軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

91話 初めてのダンジョン⑩塔7階 黄金のカメ

軽く朝ごはんを食べ、7階へと続く階段を登った。

海藻のようなものがところどころ生えている砂地だった。岩が唐突にあって、なんていうか、海だったのに海水がなくなったように感じるところだった。水もないのに、潮の匂いがする。

急に日がかげり、上を見上げる。

空、だよね。水、浮いてないよね? 空をサメが泳いでいる。他、でっかい魚も。

え? あれ、マグロ? テレビの解体ショーで見たことのある魚だ。

「アーク、あれ、欲しい。あれ、うまい!」

アークの腕を引っ張る。

「何? うまいのか?」

アークの目がキランと煌めいた。

無茶を言った記憶はあるが、驚くほどの高さを飛び上がって、剣を振るう。2メートルはあろうかの魚を真っ二つに両断すると、ボフンと音がして大きな包みが落ちてきた。鑑定するとマグロ一揃え。大トロ、中トロ、トロ、赤身にカマ。至れり尽くせりだ。ああ、ワサビが、ワサビが欲しい。

「みんな、魚、ナマ、食べる、ある?」

「ああ、美味いよな」

と言ったのはロイドで、アークとソウショウは顔を見合わせている。外国の人は生モノが苦手というからな。生は新鮮な魚しか無理だし。海に囲まれていた日本だから、発展した食べ方なんだろう。

「ナマすっっっっごく美味い。むり、焼く。けど、一回、挑戦!」

わたしの勢いに押されたように頷く。

わーい、お刺身だ。寿司飯にまぐろ尽くしだ。

1匹を狩ったことで、わたしたちの存在が空飛ぶ魚たちにバレてしまった。

優雅に空を泳ぐ魚は、絶えずわたしたち目掛けて、攻撃してきた。

それをバッサバッサとアーク、ソウショウ、ロイドが斬りつける。ロイドは短剣で戦っていた。ドロップ品が地上にどんどん山となる。まさに、お刺身の山だ!

アンコウにフグまで。カツオも、アジも! アジも7、80センチはありそうな巨大サイズだ。アジも大好き! イカ、タコ! やだ、このダンジョン、天国じゃないか!

カツオもかつおぶしに挑戦してみようかな。カツオいっぱい欲しい!

わたしはドロップ品を回収してまわり、地上に生えているワカメや昆布と戦って、海藻をゲットした。やったー、昆布だ! 昆布が手に入った!

特に昆布を見つけると、戦ってすかさずゲットした。

戦うのに疲れがでた頃、セーフティスペースをみつける。わたしたちは休憩を入れることにした。

真っ白のご飯を炊く。

昆布をひとつだけ風魔法で強烈に乾かして、お鍋に水と一緒に入れて昆布水を作る。

ハマグリのお吸い物だ! このこは昆布に隠れてなんかいたから踏んでみたら、貝類がドロップした。

イカに味噌をつけて焼き、マグロのカマは豪快に塩を振って焼く。ワカメのサラダを作り、コンダイはできるだけ細く切ってツマにする。お刺身は一通り柵であるのを、少し厚めに切り分ける。

