軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

里帰り編22 プライスレス

今回長く長く滞在していたからか、暖炉の前に王子がいないと変な感じがした。

クーとミミもルークさんに何かとかまってもらっていたので、もういない客間の前でドアを見上げている。淋しそうなのでいつもより構い倒していたら、いい時間になってしまった。

これでルシーラとトニーが帰ってしまったらもっと淋しくなっちゃうな。ルシーラとトニーは明日スラムへ送り届けることになっている。

お風呂からあがってきたモードさんは、寝室に入ってくるとわたしの隣に腰掛けた。

「宿題の目処は立ったのか?」

どさくさに紛れて話したことなのに覚えていてくれたんだ。

「モードさんは……仕事体験を事業にするには穴だらけと思ってた?」

わたしは尋ねてみる。

「事業にするときは、商人ギルドに相談するんでいいと思ってたんだ」

ああ、なるほど、その手があったか!

「でも、なんか思いついたんだろう?」

「わかる?」

「そんな顔してる」

「できるかどうかわからないんだけど、聞いてくれる?」

膝の上ではクーとミミが寝息をたてている。ふたりを籠の中に入れる。一瞬起きかけたけど、籠の中だと気づいて、また目を閉じた。籠を膝の横に置く。あとでわたしの部屋に連れて行こう。

「磁石って知ってる?」

「じしゃく?」

モードさんが首を傾げる。

「コンパス、方位磁石に使われてるやつだよ、北をさす」

「ああ、方位磁石は知っているが、じしゃく??」

「磁石は対極の磁場を出すの。対極で北と南を示して。違う極は引き合って、同じ極は反発する性質があるんだ」

わたしはボックスから裁縫道具と方位磁石を取り出した。まず、方位磁石を置く。方位を合わせる。そして針を取り出して、方位磁石の周りを一周させて、なんでもない針なことを証明する。

「見ててね」

針を手拭いで同じ方向に60回ぐらい擦ってみる。

「今はただの針だけど、こうやって布で擦ると少しの間だけ簡易磁石になる」

擦った針を方位磁石に近づけると、方位を示していた磁石が引き付けられてついてこようとする。この方法じゃ弱いからすぐ磁石じゃなくなっちゃうんだけど。

「へー、面白いな」

「簡易磁石、面白いでしょ。針の先がこっちと違う極なんだね、だから引き付けられてついてこようとする。元の世界でね、この磁石の性質を利用して凄い乗り物を作ろうとしていたんだよ」

「乗り物?」

「うん、この磁石をうんと強力にして、超電導だったか、電動磁石だったか名前は忘れたけど、とにかく摩擦熱もこもらない電気を通す強力な磁石なるものを作り出してね、それを乗り物のワキと乗り物の道筋につけて、通るときに極をパタパタ変えてね、そうすると車体を早く走らせ、浮かせることができるの!」

子供の頃聞いたんだけど、できたかどうか実は知らない。発想すごいって、よくそんなこと思いつくなーって子供心に思った。元の世界では実現させるのに何十年もかかるほど難しいことだが、こっちならそれを創造力で作れる気がした。

説明になってないと思うし、わかりにくいだろうと思うけれど、モードさんは次の言葉を待っている。

「交換仕事体験の最大の問題点は移動の際の資金で、それを賄える何かを考えたいと思ったんだ。移動手段だから馬車を利用できないかと思ってさ」

「馬車?」

「乗合馬車。あれはもう商売として成り立ってるでしょ。そこに参入できないかと思って。馬車って、あ、モードさんのお家のだとならないけど、普通の乗合馬車だとお尻がすっごく痛くなるんだよ。揺れもすごくてどこかに掴まってないと怪我しそうなぐらいだし。だからね、その車体を浮かせることができたら、凄くないかと思ってさ。浮いてれば振動とは無縁だからお尻も痛くならないし、軽くなれば馬の頭数も減らせるし、早く走れるから早く目的地につけるでしょう? 馬車はもっと使われるようになると思うんだ。それで普及させちゃえば、特別感はなくなる」

