軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

266.秋の嵐(5)

月明りもない暗い夜道を光魔法の灯りを頼りに歩いて、私たちは作物所まで戻ってきた。なんとか今日中に全ての農家の小麦の納品まで終わらせることができたのだ。

作物所の前でコルクさんは嬉しそうな笑顔を浮かべて口を開く。

「仕事が終わったのは、全部お前たちのおかげだ。本当にありがとう。これで農家は救われただろう」

「みなさんの役に立てて良かったです」

「無事に終わったみたいで何よりだ!」

「だね。マジックバッグに入っている小麦はどうするの?」

「流石にこれから倉庫に入れる作業をするのは止めておいた方が良いと思う。こんなに夜遅いし、三人とも疲れただろう?」

「そうだね。じゃあ、小麦はこのまま預かっておくね」

これから小麦を全て倉庫に移し替える作業をしたら、夜中になってしまう。それは大変なので、一時小麦を預かることになった。

「明日は嵐だ。気を付けて、家の中にいなさい」

「うん、分かった。コルクさんも気を付けてね」

言葉を交わすと私たちは作物所を離れ、宿屋に向かっていった。しばらく歩くと宿屋が見えてきて、いつも通りに中に入っていく。食堂に入ると、中にいた冒険者は数が少なかった。いつもより遅い時間だから、みんな部屋に戻ったのだろう。

すると、僅かに残った冒険者たちが声をかけてくる。

「よお、三人ともお疲れさん。作業は終わったのか?」

「うん。なんとか、全部の農家の小麦は受け取り終わったよ」

「そうか、それはいい知らせだ! これで、小麦不足で困ることはなくなるだろうな」

「あのひもじい思いをしなくてもいいと知ると、泣けてくるぜ……」

報告を聞いた冒険者たちはみんな嬉しそうな顔をして、酒を飲んだ。そこにミレお姉さんがやってきた。

「三人ともお疲れ様。こんな夜遅い時間まで働かせるなんて、コルクさんは一体何を考えているのかしら」

「大丈夫だよ。私たちから言い出したことだし。それより、みんなの役に立てたことが嬉しい」

「そうね、三人には大変な役目を押し付けちゃって申し訳ないわ。お腹も減っているでしょ、今日は大盛りしてあげるから沢山食べていきなさい」

「わーい、やったんだぞ!」

時間はかかったけど、これで村の危機は回避できたよね? 後は何事もなく嵐が過ぎ去ってくれればいいんだけど、一体どれくらいの規模になるんだろうか?

嵐のことを考えながら席に座ると、私の様子に気づいたイリスが声を掛けてくる。

「何か心配事があるんですか?」

「……うん。嵐のことを考えていてね。どれくらいの強さなんだろうって考えたら、不安になっちゃったんだ」

「嵐って風とか雨とか凄くなるヤツだろう? 家の中にいれば大丈夫じゃないか? まさか、家が飛ばされるくらいに強いヤツが来るのか!?」

「家が飛ばされる!? それは大変です!」

「流石にそれはないと思いたいけれど……。でも、用心しておいたほうがいいと思うの」

家は飛ばされる心配はないと思いたいけれど、嵐の強さによっては家に被害が出る可能性もある。でも、だからと言ってそれに対抗するためにできることはない。ただ、家にいて嵐が過ぎ去るのを待つしかない。

嵐のことを考えて暗い雰囲気になっていると、料理を手にしたミレお姉さんが近づいてきた。

「もしかして、嵐が怖いの? 良かったら、宿に泊まる? ここならみんながいるし、心強いと思うんだけど」

「それはいい話だけど、家が心配だから家の中にいるよ」

「家が飛ばされたら大変だもんな!」

「どんな被害が出るかも分かりませんし、家が心配です」

「そうね、家が心配ね。でも、家よりも大事なのはあなたたち自身だからね。何かあった時は、宿屋に避難してきなさい」

「うん、分かった」

避難する方法もあるけれど、私たちはあの家に居よう。自分たちが住む大切な場所だから、自分たちで守りたい。そうだ、嵐から家を守るんだ。

宿屋で夕食を食べて外に出てみると、いつもより風が強くなっていた。その風に押されるように足早に家に帰ってくる。家に入る前に鶏たちを牛小屋に避難させてから、家の中に入った。

