軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

117 次の約束は、公認です

「オリビアさん、僕お菓子の仕上げやっちゃいますね」

「わかったわ。私も閉店作業しちゃうわね」

閉店間際、もうアレクさん以外にお客様はいない。

もうすぐトーマスさんも来るだろうと、僕はお菓子の仕上げに入る。

朝のうちに作れるものはやったから、後はクッキーと、ドーナツを揚げて、シュー生地にカスタードを詰めるだけ。

ハルトとユウマを呼び、手を洗って、昨日ユウマが作ってくれたクッキー生地を取り出す。

「これで、ハルトとユウマの好きな形に型抜きしていこうね」

「これ、なんですか?」

「あ、はぁと!」

僕が取り出したのは、クッキーの型抜きに使う瓶の蓋や厚紙を切り抜いたもの。

だって欲しい型抜きが無いんだもん……。

「ぼく、さんぷそん、つくりたいです!」

「ゆぅくん、このはぁとちゅくる!」

ハルトとユウマはお気に入りの型を見つけたのか、それぞれ手に取り僕に見せてくれる。

ユウマのは比較的簡単だけど、ハルトの馬型はちょっと難しい。

「じゃあ、これを生地の上に乗せて、このナイフで紙に沿って切っていきます!」

僕が一つお手本を見せると、そこには可愛い兎の形になったクッキーが。

それを見ておぉ~と歓声が上がるけど、ちょっと照れちゃうな。

「二人とも、ケガをしない様にゆっくりね?」

「「はぁ~ぃ!」」

二人にはまだ危ないので、小さなバターナイフを渡したけど、クッキーを切り取る姿は真剣そのもの。

僕もその間にドーナツを揚げてしまおう。

油の準備をしていると、カウンター越しに声が聞こえる。

「おっ! すげぇな! ちゃんと出来てるじゃん!」

「ほんとですか? うれしいです!」

「ゆぅくんのは~?」

「おぉ~! そのハートもキレイだな!」

「えへへ~! うれち!」

アレクさんに褒められて、ハルトとユウマも嬉しそう。

褒められたおかげでやる気に火が付いたのか、二人ともまた型抜きに夢中になっている。

その様子をにこにこしながら眺めているアレクさんに、僕はなぜか、こっちも向いてほしいなと思ってしまった。

……なんでだろう?

「アレクはどうしてこのお店を知ったの?」

閉店作業を終えたオリビアさんが、明日の仕込みをしながらアレクさんに話を振る。

そう言えば、隣街からは結構歩くよね?

あの日も雨の中を来たみたいだし……。

「王都を出る前に、バーナードさんに教えてもらったんですよ! 料理もすげぇ美味くて可愛い子がいるって!」

「あら、バーナードが?」

バーナードさんは、イドリスさんたちが来た時にユウマが気に入ってた人だったな……。

まだお話すると言って、帰ろうとしているバーナードさんに駄々をこねて困らせてしまったんだっけ。

あの時は申し訳なかったな……。いや、嬉しそうだった様な……。

「はい! オリビアさんの店は一人で切り盛りしてるって聞いてたから、まさかその店だとは思わなかったんですけど!」

「あら~? 可愛い店員さんじゃなくてごめんなさいね~?」

オリビアさんがジト目でアレクさんを見つめている。

「えぇ!? 違いますよ! 可(・) 愛(・) い(・) 子(・) 供(・) が(・) い(・) る(・) って言ってたんです!」

「ホントかしらぁ~?」

「マジですって! 信じてください!」

それに焦った様子のアレクさんは必死に弁解しているけど、それが可愛くてついつい笑ってしまう。

「ユイトまで……! ホント! マジなんだって……!」

「あれくさん、しんじます!」

「あれくしゃん、がんばってぇ!」

「お前らだけだよ、オレの味方は……」

「可愛い子に応援されて良かったじゃない!」

「もう~! オリビアさん、勘弁して……!」

オリビアさんは揶揄って遊んでるみたい。

僕と一緒の時はお兄さんって感じだったけど、オリビアさんといると子供っぽいな。

ハルトとユウマも懐いてるみたいだし……。

ん~……、なんだかまた、モヤモヤしてきた……?

