軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

218 花びらと手紙

村を出て数十分は経っただろうか。乗合馬車よりも遥かに高級そうな馬車の中は、揺れも比較的少なく快適そのもの。

メフィストもオリビアさんの腕の中でウトウトしている程だ。

「あぁ~! はるくん! みてぇ~!」

皆で和やかに会話していると、ユウマが突然窓の外を指差した。

「ゆぅくん、どうしたの?」

「何かありましたか?」

僕たちも気になりハルトと一緒に窓の外を見ると、そこには馬に乗り、馬車を警護中のトーマスさんが。

「じぃじ、かっこいぃねぇ!」

「ほんとだ! おじぃちゃん、かっこいいです!」

いつものニコニコした優しい顔とは違い、仕事中のトーマスさんは真剣な表情でとっても渋くてカッコいい……!

レティちゃんも窓に貼り付いてコクコクと頷いている。

「ねぇ、ばぁば~! じぃじ、かっこいぃねぇ!」

「えっ!?」

「きりっと、してます!」

「おじぃちゃん、かっこいい……!」

「そ、そうね……? トーマスはいつでもカッコいいわよね!」

オリビアさんはユウマたちに急に声を掛けられて動揺したのか、ちょっと顔が赤くなっている。

だけど、メフィストを抱えながら窓の方をチラリと見るだけでこちらにはやって来ない。

でも僕は知っている……。村を出てから時折、チラチラとトーマスさんがいる方の窓の外を見ていた事を……!

やっぱり仕事中のトーマスさんの事は気になるんだろうな~。

「おばぁちゃん、いつも、かっこいいだって……!」

「じぃじ、いっちゅもかっこぃ?」

「おじぃちゃんと、おばぁちゃん、とっても、なかよしです……!」

「こら、あんまり言うと聞こえちゃうよ? シィ~……!」

「「「しぃ~……」」」

オリビアさんは照れやすいから、これ以上は言及しない方がいいかも……。

僕たちが四人でシィーっとポーズをとると、ライアンくんとフレッドさんは笑って、オリビアさんは聞こえてるわよ、とまた顔をまっ赤にしていた。

*****

「ハァ……、もう着いてしまいました……」

ライアンくんの溜息と同時に、無事ギルドに到着。

先導していたサイラスさんが外から扉を開けると、馬車を牽いて来たサンプソンの大きさに驚く声があちらこちらから聞こえてくる。

馬車を降りると、ギルドの前の通りにはギルドマスターのイドリスさんを始めとした職員さんたちや冒険者さん、そして遠巻きながらも商店の人たちで溢れ返っている。

この人たち全員、ライアンくんを見送りに来たのかもしれない。

ライアンくんはさすがと言うか、たくさんの人に注目されても緊張もせず、手を振りながらいつも通りに振る舞っていた。

そしてギルドの前によく知る人物を見つけ、僕は足早にその人の下へと駆け寄る。

「ブレンダさん……! おはようございます……!」

「おぉ、ユイト! おはよう!」

その人物は冒険者のブレンダさん。そしてブレンダさんに小声である事をお願いすると、満面の笑みで任せておけ! と承諾してくれた……!

