軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74話 君を想う⑩知ってた

自分の荷物は元からアイテムボックスの中だし、みんなへの贈り物は何度もチェックした。みんなに手渡すのは照れくさいので、これはもうソングクに任せてしまおう。

新しい暮らしが軌道に乗ったと、みんな手応えを感じているはずだ。来月には正式にボスはエバンスに譲り、エバンスは年長組と年少組を盛り立てる。トーマスたち13歳と12歳組はスラムの運営を本格的に考えていくという。わたしができそうと思ったことはやりきったと思う。食堂の看板メニューも決まったし、屋台というかお店の設置などは、わたしよりみんなの方がうまくやるだろう。

あとはちびちゃんたちに明日出ていくことを告げるだけだ。どう切り出そうかと思うだけで、心が痛くて、泣きそうになって、いい言葉を思いつけない。ため息をつくとソレイユに散歩に誘われた。断る理由もなかったので、ソレイユとふたりで歩く。

そうだ、散歩の帰りに市場に寄って、卵とコッコのお肉を買ってこよう。今日の当番を代わってもらって、オムライスを作ろう。オムライスを食べたら、絶対コッコを飼いたいというわたしの気持ちがわかるはず。

マットマソースでケチャップご飯が作れるからね! 丸ねぎと、にんじんと、マーピン(ピーマン)を炒めて、コッコのお肉と合わせ、ご飯とマットマソースでケチャップライスだ。包む卵は……そうだな、メイとカルランとアルスはトロトロ半熟の卵が好きそうだ。トーマス、ソングク、リック、ナッシュ、チャーリー、エバンス、ラオスは、お塩を足した少ししょっぱ目の卵がいいだろう。反対にブラウン、ベルン、ケイ、マッケン、ルシーラはちょっと甘くした卵で包もう。クリス、ソレイユ、ホセは焦げるくらいしっかり焼いた卵が好みだ。多分。マーピンは好き嫌いが分かれるところだけど、不思議と卵とマットマソースに騙されておいしくいただけちゃったりするはず。マットマソースはまだまだ作り置きがあったはずだから、卵の上にもたっぷりね。付け合わせは簡易ピクルスをチャチャッとつけ込んで、スープは丸ねぎにしよう。こうやってみんなの顔を思い浮かべながら献立を考えるのも最後か……。

川原に続く道で、ソレイユが切り出す。

「本当はね、この大陸にはラオスのお嫁さんを探しにきたんだ」

「ラオス、9歳だよね?」

わたしは驚いてソレイユを見上げる。あ、でも貴族や王族だったら婚姻は早いからおかしくないのか。

「そこに驚くんだ。大陸違いなことはわかってた? そういえば最初に僕たちを貴族だと言ったね」

「え? ああ、髪の色が珍しいとは思ってたから。服がきれいだし、いいとこの出だと思ったよ」

わたしはなるべく無邪気に聞こえるといいなと思いながら言った。

ソレイユは 瞬(まばた) きで、わたしの答えをいなす。

「アルバーレンの側室の噂、知ってるだろう?」

「実は聖女で、子供を産んだってやつ?」

ソレイユはそれそれと頷いた。

それを元に噂作ったしね、知っている。

「アルバーレンが聖女を召喚した。鑑定できるものが探ったところ聖女はアルバーレンにいた。浄化の能力があるものはそのものしか見当たらないそうだ」

そりゃそうだ。

「でも、もうひとり、聖女を召喚しているんじゃないかと思われている」

「側室のこと?」

もうどこにもいない側室は浄化能力ないけどね。

「側室はどこまで本当なのかはわからないけれど、もうひとり浄化能力があるものがいて、アルバーレンはそれを隠してるんだろうって言われているんだ」

「浄化能力がある人はひとりしかいなかったんでしょう?」

「子供を産んで、能力が消えたのかもしれない。具現していなくてもその能力は受け継がれているかもしれない」

疑い深いな。

「側室騒動のとき、女性を調べていたのに、たったひとり例外がいたんだ」

例外?

「3歳くらいの男の子がレティシアで調べられている。その少年は君と同じ茶色の髪に、君と同じ葉っぱ色の瞳の色だそうだよ」

「ありふれた色で悪かったね」

動揺したのを見破られたくなくて、強い調子でガラ悪く言っておく。わたしの合いの手を気にせず、ソレイユは続ける。

「結果はシロで、ただその者たちはすぐに身を隠したらしい。その3歳の子が王子の子供なんじゃないかと」

妄想膨らませすぎ!

