軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

トリック・オア・プレイズ(後編)

「みんな、準備はいい?」

夕焼けが村をオレンジ色に染める頃。私たちは広場に集まり、それぞれ自慢の葉っぱの仮装を披露していた。冠やマント、ドレスや被り物。どれも思った以上の出来栄えで、みんな得意げな顔をしている。

「もちろんだよ!」

「わくわくしてきた!」

「早く行こうぜ!」

子供たちのはしゃぐ声に、胸が高鳴る。

「じゃあ、みんな……出発!」

腕を高く掲げた子供たちが「おーっ!」と声を揃える。その掛け声を合図に、いくつかのグループに分かれて散っていった。行き先はそれぞれ顔なじみの家だ。

「まずどこ行く?」

「エルモさんの家!」

「いいですね!」

「じゃあ決まり!」

私、クレハ、イリスは一緒になって駆け出した。その最中もお喋りは止まらない。

「なぁなぁ、どんな悪戯する?」

「……悪戯やる気満々ですね」

「だって、その方が面白いだろ?」

「でも、褒めてくれたら?」

「そん時は素直に喜ぶ!」

「ふふっ……どうなるか楽しみです」

エルモさんが驚くのか、笑って褒めてくれるのか。想像するだけでワクワクしてしまう。

やがて、お店の明かりが見えてきた。私たちは顔を見合わせ、足音を忍ばせて近づいた。

「気づかれてないな……」

「……ドキドキしますね」

「クレハ、合図して!」

「任せろ! それっ!」

バンッと扉を開け、私たちは店内へなだれ込む。

「「「トリック・オア・プレイズ!」」」

「わああっ!?」

カウンターにいたエルモさんが飛び上がり、そのまま椅子から転げ落ちた。

「な、なんですか!? し、新種の魔物!? わ、私を食べないでくださーい!」

情けない悲鳴を上げて、震えながら身をすくめる。その様子に思わず私たちは顔を見合わせ――

「やった! 脅かすの大成功!」

「ふふっ、上手くいきましたね」

「イエーイ!」

ハイタッチで喜び合った。その後、すぐにカウンターに駆け寄り、はっきりとした姿を見せて声をかける。

「エルモさん、私たちだよ」

「……えっ? えっ? あっ……」

「ほら、ちゃんと顔を見て!」

「ウチだって!」

私たちの顔を見た途端、エルモさんは大きく息を吐き、へたり込んでしまった。

「な、なんだ……魔物じゃなかったんですねぇ。心臓が止まるかと思いましたよ……」

私とイリスでその身体を支えて椅子に戻し、趣旨を説明する。説明を聞いたエルモさんは驚いた後に、納得するように頷いてくれてた。

「今日は仮装して合言葉を言うイベントなの」

「大人には秘密で準備してたんだぞ!」

「驚いてもらうの、すごく楽しかったです」

そして三人並んで、じっとエルモさんを見上げた。

「それで……エルモさん、何か言うことは?」

エルモさんは一瞬きょとんとした後、破顔した。

「三人とも、とっても可愛いですよ。衣装も立派に出来てるし、本当に頑張りましたね。偉い偉い」

そう言って、私たちの頭を優しく撫でてくれる。その褒め方に、幸せな気持ちが溢れてきた。

「……うん。褒めてもらえた」

「これで十分ですね」

「えー、悪戯できないじゃん!」

「なっ!? やっぱり悪戯するつもりだったんですか!?」

慌てるその声に、私たちは大笑いした。悪戯出来なかったけど、欲しい物が貰えた。だったら、それで十分だ。

「じゃあ、エルモさん。私たち行くね」

「他の人も驚かせに行くんですね。楽しんでください」

「もちろんだぞ! だけど、エルモの驚き方が一番だと思うぞ!」

「そ、そんな! ほ、他にも面白い驚き方の人がいますよ!」

「いたら報告しますね」

私たちは慌ただしく店内から立ち去ると、次の目的地へと向かった。

「次はもちろん、宿屋だよね」

「そうだな! 今の時間だと、冒険者のおっちゃんたちも戻ってきているはずだ」

「みんなにこの姿を見て貰うのはドキドキしますね」

今度はどんな反応を見せてくれるんだろうか? それを考えると、やっぱり楽しみでならない。

駆け出して行くと、いつもの宿屋が見えてきた。扉の前に行くと、私たちは目配せをして音を立てないように扉を開けた。