頼もしい返事に、これだけで僕の悩みは一つ解消された……。

「殿下、こちらで警護に当たる者たちを紹介させて頂きます」

「あぁ、分かった。皆さん、少し離れますね」

ライアンくんがハルトとユウマと繋いでいた手をそっと離すと、二人は悲しそうに眉を下げる。

「はい……」

「はやくもどってきてねぇ……」

それを聞いた途端、ライアンくんの眉間に皺が寄る。

「フレッド……、サイラス……。早く終わらせよう……」

「「か、畏まりました……」」

フレッドさんもサイラスさんも、それには苦笑い。

日に日にトーマスさんみたいになっていくライアンくんが心配だ……。

冒険者さんたちの紹介と説明を聞く為、ライアンくんたちは一旦ギルドの中へ。

僕たちは邪魔にならない様に、馬車の近くで待つ事にした。

「ハワードさん、朝からありがとうございます! サンプソンもお疲れ様!」

「いやいや、こちらこそこんな大役……! 一生に一度、有るか無いか……。いや、夢にも思わなかった! 緊張したよ……!」

ハワードさんの牧場の修復工事はほぼ完了し、営業も遅れる事無く通常通り。

新しく雇った従業員さんたちのおかげで、牛乳やチーズも滞りなく店に並べられている。

魔物が襲ってきた時に最悪な事態にならなくて済んだのは、サンプソンが魔物を倒してくれたおかげだと感謝しきりだ。

「ん? ハルトくんもユウマくんも、いつもの元気がないじゃないか……。どうしたんだい?」

久し振りに会ったハワードさんも分かる程に、今の二人はしょんぼりとしている。

「二人とも、ライアンくんと今日でお別れだから寂しいらしくて……」

ライアンくんとのお別れの時間が近付くにつれ、風船が萎む様に元気がなくなっていくのを僕とオリビアさんは間近で見ていた。

「あぁ……。そうか、仲良くなったんだねぇ……」

「らいあんくん、いちばんの、おともだちです……」

「いっちゅもいっしょなの……。しゃみちぃねぇ……」

これをライアンくんが聞いたら、また大変な事になりそうだな……。

「あれ? 二人とも、何持ってるの?」

二人の手元には、さっきまでは無かった筈の白い紙が握られていた。

二人とも大事そうにしているけど……。

「これ、らいあんくんに、おてがみです!」

「ふれっどしゃんにねぇ、おちぇてもらったの!」

「わぁ! 二人とも手紙書いたの? あ、だから昨日フレッドさんと遅れてきたんだ?」

「「えへへぇ~」」

夕食の時間、三人だけ遅れてきたから珍しいなと思ったんだ。

まさか手紙を書いているとは思わなかったな。

オリビアさんも一生懸命書いたものねぇ~、と笑顔を浮かべている。

どうやら知らなかったのは、料理中だった僕とライアンくんだけの様だ。

「皆さん! 終わりました!」

しばらく皆で話しながら待っていると、説明が終わったのかライアンくんが足早にこちらに駆けてくる。フレッドさんが後ろから急に走ってはいけません! と注意しているのが目に入った。その後ろからはサイラスさんとアーロさん、ディーンさんがニコニコしながらライアンくんを見ている。

何故だか分からないけど、フレッドさんはこれから苦労しそうだなぁと、ふと思ってしまった……。

「らいあんくん、もうすぐ、いっちゃいますか?」

「……はい。もうすぐ出発する予定です」

「ゆぅくん、やだなぁ……」

「ぼくも、さみしいです……」

ライアンくんの手を取り、ハルトもユウマも今にも泣きだしそうな雰囲気。

まさかこんなに仲良くなるなんて、誰も思わなかっただろうな……。

「二人とも、そんな風に思ってくれて……。私は嬉しいです」

繋いだ手をゆっくりと離し、二人の頭をそっと撫でながらライアンくんは柔らかい笑みを浮かべる。

その横顔は、ライアンくんと初めて会った時よりも少しだけ大人びた様に見えた気がした。

「らいあんくん、あのね……。これ……」

「ん? 何ですか?」

ハルトが恐る恐るライアンくんに手渡したもの。

「あのね、ゆぅくんと、おてがみ、かきました……」

「おちえてもらってね、かいちゃの……」

「わぁ……! 私にですか? とっても嬉しいです……!」

二人から手紙を受け取ると、ライアンくんはパッと表情を明るくし大事そうに両手に抱えている。

「殿下、そろそろ出発のお時間です」

「あ、あぁ……。もうそんな時間か……」

フレッドさんが申し訳なさそうに声を掛けると、ハルトとユウマはまた悲しそうに眉を下げる。

だけどライアンくんは二人に笑顔を向けた。

「ハルトくん、ユウマくん……。私と仲良くしてくれて、ありがとう! それに手紙まで……。これからも、私の友人でいてくれますか……?」

ライアンくんが照れながらそう訊ねると、二人は勢い良くライアンくんにぎゅっと抱き着いた。

「ぼくたち、ずっと、おともだちです! やくそく!」

「ゆぅくんも! じゅっとね!」

「はい……! 約束です!」

三人のほのぼのとした光景に、ギルドの前にいる人たちは皆、優しい笑みを浮かべている。

すると、どこからともなく色とりどりの花びらが舞い落ちて来た。

通りにいた人たちからもどよめきと歓声が起きる。

( あ、もしかして……!)

