軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45 ははうえもだんなさまもさむいのはよくないっていうのです

「全部同じに見えるな……」

「うむ……」

侯爵家の厨房にやってきて、卵の入った箱を出してもらいました。まず旦那様と義父上が先にのぞき込んで首をかしげます。私は義母上に手をつながれてちょっと離れていましたけれど、旦那様がとても渋々なお顔で手招きしたので、その脇から私ものぞきこみました。

「これです」

いくつもきれいに並べられた卵の中のひとつを指さすと、旦那様も義父上も「は?」と目を見開きました。そうでしょうそうでしょう。

「……認識阻害か」

「カガミニセドリの卵は【そこにある】と思って見ないと、周りの卵と同じに見えるのです」

お二人の目には普通の白い卵に見えていたこれが、私が指さしたことで、今は緑と紫の渦巻き模様をした卵に見えているはずです。旦那様は口元を隠すように片手をあてて考え込みました。そして壁際にいる料理長を呼んで、これは魔物の卵だと告げて指さします。料理長は目をぱちぱちさせてから震えだしました。

「見る者の魔力量は関係なさそうだな」

「……ぼ、坊ちゃま、これは」

「坊ちゃま言うな」

「料理長、この模様覚えておくといいです。みつけるぞーって思って見れば見つけられます」

「――はっ、はい!はい!わ、若奥様はどうして」

「アビゲイルは詳しいんだ」

「くわしい」

「はい!」

厨房にいる料理人もみんな集めて模様を覚えさせてから、旦那様は卵を氷魔法で凍らせました。

見せた後に割ろうと思ったのですが、孵らないようにする方法はあるかと聞かれたので、凍らせればいいと答えたからです。

「軍にある研究所に持っていく」

「……」

「どうした?」

研究所は、わかります。研究するのです。……黙ってたらわからないかもしれないので黙っておくことに「アビゲイル?」――。

「えっと、凍らせると」

「うん」

「中で粉々になっちゃうので」

「……まぁ、うん、一応もってくか……」

今夜は泊っていきなさいって客室に案内されました。旦那様は元々お部屋を持ってて、そこに部屋着もあるのでお着替えにいっています。私もお着替えしましょうねって侍女が手伝ってくれました。義母上は私の寝衣も用意してくださってたそうです。ふわふわで薄くて軽い寝衣ですけど、お部屋は暖かいので平気です。

「アビゲイ――っ」

戻ってきた旦那様がお部屋にはいったとたん、立ちすくみました。

「どうしましたか旦那様」

「あっ、ああ、いや、うん。寒いだろう」

「寒くな「冷えるから。な」」

あっという間にベッドからはいだ毛布でぐるぐる巻きにされました。これもふかふかで気持ちいいです。

ぐるぐる巻きのまま私を抱えて、旦那様はお布団に一緒にはいります。いつもみたいに抱っこしたまま横になってくださいました。あたたか……暑いかもしれません。でもぎゅうってされたのでじっとしてることにします。

「今日もありがとうな。君のおかげで誰一人傷つかずに済んだ」

額に口づけるご褒美はいつもくすぐったくなります。楽しくなるのです。

でも何か今日は、あれ?って思いました。だれひとりきずつかずに。

「きずつかずに」

「……?そうだろう?放っておいたら、明後日にはこの屋敷の中に魔物が突然現れたんだ。そうなれば使用人はもちろん、父も母も無事でいられたかどうかわからない」

「……義母上も、義父上も。旦那様」

「うん?」

「カガミニセドリは弱いです。孵ったばかりだともっと弱いです。だから擬態します。同じなふりをして油断させるためです。でもそれが通用するのはあんまり頭よくない魔物の時です。賢い魔物はすぐ気づくから黙って食べられちゃうことはありません。多分人間もそうです。すぐ気づくと思います。だって姿は人間の子どもみたいでも、キュピキュピしかいいませんから」

だからカガミニセドリはあまり自分より賢いのがいるところに卵おいてったりはしないのです。

今日の卵はカガミニセドリもうっかりしたんじゃないでしょうか。

「きゅぴきゅぴ……そ、そうか――いや、子どもの姿なんだな?」

「孵ったばかりなので」

「じゃあ、やっぱり先に見つけてくれてよかった。子どもの姿ならすぐに攻撃できるものは少ないだろう」

「――そうなのですか?」

「うん」

そうしたら本当にもしかしたら、このお屋敷の人みんな食べられちゃってたかもしれないです。義母上も、義父上も。

よわいものはつよいものに食べられます。そういうものなので仕方ないです。

森ににんげんがきたらにんげんが食べられても仕方ないです。

だから、魔物がにんげんのところにきてやっつけられても仕方ないです。

もしにんげんのところにきた魔物に、にんげんが弱くて食べられてもそれは仕方がない、はずです。でも。

「旦那様」

「うん」

「義母上も、義父上も、怪我したらいやです」

「うん」

「なんででしょう。お胸のところがちくちくします。死んじゃうのもだめです」

「そうだな。それはアビゲイルにとって家族になったからかな。前に言っただろう?大切な人が痛いとそこが痛くなるって」

「――これが!」

旦那様が前にしてくれたように旦那様の手をお胸において教えようと思ったのに、それはいいって言われました。

それからまた毛布ごと私をぎゅっとしてから、額と額をこつんとつけて。

「もう寝なさい。朝食は料理長特製のパンケーキだぞ」

「はい!おやすみなさい!」

ドリューウェットのお城で食べたパンケーキです!あの分厚くてふわふわの特別なやつです!