最初は風魔法でと思ったんだけど、なぜそれが実現されてないのか考えた。風の魔具で作ったとしても何かしらそれが難しいからだと思う。馬車をずっと浮かせるぐらいの風を魔具にこめるのはそれだけの魔力がないとだろうし、難しいのかもしれない。創造力でならできそうだが、風魔法で難しいものなら、それは風魔法と違う物とわかってしまうかもしれない。風魔法を使える人の絶対数が多いだけに特異性はバレやすい。同じように無重力の物を創造力で作れると思うけど、それもバレたら厄介そうだ。

凄いんだけど目立たない何か。元々存在して、原理を理解すれば誰でもできること。

あるもの自体を創造力で強化する。それならバレにくいんじゃないかと考えた。

創造力で強化して作ったものは売る。簡単に手に入るようにしておく。原理はロイヤルティーをとって売る。

コンパスがあったから、磁石はこの世界にもあるものだった。だからそれを強化したものを作るぶんにはそこまで目立たないかなーと思って。そして動いているときに絶えず反対の極に動かす魔具を作るのはそう難しくないはずだ。

最初は反発の力だけで浮かせたらいいかなと思ったんだけど、それは静止しているからできることで動いている物体には難しいかもしれない。だから馬車の空箱の中にもうひとつ箱を作って超磁石だかなんかで天地左右からいつも浮かせている構造にできたらと思うんだ。それだって静止しているところでは可能そうだけど、そこに一定方向の動きがあった場合どうなるもんかわたしの頭ではわからない。だから試そうとした時点で無理なことってわかることかもしれない。

でももしできたら、車体が浮くなら馬は外枠の箱だけで重たくないからある程度の速度は出せるはず。乗り心地も浮いている方が悪くないと思う。試してみないとうまくいくかもわからないけど。

提携している孤児院やスラムまでの馬車にまず持ち込んで超馬車にしちゃう。そこは投資で。できたら成人以下は無料で乗れるようにしたい。そのための超磁石はローディング家が売り出すとかにして、車体の浮かせる方法は商業ギルドに登録して、そのロイヤルティーは移動資金にする。馬車が運行していないところとかのね。

まだ構想だけだし、可能なことなのかもわからないけれど、一番大きな穴はそれが試せればなと思う。

「聞いているだけだとそんなことで重量あるものを浮かせられるのか、そんなことができるのかも想像がつかないし、目で見て見ないとなんとも言えないが、何か作る時は兄たちと相談しながら、な。絶対、ひとりでやろうとするなよ」

わたしは頷く。いつも穴だらけなことは自覚しているので、突っ走りはしないよ。

「でも、それも……牧場にお客さんが来てくれないとなんだけどね」

牧場がうまくいってないと、体験生を呼べない。

そういうと、モードさんがぎゅーっとしてくれた。

「大丈夫だと思うぞ。……王子が動いたからな」

「え?」

「王子だけじゃない。パズーやペクも働きかけてくれてるし、王都では兄たちが、父上たちもここ数年パーティなんか領地で開いたことがないのに、客を呼んでいる」

みんな助けようとしてくれているんだ。

「俺たちは恵まれているな」

しみじみ頷く。

「また忙しくなるだろうから、明日はお前の実家で楽しもう」

うん、とわたしは大きく頷いた。

黄虎はいつもより大きくなってくれた。だからルシーラとトニーという乗客が増えても問題ない。トニーは空を飛ぶのにやはり顔を青くしたけれど、モードさんに冒険者のことをいろいろ聞いて気を紛らわしていたようだ。最後の方にはモードさんに傾倒しているようになって、なんかおかしかった。ふたりとも牧場の仕事は面白かったと言ってくれた。実際営業している日は1日とかだったかもしれないけれど。ふたりは去る時に惜しまれて、従業員さんや子供たちからいっぱいのお土産を渡されていた。わたしとモードさんからは働いてもらった日当を渡した。トニーは手渡しされたのは初めてだったようで、顔を紅潮させていた。ルシーラと何か話していて、聞き耳をたてていると、手に入ったお給料はいったんスラムに渡してそこからまた分配されるそうだが、トニーはそのお金でお土産を買いたいと思ったみたいだ。一緒に港からきたチビちゃんたちに。ルシーラはこのお金はスラムに渡すけれど、特別だと分配される分を先にあげたみたいだ。

