軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

75話 影との取引

街を抜け出して、門を通り過ぎ、森の中に入る。息を整えて、探索をかける。

人?

と思ったときには、目の前に銀髪の影さんが立っていた。

もう、次から次に、何⁉︎

「ヤマダハナコ様ですね」

わたしはヤマダハナコじゃない。

「違うけど、あんた誰? なんなの?」

「嘘は言ってないな」

「わたし、急ぐんで」

横を通り過ぎようとしたのを手で止められる。

「見えなくなるだけでなく、照合にも引っかからず嘘をつくことができ、姿も変えられるんですね」

「何言ってんの?」

もう、やだ、ここの人たち。

「調べはついているんですよ?」

カマかけに決まってる。だって、最初に領主の家を聞かれた時、この人はわたしなんか気にも留めなかった。それが今日急に調べがついてるって? そんなのおかしすぎる。

「何、人違いしているのか知らないけどさ。急いでんの。どいて」

強引に横を突破して、歩き出す。

影はついてくる。いやーーーーーーーーーーーっ、なんなの?

「あなたは私を知っているでしょう?」

スラムの仕事で多少は体力がついたようで、少し長く歩けるようになった。探索をかけて、3キロ内に何かあればアラームが鳴るように設定をする。そんでわたし的にはたったか歩く。

「私はヤマダハナコ様にお会いしたことはないんですけどね、一方的に知っているだけで。城からいなくなられた日のことを近隣で十分に調べ上げました。そうしたら、一つの酒場でおかしなことが起こっていたんです。みんな酔っ払いがひとりごとを言っているだけだと思っていたのですがね。その商人は誰かと話していたというんです。ま、酔っ払いの話なので、話半分ですが、それでも気に留まることはありました。

その誰かは商人の話を聞きたがったそうです。それが、商人ならではの話を聞いてきたのではなく、誰でも知っているような常識を聞いてきた、と。近隣の国の情報、日付、時間を気にして。それと魔物の程度ですね。まるでこの世界のことをよく知らない人が、他の国に逃げようとして得たかった情報みたいじゃないですか。そしてその者は誰にも見えていなかったと。

王子の部屋の前には騎士がいて、誰も部屋から出て来なかったと言いました。だから魔法で移転したのではと思ったのですがね。あの場にいたのかもしれませんね、ただ人に見えていないだけで。そうすると、私を知っていてもおかしくないのですよ。あなたは私を知っていましたね。だからさっきも、街でお会いした時も、私を見て驚いた」

こわっ。

「目の前に急に人が現れたり、声かけられれば、驚くだろ、普通」

影はわたしの発言を華麗に無視する。

「その日、アルバーレン王都付近にいたもの全てと話をしました。ある農村の親子が野菜をおろしに城下町を訪れていました。その馬車は帰り道、検問を受けましたし、不自然なことはなかったとのことなのですがね、子供が面白いことを言っていました。夜に不思議な音を聞いたと。父親に訴えても気にするなとばかりで。そして父親は言ったそうです。何か悪いものならとっくに仕掛けてこられている。そうじゃないのは悪いものじゃないからだ、と。害があるわけじゃないのだから放っておけとね」

あの親子はわたしの気配に気づいていたのか。音が聞こえたあの場限りじゃなくて、馬車に乗っていたのもバレていたみたいだ。

「親は目をつけられるのを嫌がってでしょう、何も話したがりませんでしたが、子供が教えてくれました。次の日馬小屋に不思議なことが起こった、と。馬に水をあげるのが自分の役目だが、いつも重たいバケツをうまく運べずに水をこぼしてしまう。地面が濡れているのは馬にも良くないことで親にも怒られるが、その日は褒められたそうです。ぬかるんだ地面に土を盛り、飼い葉を撒いたことをね。褒められてしまって、自分はやってないと言い出せなかった、と。一体誰が、どんな理由でやったんでしょうね?」

わたしが頭を使い良かれと思ってやることは、大体自分の首を絞めるようにできているらしい。

「その親子の住むレトロ村には村を囲う塀も柵もありません。必要ないんです。囲んでいる森が危険な森なので、誰も入ったりしません。子供でもね」

危険な森だったんだ。

「森には魔物もいません。あの森はどこかの森に繋がってしまうのです。あの森で行方不明になり、危険区域の森で死体でみつかったこともあります。危険なこともあれば、運が良ければ、デシュエルトとレティシアの間の森に。あの森にはミシェールという名前がありますが、誰もそうは呼びません。転移の森と畏敬を込めて呼ぶのです。もし何も知らない誰かが騎士が来たことに驚いて森に逃げ込んでいたら。運よく近場の森に転移していたとしたら。デシュエルトかレティシアに潜伏している可能性があると思いました。商人からデシュエルトは閉鎖的と聞いているから、レティシアに分があるとも」

知らなかったとはいえ、わたしも危ない橋を渡っているなぁと人ごとのように思う。

「デシュエルトとレティシアで、ヤマダハナコ様を探しました。そこで王子が変なことを言うんですよ。魔法で年齢を変えることができるのか、と。

どんな魔法でも、見かけを騙せるだけです。鑑定などですぐにわかります。そう申し上げました。

最初は男の子のふりをしている女の子がいると思ったそうです。旅するには良くあることだし、小さいので関係ないとは思ったそうですが、目があった時に、3歳くらいの少女は王子に見惚れなかった。王子は驚いたようです」

どんだけ、容姿に自信があるんだ。3歳児に何を求める!

「見所があると思ったそうです」

そんな理由だったのか、心から、バカバカしい!

