軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06 こんな人が運命ならいい

「この後、転移装置の設置場所をずらしますね。伯爵、ドラッグを焚くとしたらやはり場所は」

『貴賓室かサロンだろうな……だが規模が大きいから読みきれん。半ばなし崩しに全体で焚かれる可能性はある』

「ちょっと待って、だとすると給仕スタッフが吸ってしまう可能性がない!?」

「魔獣にはよく効きますが、人間が急性中毒になることはないという研究結果が出ています。なのでおそらく問題ないかと。ただ、過去のパーティーで吸ってしまった方がいたら軽度の中毒症状が出る可能性はあります」

「えええ……」

「直接的に吸っていなければ摂取量は少ないので、後遺症なく十分に回復できる範囲だと思います。本体であるファルマは望み薄ですが、我らがメドゥス製薬には今回の事態は伝えてフォローの確約を取り付けています。任せてください」

『頼もしいな。ありがたい』

「メルシエは今や超上客ですからね。多少の無理は通ります」

うふふとベルサンさんが笑った。

「ですから中毒についてはとりあえず安心してください。どちらかというと直接身体に傷を負う方が心配です」

『ははは、超上客か、確かにそうだ』

伯父が笑った。

『できる限りの準備はした。あとは戦って勝つだけだ。ディアマンタ、戻ってきたらしっかりクレマンに叱られよう』

「叱られるのは嫌ですけど、仕方ないわね。頑張るわ」

少しずつ貴族たちが集まり、パーティーが始まる。

立食スタイルなので食事の補充を行い、飲み物を切らさないようホール内を回りながら様子を伺う。

「……まだ動きはなさそうかしら」

発信機に向かってこそっと呟くと、ホールの真ん中で空のグラスとカヴァの入ったグラスを交換していたベルサンさんと目が合う。

あっちを見ろ、とベルサンさんが視線をやったホールの出口に向ける。フラフラと若い男女が連れ立って出て行った。向かうのは控室だろう。

『三組目です』

「早っ! もう!?」

危機感なさすぎない!? 誰かに捕まったり咎められたりすることとか考えないのかしら。

『もうパーティー自体がそれなのでしょう。気になるのは、すでに来ているはずのシルヴァロン子爵の姿が見えないことです』

「……庭園あたりでポンポンダンスでもしてるんじゃない?」

『ポンポンダンス……教育上かなりよろしくないですね。ディアマンタ様、見知った顔は』

「直接の顧客はいないけど、その御令息や御息女らしき姿はあるわね。面影が親御さんに似ているってだけで、確証はないけど」

ピーピーと耳に沿わせた魔道具が鳴った。

「何!?」

『給仕の方々が身の危険を感じた時にブローチのボタンを押すようお願いしていたのですが、早速使われたようですね。行ってきます』

「わたしも行く!」

廊下へ飛び出したベルサンさんを追う。走るのめちゃくちゃ早い!

武家の出身だって言ってたけど、体力あるのね……研究は体力勝負っていうから、それもあるのかしら。

「やめてください!」

サロンよりさらに奥、女性の声がする。ベルサンさんが身を寄せている柱の影からそっと通路をのぞいた。

「あの人……!」

馬車の中で話してた子じゃない!

「なあ、金に困ってんだろ? こんなちゃちいブローチじゃなくてもっと良いやつプレゼントするからさあ、俺と一緒にあっちでいいことしようよ、なぁ!?」

「やめてください!お断りします!」

声が震えている。ただでさえ男二人に迫られたら怖いはずなのに、彼女は恋人に暴力を振るわれていたんだ、怖くないはずがない。

「おいおい、こいつは次のシルヴァロン子爵だぜ?逆らったらこの先どうなるかわかるか……っ!?」

ベルサンさんどうしよう、と口に出そうとした時、男の言葉が途切れた。ハッとして隣を見ると誰もいない!?

「ベルサンさん!?」

通路に出ると、ベルサンさんが男二人をのしていた。えええ、早っ!!?

「ああ、すみませんディアマンタ様。聞き捨てならない言葉が出たので黙らせました」

二人の手首同士、足首同士に手錠型の魔道具をつけてひとまとめにすると、

「お二人で仲良くいいことをなさればよろしい」

意識のない肉の塊に対して淡々と言い捨てた。

「怖かったでしょう。大丈夫ですか」

「ありがとうございます。……すみません、昔のことが蘇って足がすくんでしまって」

「いいえ、よく立ち向かいましたね」

ベルサンさんの言葉にハッとなる。

同じように驚いて顔を上げた彼女が、声を詰まらせた。

「うっ……うううっ……!!」

泣きじゃくる彼女を、ベルサンさんが抱きしめる。ぽんぽんと背中を叩きながら、子どもをあやすように語りかけた。

「ご覧なさい、見ての通り私が叩きのめしましたので、もう安心ですよ。さあ、しっかり鼻から息を吸って……吐いて。もう一回」

彼女の背中を優しく撫でながら、ベルサンさんが深呼吸を促す。五回、深呼吸をすると、少し落ち着いたようだった。

「……っ、本当に、助かりました。ありがとうございます」

……わたし、何の見せ場もないわよ……。

ベルサンさんがカッコ良すぎる。なんだこの人。

「運命にするならこんな人がいいわ……」