軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

199 頼りになる小さな背中

「グレートウルフが……」

「十六頭も……」

魔物を一噛みで仕留める事の出来るグレートウルフ……。

その群れが、この村に向かって来るかも知れない……?

「ワフッ!」

「あ~ぃ!」

頭を抱える僕たちを余所に、焼きおにぎりがお気に召したのか嬉しそうに飛び跳ねるアドルフと、それを見てキャッキャと手を叩くメフィスト。

普段ならもの凄く和む光景なんだけど……。

「あどりゅふのおともらち、いっぱぃくりゅの~?」

「おれい、したいです!」

固まる僕たちの様子を不思議そうに見つめ、ハルトとユウマは来るかも知れないアドルフの群れをワクワクした様子で待っている。

「た、大変だわ……! いくら私たちがあの子たちは安全だと知ってても、この村の人たちは知らないもの……!」

「そうですね……。もしかしたら村を襲いに来たと思って、討伐対象になるかも知れません……!」

「と、討伐……!?」

オリビアさんとフレッドさんが発した言葉に、全員がハッとする。

「いじめちゃ、だめです!」

「いたぃたぃ、やっ!」

討伐と聞いて、ハルトとユウマはフレッドさんにしがみ付く。

サイラスさんやアーロさんたちが何とか二人を宥めているけど、二人は今にも泣きそうに顔を顰めている。

「す、すみません……! ウチの従魔が……!」

「ご、ごめんなさい……」

アーチーさんとキースさんの顔色は、倒れるんじゃないかと言うくらいに真っ青だ。

キースさんに叱られたのか、飛び跳ねていたアドルフも耳が垂れたままシュンと丸まっている。

「だけど、森まで距離はありますよね……? もしかしたら、あの子たちには聞こえてないかも知れないし……」

「この子たちの鳴き声にはね、魔力が含まれてるのよ……。だから村一つ、二つ離れてても聞こえているかも知れないの……」

「そんなに……!?」

そんなに遠くまで聞こえるって事は、クジラやイルカみたいに超音波の様なものを発してるとか……?

よくよく聞くと、従魔が何か問題を起こした場合は、その主が全責任を負うそうだ。

キースさんはただでさえ魔族というのを隠していたのに、事が大きくなったらもっと人の目を気にするんじゃないかと心配で気が気でない……。

僕たちが深刻そうな顔をしているのが気になったのか、レティちゃんはお皿を置き、とことこと僕とオリビアさんの下へ駆けてきた。

「おにぃちゃん、おばぁちゃん」

「レティちゃん、どうしたの?」

僕が目線を合わせると、レティちゃんは森の方を指差して爆弾発言を口にする。

「なんとうか、こっちにきてる……」

「「「「えっ」」」」

レティちゃんが言うには、森の奥の方からもの凄い速さでこちらに向かって来る個体が数頭確認出来るそうだ。

僕がオリビアさんとトーマスさんを見ると、二人は目を見開いたまま首を横に振る。

イドリスさんやアーチーさんたちも同様で、皆も感じられない程に遠い場所。

そこから来るのが分かるって……。

「いまから、てんいすれば、まにあうかも……」

「ほ、本当に……!?」

レティちゃんのぽそりと呟いた言葉に一番に反応したのはキースさん。

さっきまで可哀そうなくらい悲壮感が漂っていたけど、レティちゃんの言葉に泣きそうな顔で駆け寄って来た。

「うん、てんい……、してもいい……?」

そう言って僕とオリビアさんに確認を取るレティちゃん。

なぜか今、その小さな背中がすっごく頼もしく感じるよ……。

「レティちゃん、私たちからもお願いしてもいいかしら……? このままだと村が大騒ぎになっちゃうわ……」

「レティ、オレからもお願いしていいかい?」

オリビアさんとトーマスさんに頼まれたのが相当嬉しいのか、レティちゃんはむふ~っと息を吐き、自信満々にまかせて! と胸を張っている。

「あ……! おかし、よういしないと……!」

レティちゃんはハッと思い出したように頑張って準備したお菓子の方を見ると、そこにはお皿を抱えたハルトとユウマが立っていた。

「じゅんび、ばんたんです!」

「おかち! いっぱぃなの!」

二人ともレティちゃん同様、むふ~っと鼻を膨らませて胸を張っている。

お礼すると言って、朝から人一倍頑張って用意したもんね……!

僕もアーロさんとディーンさんに協力してもらい、お肉や料理をお皿いっぱいに抱えて行く。

「じゃあ、転移するには私たちはどうすればいいかしら……?」

「こんな事初めてだからな……。勝手が分からん……」

オリビアさんとトーマスさんは不安そうにレティちゃんを見つめているが、レティちゃんは焦りもせず至って普段通り。

「ちかくにいてくれたら、だいじょうぶ……!」

「そ、そうなの……?」

「こ、ここでいいか……?」

「うん!」

レティちゃんは地面に両手を翳し、転移の魔法陣を難なく出現させる。

僕たちの足元には、青白く光る不思議な文字がたくさん刻まれた魔法陣が……。

スゴイ……! 不思議と恐怖はなく、それどころかワクワクしてしまう!!

「詠唱無し……!?」

「ハァ……!? ウソだろ……!?」

イドリスさんやダリウスさんたちの驚いた声が聞こえてくるが、レティちゃんは気にしていない。

オリビアさんと、お菓子を持ったハルトにユウマ、メフィストを抱えたトーマスさんに、キースさんにアドルフ、ライアンくんと、ライアンくんが行くならフレッドさんにサイラスさん、アーロさんとディーンさんも必ず一緒だ。

姿を消しているけど、ライアンくんの方には妖精のウェンディちゃんも座っている。

だけど、この人数だと定員オーバー……。

「この人数だと、二回に分けるのよね?」

「じゃあ、オレたちは後からにしようか……」

「そうですね。キースさんとアドルフは先に行ってもらわないといけませんし」

そこで僕とトーマスさんが魔法陣から出ようとすると……、

「あ~ぃっ!」

トーマスさんに抱っこされたメフィストが、小さくて可愛い両手をレティちゃんの魔法陣に向けて振り下ろす。

「あっ……! めふぃくん、だめ……!」

「「え」」

レティちゃんの慌てた声に振り向くと、僕たちの足元にあった魔法陣がヴォンと音を立てて広がった。

そして次の瞬間、僕たちは青白い発光に包まれる。

「う、ウソ……」

「消えた……」

「やっば……」

「なんでユイトの周りには、とんでもねぇ奴ばっかり集まるんだ……」

魔法陣が消えた裏庭では、イドリスさんの声が空しく響いていた……。