「3歳なのに、字も地図も読めて、外国語にも堪能。そして王子に突っかかる気概もある。そして仕草のひとつひとつに、やることに、ハナ様を思い出したそうです。

姿を変えるだけでなく、子供になることはあるのか尋ねられました。わたしは聞いたことがないと答えました。そしてあるわけないと思っていました。あなたに会うまでは。ヤマダハナコ様ですね?」

「違う」

一言で斬る。ずいぶん詳細を調べ上げ、ピンポイントで確信しているようだけど。

詰まるところ、わたしが影を知っている、イコール普段表に出ない影を見知っている可能性があるのは、あの時王子の部屋で見えないけれどいたかもしれない(仮定)ハナだけっていう推理だけでカマかけようと?

人から姿を見えなくする力があると仮定し、その動きを追い、確率高く潜伏していると思われる場所にハナを彷彿させる3歳児がいた。年齢まで変える魔法はないはずだが、3歳児になれるなら、今の9歳のわたしがハナが変化した姿でもおかしくないって理論? なんの確証もなくただの勘だけだ。お粗末すぎる。

……ただその勘が結局当たっているから侮れない。突っ込みたいけど、最終的には事実だから 突(つつ) いて 藪蛇(やぶへび) になっても困る。突っ込みはナシで子供の観点で。そう、ただうるさくて、ついて来て欲しくないんだ、わたしは。

「あんたさっきっからペラペラ、なんなの? うるさいんだけど。それからついてこないでくれない?」

早くどっか行ってくれないとマジックバッグをよび寄せられないんだよ。今魔物が来るとまずいんだよ。

「まだしらばっくれますか? あなたが今まで私の話を聞いていたのが、何よりの証拠ではないですか」

「別に興味がないから放っておいたんだよ。あんたほんと、うざいんだけど」

木の根に転びそうになったら、影に腕をとって助けられる。お礼を言うところだけど、わたしはなるべく嫌な態度で腕を振り切った。

「ハナ様、アルバーレンへ参りましょう」

「わたしの話聞いてる? 違うって言ってるのに。でもこれじゃあ平行線だね。そうだ、取引しない?」

「取引、ですか?」

わたしは立ち止まって影を見上げた。

「あんたがベラベラ話すからさ、聞くとはなしに聞いていたけど、あんた、そのなんとか様を連れて帰らなくちゃいけないのに、あんた自身は連れて行きたくないんだろう?」

「何をおっしゃるんです?」

顔が強張っている。

「ただの子供に敬語なんて使わなくていいよ。あんた自身はなんとか様が気にいらないんだろう?」

「な、何を」

案外、表情は豊かだ。ものすごく焦っている。

「子供だって、そんくらいわかるさ」

わたしはニヤリと笑ってみせる。

ハナだと思うなら、こんな子供なんだから、抱え上げれば済む話だ。それを長々とどうでもいい話をして、こっちの出方を見ている。わたしがハナじゃない理由を探している。それなら大義名分をあげよう。

「わたしはあんたが探している人とは違う。付いてきてほしくない。あんたもそのなんとか様をみつけたくないんだろう? だから、あんたはこのままそのなんとか様探しを続ければいい」

「私に主人に噓を吐けと? 私になんの利益が?」

知るか。わたしは前を見て歩き出す。

「嘘じゃないし。間違えているから手間を省いてやってるんだけどさ」

それにしても王子はどうしてヤマダハナコを探すのか。

「そもそもその王子さんは、なんでそのなんとか様を探しているんだ?」

「それはいくつか理由がありますが、ひとつは王子の願いを叶えるのに、聖女様の協力が必要で、その聖女様がハナ様を望んでいらっしゃるから、ですね」

振り返ってみると、忌々しそうな顔をしている。ハナのことを相当嫌いだな、影は。

「聖女様が塞ぎ込んでおります。元気がありません。このままでは、願いを叶えるどころか、聖女様が壊れてしまうかもしれません」

聖女ちゃん、何があったんだ。

「……どんな様子なの?」

「どんな様子、とは?」

思わず振り返る。影は首を傾げている。

「だから、元気がないと言ってもいろいろあんだろ?」

「そうですね、何人もの恋人ができて楽しそうにしていらしたのですが」

何人もの恋人??

「元々、食が細かったのに、食事をおろそかにするように。それから、時々塞ぎこまれるようになりまして」

ああ。途中聞き捨てならない言葉もあったけど、事情はなんとなくわかった。

「取引しようよ。あんたはわたしについて来ない。わたしはその人が元気になる秘策を教えてあげる」

立ち止まって条件を告げると、影は目を大きく見開いた。

「どうする?」

「その秘策とやらで元気になるかは、教えてもらった時点ではわからないですよね。あなたにいい条件すぎませんか?」

「嫌ならいいよ。あんたの勘違いなんだから、わたしはいいんだよ。うっとうしいから追い払いたくて条件つけてやってんのに」

「……本当に元気になりますか?」

「さあね」

「わかりました。今は見逃します。秘策を教えてください」

取引成立だ。

「あんた、気のきく人?」

「は?」

「どこかに行った時はお土産買ったりする?」

重ねて尋ねる。

「お土産ですか? いえ、わたしの存在はあまり知られないようにもしておりますし」

だろうね。気が回らない人に見えるもの。

「じゃぁ、今回はさ、その人が心配で元気づけようと思ってお土産を買って帰るんだ」

「はぁ」

気の抜けた声を出す。

「他の国の珍しい香辛料とかを買っていくんだ。そうだね、イースターの調味料なんかは特にいいよ。紛れ込ませておくといい」

「香辛料に調味料、ですか?」

「その人はお城の料理の味に疲れちゃったんだよ。味に変化を持たせれば、食事が取れるようになるよ」

最初にわたしが塩だけの味付けに 辟易(へきえき) したように。

「味に変化……食事……」

「じゃあ、ついて来ないでね」

わたしはもう振り返らずに、レイザーに向かって歩き出した。