軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

116 魔法の師匠?

「おにぃちゃん、おはよ!」

早朝、昨日と同じ時間帯。

僕がお店で今日渡す予定のクッキーとパイ以外のお菓子作りをしていると、ハルトがひょっこり現れた。

腕には木製の短剣を抱えている。

「ハルト、おはよう! 今朝も頑張るの?」

「まいにち、かかすなって、おしえてもらいました!」

「そうなんだ……。疲れたら、ちゃんと休憩するんだよ?」

「はい!」

そう言って、柔軟体操を始めたハルト。

昨日フローラさんたちの話を聞いて、外が明るくなるまではお店か家の中で、とオリビアさんと約束したから、きちんと守っているみたい。

家の中でも出来るわよ、とオリビアさんにいくつかやり方を教えてもらっていた。

「あまくて、いいにおいです!」

店中に甘い匂いが充満しているからか、ハルトは鼻で大きく息を吸い込むと、にっこり笑顔を浮かべた。

「今日はトーマスさんがお菓子を取りに来るからね。ハルトとユウマのおやつの分も一緒に作ってるから、楽しみにしててね!」

「ほんとう? やったぁ~!」

自分たちの分もあると聞いてテンションが上がったのか、椅子を掴んでぴょんぴょん飛び跳ねている。

そんなに期待されると、僕も頑張らなきゃ……!

「あ、ハルト。ユウマが起きてきたら、二人にお話があるからね」

「おはなし?」

「そう、頼みたい事があるんだ」

「わかりました!」

そう言って、ハルトはまた体操を始めた。

何だか分かっていない様子だけど、二人とも引き受けてくれたらいいな。

そんな事を思いながら、僕はお菓子作りに集中した。

*****

「ぼくと、ゆぅくんで、ですか?」

「ぴじゃ、ちゅくるの?」

「うん、どうかな? 二人が疲れてない時、やってみてくれないかな?」

ユウマも起きてきて、僕がオリビアさんに相談した内容を話すと、二人はお互いに顔を見合わせ、

「「やる!!」」

声を揃えて元気いっぱいに快諾してくれた。

「お店に出す料理だから盛り付けは決まってるんだけど、二人ならすぐ覚えちゃうと思うよ」

そう言って、早速マルゲリータとミックスピザ、一枚ずつ見本を作ってみると、二人はだいじょうぶ! と言って準備に取り掛かった。

「二人とも本当にキレイに盛り付けるわねぇ~! ハルトちゃんとユウマちゃんが全部作ったって知ったら、お客様もビックリしちゃうわね!」

二人ともキレイに盛り付けていて、心配する事は何もない。

オリビアさんも二人の作業を感心した様に眺め、太鼓判を押してくれた。

それを聞いて二人も俄然やる気が出たようで、黙々とひたすら二種類のピザを盛り付けていた。

*****

「「「「いらっしゃいませ(ましぇ)!」」」」

今日はお店が開店してすぐに、カウンター席以外は近所の人たちで埋まってしまう。

「おきゃくさま、おひやを、どうぞ!」

「おきゃくちゃま、おてふき! どぅじょ!」

「あら! ありがとう、可愛い店員さんね?」

「噂は本当だったのね」

ハルトとユウマの接客も好評で、店内は穏やかな雰囲気だ。

中には、昨日とは違うメイソンさんのお弟子さんもいる様で……。

「これなら毎日でも来てぇな!」

「ほんちょ? ゆぅくんうれち!」

「将来の弟弟子の為なら……!」

「おい、行くのは交代だって決めただろ! 親父さんに怒られるぞ!」

「うぅ……!」

どうやらメイソンさんの鍛冶屋さんでは、ユウマは将来の弟子と認定されているみたい。

昨日の人もそうだけど、ユウマを可愛がってくれそうな人ばっかりでホッと一安心。

こう言っては失礼だけど、見た目は怖そうな人たちが、ハルトとユウマの接客をにこにこしながら見守っているのは少し……、いや、結構面白いな……。

「何かオススメはあるかい?」

鍛冶屋さんのグループの中でも、一番小柄なお兄さんがハルトとユウマに質問している。

僕とオリビアさんもそれを興味深く見ていると、二人はにっこりと笑ってピザをお勧めしていた。

「ならこれを……。ん? 二種類あるんだね?」

「ホントですね、どっちにします?」

「俺たち三人なら二つでも食べれるんじゃねぇですか?」

「そうだね。なら、このマルゲリータとミックスピザ、一枚ずつお願いできるかな?」

お兄さんはそう言って、二人にゆっくり注文をお願いしてくれた。

「ちゅうもん、いただきました!」

「いたらきまちたぁ!」

二人は満面の笑みを浮かべて注文を通す。

その笑顔で、オリビアさんも僕も嬉しくなってしまう。

ハルトとユウマの作ったピザ、お兄ちゃんがキレイに焼くからね!