空を見上げ目を凝らすと、姿は見えないけど所々でキラキラと光っている気が……。

「これ……。ウェンディちゃん……、だけじゃないね……?」

「あ、バレましたか……?」

僕の呟きに、ライアンくんはハルトとユウマを抱き締めながら悪戯がバレたみたいに肩を竦める。

「昨日の晩、暫く離れ離れになるからと仲間とお別れの挨拶をしたらしいのです」

「仲間って、ノアたちの事……?」

他の人たちには聞こえない様にこそこそと耳打ちすると、ハルトもユウマものぁちゃん? と嬉しそうに顔を綻ばせる。

「はい。庭の木から森に会いに行って、そのまま皆でお見送りに来てくれたそうです」

「お見送りって……」

まさかと思いノアと会話できるトーマスさんを見ると、そこには頭を抱えたトーマスさんが……。

そして僕と目が合うと、無言で首を縦に振る。

その肩が一瞬だけきらりと光って見えた気がした……。

あ、やっぱりソコにいるんですね……。

「ハルトくん、ユウマくん、見ててくださいね?」

「? なんですか?」

「どぅちたの~?」

頭を抱える僕たちを余所に、ライアンくんはそう言うと、掌で何かを包む様な仕草をする。

どうしたんだろう? と、周りの視線がライアンくんたちに集まるのが分かった。

そして、その指の隙間からは、キラキラと光の粒子が零れ落ちて……、

「それっ!」

「わぁ……!」

「しゅごぃねぇ……!」

ライアンくんが掌を広げて空に翳すと、そこからはキラキラ、キラキラ、光を纏った眩いばかりの蝶々が、空に向かって一斉に飛び立っていく。

蝶々が羽をはためかせる度に空から光の粒子が舞い落ちて、それは太陽の光を浴び、まるで光る粉雪の様にハラハラと僕たちの頭上に降り注ぐ。

色とりどりの鮮やかな花びらと、光を纏いながらひらひらと舞う蝶々。

息を呑むようなその光景に、通りにいた冒険者の人たちは歓声を上げ、女性の多くがうっとりとした表情で空を見上げ感銘の溜息を漏らしていた。

「父上の真似ですが……。上手く出来ました!」

「とっても、きれいです!」

「ちょうちょ、きれぇねぇ!」

二人に褒められ、えへへ、と照れた様に笑うライアンくんは、どこか満足そうにひらひらと空を舞う蝶々を眺めていた。

「あ、おにぃちゃん、あそこ……!」

「え? あっ……!」

ハルトの指差す方に顔を向けると、ギルドの屋根に見えたもの……。

「梟さんまで……」

バレない様に隠れているみたいだけど、ひょこひょこと動く影が見えてるからね……?

サンプソンも妖精さんたちの気配を感じているのか、さっきから視線をゆらゆらと……。

ハワードさんは花びらと蝶々に気を取られていると思ったらしく、きれいだなぁ、とサンプソンを優しく撫でていた。

「さ、殿下。名残惜しいですが……」

「あぁ、分かった」

ライアンくんは二人からそっと離れると、ニコッと笑顔を浮かべる。

「皆さん! 私たちに良くして頂いて、ありがとうございます! またお会いできる日を楽しみにしています! ハルトくん、ユウマくん、手紙をありがとう……! 私も手紙を出しますね! 王都に来たら、また一緒に遊びましょう!」

