軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

96話 HERO

ルークさんとの旅は、意外に快適だった。わたしの歩くペースを配慮してくれたし、道に迷うことがないので、疲れ方が違う。クーとミミに癒されているからか、体調が悪くなることもなかった。ルークさんは美しいからかよく絡まれたが、ルークさんが強いので全然問題なかった。野宿の時はわたしがご飯を作った。いろいろしてもらってばかりなので、ご飯ぐらいは作りたかったのだ。残さず食べてくれて、時にはお替りもしてくれて、わたしは野生動物を手なずけたような気持ちになった。クーとミミもわたしのご飯を気に入ってくれた。黄虎と同じでお水があれば食べなくても大丈夫なそうだが、クーとミミは食べることが大好きだ。

わたしは相変わらず男の子の格好で旅をしている。ラケットバットはちゃんとリュックの横に携えている。ザ・冒険者という感じに見えると思う(自分調べ)。

ハーバンデルクに入国し、モードさんの実家のある街、エオドラントに着いた。ルークさんとお別れだ。

「ありがとうございました」

深々と頭を下げると、ふっと笑われた。

「無事たどり着けて、よろしゅうございました。ここに滞在を?」

わたしは頷く。お金が続くまでだけど。

「あの、どうしてわたしがエオドラントに向かうとか、モードさんのこととかわかったんですか?」

ルークさんはクスリと笑う。

「ハナ様は策士にはなれなさそうですね」

どうでもいい方向から貶される。

「私はスラム街を見ただけですよ」

スラム街を見ただけ? それで何がわかるというんだ。エオドラントやモードさんには繋がらないと思うんだけど。

籠から飛び出したクーとミミが、ルークさんの肩に登った。ほっぺたを舐める。ルークさんはされるがままになっている。

「果物とおいしいお水をいつもありがとうって言ってます」

果物もだけど、クーとミミはお城の東にある井戸のお水が気にいったそうだ。その飲みっぷりを見てから、ルークさんはいつもわざわざそのお水を汲んできてくれていたそうだ。

ルークさんはふたりを掌の上に置いて、指で頭を撫でる。

「主をしっかり守るのですよ」

そう伝えて、わたしにふたりを返してくれた。

「本当にありがとうございました。お元気で」

そう告げると、ルークさんは微笑んでくれた。

「ご武運を」

え? わたしは戦わないけど?

意味ありげに笑ってから、ルークさんは去って行った。

わたしの両肩にはクーとミミがいてくれる。

「行こっか」

街に入る手続きも慣れた。クーとミミはアンモニャナイトで通している。アンモニャナイトは猫の古代種のひとつで、森の奥深くで暮らす上、数も少ないし、今ではほとんど見かけられないそうだ。よく見ると普通の猫とは違うみたいなので、苦肉の策だ。実際アンモニャナイトを見たことがないので、よくわからないが、猫っぽくて猫じゃないとなるとアンモニャナイトかと思うものらしい。翼が見られると猫でないのが露見してまずいのだというと、わからないようにすると言ってくれた。人にはわからなくする方法があるようだ。森で2匹でいて、かまったらついてきた設定だ。

クーとミミは幼いけど存在自体が高位なので、鑑定をかけるものがブルードラゴンと同等、もしくは上のものにならないと、わからないらしい。見かけは少し風変わりな猫ちゃんだしね。

手続きをしてくれた衛兵さんにモードさんのお家を聞いてみた。

一拍置いてから、衛兵さんは場所を教えてくれた。

お家までの道が複雑じゃなくてよかった。大きいからすぐにわかるだろうとも言われる。やっぱり、大きいのか。貴族だろうとは思っていたけど。王子が言ってたのはわたしを諦めさせるためでなく、本当の事のようだ。まぁ、下手な嘘なんかつかないのは知っていたけどさ。

道を進んでいくと、整備された道で、各ゲートの前では警備員さんみたいのが守っている。貴族街か。そんなところをど平民が一人歩いて行くので、門番さんたちにひたすら見られる。貴族は動くときはほぼ馬車だしね。歩いている人がいること自体、おかしいのだろう。