「よし、誰もいない」

「食堂に行きましょう」

「うん、食堂から声がする」

宿屋の中は誰もおらず、代わりに食堂の方から声が聞こえてきた。私たちは音を立てずに食堂に続く扉の前に移動した。

クレハがドアノブに手をかけて、私たちに目配せをする。私たちが頷くと、クレハが勢いよく扉を開け、私たちは食堂の中に飛び出していく。

「「「トリック・オア・プレイズ!」」」

「うおっ!?」

「な、なんだっ!?」

「ブッ!」

声を張り上げると、中にいた冒険者たちは驚きの声を上げた。そして、目を丸くしたままこちらを向いて固まっている。

「ど、どうしたの……えっ!?」

その声を聞き、食堂の奥からミレお姉さんが現われ、私たちの姿を見て固まった。その顔は驚きに満ちていて、どう反応していいか迷っているようだ。

これは――。

「驚かせるの成功だ!」

「やりましたね!」

「やった!」

私たちは喜びでまたハイタッチをする。それから、クレハが被り物を外して姿を現す。

「じゃーん。ウチらでしたー!」

「な、なんだ……クレハたちだったのか……」

「ふふっ、驚きました?」

「驚いた、驚いた。枯葉の魔物かって思った」

「実はね……」

私は今回のイベントの趣旨を説明した。ミレお姉さんたちは黙ってそれを聞き、内容を把握してくれた。その途端、食堂から笑顔が溢れる。

「面白いイベントねー。それに衣装が可愛い。本当に似合っているわ」

「クレハはでかい頭だな! 本当にビックリしたぞ! よくそんなもの作ったな」

「イリスのはドレスか。葉っぱのドレスなんて洒落ているじゃないか。立派なお姫様だ」

「ノアはいつもに比べてカッコよくなっているぞ。いつもと違う雰囲気でバッチリだぜ」

すると、食堂にいた人たちが次々と褒めてくれる。中にはわざわざ近づいてきて、頭を撫でてくれる人もいた。

こんなに大勢に褒められることはないから、私たちはタジタジになって照れてしまった。

「ふふっ、照れちゃって可愛い。褒めてっていったのは、あなたたちなのに」

「想像以上に褒められて、こっちが驚いちゃった」

「ですね。沢山褒められると、なんだか恥ずかしいです」

「体がそわそわして落ち着かないぞ」

そんな私たちの姿を見て、食堂が笑いに包まれた。私たちもなんだか可笑しくなって笑ってしまった。

「じゃあ、次に行ってくるね!」

「えぇ。しっかり、驚かせておきなさいよ」

「任せとけ! 今のところ、驚く姿はエルモが一番だけどな!」

「エルモさんが? ふふっ、見て見たかったわ」

「あの時のエルモさん、見せたかったですね」

用事が済んだ私たちは騒がしく食堂を出て、外に出た。空を見上げると、濃い青色に染まっていて、橙色と紺色のコントラストが綺麗だ。

「そろそろ、夜になるな。合図の時間だ。最後の所に向かうぞ」

「えぇ。みんなが集まったら、凄い事になりそうですね」

「どんな反応を見せてくれるか楽しみだね」

最後に行く場所は決めてある。私たちは期待を胸に走り出した。

しばらく走っていると、目的地が見えてきた。この村で一番大きな建物、男爵様の屋敷だ。

その屋敷の前には他の子供たちがすでに集まっていた。

「おーい、遅いぞ! みんな、集まっているぞ!」

「ごめん、待たせたね。じゃあ、皆で行こうか」

「うん!」

「行こう!」

どうやら、私たちが最後だったらしい。みんなは待ちきれないとばかりにそわそわしていた。

その様子を見て、私は扉の前に立つ。魔動力で門の鍵を開け、中へと入る。みんな、気づかれないようにそーっと歩いていた。

「静かに、静かにだよ」

「ひっ! 俺にいたずらするなよ」

「コラ男子。ふざけないで」

「だって、こいつが……」

「ひひひっ」

じゃれ合いながら屋敷に近づき、扉の前まで来た。私がみんなに目配せをすると、みんなが頷いてくれる。私は魔動力で内鍵を外すと、そっと扉を開けて中を確認する。

よし、誰もいない。私が中に入ると、子供たちが後についてくる。確かこの時間は……まだ執務室で仕事をしているはずだ。

私は行く方を指差し、子供たちを引き連れていく。だけど、後ろの方で子供たちがふざけ合う声が聞こえ、それを怒る声も聞こえる。まぁ、この時が一番ワクワクして楽しいよね。