「お待たせしました! マルゲリータとミックスピザです!」

ピザの皿は大きくて熱いから、持って行くのは僕とオリビアさんの仕事。

テーブルの上にトンと置くと、三人の目が釘付けだ。

「これは美味しそうだな……!」

「いい匂いがします……!」

「早く食いましょうよ……!」

「そうだね! いただきます!」

「「いただきます!!」」

三人はピザを一切れずつ取り、とろけたチーズにまず驚いていた。

そしてパクリと一斉に頬張ると、目を見開きお互いにうんうんと頷き合っている。

その光景を見守る小さい影に気付いたのか、お兄さんはピザを飲み込むと、

「すっごく美味しい!」

と、満面の笑みで親指を立てた。

それを聞いたハルトとユウマは、二人で手を取り合い歓声を上げた。

「ぜんぶ、ぼくとゆぅくんで、つくりました!」

「ぴじゃおぃちぃ? ゆぅくんとってもうれち!」

手を取って喜ぶ二人に、お兄さんたちも周りのお客様たちも、本当に? とオリビアさんと僕に目で確認を取ってくる。

僕たちが自信満々にうん、と頷くと、他のテーブルからもピザの注文が続けて通る。

ハルトとユウマもそれには大興奮で、テーブルを回り、一組ずつお礼を言っていた。

村の人たちは冒険者の人たちみたいにたくさん食べる訳ではないからか、比較的スムーズに注文も提供も終わってしまった。

テーブル席では美味しいと言う声が聞こえてくる。

これを聞くと、もっと美味しい料理を作ろうってやる気が出るんだよね!