そして言われた通りに、道を曲がると、門が見え、遠くに豪邸が見える。立派な門の前には2人の門番がいて、その先には美しい庭が続いているのが見える。

ここ、だよね。貴族の中でも、位が高く、これはもうかなりなお金持ちなんじゃないだろうかとわかる。広さしかり、ただ華美なわけじゃなく素人でも質が違うとわかる造りだ。王位継承権があるっていったら、爵位も高いか。

『ここに来たかったにょか?』

『ここにいりゅの?』

ふたりに頷く。

「あの、すいません」

わたしは門番さんにおずおずと話しかけた。

体格もよく、イケメン門番さんは、平民を無碍にもせず向き合ってくれる。

「モードさんは帰ってこられてますか?」

ふたりの門番さんはわたしをじっくりと見た。

「少し、待ちなさい」

ひとりが中に入っていく。しばらくすると、執事スタイルの白髪の男性と一緒に戻ってきた。

わたしは頭を下げた。

「モードさんに会いたいんです。強制依頼から帰ってこられましたか?」

「申し訳ありません。坊ちゃんは、まだ帰ってきておりません」

まだ、帰ってなかった。期待はしないようにしていたつもりなのに。

「……そうですか。……ありがとうございます。あの、また、来ます」

ペコリとお辞儀をする。肩のふたりが気を落とすなと言いたげにほっぺをなめてくれる。

「ティアさま、ですか?」

歩き出しかけて、振り返る。

「はい、ティアです」

そういえば、名乗らなかった。

「ディアンさまでもいらっしゃる?」

「あ、はい」

答えると、執事さんは優しく笑った。

「坊ちゃんは、まったく。あなたのことは手紙に記されていました。ただ、坊ちゃんの書かれた感じでは、あなたがもっと幼い気がしたので、言い出しにくかったのです。そうですか、あなたがティアさま。あなたがいらしたら、手厚くもてなすようにいいつかっております。どうぞ、中に」

わたしは両手を振った。

「いえ、大丈夫です。街にいます。また、きます」

わたしは頭を下げる。

モードさんは話を通しておいてくれた。ギルドにちょくちょく行って強制依頼のことを聞いて、あの執事さんなら、モードさんが帰ってきてくれたら取り次いでくれる。帰ってくれば、ちゃんと、会える!

やっと、やっと、モードさんに会えるかもが現実味を帯びてきた。

ここがモードさんの育った街か。

安そうなのをみつけて、とりあえず1週間宿をとった。

いつモードさんが戻るかはわからない。お金は結構あるけれど、備えあれば憂いなしっていうしね、と、わたしは森の採集にちょくちょく出かけた。

アークとソウショウとの特訓が実を結び、そこそこの魔物までならひとりでも狩れるようになってきた。ただ、大きいのだと持ち運ぶ振りをするのが大変なので、小さいものか、高額な採集物をメインにしている。

森の少し開けたところで、ご飯の作り貯めもした。いろんなものに挑戦した。終わりかけだったが秋の実りがそこらじゅうにあったのだ。なんとクルミもあった。驚いたのだが、春クルミと秋クルミが存在し、秋クルミは春のよりもっと大きかった。もちろん落ちた木の実を収穫した。たわわになった果物でジャムっぽいものも拵えられたし。山ぶどうがあったので、ワインも作ってみた。その場所は見目麗しい種族の見回り経路にあるらしく、怪しまれ話をしてから、わたしの作ったものを高値で買ってくれるお得意様になった。真冬になると森になかなか来れなくなり採集での収入が減るだろうし、冬は何かとお金がかかるので大変ありがたかった。

冬の気配も色濃くなり、手がかじかむようになってきた。

コートはもう買わないとかな。寒さが厳しい。髪もなんだかんだで伸びてしまった。どうやったのかはわからないけれど、わたしが意識を取り戻した時には染めた赤毛ではなく、薄い茶色の髪になっていた。ルークさんにどうやったのか聞こうと思っていたのに、忘れた。クーとミミが肩にいるので、髪は高いところでひとつに結んでいる。多少寒い時もクーとミミがいれば暖かくて、それもありがたい。ずっと一緒にいてくれるから淋しくないし。

