作品タイトル不明
魔王の卵
「リリスフィア様、勇者の居場所が判明しました」
「何っ!? ザム、それは本当か!?」
「はい。この宝玉がようやく場所を示してくれました」
「おぉ、とうとう示してくれたか!」
魔王のわらわはずっと勇者を探していた。この世には魔王がいれば、必然と勇者がいる。それが、世界の理。
魔王と勇者。それは相反する存在でありながら、決して切り離せぬ対の運命。どちらか一方が欠ければ、この世界の均衡は容易く崩れ去る。
ゆえに勇者は生まれ、そしてわらわもまた在り続ける。倒すべき敵でありながら、その存在を誰よりも理解しているのもまた事実。……だからこそ、この邂逅は避けられぬ宿命なのだ。
「先代の魔王が勇者に倒されてからというもの、我ら魔王軍の規模は縮小を辿っている。このままでは、我らは破滅してしまう。だからこそ、我らの繫栄を目指すためにも、打倒勇者は必要な目標!」
「その通りです、リリスフィア様。我らの勢力が衰えたのも、勇者がいたからこそ。その勇者がいなくなれば、また栄華をこの手に出来ましょう」
「なぜ、我らが隠れて生きねばならぬのだ……。憎し、勇者! 勇者の存在がなければ、今頃我々は幸せな生を歩んでいたのに!」
……あぁ、本当に忌々しい。
勇者という存在のせいで、我らの勢力は削られ続け、今や見る影もない。かつては広大だった我らの領域も、今では人目を避けるように細々と生きるだけの狭さに成り果てた。
力を蓄えようにも、そのための資源も土地も足りぬ。食糧ひとつ確保するにも苦労し、兵を育てる余裕すら削られていく。これでは鍛えるどころか、維持するだけで精一杯だ。
……すべて、勇者がいるからだ。
あやつさえ存在せねば、我らは堂々と地を踏みしめ、力を蓄え、何者にも怯えずに生きられたはずだというのに。
奪われた。誇りも、領地も、未来さえも全部、勇者のせいで!
「よし、今すぐこの魔王リリスフィアが勇者を討ってくれる!」
「お、お待ちください! まだ、リリスフィア様は七歳! とてもじゃありませんが、勇者に太刀打ち出来ません! それに、魔王じゃなくて、魔王の卵です!」
「正直にいうでないわ!」
ぐぬぬっ……。そう、わらわはまだ七歳。そして、魔王……の卵。いかんせん、若すぎて力がない。
「この間だって、階段を二段飛びしようとして、足が届かなくて転びましたよね?」
「そ、その話は関係なかろう!」
「石を投げようとしたら、上に投げてしまって、頭に石がぶつかって泣きましたよね?」
「そ、それはその……」
「そんなリリスフィア様が勇者討伐に!? 無理です、絶対に無理です!」
「えぇい! 臣下なら普通は主を持ち上げたり、応援するべきじゃろう!」
なんじゃ、なんじゃ! わらわは魔王! ……の卵、じゃぞ! やれば、出来る子なんじゃ!
「お考え直し下さい。今のリリスフィア様には勇者を倒す力はありません」
「何を言う! わらわだって成長しているのじゃぞ!」
「……例えば?」
疑わしそうな視線を向けるザム。だから、腰に手を当てて胸を張ってやる。
「この間は二キロの石を持ち上げることが出来たのじゃ! めちゃくちゃ、力が強くなっているのじゃ!」
「それは素晴らしいですね!」
「早寝、早起きも出来る! 昼寝が必要なくなった! これは、活動時間が増えているも同然! 支配力が違う!」
「とても、規則正しい生活が出来ていると思います!」
「嫌いな緑色の豆も三粒なら食べられるようになった! これは、沢山の栄養を取れて、体が多くなる証拠!」
「出来ればもっと食べて欲しいです!」
そう、わらわは絶賛成長期。たった一日あれば、とてつもない力を得られる。こうしている間にも体は成長して、勇者を打倒出来る力が備わっている。
「わらわのこの力があれば、勇者など赤子も同然! 簡単に捻り潰してくれるわ! あーっはっはっはっ!」
最強無敵のわらわが勇者などに負けるはずがないのじゃ! なんて言ったって、わらわは魔王! ……の卵。
「リリスフィア様の頼もしいお言葉、胸を打ちます。では、魔王軍総出で勇者に立ち向かいましょう」
「いや、待て。魔王軍は必要ない。わらわ一人あれば十分じゃ」
「そ、それはいけません! 勇者にはきっと仲間がいるはずです。リリスフィア様だけで行かせるわけには!」
「くっくっくっ。勇者の仲間など、わらわの小指一つで倒せるわ。きっと、わらわの力を見て逃げるかもなー!」
勇者に仲間がいても、全然平気じゃ! なんてったって、わらわは強いからな! 魔王! ……の卵、じゃからな!
だけど、ザムは心配そうに見てきている。
「ザム、安心せい。かならず、勇者とその仲間たちを倒して、魔王軍の栄華を取り戻して見せる。それが、魔王たる私の存在意義じゃ」
「リリスフィア様……ご立派になられて。その心意気、感服いたしました。では、我々はこの地にてリリスフィア様のおかえりをお待ちしております」
「うむ、勇者たちを倒すまでここには帰ってこないつもりじゃ。まぁ、そんなに長くはならないじゃろう。期待して待っておれ!」
大きなマントを翻すと、わらわは城から出ていった。
待っておれ、勇者のその仲間たち! 絶対にわらわが倒して見せようぞ!