ワサビがないのは残念だが、お刺身が食べられるだけで、大満足だ。

スッタイに甘みを入れて火を通す。風で冷ましたら、炊き上がったご飯に混ぜて、寿司めしだ。ツマとワカメを敷いて、その上にお刺身を少しずつ盛り付ける。

「ナマ、ダメだったら、焼く」

そう告げてから、みんなでいただきますだ。

お醤油につけて食べるのを見せると、アークとソウショウは恐々とフォークを口に持っていく。

「う、うまい」

「美味しいですね」

「だろ?」

とロイドがなぜか嬉しそうにする。

そっからは刺身をいただきまくり、ちらしずしをかっこみ、お腹が膨れてもう食べられないとなるまで食べ続けた。

マグロの中トロがめっちゃ美味しかった。

イカの味噌焼きも美味しかったし、カマもレモンをぎゅーっと絞って、ほじくるようにしていただいた。ハマグリのおすましも全てなくなった。

ああ、やはり日本人は刺身だ〜。

「ダンジョン、生きてる?」

「知らなかったのか?」

「ダンジョン自体が魔物なのです」

ダンジョンは魔物を呼び出し、倒された物を養分とする、魔物だそうだ。恐っ。

ダンジョンとはの講釈を受けていると、ロイドが立ち上がったので、トイレかなと思った。

少し離れたところで急に手を動かしたなと思うと、立ち上がらせたらロイドのウエストほどはありそうな大きな金色のカメを捕まえてきた。

「食えるのか?」

呑気に聞いたのはアークだ。

「お前さん。ただの魔物ではなさそーだな?」

ロイドがカメに話しかける。ジタバタ手足を動かしてカメが喋った。

「こら、離さんか。我はダンジョンマスターなり。このダンジョンを統べるものだ」

黄金のカメが? 魔物は話せないってことだから、カメは魔物じゃないのか?

黄金色のカメは、ホリデのダンジョンマスターだという。魔物なのか尋ねると、人の区分けからいくと魔物の一種となるだろうとのこと。高位の魔物と思っていれば間違いはないと。

昔から人が押し寄せるということはなかったそうだが、この頃、人が全然来なくて、ダンジョンが痩せ細ってきてしまって困っているそうだ。そんなとき、7階が急に活気づき、人がいることに気づいて様子を見にきたところに、ロイドに捕まった、と。高位の魔物さんはわたしたちを傷つける気はないと言う。なので、ロイドはカメさんを離した。セーフティースペースに入れることからも、一般の魔物でないことは確かだろう。

「ダンジョン、痩せ細る、どうなる?」

「魔物を閉じ込めておけなくなって、飛び出た魔物が誰彼構わず襲うこととなるな」

それは大問題なのでは?

「養分が足りない、と?」

「ドロップ、返す?」

バッグを抱え込みながらもそう尋ねると、カメは首を横に振った。

「一度ドロップしたものは、ダンジョンの養分にはならん」

と言われて、ゲンキンだが、ほっとする。

「流行らせれば、いいんじゃないか?」

アークが案を出すと、黄金のカメは

「どうやって?」

んーー、とわたしたちは唸る。

「まぁ、今はな、この先のスノーレイクで異変があって、こっちには人が流れない状態なんだよ」

「何? スノーレイクで? 何が起こったんじゃ?」

「瘴気でやられたらしいぜ。魚は死に絶え、近隣の森にまで被害は及んでいるらしい」

カメが青くなった。

「スノーレイクには友人がいるんじゃ。無事を確かめなくては」

カメが短い手を左右に振り、何か唱えると、空中に縦に魔法陣みたいなのが浮かび上がった。

そしてその上でまた何か操作みたいなのをした。

ジーーーーーー、コロコロコロ。

音がする。まさか電話? ……に準ずるもの?

カメはその魔法陣に向かって話しかけた。

「あ、ルイルイ? ホリデのトボムだけど。なんかうちにきた人間から、スノーレイクが瘴気で大変って聞いたけど、マジ?」

なんかイメージが違う。軽すぎて嫌なんだが。どっちが素なんだろう?

「え? そうなの? ふぅん、瘴気は普通。人は少ないんだ。へぇー、ううん、無事ならいいんだ。ちょっと心配になってさ。うん、よかった。じゃあ、またね」

ごほんと咳払いをする。

「瘴気はいつもと違いはないそうだ。ガセだな」

うわぁ。ガセで観光地に人が来なくなるのは辛すぎるだろう。

「誰がそんなふうに導いたのでしょうか」

「ギルドに報告しないとだな」

ソウショウとアークが頷き合う。

「よかった」

「よかった?」

「瘴気、強い、魔物強くなる。魔物強くない、よかった」

だって強い魔物がまた出たら、モードさんたちにまた呼び出しがかかったりしちゃうんじゃない?

そんな怯えがあり、思わず言ってしまったが、魔物の親分さんの前だった。しまった。

ソウショウに頭を撫でられる。

「まぁな、嘘でよかったが。問題はどうしてそんな噂が撒かれたか、だ」

確かに。

でも、カメさんはなんで瘴気が増えたと聞いて、友人を心配するんだろう?

