作品タイトル不明
04 それをあなたは隠さない
若干不穏な空気を残しつつ、サロンでの語らいは終わった。玄関の外まで全員で見送りに出る。
「それでは我々は失礼します。イオルム王子殿下、リリス王子妃殿下、この度は本当に……本当にありがとうございました」
マルグレーヴ侯爵の声が震えた。
またジョフロワないてるー
なきむしー
もうきょろきょろしちゃだめだよー
へんなひとー
「そういえば、マルグレーヴ領から公都は距離があるのに、どうして精霊たちは知っているのかしら」
マリエル様が疑問を口にする。
それはねー
ぼくたちは ひとつだからー
つながってるからー
「……どういうこと?」
「大元を辿ると精霊はひとつの大きなエネルギーと繋がってるらしいんだ。だから記憶も共有してるみたい。だから、見てなさそうな精霊といかにも見たように話す精霊が混ざる」
「よくわからないけれど……でもこれで今までの会話の謎が少し解けたわ」
叔母様が笑った。
イオルムー
へんなひとー
へんなひとがいるー
「……ふうん、門の外かな?」
そうー
もんぺいさんつかまえたー
あばれてるー
「あ、さっき変な人って言っていたのは」
「ジョフのことではなかったのね」
侯爵夫人と叔母様が真顔で言い放つ。
「失礼だな、二人とも!」
「……どうする?せっかくだから連れてこようか?」
あら、いけない。イオルムの目がうっすらと光っているわ。
「しかし、万が一誰かに危害でも加えたりしたら」
「それもそうかぁ、どうしようかな。僕は聞きたいことがあるから、たぶん、少し?うん、少し!踏み込んだことをするつもりだけど」
これは絶対に少しではないわね……。
「イオルム」
「ん?なぁにリリス」
「今日は警備の方達にお任せしましょう?」
「……でも」
「あなたなら、今でなくても良いでしょう?わたくしをひとりにしないで欲しいわ」
イオルムは数秒まぶたを閉じて考えると、何もない時の眼でわたくしを見、うなずいた。
「……わかった。じゃあ、今はやめとくよ」
「ありがとうイオルム。お楽しみは後で、ね?」
「ふふふ、リリスってばもう」
「二人とも」
叔母様の注意が入る。
「はぁい、ごめんなさいシャルロット夫人」
「ふふ、ごめんなさい叔母様」
「それじゃあ二人とも、気を付けて」
「殿下、ありがとうございます。それでは」
無事に二人が邸に着いたと精霊がイオルムに報せた頃には、わたくしたちは寝室で寝る支度をしていた。
「良かった。報告ありがとね」
おやすみー
おやすみイオルムー
ほどほどにねー
「まあ、ほどほどに、ですって」
「ほどほど、かぁ……できると思う?」
「無理ね」
「わーお、即答。……まあ、後にするよ。軍がどんな風に彼らを扱っているのかも気になるしね。今はリリ」
「あら、良いの?」
「ここは、リリス以外によそ見をしない部屋だからね」
「……ふふ、好きよ、イオルム」
こういう時、朝になっても色々と隠しきれていないあなたも愛しているわ、イオルム。
明け方、目を覚ますと、わたくしはイオルムの腕の中にいた。
そっとイオルムを見上げると、月のように輝く眼で、まっすぐにわたくしを見ていた。
「……今戻ったの?イオ」
「ううん、少し前。リリってば僕がベッドに入ったら転がってきたよ?」
「まあ……引き寄せられたのね」
くすっと微笑むと、イオルムの唇が額に落ちてくる。唇が離れ、イオルムの顔の高さがわたくしのそれに揃った。
「引き寄せられたまま、くっついて離れられなくなれたら良いのになぁ」
「離れられなくなったら、相手の話に驚いたり、お互いの凹凸を感じ直す機会もなくなるのではなくて?」
「……ああ、それはだめ。リリには毎日、僕をたくさん感じてもらいたいからね。ねぇ」
ーーちょっとさっきのを軍までのぞきに行ったら……あまりに腹立たしくてやりすぎちゃったんだ。だから、リリで鎮めさせて?
少し困った顔でそう告げたイオルムに、わたくしも困った顔で返した。
ーーほどほどに、ね?
外が明るくなった頃には、イオルムはしっかり鎮まり深い寝息を立てていた。
やりすぎた、と自己申告してくることは珍しいから、おそらく本当にやりすぎたのだろう。
身体を 壊(・) し(・) た(・) ことがわかる状態でなければ良いのだけれど、イオルムは壊しても 直(・) し(・) て(・) しまうから、きっと軍でもわからないに違いない。
あなたは昔から、空気を壊されることが好きではないものね、イオ。
壊されるくらいなら、この手で壊す。
昨晩の和やかな空気をぶち壊されたのが気に入らない。そう思っているのよね。
子どもの頃も、人でなくなってからも、変わらない。
だから愛おしい。わたくしだけの可愛いかわいい。
「ね、 イオルム(え・も・の・さ・ん) ?」