軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14 ちょっとかさかさしててごつごつしててでもほかほかであったかい

「しゅうかくさい」

「ああ、そんな季節か」

夕食後のお茶をいただいてたら、イーサンが旦那様にお手紙を差し出しました。侯爵領からのみたいです。

侯爵夫妻とは先月の夜会からお会いしてはいません。夜会の後はすぐに領へお帰りになったと聞いています。地鳴り鳥のこともありますしねって、ロドニーが言ってました。

そんなことよりしゅうかくさいって、あの収穫祭でしょうか。

「旦那様、しゅうかくさいって」

「どこの領でも似たようなことはやるだろうが、ドリューウェットでも秋に行う収穫を祝う祭りだな。俺はもう数年出席してないが、本邸のある領都では一番大きな祭りで、俺も独立するまでは領主一家として参列はしてたぞ」

「あきのおまつり……」

「――これは毎年一応くる祭りへの参加要請だが、行ってみたいか?」

君が行きたいなら軍の休みもとるが……と旦那様が考え込んでしまわれましたけど、ちょっと私は困惑してしまいます。秋にするお祭りならやっぱりあの収穫祭だと思うのです。

「旦那様、ドリューウェットにも魔王がいますか」

「んんん?いないと思うが、どうした」

「いないんですか?え、じゃあ誰が魔物退治するのですか。旦那様ですか、え、でも」

「待て待てどうしたんだ。なんで魔物退治になった」

秋は魔物の繁殖期です。魔王だった時にいた森ではそうでした。

魔王は自分を襲ってくる魔物しかやっつけませんでしたが、近くの村の人たちが森の入り口にごはんを置いてくれるようになって。

そのうち時々お仕事お願いされるようになって、お仕事したらごはんをまたくれるようになったから。

いつのまにか、秋に増える魔物をいっぱいやっつけるお仕事をするようになっちゃったのです。

そうして最初にお願い事をしてきた村の子どもが年をとって、その子どもの子どもが大人になって、またその子も年をとってと繰り返されていくうちに、魔王は魔王と呼ばれるようになりました。

ほんとうは、秋に増えた魔物をやっつけすぎると、冬の間の魔王のごはんが少なくなるのです。

魔王は身体が大きくなってしまっていたので、村からもらえるごはんじゃ足りなかった。

でも魔物を減らした後のお祭りは、魔物のお肉もおいもも焼いてくれるから。

それは生のまま食べるお肉やおいもよりも美味しかったのです。

魔王は自分じゃ上手にお肉もおいもも焼けなかった。真っ黒こげにしちゃうし、森も燃えちゃう。

「でも旦那様、このお屋敷のごはんは焼いただけの魔物のお肉よりもおいもよりもずっと美味しいし」

「――ちょっと待った。アビゲイル」

収穫祭のお話を聞いてくれていた旦那様が、ソファに並んで座る私の両肩にそっと手をおいて、真正面から向き合わせます。

「まず、収穫祭で魔物退治はしない」

「しない」

「そう、収穫祭は農作物が無事に収穫されたお祝いだ。魔物じゃない」

「まものじゃない。そうしたら私は魔王をしなくてもいいですか」

「アビゲイル、君はもう魔王じゃないだろう?」

「あ、そうでした。にんげんになりました」

うっかりしました。そういえば私はもう魔法も使えません。いえ、魔法を使えるくらいにすっかり元気だとは思うのですが、旦那様もタバサも必要もないのに危ないことしなくていいって、使うなっていうから試してないのです。

旦那様は私の両方の頬を両手で包んでお話を続けます。

「そして一番大切なことは、たとえもし君に魔王の力があったとしても、俺は君にそんなお願いはしないし、お仕事もさせないってことだ。他の誰が君に頼んできたとしても同じ。俺がそんな頼みを断ってやる」

したくないことなんて何一つしなくていいんだと旦那様がおっしゃいます。

……魔王が何を思って何を感じていたのかは覚えていません。

だけど魔王は間違えたんだと思うのです。

知らんぷりしてれば襲ってこないものをやっつけちゃいけなかった。

生まれたばかりの魔物は見境なく襲ってくるので、その巣に行けばよかったのですが、わざわざ行かなきゃそれで済んだのです。魔物は自分よりずっと強い魔王を襲わなくてすみました。

村にお願いされるようになる前は、魔王だっておなかもすいてないのにそんなとこに出向いたりはしなかったのです。そんなことするようにならなければ魔王は。

でもどうして旦那様は私が収穫祭の魔物退治したくないってわかったのでしょう。

おいで、と旦那様は私を膝の上にのせてくれます。

それからまた大きな手で私の頬を優しく撫でるのです。

「今の君はアビゲイルで、ノエル子爵夫人で、俺の妻で、俺だけの可愛い小鳥だ。他の何にもならなくっていい」

「はい」

私の目を覗き込むように、おでことおでこをこつんとくっつけて。

ちょっと指先がかさかさしてて、てのひらがごつごつしてて、あったかい――あら?

「……アビゲイル?何してる」

「旦那様の手、いいにおいします」

「お、おう?それ今か?今しなきゃだめか?」

すごくいいにおいします。前から旦那様はいいにおいするとは思ってましたけど、手がすごくいいにおいです。なんでしょう。てのひらに鼻をくっつけてくんくんしたら、わかりました!

「旦那様!おいもの!おいものいいにおいします!」

「ちょっとまて、やめなさいっかぐんじゃないっ手洗ってくるから!いもってなんだ!ちょっとまてって!」

なんでかお部屋から出て行こうとするところだったみたいで、ロドニーが扉の近くでげらげら笑っています。

でもとってもいいにおいなんです。ほかほかでおなかがあったかくなるにおいです。

焼いたおいもをもらったときに、おなかがほかほかするのとおなじなのです。