トントの外で黄虎から降りて歩き出す。黄虎はまたどこかに飛び立って行った。

モードさんが歩き出すと、そこかしこから声をかけられる。国だって違うし、正しくは違うのに侯爵様と頭を下げる人までいて、トントで立派な有名人だ。貴族街の人から夕食にまで誘われたりしていて、あまりの人気っぷりに目が険しくなってしまう。スラムへと続く坂道を歩き出せば

「おねーちゃんだ!」

「ルシー兄!」

子供たちが駆けてくる。その中にはユニちゃんもいて、駆け寄ってくるとトニーの手に手を滑り込ませている。仲良しだね。

モードさんにも子供たちは群がって、ジャンプ一番よじ登っている。あまり驚いてないことから慣れているようだ。

ルシーラも小さい子たちに抱きつかれ、なかなか進めない。

やっと坂を登り切ればメイが走ってきた。

「ティア!」

「メイ!」

ギュッと抱き合う。おお、サイドの髪を編み込みしている。

「おかえり、ティア」

リックに言われて、微笑み返す。

「ただいま!」

それを皮切りに、初期メンバーたちが集まってきてくれた。

トーマスがやってきて、モードさんに軽く頭を下げる。

「お帰り。どうだった?」

トーマスに尋ねられる。

「合わなかった」

「その割に元気だな。慰めてほしいか?」

そうだよ、みんなに会うのに元気を取り出してきた。

「ううん、あのね褒めて!」

トーマスはわたしの手を掴んで引き寄せて、頭を撫でてくれた。

「偉かったぞ。いっぱい我慢して、役割も果たして。お前は偉かった」

トーマスにはまだ何も話してないのに。何も言ってないのに。全部わかって言ってくれているみたいに感じて、なんだか泣きそうになった。トーマス、やっぱり凄い。

「大ボス、ずりー。おれたちと扱い全然違うじゃん」

トーマスの次に体は大きくて大人な容姿なのに、そんな可愛らしいことを言ったのはカルランだ。やっぱり甘えん坊だ。

「バーカ。弟と妹で扱いが違うのは当然だろ」

にやっとトーマスが笑う。

「ルシーラ、トニー、お疲れ。どうだった?」

大ボスに尋ねられる。ルシーラはきちっと姿勢を正した。

「SSのマルです。衣食住、かなり快適で、仕事も多岐に渡り選べます。他にも子供を雇っているところだけあり、子供に慣れています。監督者もよく見ています。人も魔物も大切にしています」

驚いた、査定されていたんだ!

「それはティアのところだからって、甘くしてねーか?」

「そうしないおれを選んだんでしょ?」

「それだけじゃねーけどな」

モードさんと顔を見合わせてしまった。そうでなくっちゃ、子供だけでこんな発展はしないか。

「ただ、ボスと似たような、コトを大きくする才能がオーナーにあるので、気をつける事項かと」

あん?とルシーラを見ると、ルシーラが視線を逸らす。

軽快な笑い声をあげたのはボスであるエバンスだ。

「ティア、仲間だな」

ヲイ。

「前からそうだと思ってた。同じ匂いを感じる」

「やめて、全然違うから!」

「なんだ、本当に何かあったのか? 何があった?」

わたしとルシーラは顔を見合わせる。

「トニー」

トーマスがトニーを促す。

「ティアが自警団に捕まえられて、縛られて、牢屋に入った」

ざわっとする。

「事実か?」

「事実だけど、容疑は晴れたから」

「で、女に陥れられて、雨ん中閉じ込められて倒れた」

「そうなのか?」

「まあ、そうなんだけど……」

端的にいうと、その通りすぎる。

トーマスがモードさんに睨みをきかした。

「いや、モードさんは留守の時で」

「まったくお前は」

トーマスにおでこを押される。トーマスは苦笑して、それから声音をガラッと変えてみんなに呼びかける。

「よし、みんな、今日はティアと侯爵サマを交えての宴だ、いいな」

メイとべったりしながら、メイの話をきいていた。メイは小さい子の世話をするのが楽しいみたいだ。一番下が長かったから、下の子ができたのが嬉しいんだね。お姉さんぶる様子が楽しくて可愛くて、抱きしめたくなる。

みんなも仕事の合間に声をかけてくれて、それぞれと話す。会っていない時間があったのに、それぞれ見た目も少し変わって、経験値も違ってきているのに。話すとほんとずーっと一緒にいたかのように、戸惑うことなく笑いあえて、とても楽しい。

