軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

97話 再会

モードさん、モードさんだ! 本当にモードさんだ。

わたしはモードさんにしがみついた。

一瞬驚いたようだが、そのままぎゅうっとしてくれる。

優しく距離をとって、顔を両手で包まれた。

「ティアなんだな。元気そうだな、どこも怪我したりしてないな。お前、大っきくなったなー」

モードさんはわたしの脇を持って『高い高い』をする。

大きくなったって言っておいて、それはないんじゃない? 16だぞ?

「はー重たくなったなー」

いろいろ突っ込みたいが、モードさんと会えたことはそれより大きい。

ひとまず気が済んだのか、わたしを下ろして、頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。結んでるのが解けちゃうよ。

モードさんが強いのは知っていたし、わたしだってモードさんと会うためにエオドランドへ来たわけだけど、この世界の『また会う』は重みが違った。そう思ったら……。

モードさんにまたしがみついてた。会えて嬉しいのに、顔を見たいのに、いっぱい話すことがあるのに、全部涙に持っていかれる。

きちんと向かい合うはずだったのに、ちゃんと冒険者できているところを見せるはずだったのに。涙が止まらない。胸がぎゅうっと締めつけられるようで苦しい。

言いたいことがいっぱいあった。伝えたいことがいっぱいあった。

モードさんにいつも会いたかった。モードさんに会いたくて動き出して出会った数々のこと。家族ができたこと。すごく楽しかったこと。ものすごく辛くなったこと。帝国まで行っちゃって、船賃は高くて、もうこの大陸に帰ってこれないのかと思ったこと。一攫千金を狙ってダンジョンに入ったこと。その時、助けてくれた、アークとソウショウのこと。本当にもう終わったって怖い思いをしたこと。起きるとアルバーレンの王子の元で、謝られてもう憎むことが難しくなってしまったこと。

言葉にすればいろいろあるけれど、全部発端はモードさんに会いたい、で。

そのモードさんが目の前にいるのに。

「ティア、そんな泣いたら目が溶けるぞ」

もう大人ほど大きいのに、モードさんは抱き上げてくれて、そしてそのまま座り込む。

頭をなでてくれて、涙を指で拭ってくれる。動物の親がするように、頭の天辺に、おでこに、目尻に、口づけを落として、ここにいるから大丈夫だと示してくれる。

それなのに止まらない。

「いいぞ、泣ききれ。こうしててやるから」

怖かったこと、辛かったことが、わたしの中から流れ出していく気がした。

時折、モードさんが涙を啄んでくれて。それでもなかなか涙は止まらなかった。

やっと顔を上げられるようになり、モードさんを見上げれば、少し困ったような顔で微笑んでいた。周りを見渡すと、黄虎がミミをくわえて、クーを前足で押さえ込んでいた。

あ。わたしはもう一回モードさんをぎゅっとしてから、降りる。

「モードさん、ありがとう。お帰りなさい。無事でよかった。また会えて嬉しい。よかった」

精一杯笑って、照れくさいから、黄虎に突進する。

「黄虎! 無事だと思ってたけど、無事でよかった」

黄虎の首に手を回して撫でまくる。お腹に顔を埋めてぐりぐりする。この触り心地! でもちょっと毛の状態が悪い。大変な依頼だったんだ。

わたしが撫で回す区切りがつくと、黄虎がわたしの顔を舐めまくる。

ざらざらした感じも、何もかも、嬉しい。

気がつくと、なぜか混じってクーもミミも、わたしを一生懸命舐めていた。

「お前、弟子ってもっと小さいかと思ってたが、なるほどな」

ムキムキの男性だ。

「お前がそんな弟子に甘いとは想像もしなかったぞ」

「こいつは特別なんだ。俺が育てたからな」

モードさんがムキムキマンを睨みつけながら答える。

モードさんと一緒にいた男性は、リキさんといった。わたしが落ち着くまで何も言わずに待っていてくれた優しい人だ。恥も外聞もなく泣き尽くしたので恥ずかしかったが、モードさんを独り占めして待たせてしまったので謝った。会えてよかったなと言葉をくれた。