僕はそれを忘れるために、無心でドーナツを揚げていく。

*****

「ユイトくん、それ、たくさん揚げ過ぎじゃない……?」

「すごいです……! どーなつ、いっぱい……!」

「どーなちゅ……!」

オリビアさんに言われるまで、無心でドーナツを揚げていた僕は、皿の上にこんもりと盛られたドーナツを見てやってしまったと反省。

生地も明日の分とか言って、調子に乗ってたくさん作っていたから……。

止め時が分からなかったんだよ、きっと……。

ハァ……。

それを見てアレクさんも笑っている。

失敗してるところは見られたくなかったなぁ……。

「えへへ……。皆で、おやつにしましょう……」

「「やったぁ~!」」

ハルトとユウマは生地の型抜きを終えてカウンター席に座り、ドーナツの山を見て嬉しそうにはしゃいでいる。

牛乳をコップに注いで、念願のおやつの時間だ。

「「いただきまぁ~す(しゅ)!!」」

「「ん~っ!!」」

ドーナツを一口頬張ると、とたんに二人の顔が蕩けている。

オリビアさんもキッチンでドーナツを頬張り、うん、美味しいと太鼓判。

「アレクさんもどうぞ! 揚げたてだから、ふんわりして柔らかいですよ?」

「え? オレもいいのか?」

「はい! どうぞ!」

「あれくさん、どーなつ、おいしいです!」

「しゅごくおぃちぃの! どぅじょ!」

「ほらほら、遠慮しないで食べちゃいなさい?」

「じゃ、じゃあ……。いただきます……!」

「「「「どうぞ~!」」」」

皆の食べて! と言う視線にたじろいだのか、アレクさんはドーナツを一つ手に取り、ゆっくりと一口齧る。

「……んっ! すっげぇ美味い!!」

目をパチパチさせて嬉しそうに微笑んだ。

「「「でしょ~?」」」

なぜかオリビアさんとハルト、そしてユウマの三人がドヤ顔で答え、ついつい笑ってしまう。

すると、アレクさんがドーナツを頬張りながらクッキーの生地の切れ端を見て、これは? と訊いてきた。

「あ、この切れ端は全部まとめたら……。ほら! これで余す事なく、クッキーが出来るんです!」

僕は生地をまとめて捏ね、厚さを均等にするとそれをカットしていく。

あとはオーブンに入れて焼くだけだ。

「ハルトとユウマのクッキーも焼いちゃうよ?」

「はい! たのしみです!」

「おぃちくできりゅかなぁ?」

「昨日は一人で頑張ったもんねぇ! 大丈夫! 絶対美味しいよ!」

「ん! ゆぅくんたのちみ!」

ハルトとユウマのクッキー生地を天板の上に丁寧に並べオーブンへ。

どうか美味しく出来ますように!

そんな事を祈りながら魔石を触って、予熱で温めておいたオーブンのスイッチを再度入れる。

「ユイトは楽しそうに料理するのがいいよなぁ~……」

カウンターで、頬杖をつきながら眺めていたアレクさんが、ぼそりと呟いた。

「え? そうですか?」

「前の時も、楽しそうだなって思って見てたんだよ」

「えぇ~? 照れるので見ないでください……!」

「ハハ! なんだよそれ」

うぅ……、なんだか心臓がバクバク言ってる気がする……。

何だろう、コレ……? うぅ~……!

そんな僕を見て、ハルトとユウマが首を傾げている。

「おにぃちゃん、だいじょうぶ……?」

「あ、うん……! 何でもないよ……?」

「ん~、おにぃちゃん、へんです……!」

「じぃじのときといっちょ! へん!」

「えぇ~? そんなに?」

「「へん!!」」

「うぅ~……」

僕たちのやり取りを見て、オリビアさんもアレクさんも声を上げて笑っている。

まぁ、楽しそうだから問題ないよね……。

僕は熱くなった頬を隠しながら、そそくさとカウンターを離れ、カスタードクリームを作る事にした。

後ろから聞こえてくる楽しそうな声を聞きながら、一人黙々と鍋で牛乳を温める。

しばらくすると、お店の扉がチリンと鳴り、トーマスさんが帰ってきた。

「トーマスさん! ご無沙汰してます!」

僕たちがおかえりなさいと言う前に、アレクさんが頭を下げて挨拶したせいで、トーマスさんは戸惑っている様だった。

「……あぁ! アレクか! 久し振りだな、元気にしていたか?」

「はい! この前は挨拶もせずに、すみません……!」

「……あぁ! やっぱりそうだろう? 一人いないと思ったんだ!」

トーマスさんは気にする様子もなく、ハハハと笑い声をあげて笑顔でアレクさんを抱き寄せ、背中をポンポンと叩いている。

それにはアレクさんもホッとした様子だ。

怒られなくて良かったですね……!