『なーなー、ティア。俺しゃまは今日はティアの作るオムリャイスが食べたいぞ』

『わたしはハミュバーグがいいわぁ』

「マットマソースが切れてるんだよ。マットマは今売ってないからなー。ごめんね、オムライスは難しいんだ。ハンバーグもマットマソースをかけないでもよければ作れるけど?」

『えーーーーーっ』

ふたりから可愛いブーイングが起こる。

薬草を摘んでいるとアラームが鳴った。嫌な音。

木に登っとくか。わたしは苦労しながら、木登りをした。魔物をやり過ごすには結構有効なのだ。

のそのそと歩いてきたのは足の太い鹿みたいな魔物だ。トラジカか。お肉はおいしいけど、捌けないしなー。あの大きさだと持ち運びをする振りに苦労しそうだし、見送るか。

『やっちゅけてやろうか?』

気持ちはありがたいが、クーの猫パンチじゃ無理だと思う。

「持ち運びする振りするのが大変だから、関わらないでおこう」

『勘ぢゅかれたみたい』

ミミが不安そうに言う。

あ、目が合っちゃった。離れていったので、よかったと思ったのだが、ヤツはくるっと方向転換をして、わたしが登った木に体当たりしてきた。

「きゃーーーーっ」

木に必死にしがみつく。

ドシン。また揺れる。

トラジカは木を爪で引っ掻いた。猫が爪を研ぐみたいに、立ち上がって、大木に爪を立てる。バリバリとすごい音だ。

まさか、登ってこないよね? それはものすごく分が悪いんですけど。

と、トラジカが鳴いた。

「キーーーーー、キーーーーー」

予想に反して甲高い鳴き声だ。なんか仲間を呼んでるみたいで嫌なんですけど。

悪い予感ってなんで当たるんだろう。

爪を立てながらキーキー鳴くトラジカの後ろから、もう1匹が現れた。

うっそぉ。どうすんの、これ。

もう1匹も体当たりしたり、爪を研いだりし始めた。

『ティア、どうしゅる?』

『どうしゅるの?』

これは眠らせるしかないか。

「眠らせる」

わたしは眠り玉を呼び出す。手にふたつの木の実を握りしめた。

「お、トラジカちゃんが2頭も。なんだ、お気に入りの木か?」

場違いな呑気な声がする。

「おい、トラジカでいいよな?」

若い男性は後ろを振り返る。仲間に確認をとっているようだ。オーケーが出たんだろう。

「よっしゃ」

と向き直り、不意に木を見上げ、幹にしがみついているわたしと目が合った。濃い茶色の髪に、榛色の瞳で、体がすっごく大きい。それにムキムキ、強そうだ。

「そういうことか。坊主、怪我ないか?」

「ないです」

こんな会話をしている間もトラジカは目の前に現れた敵に攻撃を仕掛けたけど、男性は最小限の動きでトラジカの攻撃を避けている。足を動かしたと思ったら、トラジカを蹴り上げた。

あんな大きいトラジカを足だけで蹴り上げた。魅入っていたところに、もう1匹だろうか、体当たりされて、大きく木が揺れる。

「きゃぁーーーーーーーー」

「クーーーー」

「ミャーーー」

「坊主!」

胸に落ちてきたクーとミミを抱きしめて、痛みを覚悟してぎゅっと目を瞑る。地面への激突の痛みを覚悟したのに、力強い何かに抱きとめられた。

そぅっと目を開けると、嘘、夢?

わたしを抱えた彼は目を大きくした。わたしは呆然と呟く。

「モード、さん……?」

「ティア、か!?」

モードさんだ。目の前にモードさんがいる!

モードさんが動いた。さっと自分の肩にわたしを抱え込み、剣をふるった。クーとミミはわたしの背中に移動している。

2匹目のトラジカも動かなくなる。

モードさんがわたしをそぉっとおろす。クーとミミも地上に着地して、モードさんを見上げる。

ずーっとずっと会いたかったモードさんが、ものすごい優しい瞳でわたしを見た。