軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06 思わないわ

「何って、知ってるだろ? 僕の運命エメちゃん捜しだよ。

お前のところのお店に何度か行ったけど出勤してないみたいだし、見た感じの年齢からして学生だったから学園に問い合わせてみたけど答えてもらえなかったし。街の中を探すしかないじゃないか。あれ、一緒にいるその子は……」

魔道具の効果は確か、それはわかってる。

でも、本当に本人に対して効果があるのかの検証は、今が初めてだ。

ええい、やってやる!!

ゆっくり振り返ると、目は合わせずに顎のあたりを見ながら名乗りをあげる。

「初めまして。メノー=メルシエの妹、ディアマンタです。兄がいつもお世話になっています」

そしてぺこりと頭を下げ……ゆっくり頭を上げ、目を合わせた。

スッと目を逸らされる。

「妹さんかあ、……うん、可愛いじゃないか」

「!!」

思わず兄と顔を見合わせた。

「ああ、そうだろう? 自慢の妹なんだ。こう見えてとても商才があって、次期商会長はこの子になる予定なんだ」

「へえ、そうなんだね! じゃあお店にも立つの!? この前、この近くの店でエメちゃんって子に出会ったんだけど、彼女が僕の運命の人なんだ!! ディアマンタちゃん知らない!?」

わたしが後継と知るや否やのこの質問攻め。何より本人に本人のことを尋ねる滑稽さよ。

「エメは……最近顔を合わせていないのでわかりません。お力になれなくてすみません」

「そっかあ……残念。他のお店にいたりするのかな」

「どうでしょう。もしかしたら休みを取っているのかもしれません」

「そうか、ありがとう。商会に問い合わせても従業員の個人的なことは教えられないと言われてしまってね。もし何かわかったらこっそりメノー経由で教えてほしいな」

「それはできかねます」

「ね、僕とメノーの仲に免じて! メノーも何かわかれば教えてくれよ! じゃあな!」

言うだけ言って、あっという間に人混みの中に消えて行った。

「お兄様、そんなに仲が良いの?」

「いいや、考えてみてくれ、俺とあいつが仲良いと思うか?」

「……思わないわ」

「だろう? ただのクラスメイト止まりだよ。昔から人の話を聞かないところはあったし。でも運命運命と言うようになってますますひどくなった気はする」

兄が深くため息をついた。

「それにしてもすごい効果だな、認識阻害の魔道具ってやつは」

「お兄様もお仕事で目にする機会はあるんじゃないの?」

「いや、見たのは今回の件が初めてだよ。仕事で使うって言っても大公家や国賓がお忍びで城下に降りる時くらいじゃないか? 普段堂々と姿を見せるときには護衛がつくわけだから」

「確かに」

「とりあえず、帰ろうか」

「そうね、帰りましょう。会っただけで疲れたわ」

翌日の午後、ベルサンさんが結果を聞きに来た。

「問題ないだろうとは思っていましたが、早々に効果が確認できて良かったです」

「はい、ただいきなり会うと思っていなかったので精神的ダメージが大きかったです……」

「それは当然でしょう。お疲れさまでした」

昨日兄から聞いた情報を伝える。

「逆恨みですか、厄介ですね。いま使っていただいている護身用の魔道具は刃物などの物理的な攻撃を防ぐ仕様ではないので、交換したほうが良いでしょう」

「やっぱり刺されるとかなんですかね」

「振られた腹いせに振った側が刺されるパターンが多いですが、備えておくに越したことはないですからね。振られた前の運命さんがどういう方かはわかったんでしたっけ?」

「子爵家のご令嬢だということはわかっています。ただ、今のところお店に押しかけてきたりすることもなかったので、昨日兄に聞いてびっくりしたんです」

「なるほど。まあ備えておきましょう。備えあれば憂いなし、という東国のことわざがあるそうですよ」

「そのままですね。よろしくお願いします」

ベルサンさんが帰って、本店のバックヤードで在庫を調べていると、

「お嬢様」

とシリルが呼びに来た。

「サンフィーユ伯爵家のクレール様がお見えです」

「すぐ行くわ。今日は顧客室にお通しして」

「かしこまりました」

手にしていた品物の在庫数を書き留めると、エプロンを外して顧客室へ向かう。

ノックをして中に入ると、クレール様と、もう一人ご令嬢が掛けてお待ちになっていた。

「お待たせいたしました、クレール様。本日は何をお求めでしょうか」

「こんにちは、ディアマンタ。この前は私のために素敵なガラスペンとインクをすすめてくれてありがとう」

先日ガラスペンとインクをお求めになったカステリュ家のご子息はクレール様のご婚約者だということは知っていた。知っていても万が一他の誰かに渡す可能性があるので、本人から受け取ったと聞くことができほっと安心する。

「とんでもないことでございます。カステリュ様は意外性のあるものをお探しでしたので、ご関係を損ねずクレール様がお喜びになりそうなものをおすすめさせていただきました」

「中身を見たら微笑むあなたが目に浮かんだわ。

早速アントン様にお手紙を書いたら、緑色のインクでお返事をいただいたの。新しい楽しみがひとつ増えたわ! 本当にありがとう。

ああ、今日は私の買い物もあるのだけれど、一番の用事があるのはこの子なの」

「キアラ=モリュです。はじめまして、ディアマンタ様」

「初めまして、ディアマンタ=メルシエと申します。モリュ様、といいますと……」

「以前、こちらの店頭でアマラン=ミラヴェール様に捨てられたカミラ=モリュの妹です。その節は姉がお騒がせしました」

これは運が良い、話を聞くチャンスだ。

「キアラ様が気になさることではございません。その、お姉様は……」

「受け入れてもらえる修道院が決まらなくてまだ野放しなんです。決まり次第放り込むと父が言っていました」

だいぶ話が飛躍したものだ。

「修道院ですか? さすがに大げさなのでは……」

「交際トラブルはこれが初めてではないんです。なのでもう両親は限界だと」

はあ、とキアラ様が深いため息をついた。

「エメ嬢という従業員にミラヴェール様がご執心だと聞いたので、メルシエ商会とお付き合いがあるクレールにお願いして連れてきてもらったんです」

「まあ、そうでしたか。エメというのは接客用の偽名で、ミラヴェール様が探していらっしゃるのはわたくしでございます」

「はい、クレールに聞きました」

「ミラヴェール様との復縁を望まれているという話は城勤めの兄から聞いております」

「復縁だなんて馬鹿馬鹿しい話です」

キアラ嬢が苦々しい表情を浮かべる。

「運命って言われた、だなんて浮かれてあれやこれやと貢がせたんだから、ミラヴェール家から損害賠償を求められたっておかしくないのに」

「そうだったのですね」

「だから 姉(あれ) は放置でいいんです。そのうち引きずられて行くでしょうから。

貢がれたものはミラヴェール家から迷惑料代わりに受け取ってくれと言われたので、ありがたくいただきました。うち、財政あんまり良くないんで」

なかなか妹の方は辛辣なようだ。

「姉は運命だって言われて馬鹿みたいに喜んでましたけど、ディアマンタ様は被害を受けてるんじゃないかと思ったので、姉のことも含めてお話ししようと今日はお伺いしました」

「ありがとうございます! 助かります」