二人の作ったピザも予想以上に喜んでもらえ、これは明日も注文が来そうだな……、と僕は内心嬉しかった。

*****

開店して少し経った頃、お店の扉に付いた鐘がチリンと鳴った。

「いらっしゃいま……、あ! アレクさん!」

「よっ!」

扉を開き、店内に入ってきたのはアレクさんだった。

それを見たオリビアさんは一瞬固まっていたけど、すぐにいつも通りの笑顔に戻っていた。

「アレク、お久し振りね!」

「オリビアさん、ご無沙汰してます」

そう言ってアレクさんは頭を下げて挨拶する。

「おきゃくさま、こちらのおせきへ、どうぞ!」

「あぁ、ありがとう」

何も知らないハルトは、アレクさんをカウンター席へ案内する。

「おきゃくさま、おひやを、どうぞ!」

「おきゃくちゃま、おてふき! どぅじょ!」

二人は一生懸命、接客中だ。

「すげぇ可愛い店員だな? 二人ともユイトの弟?」

お冷とお手拭きを受け取り、アレクさんは二人に笑顔を向けた。

「おにぃさん、おにぃちゃんの、おともだち、ですか?」

「にぃにのおともらち?」

「そうだよ、この前お話したお友達! 二人とも会いたがってたもんね!」

「「うん!」」

当のアレクさんはと言うと、お友達……、うん……、まぁ、(今は)そうだな……、なんてブツブツ言いながらハルトとユウマの頭を撫でていた。

アレクさんが僕の友達と知ってテンションが上がったのか、二人ともピザをお勧めしている。

「何? このピザっていうのがオススメなのか?」

「はい! たべてほしいです!」

「しゅごくおぃちぃの!」

「そうなのか? じゃあこのマルゲリータっていうの食おうかな……」

「「ありがとうございます(ましゅ)!!」」

二人はぺこりとお辞儀をして注文を通す。

その様子に、アレクさんは思わずと言った風に笑みがこぼれていた。

「なぁ、ユイト。この間の……、どうだった?」

カウンター席から僕にヒソヒソと話しかけてくるアレクさん。

「オリビアさんにはいいって言ってもらえたんですけど、トーマスさんが帰って来てないので、まだ言えてなくて……」

帰ってきたのはほんの少しで、すぐにノアと行ってしまったから訊くのを忘れていた。

「何? トーマスさん帰って来てないのか?」

「はい。バタバタしてるみたいで……。あ、今日の閉店後位には来ると思うので、その時に聞訊いてみますね」

お菓子を受け取りに来るから、その時に忘れずに訊かないと。

また出掛けそうな雰囲気だったしなぁ~……。

「ふぅ~ん……。じゃあ、オレも待っとこうかな……」

「「え?」」

「え?」

オリビアさんも僕たちの会話を聞いていたらしく、アレクさんの待つ、という発言に驚いていた。

「いや……。挨拶もせずに任務交代したし……。トーマスさんに謝らないと……」

「あ、あぁ~……! そうだったのね! 王都からの護衛、大変だったわね!」

一瞬だけ動揺していたオリビアさんは、焼き上がったピザを出しながら笑顔でアレクさんに話しかける。

「そうなんですよ! 偉いさんばっかりだし、ずっと気ぃ張って疲れました……! あ! スゲェ美味そう!」

「ふふ、そうねぇ。でもまだ帰りも護衛任務が残ってるんでしょう?」

「ハァ~、そうなんです! でも、リーダーがそれまでは休暇だって言ってたんでのんびりできるんですよ!」

「あら、珍しいわねぇ! よっぽど疲れたのかしら……? あ、Aランクに昇格したからご褒美?」

「そんなカンジです! 何か変な事でも起きないといいんですけど! じゃあ、いただきます!」

ハハハと笑うアレクさんとオリビアさん。

オリビアさんは問題児って言ってたけど、二人とも仲は良さそう……。

アレクさんはピザを大きく口を開けて頬張り、パッと目を見開いた。

僕とオリビアさん、ハルトとユウマの顔を順番に見てコクコクと頷いている。

その表情は美味しいと言っていると、一目見て分かった。

「おにぃさん、おいしいですか?」

「おぃち?」

ハルトとユウマの問いかけに、ピザをごくんと飲み込み、

「すっげぇ美味い!! もう一枚食おうかな!」

笑顔を浮かべて答えてくれた。しかももう一枚食べたいだって!

それにはハルトとユウマもにんまり。

「ぜんぶ、ぼくとゆぅくんで、つくりました!」

「ぴじゃおぃちぃ? ゆぅくんとってもうれち!」

「マジか! 二人ともスゲェなぁ!! これは絶品だ!」

そう言って、ハルトとユウマを褒めてくれる。

アレクさんが笑うと、なぜだか僕も嬉しくなってしまうな。

そう思いながら、今度はミックスピザを焼く準備。

これも絶品だから驚かないでくださいね……!

「お二人はいつからの知り合いなんですか?」

お替りのピザを頬張るアレクさんと、洗い物をするオリビアさんに僕がそう尋ねると、二人は顔を見合わせてう~ん、と考えている。

「いつから……。そうねぇ……。この村に貴方たちのパーティが挨拶に来た時だから……、五年は経つ、わよね……?」

「オリビアさんが、ステラの師匠だって紹介された時からですよね……?」

「そうね! ステラちゃんも大人の女性になってるかしら!」

「いや、そこはあんま期待しない方が……」

え、師匠……? その言葉に、今度は僕が動揺してしまう。

元冒険者っていうのは知ってるけど、そんな事は初耳だ……!

「師匠って……、オリビアさんが……?」

「あぁ、オレの仲間の魔法の師匠が、オリビアさんなんだよ」

「やぁねぇ! 師匠っていうほどの事はしてないわよ……!」

「いやいや、アイツ、最近マジで容赦しないですからね……? 前なんか氷漬けにしてましたから!」

「氷漬け……。噂通り、凄い事になってるのね……」

「リーダーに注意されたら、“師匠が躊躇せずに止めを刺せって教えてくれましたぁ~”って、言ってました」

「えっ……!? やだあの子、そんな事言ってるの……!?」

「とどめを……?」

オリビアさんからそんな言葉が出るなんて……。

「おばぁちゃん、すごいです……」

「ばぁば、しゅごぃねぇ……」

「やだ! おばあちゃんそんな事言ってないわよ!? 信じて!?」

余程衝撃だったのか、ハルトとユウマはオリビアさんの顔を見ながら唖然としている。

オリビアさんの必死の弁解は聞こえていない様だ。

「あぁ~! もう! ステラちゃんのせいよぉ~~っ!!」

その日、オリビアさんの悲痛な叫びが店内に響いた。