軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

138話 出立

雨季が終わり眩しい夏に差し掛かった頃、ルークさんから出立の予定が立ったと報告があった。

1週間後、帝国の王都に集合。そこからお隣のビスタに渡り、また隣のソコンドルに。その北に危険区域はある。聖女ちゃんは3日進み、1日休む、このペースがいいようで、王都からもその要領で進むらしい。聖女の行進はどこででも一目見ようと人が群がるらしい。ということで、ビスタあたりで合流してほしいと言われた。わたしが持つ帝国の苦手意識を少しは考慮してくれたのかもしれない。

危険区域になんで転移で行かないのか尋ねる。全員で転移は難しいだろうけれど、聖女ちゃんは所々転移して進んでいく方が、疲れとかなくていいんじゃないかと思うけどな。でもそれは聖女ちゃんが言い出したことらしい。ソコンドルの厄災は聖女ちゃんの耳に入ったらしい。それでできるだけ自分の足で、顔見せをしているらしい。偉いなぁ。

「ところでさ、危険区域に行って、聖女ちゃんは何かをするの? 聖女ちゃんは存在するだけで浄化して行ってるんだよね?」

「祭壇を作って祈りを捧げるようですよ」

へー、そうなんだ。

「魔王ってさ、その封印される前から、戦いを仕掛けたりしてきたとか、そういう話ってあるの?」

以前から気になっていたことを尋ねると首を傾げる。

「そういや、魔王が書を焼き払う前の話は聞かないな」

……やっぱり、そうか。

「わたし、王子が聖女ちゃんを喚んだのは、瘴気を浄化させるためじゃないと思っているんだ」

わたしはふたりに打ち明けた。

「どういうことですか?」

ルークさんは口ではそう言いながら、なんとなくそれは考えてきたことなんじゃないかと思わせた。

「聖女ちゃんは在るだけで浄化できるんだよ。いく必要なんかない。パフォーマンスとして見せるんだとしても、そんな長いこといることないでしょ。転移でもなんでもパッと飛べばいい。それなのにそうしない理由。危険区域で何かしたいことがあるんだよ。聖女ちゃんしかできないことを」

そう告げると、ふたりは押し黙ってしまった。

重たい雰囲気をなんとかしたくて、明るい声を出してみる。

「ビスタから危険区域までってその3日進んで1日休みでどれくらいかかるんだろう?」

「ひと月ぐらいじゃないですかね?」

ルークさんが簡単にいう。

ひと月か。それでも長いなぁ。

それをいったら、帝国からそのビスタまでも多分それくらいかかるだろうからな。

「あ、ハナ様、移動は馬車か馬ですよ」

えっ。

「モードさん、黄虎でいいんだよね?」

「飛ぶ時はキトラでいいが、地上は馬で移動するぞ。馬、乗れないのか?」

「乗れないよ」

ということで、それからわたしは馬に乗る練習をすることになった。

お馬さんも可愛いよ。でも、乗るのも一苦労だ。力のいれどころが分からなくて、結局ひと月ではなんとか乗り降り、 歩(あゆ) ませるぐらいならできるようになったけれど、それ以上は無理だった。だから運動音痴なんだってば。

一行がビスタに入ったと聞いて、わたしたちも出発することにした。

賄いを作ってくれる女性と、もうひとりケイリーさんの代わりの人を雇った。畑仕事に詳しく、子供好きな力持ちの男性だ。ハイドさんという50代に近い人だ。パズーさんもペクさんとももう馴染んでいるようだ。寮のあれこれと賄いを担当してくれる女性は通いで、ジュディーとも相性がいい。牧場のことはパズーさんたちに任せて、わたしたちは黄虎で飛んだ。

地図を見てみると、エオドラントからビスタはほぼ一直線だ。海ではこのあたりは海流が激しくて船を出すのは難しいそうなので、船となるとセオロードまで南下しなくてはならない。でも空なら自由だ。モードさんの見立てでは黄虎なら半日ぐらいで着くとのことだ。ルークさんは魔力の鳥で飛ぶそうだ。

黄虎によろしくねとお願いすると「がりゅ」と可愛く返事をしてくれる。

黄虎にとってはなんともないことだそうだが、運んでもらっている身分でなんだが、わたしが辛かった。ずっと同じ体勢っていうのがね。モードさんに抱え込んでもらっている状態で、寝てていいぞと言われ……結局眠ってしまった。飛んでいる時は空調が爽やかに保たれるので、暑くなってきた地上より遥かに過ごしやすかったんだよ。

ビスタのカカという街が帝国側からの入り口になるみたいで、到着したのは夕方だ。モードさんに着くぞ、と起こしてもらって、目を擦ると、ちょうど地面に舞い降りるところだった。

ついてすぐに黄虎をねぎらう。喉が渇いたようなので、お水を出していっぱい飲んでもらった。

その後、何かモードさんと話すと、黄虎はまた飛んでいってしまった。

「さ、入国するか」

籠の中を覗き込めばクーもミミもまだ眠っていた。ルークさんもSS冒険者のモードさんと同じように移動できる魔力と体力があるって、本当すごいな。

難なく街に入り、宿を取る。ふたりは特にお疲れだろう。ルークさんは食事も取らずに眠るというから、サンドイッチを渡した。お昼はおにぎりを渡しておいたからね。モードさんも疲れただろうから、さっさと眠る?と尋ねた。モードさんは、いや、食事をしようと言って、街の居酒屋みたいなところに連れて行ってくれた。