「友人、人?」

わたしは尋ねる。

いいや、とカメさんは首を横に振った。

「魔物、瘴気、増える、なぜ心配??」

さらに尋ねると、カメさんは複雑な顔をした。

「瘴気によって強くなることを喜ぶのもおるが、過ぎた力は苦しいだけじゃて」

「……苦しい、のか?」

アークが静かに尋ねる。

カメは頷いた。

そうなんだ? わたしは瘴気により魔物は活性化されて、喜ぶものかと勝手に想像していた。

「我ら魔物は、瘴気により強くもなるが、ありすぎれば毒となる。毒をくらわば、苦しくて暴走する者も出てくる」

「……苦しくて、暴れていた……」

ソウショウが茫然としたように呟く。

「我らも生き物ゆえ、生きるために捕食する。縄張りに何者かが入ってきても攻撃する。でもそれは人族を憎んでするわけではない」

そうか、瘴気は魔物にも必ず必要なものでもないんだ。それなのに、なんで瘴気なんてものはできてしまったのだろう。そして何故それをなくす手立てがないのだろう。

「魔王を、魔王を封印したから、人族を憎んでいるのではないのか?」

アークが尋ねる。

「魔王? 我らを統べる王などおらぬ。……ああ、あのことか。あれは人の子がそう呼ぶだけだ。あの愚かで天晴れな、哀れな子を。我らはあの者は人族の誰より尊敬しておる。だが、我らの王ではない」

高位の魔物はお互い話もするし、聞いているとどうやら民主主義みたいだ。みんなで話し合って、決め事をするらしい。そんでもってその構成員になるのには、認めてもらうことが必要で、こちらのカメさんはダンジョンを管理することで、高位の魔物の地位を勝ち取っているらしい。たまに野良ダンジョンがあるらしいが、ほとんどは高位の魔物が管理しているそうだ。

「先ほど、流行らせればいいと言っていたな。ダンジョンを流行らせるにはどうすればいいのだ?」

わたしたちは顔を見合わせる。

というわけで、ダメ出し大会となった。

「バランスが悪いですね」

「小物が出過ぎ。あれじゃぁ、疲れちまう」

「急に4階でレベルが高くなりすぎです。ポセッタンが大ボスなら、かなりレベルの高いパーティしか来れません」

「虫地獄、いや」

「リィヤ、ムカデの甲羅などは防具として価値が高いのですよ」

「でも、虫、すぎ」

「確かに女性に毛嫌いされそうですね」

「でも、全部ドロップするのはいいな。強みだ」

「全部ドロップ?」

カメが口を開く。

「ああ、今まで倒した魔物は全部ドロップしたぞ」

「我はそんなルールは作ってないぞ」

「やはり、違いますか」

「オレもお前たちと合流する前は、一度もドロップしてねぇしな」

ロイドも腕を組んでいう。

わたしたち3人は顔を見合わせる。

「お前たちの幸運値が高いんだろう」

ドロップ率は幸運値が関係しているらしい。そっか。幸運値は2桁いってるから足を引っ張らずにすんだみたいだ。

わたしたちはなんとなく頷きあう。

「7階、魔物、おいしい。二重丸!」

「選んでる魔物はそう悪くないけど、全体的にいっぱい出しすぎだな。あんな大量にこられたら、すぐ全滅だ」

「脱出、ある、同じ、次来る、クリア階、転移、ダメ?」

「ああ、それはできたら便利ですね」

「その赤子はなにを言っておるのだ? 意味がよくわからなかったのだが」

黄金のカメにも赤子扱いだ。わたしより小さいくせに。

「脱出用の転移場がありますよね? あのように、次来た時に、クリアした階へ上がれる転移ポイントは作れないのかと言っています。そうですよね、リィヤ?」

翻訳してくれたソウショウに頷く。

「それは、いいな。もしできるのなら」

「またイチから上がってくるのは大変ですからね。やはり時間がかかる分、食糧など持ち込むものが増えるので、長く潜るのが難しくなるんですよ」

カメが考え込む。

「できないことはない。ただ、問題もある」

「じゃぁ、一回、最後行く、たら、転移、好きできる。どう?」

「ああ、なるほどな」

アークが頷いてくれる。

「お前はその赤子が何を言ったのかわかったのか?」

失礼な。そんなわからないようには言ってないけど!