身籠った人が逃げた仮定で、身籠るのが十月十日じゃないとしても、産む直前に身を隠したんだとしても、すぐ3歳にはならないだろう。突っ込みどころが満載すぎて、開いた口が塞がらない。

「……アルバーレンの子は生まれてすぐ3歳になるの?」

「まぁ、そんな時期なんて、いくらでも誤魔化せるだろう」

いや、月単位は誤魔化せても年単位はいくら何でも無理だろう。無茶苦茶だ。

「本当はもっとずっと前に聖女召喚が成功して。王子と愛しあい子供を産んで能力がなくなり、慌てて新たに聖女を喚んだのかもしれない」

ど、どこまで話は膨らむんだ。

「とは大人の考え。僕はめちゃくちゃなこじつけだと思っている。でもそれを理由に国を出て自由にできるから、話に飛びついたんだ。聖女の子供をラオスの嫁にって」

「男の子なんじゃないの?」

「君みたいに、偽ってるだけかもしれないだろう?」

なんてこった。噂って本当にいい加減で、大迷惑だ。

「なんにしても、ただすがりたいだけなんだと思う。浄化できる 唯人(たたびと) の存在にね」

「今まで、何百年も浄化の力がなくてもなんとかなってきたのに?」

瘴気により深刻な問題があってさ、にっちもさっちもいかなくてすがりたくなるならわかるけど。

「人って強欲だよね。聖女召喚の魔術を奪いに、今アルバーレンは大変なんじゃないかな」

そうなの? それなのに、王子はこの国に来たの?

「ここでの時間はとても楽しかった。けれど、ただ楽しい時間は終わりだ。自由時間は終わりにしようと思う」

その言葉にどきりとする。

「わたしも同じこと考えてた」

あまりに居心地が良くて楽しかったから、長く居すぎてしまった。休み時間が、時間を決められているのはだからなのかもしれない。時間を決めていなかったら、楽しすぎてだらだら延ばしてしまう。休んだら、自由を満喫したら、動き出さなくちゃね。

「聞いた。年長組だけね」

そっか。ちびちゃん以外はもう知っているのか。

「だから、ちょうどいいと思ったんだ」

そうか、ソレイユたちもアジトを出て行こうと思っていたのか。ラオスのお嫁さんはみつけられずに?

「っていうか、ラオスのお嫁さんってことは、ソレイユはもうお嫁さんいるの?」

だってお兄ちゃん先だよね、やっぱり。

「嬉しいな、気にしてくれるの?」

ソレイユはにっこり笑って、わたしの髪を急に撫でた。びっくりだ。

「髪を伸ばすといいよ」

知的先輩タイプだ。成人してないのに色気のある末恐ろしいお子様だ。

「ここでいるかどうかもわからない聖女の子供を探すなんて荒唐無稽だと思っていたんだ」

わたしの質問には答えない。

「ラオスの嫁はみつけられなかったけど、得るものはあった。ねぇ、私の国に来てくれないか。仕事もみつけるよ」

口調が少し変わる。なんでだろうと思って、一人称が僕から私になったんだと気づく。

「わたしは行かない。行くところがあるんだ」

帝国に行ったら、ますますエオドラントから遠ざかってしまう。

「そっか。でも、ごめん。それは聞けないな」

ソレーユが手をあげると、2人の大人が出てきた。

こちらに向かって歩いてくる。目の前にいるのはいつも助けてくれたソレイユなのに、違和感を感じる。

「何? どういうこと?」

「この国は君みたいな頭のいい子を放っておいて、本当に勿体無いことをしている。ただ噂を確かめにきたアルバーレンの王子でさえ、君を知ったら欲しがったのに。私が君の能力を存分に使える舞台を用意してあげる。私と一緒に私の国のために、尽力してほしい」

「ごめん、行けない」

「会いたい人がいるんだっけ? 連れてきてあげるよ」

「だから、そうじゃなくて」

「それに子供に伽をさせようとする輩は一切近づけない」

子供に伽って、ああ、あの会話をそうとったのか。

「アジトのみんなと君がきちんと別れてから切り出すつもりだったんだけど、一部キナ臭い動きがあってね、そうも言っていられなくなったんだ。そこは謝るよ。でも、不自由はさせないから、一緒に来て欲しい」

