軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06 誰も見てはならぬ

「……んー、どしたの?」

イオルムの声で目が覚める。

「あー、ああそう、それは迷惑だなあ……」

「どうしたの?イオルム」

後ろからイオルムに抱きつく。毒に爛れた跡が残った、少しざらつく背中が触れた。

「ああ、ごめんねリリス起こしちゃって。どうも不届者が無理やり外壁を乗り越えようとしたらしい。精霊たちが教えに来てくれた」

「……穏やかじゃないわね」

「乗り越えようとした犯人は、精霊たちが最高のおもてなしをしてくれたみたいだから問題ないよ」

「……それが不届さんにとって最高かはわからないわね」

「ああどうしよう、ちょっと行って蛇眼で精神干渉してこよっか」

「それこそ穏やかじゃないでしょう、イオ」

「二、三人消息不明にして記者たちを恐怖のどん底に沈めても良いんじゃない?」

「訴えられるわよ」

「蛇眼は知られてないから平気だよ」

「今記者が消えたらすぐわたくしたちとの関連を疑われるではないの。時間差が必要じゃない?」

「ああーなるほど……」

イオルムが考え始めた。

とりあえず頭の中で結果を想像してイオルムを満足させれば、記者にも大した実害は及ばないでしょう。

光の粒として視えている精霊たちにお礼を言う。

「知らせてくれてありがとう。これからイオルムが色々と魔道具で整えてくれるから大丈夫よ」

よかったー

ありがとー

すいみんぼうがいはんたーい

すいみんぼうがいはしょすー

「処すは過激ね」

でもリリスたちのこえはきもちいー

あたらしいいのちうまれるー

みんなおどっちゃうー

「……そうなの?」

「そうだよ」

怪訝そうに尋ねるわたくしの右手をイオルムが取り、手のひらに唇を落とす。

「 夜(・) は本来とても神聖なものなの」

「……へえ……」

「さ、そろそろ起きよう。今日はちょっと忙しいからね。リリはまだ寝てる?」

「一緒に起きるわ。魔道具をいじるイオルムを見るの、好きなの」

「ふふふ、嬉しい」

鈴を鳴らして侍女を呼ぶと、ターニャが入ってきた。

「おはようございまーす。あれ、精霊ちゃんたち」

「そうか、ターニャは視えるんだったね」

「光の粒と言葉だけですけどねー」

「なんでも不届者が外壁を登って侵入しようとしたらしいよ?」

その言葉を受けて、笑顔だったターニャから一切の表情が抜け落ちる。

「……始末はどうしましょうかぁ、殿下」

「精霊たちが丁寧におもてなししてくれたそうだから、今は何もしなくていい。魔道具も置くしね。

それでも入ってくるようなやつがもしいたなら、その時は……仕留めよっか」

「御意」

「よろしくね、デボラたちにも伝えて。精霊の庭に侵入者がいる画は美しくないからね」

「承知しましたぁ。リリス様、お支度の前に報告してきますので、ちょっとお待ちくださいねー」

音もなくターニャの姿が消えた。

「……ちゃんとドアから出ていけばいいのに……」

「ターニャは僕達が大好きだからねえ、邪魔者は許せないんでしょ」

平然とイオルムが言う。

「まあ、邪魔者はちゃんと消えるから平気だよ」

「そうね」

その後間もなく商会から魔道具が届き、イオルムが改造を施すと魔法で敷地を囲むように配置していった。

「ちょっと気になることがあるから、これで映像と音声も取れるようにしたよ」

イオルムが伯爵夫妻に報告をする。

「ありがとうございます、殿下。差し支えがなければ、気になることとは……?」

「ロゼナス教絡みの不審者が、いそうなんだ」

「!?」

伯爵夫妻の表情が驚愕に染まる。

「だから二人も気をつけておいて欲しい。外出の時に精霊たちはついてくると思うけれど、護身用の魔道具は必ず持って。おそらくだけど商会は大丈夫。狙われるならここだ。ゴシップ記者に紛れてみんなを襲ってこないとも限らない」