「クリア階へが難しいなら、最終の階までクリアできたら、次来たときは好きな階へ転移できるのはどうかって言ったんだ。それができたら、このダンジョンのウリになるぜ」

アークが頭を撫でてくれた。

改変したら、それを広めることが重要だが、アークたちがそれは賞金ギルドで広めるから大丈夫だと太鼓判を押した。

黄金のカメは、魔物の量のバランスは考えるといい、一度クリアしたらどの階にでも転移できるメダルを授けることにする、と言った。その者しか所有してても発動しないメダルだそうだ。故に売り買いは意味がない。あの団体が半分ぐらいになれば、初心者でもなんとか頑張ればいけるレベルだろうと、アークたちは言った。

いい時間になってしまったので、夕飯分の魚を獲って、その日は休むことにした。ダンジョンマスターのトボムさんは、改変のためにやることがいっぱいあるとウキウキと最上階の部屋へと帰って行った。

ドロップ品に関しては、5階の防具だけでも全部おろせばかなりの額になると見込んでいるみたいで、他は全部わたしが引き取ってもいいとまで言ってくれる。だから、明日、この階のボスを倒して終わりにしようということになった。

最後のダンジョン内の晩餐は、生の海の幸と、海の幸のシチューだ。シチューには、街で買ってきたパンを温める。好き嫌いの別れる雲丹と牡蠣もみんないけた。雲丹がね、もうその塩味だけで十分なんだよ! 牡蠣はね、レモンをぎゅっと絞ったのと、ポン酢を作ってみた。昆布で昆布水を作ったから、それとノープラン出汁のモトを混ぜたのと、醤油とお酢とミリョンを絞る。牡蠣も濃厚でヤバかった。美味しすぎる! ドロップした牡蠣は二枚貝が閉じている状態で出てきて、どうやって開けるか悩んだんだけど、ロイドが爪でチョンチョンと貝をいじると、パカっときれいに開いた。

海の恵みがふんだんに入ったシチューは、旨味がぎゅっと詰まっていて、お皿まで舐めたいぐらい美味しかった!

ちなみに朝ごはんは、昨日の残りのお刺身で刺身茶漬けだ。お刺身はちょっと甘くしたお醤油に漬け込んでおいた。野菜も塩でもんでおこうこも作っておいた。ほうじ茶に似た味になる葉っぱのお茶と昆布だしで割った熱々のスープを、ねっとりしたお刺身をおいたご飯の上からかける。お刺身に少し火が入ってトロッとするのも醍醐味だ。だし汁をかけるだけの方がいい人もいるだろうな。わたしはそこに苦味を効かせた方がお刺身の甘さがいきてきて好きなので、お茶も入れてしまう。お腹もじんわりあったかくなり、みんな満足げにごちそうさまをした。

この階のボスはエイザメだ。尻尾に毒があるらしい。動きは早いけど、3人が揃ったら、敵ではない。あっと言う間に、ドロップした。

お刺身やら何やらいっぱい飛び出した。ほくほくと拾う。

階段が出てきて、その隣に、非常口のピクトグラムがあった。

「トボムさん、またね!」

わたしは最後にダンジョンを見回して、ダンジョンの主、ダンジョンマスターに声を掛ける。

「お前たちは特別じゃ」

言葉が響いた。

と同時に右手に何かを持っていた。みんなもそうみたいだ。そっと手を開くと、コインのような何か。亀の甲羅のようなものが描かれた金色のメダル?

「このダンジョンのパスポートだ。いつでも好きな階から攻略できるぞ。本来は25階の最上階を攻略したものにだけ与えるものだが、特別だ。少し融通をきかせてある。お前たちには感謝する」

わたしたちは顔を見合わせる。

『加護が追加されました』

頭にアナウンスが響く。加護?

こっそりステータスを確認すると、ダンジョンマスターの加護というのが増えている。

ダンジョンマスターの加護って……なんだ、そりゃ。

でも、まぁ、ありがたいことだよね。

「ありがとう!」

見えているかはわからないけれど、手を大きく振って、非常口から一歩を踏み出した。