「うん……! ぼくも、またおてがみ、かきます……!」

「ゆぅくんもねぇ、かくよ!」

「ふふ、楽しみにしていますね!」

「ライアンくん、フレッドさんにお弁当を渡してあるから皆で食べてね」

「わぁ! 本当ですか!? ユイトさんの料理が食べられないと思っていたので嬉しいです!」

「らいあんくん、また、あそぼうね」

「あ~ぃ!」

「はい! レティちゃんもメフィストくんも、また一緒に遊びましょう!」

そう言ってライアンくんは、僕たち一人一人の顔を見渡し、フゥっと息を吐いた。

「……では、皆さん! またお会いできる日まで!」

「うん、またね……!」

「ばぃばぃ……!」

警護される馬車に乗り込むライアンくんに、ハルトとユウマは一生懸命手を振る。

走る馬車の窓からこちらに手を振るライアンくんの顔は、泣くのを我慢している様に見えた。

「う……、うわぁあああああ~~っ……」

「うぇええ……」

ライアンくんたちの乗った馬車が走り去った後、とうとう堪え切れなくなったのか、ハルトとユウマが大きな声を上げて泣き出した。

「あらあら、我慢してたのね……。二人とも、偉かったわね」

「う……、らいあんくん、いっちゃいましたぁ……」

「ゆぅくん、しゃみちぃ……」

ひっくひっくとしゃくりあげて泣く二人の顔は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。

ハンカチで拭ってあげても、ポロポロと涙が溢れてくる。

「大丈夫よ~、また皆で王都に行くでしょう? その時いっぱい遊びましょう?」

「ほんとう……?」

「あしょべりゅの……?」

「えぇ、心配しなくても大丈夫! ほらほら、泣かないで? 王都に行ったら楽しい事いっぱいよ~? それに、ほら……」

「「……?」」

オリビアさんに慰められ、二人はクスンクスンと鼻を啜りながらオリビアさんの足下に引っ付いている。

ほら、と腕に抱えていたメフィストを見せると、二人が泣くのを見てびっくりしたのか、こちらも今にも泣き出しそうだ。

「ふぇ……」

「お兄ちゃん達が泣いてると、メフィストちゃんも悲しくなっちゃうわよねぇ~?」

愚図り始めたメフィストを見て、ハルトとユウマの顔が途端に一変する。

「たいへん、です……! めふぃくん、ぼく、だいじょうぶ、です……!」

「ゆぅくんも! もぅ、かなちくなぃよ!」

「うぅ~……?」

「「ね?」」

二人がニコッと笑顔を見せると安心したのか、メフィストも漸くにぱっと笑みを見せてくれた。

それを見てトーマスさんも僕も一安心。

だって、メフィストが泣くとサンプソンや他の馬たちも暴れちゃうといけないし……。

そして……。

「ノア~? そこにいるんでしょう……?」

危ないから姿は見せちゃダメって言った筈なんだけど……?

多分そこにいるであろうトーマスさんの肩を見ながら声を掛けると、またキラキラと一瞬だけ光った気がした。

ノアが何か言ったのか、トーマスさんも苦笑いだ。

「ハァ……、家に帰ったら……。まぁ、とりあえず、皆の好きなお菓子を作ってあげるよ……」

来ちゃったものは仕方ない。一応姿も消してるしね? お説教は後にしよう。

すると……、

「うわっ!?」

急に僕の頬に衝撃が……! これは多分、ノアたちだ……!

引っ付いてる感触があるもん!

「……? おにぃちゃん、どうしたの?」

「にぃに、だぃじょぶ~?」

「うん……、大丈夫! 何でもないよ……!」

ハルトとユウマが心配そうに僕を見上げているけど、大丈夫! これは多分いつもの挨拶だから……。

まぁ、妖精さんたちが三人くらい引っ付いてる感覚があるけどね……。

「あ、そう言えば……! ユイトくんはちゃんと渡せたの?」

「え?」

姿の見えない妖精さんたちを撫でていると、不意に名前を呼ばれた。

何が? と振り向くと、オリビアさんはニコッと笑顔を浮かべて僕に訊ねてくる。

「アレクへの手紙! 渡してもらうんでしょう?」

「う……!」

オリビアさんは手紙の件、忘れてなかったみたいだ……。

「あ! そうです! おてがみ!」

「にぃに、かぃちゃの~?」

ハルトたちも目を爛々とさせながら楽しそうに訊ねてくる。

「う~……。ブレンダさんに……、お願いしました……」

「まぁ! 良かったわぁ~! 気になってたのよ~!」

僕がちゃんとアレクさんに手紙を書いたと知り、ご機嫌な様子のオリビアさん。

うぅ~……、恥ずかしいから内緒にしておきたかったのに……。

アレクさんと聞き、通りにいる人たちの視線が一瞬だけ集中した様に感じたんだけど……。僕の気のせいかな……?

こうしてライアンくんとのお別れの時間は、今も尚ひらひらと舞う蝶々と、花びらを降らせる妖精さんたち、アレクさんへの手紙を書いたと聞いてはしゃぐオリビアさんのおかげで(?)、しんみりせずに済んだのだった。

この後、トーマスさんとオリビアさんもハルトとユウマから手紙を貰うんだけど、二人で大泣きしてお店のお客様たちに笑われたのは、また別のお話。