軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

46話 君が教えてくれたこと①広がる未来

「これ、売れるよ」

そう言ったのは12歳のブラウンだ。

わたしと同じような茶色の髪に、暗い色の瞳をしている。

「ありがとう」

そんなにおいしかったかと感慨深くお礼をいえば、顔をちょっと赤くして世辞じゃなくて本当だという。

かわいいなぁ。

子供はお芋好きだよね。

昨日川原で煮たスジ肉は、万能の素晴らしい食材となった。

まず、スープ。スジ肉から旨みが出て、とんでもなく美味しいものができた。

そしてメインのとろプル肉は間違いなくおいしい。これはいろんな味付けで、お肉を食べることができる!

やっと、とろプル肉のお披露目ができた。塩味の野菜とスジ肉のシンプルなスープ。わたしはチャーリーに、お肉のおいしい食べ方として、みんなにまずちびちゃんたちがお肉を食べるところを見るよう、伝えた。

初めてのとろプルに出会ったちびちゃんたちは、一瞬表情をなくし、次の瞬間には紅潮させた頰を押さえて、夢見るような瞳になった。そして

「おいしいねぇ」

「とろっとしてるのにお肉だ」

「ねっとりしてる!」

と感嘆の声をあげる。もう、もう、もう!

そしてお兄ちゃんたちも同じ感想を持ったのだろう。ちびちゃんたちを見て、ぽやっと幸せそうな顔をしている。きっと琴線に触れるどころではなく響くと思ってた!

ちびちゃんたちを堪能してから、とろプルお肉でも感動してくれたのは言うまでもない。

スジ肉はそれだけではない。

スープが冷めると目論み通り上に膜が張った。脂だ。わたしはこれを集めた。

みんなで大量に獲ってしまった小魚と、ジャガモを、魚は小麦粉をつけて、ジャガモはそのまま揚げ焼きした。そして塩を振っていただくと、もうみんな大興奮。

やはり、食べ物は人を幸せにする。

「ねぇ、ボス、どれも売れるよね?」

「売れるぐらいウメェが、そううまくはいかないだろうな」

「どうして?」

「まず、売る手筈がない。ランディ、商人ギルドに登録してるか?」

「してない」

「売るほどの材料が確保できる算段がない。材料が確保できて、商人ギルドに登録したとしても、今はこうやって木皿に入れてみんなで回しているが、屋台で売ってるのは包まれていたりなんだり考えられているだろう? ああいうことができるとは思えない。売り子、作る者、材料を確保する人の人件費。最初はなんだって金がかかる。その金もない」

トーマスが順序立てて説明するとブラウンは下唇を噛みしめた。

「ブラウンは、商売に興味があるの?」

わたしが聞くと、ブラウンはビクッとした。情けなさそうに笑いながら言う。

「スラム出身は、商人なんて無理かな?」

「簡単だとは思わないけど、それはどこ出身だからってわけじゃないよ。やりたいと思ったことは挑戦した方がいい。自分の人生なんだから」

「ブラウン、なんだ商会に興味があるなら、早くいえばよかったのに。明日からまず商会の仕事から当たれ。他のヤツもやりたいことがあるなら言えよ。被らない限りはやりたいことをやりたい奴がやった方がいいと思う」

トーマスが言って、アルスも頷く。

「そうだね、明日からやりたい仕事を立候補方式でいこう」

みんなの目に力強さが宿っていく。

そうだよ、やりたいことをやるのがいい。

楽しく暮らすのがいい。

もしそれをスラム出身だとか保護者がいないからとか阻む物が現れたら、そんな考えはぶっ飛ばしちゃえ。柔軟に新しいルールを作り上げていけるみんななら、どこに行ってもどこに向かっても、きっと佳く生きていける。

「あのさー、ボス。考えたんだけど、おれ、洗濯好きだなって思ってさ。汚れてるって思ったのが落とせると、すっごい気持ちいいんだ。だからみんなの洗濯おれがやりたい。それでさ、うまくきれいにできるようになったら、それを仕事にできないかと思ってさ。みんな一緒に考えてくれないかな?」

「そっか、リックは洗濯が好きだったか」

10歳ののんびりした男の子リックは、ボスに力強く頷く。

「そうだな、みんなで考えればいい案浮かぶかもしれないしな」

男の子って急に成長したように感じることがある。

女子の髪を引っ張るイタズラしかできないお子様だと思っていたら、怖い上級生に言いがかりをつけられたとき、間に入ってくれて、まあるくおさめてもらったことがある。いつもくだらないことばかり言っていたのに、ちゃんと話せるんじゃんって、あんときは感謝そっちのけで心底驚いたっけ。

