軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【コミカライズ2巻発売御礼SS】じゅんびうんどうはだいじだってかっかもいってました

ノエル家護衛隊の訓練は、早朝に行われる。

見回りや夜番、夫人の随行などの持ち回り以外の時間に各々で鍛錬はしているが、連携など相手がいなくてはできない訓練をする時間となっている。

門番役の二人を除いた八人、主であるジェラルド様とその執事のロドニーさん。総勢十人が並ぶ訓練場で静かなざわめきが走った。

(来た! 来ましたよ!)

(いらしただろ! いつもながら前触れないな!)

(総員、腹に力を入れろ!)

はずむ足取りで姿を見せた奥様は、背筋を伸ばしてどこか誇らしげだ。

普段はおろしている艶やかな赤髪は、後頭部の高いところでまとめられている。

なんかえらく長い木の枝も引きずっていた。あれどっから持ってきたんだろう。庭師の爺さんか?

「旦那様! 私も訓練をします!」

「お、おう。今日は早いな……それ、どうしたんだ」

木の枝をそっと地に置いてから、ぴしっと両手を真横に伸ばした奥様は、よく見えるようにかそのまま右に左にきびきびと向きを変えた。

「昨日! タバサが見せてくれたのです! 旦那様がお小さいときに着てたって! 動きやすいです!」

「あー。何か見覚えがあると……もしかしてゆうべ早寝したのはこのためか?」

「とても動きやすいので!」

僕ら平民が子どもの頃に着てた服など、親せきや近所の子どものおさがりがめぐりめぐってくるようなものだ。

主様が幼い頃といえば十年は前であろうに、ぱりっと真っ白なシャツはさすがに貴族令息が誂えた仕立てだと思わせた。

肩口は少し下がっているし、袖も余ったところをたくし上げてリボンで可愛らしく止めているのは、そばに控えている家政婦長の仕事だろう。ふくらはぎまで届く半ズボンはサスペンダーで吊られている。……体の線が妙な感じに強調されていて少し目の毒だと慌てて視線を前に戻すと、主様は両手で顔を覆って空を仰いだまま固まってた。

(男の夢だよな……)

どこからか誰かのつぶやき。わかる。

奥様が時々訓練場の端で、僕たちを真似ていたのは勿論知っている。

大抵は訓練が始まってしばらくたった頃に現れては、組手や素振りらしき動きで元気よく一人で跳ねまわり、すぐに座り込んでしまう。動きそのものは機敏でキレがいいのだけど、いかんせん持続力が目を見張るほどなかった。

それでもいつも満足気に訓練場を後にしていたものだが、今朝は最初から参加する意気込みらしい。

「で、アビー。それは?」

「これは! ハギスや胡桃もこの間使ってましたし!」

いきなり僕の名前が出て肩が揺れた。いや僕の名前じゃないんだけど。

「あー槍なー。そっかー。でも君にはまだはやいな。ハギスだって武器を持てるようになるまで長いこと訓練してたんだぞ」

もうなんかすっかり浸透したし、大先輩も最近胡桃と呼ばれていて、こう、若干うらやましがられたりするようになったからいいんだハギスで。

主様は、やる気満々の奥様から自然な流れで木の枝をとりあげて準備運動へと誘導した。さすがだ……。

「整列!」

主様の号令で集合して整列する。僕の定位置は一番右で、わ、奥様が僕の右に並んだ。姿勢いいなー!

「気をつけ!」

次から次へとかかる号令に従う。右向け右で奥様と向かい合っても想定内だ。これしきではもう僕らは崩れない。

号令はどんどん速くなる。体に刻み込まれた記憶が音と意味に反応して、手足は瞬時に動いていく。

「回れ右!」

「――っぐ」

なんで真後ろにいるの!? どうして!

最終的に奥様は左の端まで行っていた。どうも跳ねてるうちにずれていくらしい。勿論跳ねろって号令はない。

「えー、アビー。柔軟は俺としような」

「はい!」

見ているのはよくない。いつものペースいつものペースを守るぞ。主様もきっと僕らの腹筋を慮って奥様とペアを組んだはずだ。多分。

「俺の真似するんだぞ。腕を伸ばして、いっち、に」

「いっち! に!」

「んん? ……にーに」

「にーに!」

「……アビー、なんか動作がひとつ多いぞ」

「同じです!」

多いですよ! いち、に、で三動作はかえって難しいです! ああ! どうしたって視界にいれてしまう!

結局奥様は全ての柔軟が終わる前に、真っ赤なお顔になって家政婦長に引き取られて行った。一・五倍動いてたから……。

「はいはいはーい。柔軟やり直しますよー」

ロドニーさんが手を叩いて仕切り直しが始まった。無駄に力はいってたせいで、ほぐれてないのを見抜かれていた。まあ腹筋は鍛えられたからいいだろう。

奥様のあの柔軟に真正面から立ち向かってた主様はさすがだ。ちょっと今しゃがみこんでるけどな!