トーマスに呼ばれて部屋に行くと、ルシーラやトニーと話済みで、わたしが最後のようだ。

「まぁ、聞いた。大変だったな」

「味方がいてくれたから、なんとかなったよ」

「トニーが友達ができたって言ってた」

「うん、最初は喧嘩したんだけどね。仲良くなったみたい」

「お前に任せて正解だったな」

「なんでトニーを?」

「トニーはお前のためになるって思ったからじゃなくて、お前がトニーを大事にしてくれると思って任せたんだ」

トーマスは思い返すような表情になった。

「ちびたちがさ、お前と会った最初の日、めちゃくちゃ興奮しててさ。座ろうとするとそこに毛布を敷くって。毛布が汚れるのに、自分たちが寒くないように痛くないように。アジトの仲間以外から、会ったばかりなのに、あんな大切なものになったように感じたのは初めてだって。そうやってお前は人を大切にするから、それはトニーのためになると思ったんだ」

いや、あれはただ地べたに座らない日本人の癖なんだけど、そうか、ちびちゃんたちはそんな風に思ってたんだ。

それにわたしがトニーに何かを教えられることはなかった。しいて言えば、感情とその名前を繋いだだけだ。テオとやりあいながら、傷つけあったり、仲直りしたり、認め合いながら、一緒に作業ができるようになり、一緒に遊べるようになった。ルシーラも監督してくれていたからだけど。わたしは関与していない。

「事業計画書ができたら、見せてくれ。お前のところは優良な仕事場みたいだから、できたら提携したい」

「移動費をどうするかは思いついたんだけど、実際やってみないとわからないから、まだなんとも言えないけど、何とかする」

トーマスが興味を持ったので、馬車のことを話すと無口になる。

「難しそうって思った?」

「いや、目立つなよって思った」

うんうんとわたしは頷く。普及してみんなが便利と認めれば、それはいつしか普通のことになり気にならなくなるものではないかと思うのだ。

「そういえばさ、お金渡したの?」

トーマスは少し悲しそうな顔をして、息を吐いた。

「俺の全財産を渡したんだ」

「え?」

「アジトのは一切手をつけてない。俺のものと分配されたものだけだ」

ええっ。

「全財産だって言って。アジトのはみんなのものだから俺はどうすることもできない。俺の手持ちの金はそれだけで、それで精一杯なんだって渡したんだけど」

「……けど?」

「置いていかれた」

「……そっか」

それはどういう理由で手をつけなかったのかはわからないけれど、その人は最後の最後でトーマスの兄貴だったんだなって思った。

「いつかまた、顔を見せてくれるといいね」

「……ああ」

開けっ放しの窓から、風が入り込んできた。生きているといろんなことが起こるけどさ、きっといつか、そのことも微笑めるそんな日が来ると思うのだ、うん。

わたしがトーマスの部屋から出ていくと、ルシーラと会った。

「おれ、わかった。トーマスがおれをティアのとこに行かせたわけ」

「わたしの助け、でしょ?」

「どっちかって言ったらおれのかも? トーマスはおれをトニーたちの教育係にする気なんだ」

ルシーラは頭を押さえている。

ルシーラの勘はある意味当たっていて、宴の時に教育係どころか次のボスに指名された。ボスのエバンスは冒険者のレベルが上がって、もっと遠くに、何日かかかるような依頼に挑戦したいと思うようになってきていたし、ギルドからもそれを望まれていたらしい。エバンスから相談があり、それをトーマスは応援することにした。

トーマスもそう思っていたけれど、エバンスも次のボスはルシーラをと思っていたらしい。なぜならルシーラは公平だから。客観的に物事を捉えることができて、公平に話を聞き判断を下すことができる。感情的になってしまうエバンスにとって、感情を抑えて公平さを保つことのできるルシーラは憧れなんだとか。

それからトニーがモードさんから冒険者の話を聞いて興味を持ったみたいで、しばらくエバンスと一緒に森に行くよう指示がでていた。

モードさんは小さい子たちの遊び相手でヘロヘロになっている。SSの冒険者をヘロヘロにできる体力を持つ子供、すげー。クーとミミはカルランの肩に乗り、ちびっこから逃げていた。