「ユイト、菓子はどうだい? 出来そうか?」

トーマスさんは、おかえりなさいと抱き着いてきたハルトとユウマを抱っこしながら、カウンター席の椅子に腰掛ける。

「あ! あと、このカスタードを詰めるだけなんですけど、急ぎますか? 急ぐなら他のを持って行ってくれたら……」

「いや、それが完成するまで待ってるよ。家に一日いないだけで寂しかったよ! ハルト、ユウマ、おじいちゃんを元気づけてくれ!」

「「きゃあ~~!」」

帰ってきたトーマスさんはテンションが高いみたいで、ハルトとユウマに頬擦りしている。

ハルトは楽しそうだけど、ユウマはまた後ろに仰け反って、じぃじのおひげいたぃのやぁ~! と逃げているんだけど、それでもトーマスさんは嬉しそう。

それにはアレクさんも目を丸くして驚いている。

「トーマスさんって、こんなカンジでしたっけ……?」

「ビックリしちゃうわよねぇ? この子たちと暮らす様になってから、いっつもこうなのよ?」

面白いでしょ? とオリビアさんは嬉しそうに微笑んだ。

それを見て、アレクさんは何かを決心したかの様に、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「あの、トーマスさん……」

「ん? なんだ?」

「実は、お願いがあって……」

僕とオリビアさんは一瞬動揺してしまうが、アレクさんは止まる事なく話し続ける。

「今度の休みの前日に、ユイトと出掛けたいんですけど……。いいですか?」

「ん? ユイトと……? なんだ、もう仲良くなったのか?」

まだ数日しか経っていないのに、どこで知り合ったんだ? と疑問に思っているみたい……。

「そうなのよ、あの大雨の日にお店に来て! ねっ! ユイトくん!」

「えっ……? あ、はい! お腹空いたって言ってたので、可哀そうになっちゃって……!」

僕は咄嗟に思っていた事を口走ってしまった。

アレクさんはえっ、と驚いていたけど、オリビアさんとトーマスさんはそれを聞いて、声を上げて笑い出した。

「ハハハ! 可哀そうって……! アレクはAランクの冒険者だぞ? 一体どんな格好で来たんだ?」

「いや、なんか、全身びしょ濡れで……。お店の前で、服を絞ってて……」

「「あぁ~……」」

「あぁ~ってなんですか……」

アレクさんは僕の発言から、少し拗ねているみたい。

ハァ~、申し訳ない事を言ってしまった……。

「いや、ユイトは優しいからな。困ってるのを見過ごせなかったんだろう。それは店に入れるな、と思って」

「そうね。詳しい事は聞いてないけど、それはユイトくんなら間違いなく入れるわね」

「そんなにですか……? ちょっと心配ですね……?」

「「そうなんだよ(なのよ)!!」」

アレクさんの発言に、二人は分かってくれるか、と僕がどれだけお人好しかを話し始めてしまった。

僕は居た堪れなくて、まだ焼けてもいないクッキーの様子を覗いたり、キッチンの隅で冷やしたカスタードをシュー生地に黙々と詰めていく。

ハルトとユウマと言えば、トーマスさんの膝の上でドーナツと牛乳に夢中の様だ。

「……で。ユイトと出掛けるには、オレがちゃんと守ってればいいんですよね?」

真剣な顔で話しているなぁと思って聞き耳を立てたら、いつの間にかまた出掛ける約束の話に戻っていた。

「まぁ……。そういう事になるな……?」

「私はいいわよ? たまには気晴らしになるじゃない?」

「……じゃあ、いいんですよね? やった! ユイト! 出掛けていいって!」

「えっ!? 本当ですか?」

さっきのお人好しの会話から、どうやってその流れに持って行ったのか気になるけど……。

トーマスさんとオリビアさんからの了承も得られたので、今度は初めて夜に出掛ける事になる。

「おにぃちゃん、おうた、うたってます」

「にぃに、うれちしょ! よかったねぇ!」

まさか、自分が鼻歌を歌いながらシュークリームを作ってるなんて思わなかったけど。

今から出掛けるのがすっごく楽しみだ!