軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

46 わたしはまえからだんなさまのつまだったとおもうのですが

明日は結婚式です。

準備はもうばっちりです。義母上が見せてくれた招待客の一覧だって全部覚えました。

タバサのいうとおりにサイズも測ったし、お飾りも選んだし、お披露目のパーティに出すお料理だって全部とても美味しいのがわかりました。うちの料理長のお料理だってすごいんですけど、そこに侯爵家の料理長が加わりましたので。お城の料理がお城じゃないのに食べられるのです。

ドリューウェットの特産品もいっぱい使いますからねって義母上がおっしゃってたので、サーモン・ジャーキーがあると思ったのですが、それはなかったです。義母上に何故なのか聞きましたら、特別だからアビゲイル用のしかないのよって。それなら仕方がないと思います。ちゃんと私用の新しいサーモン・ジャーキー届きましたし。

なので、今日は明日の結婚式の予行演習なのです。

祭壇で待つ旦那様のところへ、義父上がエスコートしてくださいます。私はもうロングハーストの者ではないので、義父上がしてくれるのです。

「……アビゲイル、義父をおいてかないでくれ」

「はい!」

本番用のと同じ裾の長さのドレスを綺麗にさばこうとしてたら、後ろから義父上に呼ばれました。いつのまに。礼拝堂の入り口に戻ります。

「私の歩く速度に合わせるんだよ」

「はい!」

義父上が差し出した左ひじに手を添えると、その手をとんとんと叩いてくれました。義父上は旦那様より少し小柄ですけれど、私よりはずっと大きくて、うん、と頷いて私を見下ろすお顔は旦那様によく似ています。

祭壇で旦那様と一緒に神官様のお話を聞いて、誓いのお返事の練習もして、神官様には「とても元気でよろしい」と褒められました。全部ちゃんと覚えました。私は習ったら一度でちゃんと覚えられるのです。

リングボーイは旦那様の甥っ子であるサミュエル様です。このためにドリューウェットから来てくださいました。サミュエル様はちっちゃいので一緒に練習をします。リングが二つのったトレイを恭しくかかげてくれるお顔はきりっとしていました。

「あびーちゃん!つぎはぼくの番ね!」

「え、だめです!旦那様の妻は私だけなので!」

旦那様も義父上たちもみんなぷるぷる震えてましたけど、サミュエル様はステラ様に抱っこされて、神官様と信徒席の隅にいってお話してました。これは遊びではないので!順番はないのです!

明日に備えて今日は早く寝ます。そう思って旦那様のお部屋のベッドに入りました。最近は毎日ご一緒してます。義母上も義父上と寝室は一緒だって言ってました。同じです。

だけど、なぜか旦那様が一緒に横になってくれません。何か言いかけては口を閉じてを繰り返していますので、もう一度起きてちゃんとベッドの上で座りなおしました。

「旦那様。私ちゃんとできます。全部覚えましたから大丈夫です。お任せください!」

「お、おう……?あ、あー、いや。それを心配とかしてるわけじゃないんだ」

旦那様は、あー、とまた唸って頭をがしがしかいたあと、向かい合わせにあぐらをかいて座りました。そこはいい場所です。お膝に座ろうとしたら、いやちょっと待てって、元の場所に戻されました。

「アビゲイル」

「はい!」

きりっとしたお顔になったので、私もきりっとします。

「明日は結婚式だ」

「はい!準備は整っています!後はドレスを着るだけです!」

「うん……あのな、本当はもっと前にちゃんと言おうと思ってたんだが」

「はい」

「初夜のとき、俺は君にひどいことを言った」

……しょやのときにひどいこと。

「――君を愛することはない、などと」

「………………はい!」

「だよなー、覚えてないよなー、うん、そうだとは思ってたからいいんだけどな」

そんなことはありません。覚えてます。私は一度覚えたことは忘れません。言われたら思い出せます。でも。

「旦那様ひどくないです」

何がひどいのかちょっとわかりません。それに確かその後すぐに旦那様は謝ってくださいました。どうして謝られなくてはならないのかはわからないままですけど、あれはそのことを謝ってくれてたはずです。多分。

私に怒ったようなお顔してたのは最初の夜だけです。あとはずっと優しかったです。いいにおいしますし。どこもひどいことなんてないと思うのですが。

「あー、アビゲイルは気にしてないと言ってくれたがこれは俺のけじめというかな」

「けじめ」

旦那様は、私の両手を両手で包んでくださいます。

サイドテーブルのランプの明かりを映しこんだ旦那様の瞳は、その炎と同じにゆらりゆらりと青の濃淡を変えて揺れます。

「あれは取り消させてくれ。なかったことにはできないが、それでも最初から、結婚式からやり直させてほしかったんだ」

結婚式は旦那様がしたいとおっしゃっていたことです。それでしたかったのですね。大丈夫です。お手伝いできますからという気持ちを込めて頷きました。

「うん。多分今はわからないんだろうとは思うけどな。きっと君もそのうちわかるようになる。その時のために覚えておいてほしいんだ。――俺は君を愛してる」

ちょっと眉を下げた旦那様は、つないだ手にきゅっと力をこめます。大きな手です。私の手はすっぽり包まれて見えなくなっています。

「政略で、俺は流されるように決めた結婚で、君にしても勝手に決められたものだったろう。貴族の結婚は大体そういうものだと思っていたし、だんだんと家族になっていくものだろうとも思っていた」

家族。義父上も義母上も家族って旦那様はいいました。それですね。

「でもそれだけじゃ嫌だと思うようになったんだ。アビゲイル、俺は君をちゃんと妻として愛したいし、夫として愛されたい。これは、父や母が君に向けるものとは違うぞ」

「……では、タバサとか」

「違うな――こういうことだ」

くっと手をひかれて、こつんと額と額が合わさって、それから唇に口づけがされました。

旦那様は少しかすれた声で続けます。

「急ぐ必要もないし、急かすつもりもない。君のペースでいいから、少しずつ、違うのだと覚えていってほしい」

ちゅ、ちゅ、と二度、三度、唇を食むように繰り返された口づけは、なんだかふわふわしてきます。

これはとてもいいことです。