モードさんたちは依頼を終了させ、近いギルドに報告をして、各々散るように帰ってきた。モードさんは強制依頼でハーバンデルクの昔馴染みの多くと顔を合わせたそうだ。それで帰る方向も一緒だし、一度ぐらい打ち上げでもしておくか、と隣町に宿をとった。みんなかなり大喰らいなこともあり、リキさんとふたりで森に獲物を仕留めに来たそうだ。

打ち上げじゃあ部外者がいたら良くないと思い、また街で会う約束を取り付けておこうと思ったが、ふたりともわたしがいくのを当然と思っているようで。

「お前も来い」

「でも、部外者が行ったら……」

「だって、嬢ちゃんがトラジカおびき寄せてくれたからな」

とリキさんがウインク。

「それにモードは家に戻って何か確認してからすぐに、どこだっけ、メリストかなんかに行くんだろう? すれ違わなくてよかったな」

それって……。モードさんはちゃんとわたしを探してくれるつもりだったんだ!

「嬢ちゃんて呼ぶな、ディアンと呼べ」

「ディアン?」

「女だと知って変なのが寄ってきたら困るからな」

モードさんがそういうと、リキさんはモードさんの首を絞めるかの勢いで片腕をまわした。

「モード、オレはお前の行く末を心配してたんだ。それがそんなことを言うなんて。オレは感動したぞ。そうだな。女の子だって知っているのはオレらだけでいいな」

なんか若干、リキさんとモードさんの会話に温度差がある気がするけど。

トラジカはあっという間に解体され、黄虎に乗って隣街にバビューンと飛んだ。クーとミミは母さまみたいと大興奮だ。リキさんは大きな鳥に乗っていた。魔力で作り上げている乗り物らしい。

宴は大いに盛り上がった。飛び込みのわたしも歓迎してもらえて、大いに飲み、食べた。クーとミミは黄虎の毛に埋まっている。安心できるんだろうね、同じ神獣でもあるし。

モードさんに当たり前のように違う部屋を取られてしまったが、わたしは寝る前にモードさんの部屋を訪ねた。クーとミミは連れていくか迷ったが、籠の中でスーピー寝息をかいて寝ているので、そのまま置いてきた。

「一緒に寝ていい?」

モードさんは

「しょうがねぇなぁ」

と許してくれた。

ベッドの中で横を向いて、モードさんをみつめる。見えるところに、モードさんがいる。触れられるところにモードさんがいる。本当にモードさんだ。

眠くなるまで、モードさんと別れてからあったことを話す。順番も何もかもぐちゃぐちゃだった。でも、モードさんは優しい瞳で、相槌をうちながら聞いてくれた。そのうち眠くなってきて。

モードさんにぴったりとくっつく。すりすりと頭を揺らし、寝心地のいいところを確保して、そっとモードさんの心音が聞こえる体勢をとる。

トクトクとわたしに響いてくる。やっぱり、安心する。すっごく安心する。

わたしはすっと眠りについた。

翌朝、モードさんは躊躇いがちにわたしに苦言する。

「ティア、あのなー、なんていうか。大きくなるとな、男と女だと間違いがあるといけないからな、抱きついて寝たりしちゃダメだぞ」

「うん、大丈夫。モードさんにしかしないから」

「そ、そうか」

モードさんは頷く。そして言いにくそうに言う。

「お前、胸あてしてないだろう。大人になったらしないとなんだ。買いに行こう」

「持ってるよ。しないのは眠るときだけ。して眠ると苦しいから」

「そ、そうか。お前、そのなー、胸をだな男に密着させたりだな」

「モードさんにしかしないから、平気だよ」

「そ、そうか」

モードさん、わかってるかな? わたしはもう幼児ではないってこと。そうわたしがアピールしていること。

ズバリ言えればいいんだけどね。モードさんにしたらわたしの小さい頃を知っていて面倒を見ていたわけだから、そういう対象に見えづらいのはわかっている。

『どんなに時が経っても、守るべき子どもにしか見えない』そう言われるのが怖くて、覆せないと思い知らされるのが怖くて言えずにいる。

少しずつでいい、いつか意識してくれたらいいんだけどな。

……なんて、わたしは少しだけ女子気分で、多分、ちょっと浮かれていた。モードさんに会えたことで気が緩んで、恋に恋するかのように、自分を鼓舞していた。