そのまま誰にも気づかれず、執務室の前までやってきた。すると、子供たちのざわめきが大きくなった。これは早く入らないと、気づかれてしまう。

「みんな、行くよ。三、二、一……えい!」

すぐに合図をして、私は扉を盛大に開いた。そして――。

「「「トリック・オア・プレイズ!」」」

「うわっ!?」

みんなで声を揃えて、執務室に飛び込んだ。すると、椅子に座っていた男爵様が驚き、椅子から転げ落ちた。

「な、なんだ!? だ、誰だ!?」

だけど、すぐに男爵様は起き上がりこちらを警戒する。その瞬間、私たちは歓声を上げた。

「やったー、大成功!」

「男爵様を驚かしたぞ!」

「やりましたね!」

みんなで手を上げて、喜びでお互いの手を叩き合う。しばらく、私たちが喜び合っていると、その様子を見ていた男爵様がようやく状況を飲み込めた。

「なんだ……村の子供たちだったのか。見慣れない格好だったから、魔物かと思ったぞ」

「エルモと同じ事言っているぞ」

「私はドレス姿なのに……」

男爵の言葉に子供たちは様々な反応をした。喜んだり、あっさりだったり、がっかりしたり。

「それで、どうしてこんなことをしたんだ?」

状況を飲み込めた男爵様の問いに私は今回のイベントの事を説明した。男爵様は話を聞き、やわらかく笑ってくれた。

「なるほど……。それは楽しそうだな」

「それで、それで! 男爵様はどうする?」

「褒める? 悪戯される?」

「どっち、どっち?」

「そりゃあ、悪戯よりも褒めたほうがいいだろう。褒め……」

子供たちからの催促に早速褒めようと言葉を考え始める。腕組をして真剣に考えるが、中々言葉が出てこない。

「う、うーん……」

「ねぇ、まだー?」

「待ってくれ、今気の利いた言葉を……」

「早くー!」

「うーん」

男爵様は中々誉め言葉をくれなかった。簡単な誉め言葉でいいのに、余計に考えてしまっているようだ。

その時、私の手が引っ張られた。振り向くと、そこには悪戯っぽく笑ったクレハがいた。

「ノア、ここは悪戯だ」

そう囁くと、周りで聞いていた子供たちが賛同するように頷く。そうだよね、誉め言葉にこんなに時間をかけているんだから、ここは悪戯するべきだ。

「男爵様、時間切れです!」

「な、なんだと!?」

「というわけで、みんな……悪戯開始!」

私がそう声を上げると、子供たちはワッとなって男爵様に詰め寄る。そして、体中という体中を擽って悪戯をし始めた。

「や、やめっ……ぐははっ!」

「いけいけ、やれやれ!」

「これでどうだ!」

「もっとだよ!」

男爵様は子供たちの悪戯を受け、地面に転がった。だけど、それで許す子供たちではない。さらに、攻撃の手を激しくして、男爵様を笑いの渦に巻き込んでいった。

「あー、楽しかったな!」

「うん、褒められたり、悪戯したり、色んな事が出来たね」

「葉っぱでドレスを作るのも楽しかったです」

月明りが照らす夜道を私たちは笑いながら歩いていた。突然始まったハロウィンのイベント。どうなる事かと思ったけれど、結果は大成功だ。

いつもは出来ないことを出来て、子供たちも私たちもとても満足した。

「今の季節は過ごしやすいし、何でもできそうだ! 今度は何やる? また、驚かせるヤツをやるか?」

「同じじゃ芸がありませんよ。もっと、違う事をやりましょう」

「例えば、どんなこと?」

私が問いかけると、クレハとイリスが難しい顔をして悩んだ。

「うーん……。今度は枝を使って……」

「驚かせるんじゃなくて、もっと楽しい……」

だけど、そう簡単には思いつかない。真剣に考えている姿が微笑ましくて、つい笑ってしまう。

「わ、笑うなよ! そういう、ノアは考えたのか?」

「私は今日二回も考えたよ」

「そうですね……。だったら、今度は私たちが……」

「……だー! 何も思いつかない! ノアー、助けてくれー」

「ノアが頼りです」

縋りついて懇願してきた二人。その目を見て、こそばゆい気持ちになる。その気持ちを振り払うかのように、大きく息をすると気合を入れる。

「仕方がない、次も考えるか」

「本当か!?」

「本当ですか!?」

「うん! 次も飛び切り楽しいイベントを考えようか!」

私は張り切ってそういうと二人は嬉しそうな声を上げた。といっても、今の時点では何も思いつかないんだけどね。

だけど、二人の期待に応えられるようなイベントを考えようじゃないか。そう考えると、自然と自分もワクワクとした気持ちが溢れてきた。

「次にどんな楽しいことがあるのか楽しみです」

「だな! 全力で楽しむぞ」

「私も!」

ワクワクとした気持ちは三人ともあるみたいで、気持ちが一緒になるともっとワクワクした。そして、色々とお喋りをしながら歩く夜道は最高に楽しい。

こんな日が続けばいいな。そう思いながら、私たちは家へと帰っていった。