わたしが学生の頃は、荒れた時代のずっと後なので、窓ガラスが常に割れていたり、学校の3階から机が降ってきたり、廊下をバイクが走ったりすることはなかったが、地域名を言うと「机が降ってくるんだろ?」と聞かれるぐらいに荒廃した学校が記憶に残っている世代ではあった。自分から夜の繁華街に繰り出さなければ、そこまで危険はなかったけれども、部活後の帰り道や、塾など習い事の帰り道などは、覚悟のいる時間だった。

やんちゃに憧れた人たちが夜道にたむろするのは当たり前で、それも歩道の両側に座り込むので、絶対にその真ん中を歩くことになり、ほぼ洗礼を受けることになる。学生だと通るときはかなりの確率でどこの学校か聞かれる。

そういう方たちは縦社会なので、先輩や派閥が大切になってくる。わたしは補欠でも運動部に所属していたし、学校は違くても姉がいたので、人脈が発生し絡まれることはあまりなかった。わたしは会ったこともない何代も上のソフト部のなんとか先輩を知っている、とか。姉が中学生のとき何年何組だと伝えれば、姉と同じクラスだった人がサッカー部のキャプテンで、そのキャプテンが行った高校の先輩が自分の兄の友達だとか。姉も知らない人脈が発生し、もう聞いていてどこに繋がりが?とか思ってしまっても「そうなんですか」としか言えず。けれども、それで免れられるのである。勢力図なんて入り組んでいて凄くてさ、ちょっと聞いただけで、わたしは覚えられないと思った。彼らは絶対歴史とか覚えるの得意だと思う。いや、あの時の勢力図の方が入り組んでいたのでは?

たむろしている方々に同じ学校の人がいれば絡まれることはそうないが、敵対している学校とかだとバレるとめんどくさい。一般生徒であれば暴力沙汰にはならないが、トップに伝言を頼まれるのだ。どうでもいいことを。そうやって一般生徒が自分たちのシマに入ったが、何もしないでいてやるぜ、へへん、というのをわざわざ伝えるのだ。家と習い事の通り道をシマ通ったって言われてもほんっと困るんだけどね。一般生徒としては、同じ学校でもトップとは隔たりがあり、はっきり言って怖いし、いきなり話に行けるものではないから心からやめてほしいのだが、暴力沙汰よりはマシなのだろうか。そう、いきなり話しかけられない。繋ぎがいるのだ。とにかく人脈を使って、紹介に次ぐ紹介で挨拶に行って、やっとトップとの御目通りとなるのだ。それがめちゃくちゃめんどくさい。でも、伝言は伝わってないことがわかると『メンツを潰された』問題に発展するのでそこは避けたい。

彼らは情報通で、何か敵対するものがあった時の団結力は素晴らしい。だからそういう序列や報告を無視すると、家は知られるので、夜中にパラリラーとのぼりをつけた先輩のバイクで徒党を組んで騒がれ、家族や近所に大迷惑をかけることになるので、子供といえど、そこらへんは自分でなんとかしないとまずかったのだ。大人は大人の世界で大変だろうけど、それを真似た子供たちにも独自の世界があり、その不可侵な領域は時には安堵しながらピリピリしていたような気もする。

とにかく自分を守るために人脈は大事なので、顔がきく人とは顔見知りぐらいでいいからなっておくのが得策である。仲良くなくても、挨拶しかしたことがなくても、顔を知っているというだけで、通してもらえたりするからだ。ありがたーいことに、そういう人脈になることを喜んでやる人がいて、だからそういう人には巻かれているのが一番いいのだ、と。譲れないところは譲る必要はないけど、使えるところは使える人を使っておけって言ったんだ、あいつは。自分を含めて。

くだらないことばかり言っていると思っていたけれど、本当はわたしよりもっとずっと先のところにいて周りが見えてるんだと驚き、羨ましくも思った覚えがある。知ったときは、いきなり知るから急に遠くにいってしまったように感じたけれど、わたしが見えてなかっただけで、彼は彼の速度でずっと成長していたんだよね。

そして、きっとみんなも。

みんなの時間の使い方が上手くなっている。

掃除、お風呂掃除、トイレ掃除、トイレの堆肥を畑に撒く、畑の水やり、ご飯作り、洗濯のフォロー要員は当番制になった。リックは専属洗濯係とご飯係のみの掛け持ち、ご飯係にはわたしかチャーリーが必ずフォローに入ることになっている。ちびちゃんとわたしは、何かしらの食料集めが仕事となった。効率よくアジトでの細々したことを終わらせ、自分の好きなことをやったり、みんなで遊んだりを組み込んでいる。

休息日以外働いていて大変なはずなのに、体力はありあまり、遊びを教えろとうるさいので、鬼ごっこを教えたら大変なことになった。

この子たち、一日中でも走っていられるんじゃないの?

わたしは早々にリタイヤだ。