トーマスがチャーリーを呼びつけて何やら話しこむ。

トーマスが手を叩いた。

「今日の宴のために、みんなで用意しよう。侯爵サマ、エバンス、あと何人かで肉を獲ってきてください。チビたちは会場の掃除。それより上はティアとチャーリーを手伝って料理だ、わかったか?」

はーいとみんなが声を合わせる。

「大ボス、おれも森に行っていい?」

トニーが早速興味を持っている。

「侯爵サマ、こいつ森初めてなんですけど、いいですか?」

「ああ、いいぞ」

モードさんが請け負う。

モードさん、エバンス、トニー、カルラン、マッケン、ナッシュで森に行くようだ。ブラウンはまだ帰ってきてなかった。残念。

チャーリーと相談してメニューを決める。みんなで作れて、楽しくて、おいしいもの。

獲ってきてもらった肉は焼くだろうから、あとスープとサラダってとこかな。スープはあっさり野菜入りにして。トニーとルシーラにかぼちゃグラタンが好評だったから、スタンダードなグラタンを作ろう。ホワイトソースとマカロニ作りを手伝ってもらおう。最初に生地を作って薄く伸ばしてカットだ。リボン型に捻ったり、貝みたいな形にしても楽しいし、見本をみせて、あとはチャーリーにお任せだ。ソングクが独創性の高いマカロニを作っていた。わたしはホワイトソース作りに。人数がいっぱいいると、大変ではあるけれど楽できる部分もある。ガヤガヤ、わちゃわちゃ、失敗もしたりしながらご飯の支度は整っていく。牛乳をこぼして泣くちびっこをクリスとベルンがあやしていて、その成長も嬉しかった。

モードさんたちが森から帰ってきた。トラジカを獲ったらしく、初めて参加したトニーは大興奮だ。お兄ちゃんたちは、今まで馴染めていなかったトニーが素直になっていて、戸惑う反面、可愛くて仕方ないみたいだ。

お肉は一手間かけて、唐揚げにした!

みんなで作ったマカロニは、同じ形のがひとつもなかったけれど、それはそれでおいしく楽しかった。

お別れの時間だ。どんな別れでも、別れる時は淋しくなる。

「もう、俺たちは自由に会えるんだから、メソメソするな、メイ」

トーマスに檄を飛ばされている。

「メイ、また来るから」

一生懸命笑おうとして、頷いてくれるから、ギュッと抱きしめる。

モードさんがトーマスに手渡す。

「何かあった時は……いやない時も連絡をくれ。牧場に来たい時もだ。都合がつけば迎えに来るし、迎えを寄越すから」

それはウォルターお兄さんが作った魔具だ、手紙をやりとりできる通信機だ。

「ありがとう……ございます」

トーマスが胸に手をやると、みんな胸に拳を置いて、モードさんを見つめ、トントンと2回叩く動作をした。

「ティア、行くぞ」

モードさんに促され、わたしもみんなに声をかける。

「楽しかった! またね!」

みんな顔を見合わせる、そしてわたしに向き直り言った。

「またな!」

「モードさん、手紙の魔具ありがとう」

歩きながらお礼を言えば、優しく笑う。

「いつでも、来てもらっていい。お前の家族だからな」

モードさんが頭を撫でてくれる。

わたしはいつでもモードさんにもらいすぎだ。わたしは全然返せていないのに。

里帰りのこともずっと考えていてくれて、こうしてこれからも連絡を簡単に取れるようにしてくれて。

「あれってすっごく高いんだよね? ウォルターお兄さんのアレンジが入っているからさらになんだよね?」

どれくらい価値があるのかも見当がつかない。

「俺にはティアが笑っていること以上に価値のあるものはないからな」

モードさんがわたしの手をとって、ギュッと結ぶ。

モードさん、さらっと凄いこと言った。嬉しくて舞い上がりそうで、恥ずかしくもあり、どこかへ飛ばせてしまいそうな意識を留めておくのに、覚えといて、ノートに書き込んで、一生覚えておこうとわけのわからない誓いを立ててみたりする。

そしてわたしもふたりきりのときに言ってみようと決意してみる。

あなたが何より大切ですって。モードさんの存在以上に価値のあるものはみつけられないって。