「先ほどお話したように、ロングハーストはドミニクに任されましたの。今は危ういですけれど、無事持ち直せることができれば正式に与えられることになりますわ――ノエル卿、アビゲイルさんも思うことはあるかもしれませんけれど、ドミニクに手助けをお願いできないかしら」

第二王妃はにっこりときれいに口角をあげました。このお願いは命令と同じなのだと旦那様から教えられています。旦那様の予想通りで、断ることはできません。なのになんでお願いのふりするのかよくわかりませんけど。

ではしっかりねと、第四王子の肩を軽くさすって席を立つ第二王妃を見送って、また席に着きます。

「先にこれだけは申し上げておきますが、妻をロングハーストに向かわせることは承諾しません。話だけにとどめていただけますようお願いします」

「もう僕らだけなんだし、この席ではもうちょっとくだけて欲しいんですけどねぇ先輩?」

「そこまで親しくしたこともありませんでしたし」

「それなのにそこまで言う先輩のことを僕は気に入ってるんですよって、怖っ!やっぱり全然丸くなってない!ねえ、夫人、見たぁ?今の目つき!」

あ、旦那様のおすまし顔がものすごくいらっと顔になりました。私も眉間に力を入れましょう。ドリューウェットの者として!

「え、夫人なんで息止めてるの」

「アビー、普通でいいから。タルトも食べていいぞ」

「はい!」

帰ったらもう少し練習することにして、途中だったタルトのお皿を手にします。タルトはぽろぽろしちゃうから真面目に食べないといけません。

「ドミニク殿下、ではお話伺わせてもらえますか」

「あー、もう、ほんと相変わらずなんだから。んー、現在のロングハーストの状況ってどこまで押さえてる?」

このタルトはカスタードとタルト生地の間にジャムが挟まってるのですけど、これなんでしょう。酸っぱみが強いけどカスタードの甘さと混じってちょうどいい感じ。あ、タルト粉々になっちゃった。これすくうの行儀悪い。でも、さっとすくってカスタードにのっけちゃえばわからないです。きっと。さっと。

「まあ、大体は。といっても、すでに城から派遣した文官たちだけで管理を始めたってところまでです」

「うん、それなんだけど。四日前に伝令鳥が来てさ、どうやら全員死んだみたいなんだよね」

「――それは」

「かん口令敷いたからさ、さすがにドリューウェットといえどまだつかんでいなかっただろう?一応死んだと決まったわけではないんだ。ただ、その朝一斉に姿を消して、屋敷が血だらけだったってだけでね」

わかった! 黒すぐり(ブラックカラント) ジャムです!食べ終わる前にわかってよかった。きっと料理長に言ったら同じの作ってくれます。

「発見は誰が?」

「元領主館、夫人の元実家に彼らは滞在していたんだけど、通いの料理人が早朝に出勤したときにはもうそんな状態だったらしい」

「では城への連絡は?」

「元ロングハースト伯爵の補佐をしていた者たちだねぇ。勿論もう騎士たちは向かわせているよ。でもほら、騎士たちはみんなあの地をよく知らないし。せっかくロングハースト出身の夫人が王都にいるのだからこっちはこっちで少し話を聞いておこうかなと。どうかな。夫人、何か思い当たることとかない?」

「私そこにいませんでした」

「……それはそうだね」

きっとカガミニセドリのせいですけど、魔物のことは話しちゃいけないのです!旦那様と約束しましたので!