「いやー、風が強かったな」

「嵐が来る感じがしましたね。これ以上に風が強くなるんでしょうか?」

「多分、なると思う。どれくらいの強さになるかは明日にならなきゃ分からないけど」

「これ以上、強くなったらどうなるか……不安ですね」

「家が飛ばされないといいな」

二人も若干の不安を感じているみたいだ。こんな時は一緒に寝るに限る。ベッドを魔動力で浮かせると、隙間がないようにピッタリとくっ付けた。

「これで、三人で固まって寝られるね。これでちょっとは不安がなくなればいいな」

「ふふっ、そうですね。でも、心配なことが……」

「えっ、何?」

「クレハに蹴とばされるかもしれないってことです」

「あー、なるほどね」

「なるほどね……じゃないぞ! ウチはそんなことしないぞ!」

「クレハの寝相、あんまり良くないじゃないですか」

「ぐぬぬっ」

確かに、クレハの寝相は良くない。そんなクレハとベッドをくっ付けて寝るのは大変な事かもしれない。そんな風にからかうと、クレハが面白いように抗議をしてくる。

他愛のない会話だけど、それだけで不安が薄れていくようだ。やっぱり、不安になる夜は一緒に寝たほうがいい。

洗浄魔法でみんなを綺麗にした後、パジャマに着替えてベッドの中に入る。灯りを消すと、月明りもない家の中は真っ暗になった。そして、風の音が家を叩く。

いつもとは違う様子にちょっと怖く感じる。知らず知らずの内に三人で寄り添っていた。

「風の音、いつもとは違いますね。ここまで大きくなったのは初めてです」

「だな。風の強い日もあったけど、今日の風の音は違う感じがするぞ」

「これから強くなるって感じがするね」

「明日は一日中家の中にいるんですね。そんなの初めてです」

「いつもは少しは外に出ているもんな。それが全くなくなるのは初めてだな」

「毎日外に出ていたから珍しいよね」

風の音がうるさくて、体は疲れているのにまだ眠気が襲って来ない。寝てしまえばこの不安ともお別れできるのに、中々寝付けずにいた。

だから、その不安をかき消すように話すのだが、不安に思っていることが自然と口に出てしまう。楽しいことを考えればいいのに、中々その考えができずにいた。

「明日はモモたちの世話、どうしよう。外、歩けるかな?」

「小屋までは歩けるんじゃないか?」

「モモたちのことも心配ですね。家より小さい小屋だから、風で飛ばされたりなんかしたら……」

「あー! 明日のことが心配で寝れないよー!」

「私も、明日のことが心配で寝れません」

「二人が心配になるんなら、ウチもなんだか心配になってきたぞ」

考えれば考えるほど沼に嵌っている気がする。早く明日になって欲しいような、なって欲しくないような……そんな複雑な気分だ。

「モモたちもこの家に避難させた方が良かったかな……。今からでも家の中に避難させようかな」

「いつもと違う場所だとモモたちをもっと不安がらせるんじゃないですか?」

「それもそうか。一日中付き添ってあげたほうがいいかな。でも、家のことも不安だから家にいたいし」

「両方とも心配ですよね。明日は分かれていたほうがいいでしょうか」

どんどん不安が溢れてくる。私とイリスが不安の沼に嵌っていると、クレハが私たちの間に無理やり割り込んできた。すると、腕を伸ばされてギュッと抱きしめられる。

「そんなに不安がるな。明日になったら、明日できることをやればいいぞ」

「それはそうだけど、今からでもできることがないかなって思って……」

「今の内に考えられることは考えたほうがいいような気がしまして……」

「嵐がどんなのか分からないから、どうすればいいのか分からないぞ。初めての体験だからな、まずは嵐がどんなものか見ないとな。それからでも遅くないんじゃないか?」

見たことない嵐に怯えているが、それは見たことがないから余計に怯えているみたいだ。そんな私たちの不安を宥めるようにクレハは声をかけてくれた。そして、不安を軽くしようとギュッと抱きしめてくれる。

「寝不足のままだと、明日が大変になるぞ。だから、考えるのは止めて寝よう。今日はみんな疲れているんだからな。無理はしちゃいけないぞ」

「……そうだね。明日大事な場面で動けなくなったら大変。今はしっかりと寝て、明日元気に起きることが大事だよね」

「寝不足で大事な時に動けなくなるのは嫌です。考えるのはやめて、寝ることにしましょう」

「そうだぞ、そうだぞ。しっかり寝て、明日に備えよう」

不安がる私たちの手をクレハがギュッと握ってくれる。不思議とそれだけで不安が薄れていくような感じがした。途端に睡魔がやってきて、瞼が重くなる。

「今日は二人の手を握って寝てやるぞ」

「足も飛んできそうですが……」

「それは嫌だなー」

「ウチはそんなことしないぞ!」

クレハをからかうと、慌てた返事が返ってくる。そのやり取りだけで、安心できるのは何故だろう。

「おやすみ」

「おやすみなさい」

「おやすみなんだぞ」

おやすみの言葉を交わすともっと眠たくなる。繋がった手の温もりを感じながら、睡魔に身をゆだねた。