「だから、嫌だって言ってるんだけど!」

人の話を聞かないやつだ。この会話の不毛さは覚えがある。

「ランディ、言っても無駄だよ。ソレイユは君を連れて行くって決めているんだから」

「アルス」

わたしの手を引っ張って、後ろに下げて、前にアルスが立つ。いつの間にかトーマスもいる。

「若君?」

大人たちがソレイユにどうするか尋ねると、ソレイユは大人たちを手で制した。

「君たちも私の国へ行かないか? 仕事は用意するよ」

「あんな、してあげるって気持ちになったら、それはもう、友達じゃないんだよ」

トーマスがかっこいいことを言った。

「貴様、この方をどなただと」

「やめろ」

ソレイユが再び止める。

「そっか、私は基本的に間違っているんだね。今の結構、胸にきたよ。上手くできていると思ったんだけどな」

「ランディ、逃げろ」

アルスが振り返って小声で言った。え?

「ソレイユたちは多分、貴族だ。権力を出されたら僕たちでは守れない」

「行くとこ、あるんだろう? 会いたい人がいるんだろう?」

トーマスも私の前に出る。

ふたりはソレイユの暴挙を止めてくれるつもりだ。

そりゃ、明日出ていくつもりだったけど。こんな形じゃなかったはずなのに。

でも、そんなことを言っている場合か? ソレイユは貴族どころか、王子と同じく王族だ。王族のとる暴挙は半端ないことをわたしは知っている。ぐっと唇を噛み締める。

「……メイとちびちゃんたちと、みんなによろしく。あと、ソングクにみんなに渡してって言ってくれる? そしたらわかってくれると思うから」

「ああ」

「ソレイユ、いっぱい助けてもらって感謝してる。ありがとう。それだけにこんなお別れで残念だけど、わたし行きたいところがあるから一緒には行けないんだ。ごめん、元気でね」

ソレイユは虚をつかれた顔をした。

「アルス、トーマス、ふたりともありがとう。楽しかった!」

そういうとふたりが振り返った。

にかっといい顔で笑ってくれた。

「気をつけて!」

「お前、どんなズルしてもいいから絶対死ぬなよ。何をしても、生きるためなら俺が許す」

トーマスは絶対的なお兄ちゃんだね。丸ごと受け止めて信じてくれる。こちらの世界でわたしを認めてくれた人。

「俺が力を持つまで、絶対、生きてろ」

「うん、わかった! ……あのね、わたし、みんな大好き」

いい言葉、こんな時に相応しい言葉があるだろうに、何も思い浮かばない。とても 拙(つたな) い事実だけ。

トーマスとアルスは顔を見合わせた。そしてわたしを見て笑って声を合わせた。

「「知ってる!」」

わたしの想いは伝わっていた。

「「またな!」」

「またね!」

わたしは駆け出す。追いかけようとしてきた大人たちを土魔法で転ばせる。ソレイユはアルスとトーマスが止めてくれている。

みんなにきちんとお別れできなかったけど、そうしたら泣いちゃうかもしれないから、いや、絶対に泣くから、これで良かったと思おう。

危険はどこにでも潜んでいて、いつどうなってしまうかなんて誰にもわからない。

景色が歪んだ。胸が苦しい。鼻も出てくる。苦しい。とても、苦しい。

みんなに会いに来たいけど、成長しちゃったら、もう会えない。

メイ、ベルン、クリス。チャーリー、ルシーラ、リック、ホセ。

エバンス、ケイ。ブラウン、ナッシュ、カルラン、マッケン、ソングク。

アルス、そしてトーマス。

みんなの顔が、浮かんでは消えた。

そっか、もう会えないんだ。急激に哀しくなったけど、……振り返らない。

わたしが行く道を決め、その道がここではないことを、ほかでもないわたしが選んだのだから。思うまま、進め。やり遂げろ。みんなと対等でいたいのなら。

わたしはみんなが大好きだ。この気持ちは 失(な) くならない。思い出も、想いも、決して失くならない。何も失くならない。だから、泣くな。

行く道は違うけど、わたしたちは繋がってる。どこにいても、わたしたちは家族なのだから。