軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27 にだんめにのってるケーキはとてもちっちゃいのばかりだからきっとよっつくらいたべられるはずです

アフタヌーンティースタンドの二段目にくぎ付けなあたりで、これはもうおすましの意味がなくなったなとは思った。問題ない。想定より早くはあったが想定内だ。肝心なのは天恵や魔物の話が転げ出ないことだし、なんならこのアビーのペースは煙幕にもなるだろう。そうなるといいと願ってるし、なるはずだ。多分。気を抜くな俺。

「お城のじゃなかった!」

あー、美味かったかー……。城補正の期待値を裏切らなかったのに、城のものではなかったことに驚きすぎたんだろう。チェルシー・モーリーン・ウォーレイ妃殿下が素早く扇を広げてゆるやかに目を瞬かせた。

チェルシー妃殿下は子爵令嬢という下位貴族から第二王妃にのし上がった人物だけれど、朗らかで気さくな人柄だとして民にも人気は高い。

「――申し訳ありません。妻は城で働く者に並々ならぬ敬意を持っていまして、その、城で出されるに相応しく美味だったからという、そういう驚きでして」

「ああ、そういう……」

くふっと扇の向こうで息をもらしたかと思えば、ころころと笑い声が続いた。

有力貴族であるドリューウェット侯爵夫人の母は、王族ともそれなりに良い関係を築いている。今の王家は正妃、第二王妃と二人の妃がいて、それぞれが子を得ているため王位継承権を持つ者が少なくない。それでも王位争いなどのもめごとがないのは、王太子である第一王子がとびぬけて優秀なのもあるが、正妃と第二王妃の関係が良いせいだろうと言われている。

チェルシー妃殿下は個人的に苦手なタイプではあるが総じて善人だと、母は評していた。どのあたりが苦手なのかと問えば「殿方にはわかりにくい部分よ」と鼻で笑われたけれど、まあ、おそらく見たままの印象とはまた違う面もあるのだろう。当たり前と言えば当たり前のことだ。

「今度お招きするときには城のパティシェに腕を奮ってもらうことにするわね」

「ありがとうございます!」

元気よく礼を言ったアビゲイルが、口元をきゅっとさせて得意げに俺を見上げる。【やりました!】じゃないんだよなああ。

「ドリューウェットの堅物次男のみならず、淑女の鑑と名高いカトリーナ様がとても可愛がっていると聞いていたのだけれど、少し想像と違いましたわ。とても、そう、素直なのね」

「夫も義母もとても優しいです。あっ、このケーキ、挟んであるのバナナの味します!バナナのクリームですね!」

「あら、もうバナナをご存知なの、ああ、ドリューウェットが輸入してますものね」

「はい!この間、港町のオルタで初めて食べたのです。クリームにしても美味しい!すごい」

にこやかなチェルシー妃殿下と想定外な早さで馴染み始めているアビゲイルに内心ハラハラしつつ、いつでも囀りを止められるように構えていると、不意にアビゲイルが視線を向けてきた。

「旦那様!明日タバサとお店に並んでもいいですか!」

「早速だな……俺が休みの日にしなさい」

「はい!」

「――まさかノエル卿が一緒にお並びになるの?その、菓子店、ですわよ?」

「ええ、大分慣れましたから」

「私並んだことありません」

「慣れて……?ノエル卿が?そんなに?」

「最初は気疲れしましたが、よく見れば男も結構並んでいますよ」

ほとんど使用人だけどな!まあ、カフェ併設のところなら女性連れの男もいるし、部下から教えられる人気店は大抵行列ができているんだからいい加減慣れもする。仕事から帰って土産に気づいた時のアビゲイルはいつでも新鮮に喜ぶし、そのためならもう仕方がないことだ。

またアビゲイルがじっと見つめているフルーツタルトを侍女にとるよう頼む。俺なら一口だが、アビゲイルでも二口程度のものだからまだ腹具合は大丈夫だろう。ついでにハーブティも違うものにかえてもらう。酸っぱい顔してたしな……。

「あら、まあ……ノエル卿が……そうなの……随分とほんとうに……」

「わあ!きらきらしてるのは金でした!ちっちゃい金がのって、違いました!お砂糖でした!美味しいです旦那様」

チェルシー妃殿下がまた素早く扇を広げたのと同時に、様々なバラの合間に植え込まれている白い小花の咲くシルバープリペットががさりと揺れた。そこにいることは気づいていたが、さすがに王子が繁みに隠れてるとかどうなんだとあえて黙っていたのに。

小さく肩をすくめた妃殿下は、仕方ない子ねと呟いて扇を閉じた。

「アビゲイルさん、とお呼びしていいかしら」

「はい!……光栄です!」

「――っ、ありがとう。アビゲイルさんのご実家だったロングハースト領のことでお話があったのだけど、まずは緊張をほぐしてもらってからと思っていたの」

「きんちょう」

「お心遣いありがとうございます。妻は、こう、物怖じはあまりしませんので始めていただいて構いません」

「そうね。そうね。それでね、私の名前でお呼びはしたのだけど、実際にこの件を受け持ったのが息子のドミニクで……ノエル卿は察してらしたようね」

おそらくアビゲイルもそこに何かがいるくらいのことは気づいていただろうし、なんなら王家の影がいる位置まで把握はしていただろう。興味がわかないから言わなかっただけのはずだ。現に今もフルーツタルトと真剣に向き合っている。食べにくいからなそれな。食べかけのタルトを皿ごとそっと取り上げて、立って礼をとるよう促した。

「すみません母上。ちょっと面白すぎて……お久しぶりですね、ジェラルド先輩。どうぞ楽にお願いします」

母親譲りの朗らかな笑顔で繁みを回り込んできたのはドミニク・ギディオン・ウォーレイ第四王子。

――やっぱりこの女狂い王子か!