「……わ、わかりました」

「ふふ、ほんと、いい度胸だよねえ」

うっすらと笑うイオルムの表情を見て悟った。

さっき精霊がおもてなしした侵入者はロゼナス教の息がかかっていたのだと。

そしてイオルムは、かなり怒っている。

「イオルム。落ち着いて。叔父様たちが怯えているわ」

「……えっ、ああーごめーん!家族に危害が及ぶかもと思ったらつい!」

「いいえ。しかし、家族、ですか」

「うん、リリスの家族は僕の家族だよ?」

イオルムがいつもの感情を読ませない笑顔で首をかしげた。

「あ、ありがとうございます」

マリエル様が戸惑っていらっしゃる。

「ごめんなさい、お気持ちはよくわかりますわマリエル叔母様。こういうところが悪虐王子と言われてしまう所以なのです」

「……そうなのね。ふふ、ごめんなさいリリス。イオルム殿下も、お気遣いありがとうございます」

「ううん、ごめんねー、感情と表情がちぐはぐになっちゃうことがあるんだ。戸惑っちゃうのは当然だから、気にしないで」

イオルムがうーんとひとつ伸びをした。

「じゃあ僕、今日は転移で学校行くよ。夜会が終わるまではそうする。たまに空の馬車を囮で走らせよっか。

なるべくメルシエ家の異変に気付けるようにするつもり。リリスも、緊急の時は予告なしで僕を喚んで。……悪魔が相手だと武力のあるなしは関係ないから、過信しないでね」

「わかったわ」

イオルムの対応は早かった。その上厳重だった。

周りを彷徨いている不審者を魔道具で監視しては、判別、身元を割り出し、対応する。

真っ当な記者の張り込みを歓迎したくなるくらいに、多くの不審者が何かしら 運(・) 命(・) に毒されていた。

「運命って言葉に反応するような何かがあるのかな……」

ベッドに入りながらイオルムが独りごちた。

すでに横になっていたわたくしが黙ってイオルムを見つめていると、視線に気がつきふっと表情を和らげる。

「ごめんねリリス。ここはリリのことだけ考える場所なのに」

「いいのよイオルム。みんなのことを真剣に考えてくれているのが嬉しいわ」

「えへへ、そう言われると僕も嬉しい」

イオルムが布団を胸までかけ、腕を伸ばす。

その腕に頭を乗せると、頭に顔を埋め深呼吸された。

「はああ落ち着く。ちょっと僕も気が張ってたね。リリの匂いが一番だなぁ」

「ふふ。……イオルム、問題は明日、ね?」

「そう。マルグレーヴ侯爵夫妻が来るからね。対策は考えているけど、ご夫人の魔力ってどんな感じだった?」

「弱くもなく強くもない、普通でしたわ。さすがに侯爵についてはわからないけれど」

「うん。だよね。どうしようかなぁ……」

「何が気になるの?イオ」

「みんなに持ってもらう護身用魔道具の出力。あまり強くしすぎると周りの人の精神に影響するし、弱ければ効果がない。違和感を感じさせないレベルの見極めが難しくて」

「相手の魔力量を見て出力を自動判断するようなものはないのかしら」

「んー、技術としてはできる。問題は予算……あああごめん、これは製品化する場合の話。今回メルシエのみんなに渡すやつに自動検出機能を持たせるのは問題ない。……って、だめだめリリスがいるのに」

「イオルム、無理しないで? たぶん今夜は魔道具のことを考えるのに専念したほうがいいわ」

「リリぃ」

イオルムがしょんぼりと落ち込んでいる。

「明日の朝でもいいじゃない」

軽く首をかしげて見上げるてみせると、イオルムが目を見開いた後、にっこりと笑った。

「ふふふ、頑張ったご褒美みたいだね。うん、リリに甘えて今夜は頭の中をまとめるのに専念する」

「ええ、そうして。ただ」

「ただ?」

「もしイオが平気なら、わたくしが眠るまではこのまま抱きしめていて?」

「あーもう、リリ大好き! ……おやすみリリ、良い夢を」

「おやすみイオ。……ふふ、ほどほどに、ね?」

明け方目を覚ますと、イオルムがベッドに入ってくるところだった。

蛇眼ではないものの、まだ目が煌々と光っている。 人(・) 以(・) 外(・) の気配も、まだ隠しきれてない。

このままだと、夕方に侯爵夫妻とお会いした時にやらかしそうだわ、と直感した。

「おはよう、イオ。『収穫』はあった?」

「うん、それなりかな。はああ、リリ、まだ外暗いんだけど……良い?」

「もちろん良いけど……日中眠くならない?」

「もし寝足りなければ侯爵夫妻が来る前に仮眠するよぅ。とにかく今は火照ってるから、リリで鎮めたいんだ」

「ふふ、逆に燃やし尽くしたって良いのよ?よく眠れるでしょう?」

今日はきちんと王子様でいてもらわないと、困る日ですからね。