食事を取りながら、モードさんは言った。

「移動中は俺から離れるな。結婚前に悪いが、部屋は俺と一緒だ」

「何か危険があるの?」

「わからない。だから用心のためだ。ティアも気をつけてくれ。いいか、優しそうに見えても知らん奴に懐くなよ。知っている奴でも注意だ。それから、男に抱きつくのは禁止だ」

ごほんと咳払いをする。至極真っ当なことだけど、嫉妬と受け取られそうだからかな、恥ずかしいみたいだ。

「……モードさんにも?」

「俺にはいいぞ。どんどん抱きつけ」

やけになってる。

「急に大きくなってるから癖が抜けないんだろうけど、お前はもう成人してるんだ」

「はい」

確かに、小さくなってからよく抱きついていたからな。癖になっているのかも。

食べ終わって、宿に帰る。星屑といえそうなちっちゃな星が瞬いていてとても綺麗だ。そういえば、牧場では夜外に出たりしないからな。上を見ていると、モードさんに繋いでいる手を引っ張られた。

「疲れたか?」

「疲れたのはモードさんでしょ? ずっとわたしを抱え込んでいたんだもん」

部屋にはシャワーがついていて、代わりばんこにシャワーを浴びて、ベッドにダイブだ。ひとつのベッドだったけど、キングサイズだから問題はない。

モードさんがベッドに腰掛けるとベッドがギシッという。クーとミミの籠はソファーの上に置いた。ふたりとも一日中寝ていたようなものなのに、もう寝息をたてている。

「灯り消すぞ」

そう言って、灯りを消した。

モードさんはベッドに横になり

「おやすみ」

という。

「おやすみなさい」

わたしも応えて、目を瞑る。

ちょっとドキドキしてる。

今までもよくこんなことはあったのに。ドキマギする。

ふと横向きになってモードさんを見てみると、もう眠ったみたいだ。胸のあたりが規則正しく上下している。

そうだよね、今日は疲れたはずだ。わたしは少しだけ体を起こして、モードさんのおでこにキスをする。えへへ。

「おやすみなさい」

小さな声で言って、毛布をかぶって目を瞑る。わたしもずっと眠っていたようなものだから眠れないんじゃないかと思っていたけれど、スッと眠りに入ることができた。

次の日、馬を借りて聖女一行を追いかける。

食事に出たところでも、買い物に入ったお店でも、聖女様の話題で持ちきりだった。

聖女様を見たことでわんわん泣いた人もいっぱいいるとか。それに聖女様があまりに美しく可愛らしくて、聖女様信仰が出来上がっている。

モードさんが大きな欠伸をした。

「眠い?」

「いや、眠くない」

そうモードさんは言うけれど。

疲れが取れてないのかも。それなのにまた馬に二人乗りしてもらうのも申し訳ないなぁ。

午前中いっぱい馬を走らせると、聖女一行らしい団体が見えた。

そのままお尻にくっついて行く。スピードもそこまででもなく、この行脚もパフォーマンスという感じがする。

伝令がきて、休憩を言い渡される。前の方から、どんどん止まっていった。

ルークさんに促されて、休みに入る団体を追い越して、王子のいる前の方に行く。

王子は王子らしく真っ白の白馬に乗っていた。

王子が馬から降りる。

「竜侯爵、ティア嬢、来てくださったんですね」

うそくさっ。

モードさんに馬から下ろしてもらう。

クーとミミはやっと起きたみたいだ。よく寝る子たちだなぁ。

モードさんは王子の前で、胸に手を当て、礼を取る。

「アルバーレンの第一王子様にご挨拶申し上げます。ハーバンデルク、ローディング家第七子、モード、参上仕りました」

うわっ、わたしはどうしたら??

「私はここではただの司令官だ、かしこまらないでくれ」

にこにことうそくさい笑みを浮かべている。

王子がチラッとわたしをみる。仕方ない。

「アルバーレンの第一王子様にご挨拶申し上げます。お久しゅうございます。来る途中、どこでも聖女様の噂で持ちきりでございました。表情が明るかったです」

わたしも胸に手を置いて頭を下げる。スカートじゃないからカーテシーしたくないもんで。

「聖女様を紹介しましょう。あちらの天幕にどうぞ」

20人ぐらいが入れそうな丸い天幕があった。

「聖女様、失礼します」

そう言って王子は幕の中に入った。モードさんとルークさんに挟まれて、わたしも中に入った。

中にはキラキラした第二王子と、とびきりの美少女の聖女ちゃんと、そのほかイケメンがわさわさ聖女ちゃんを囲んでいた。一人は聖女ちゃんに渡すためだろうコップを持ち、一人は扇で聖女ちゃんに風を送り、5人の男性が聖女ちゃんの世話を焼いている。

「聖女様、紹介させてください。こちらが竜侯爵末子のモード氏とその婚約者のティア嬢です」

聖女ちゃんは急に立ち上がって、わたしを見た。

そしてわたしに抱きついた。

え?

「巻き込んで、ごめんなさい」

あ、この子、わたしがハナだと聞かされているんだ。

「聖女様、あなたは何も悪くありません。わたしに謝ることなんてないのですよ」

しがみついてくる、向こうでいったらまだ成人していない女の子の背中をポンポンと叩く。

そっとわたしを覗き込む瞳は涙でいっぱいだった。

ピンクブロンドの髪だけど。瞳は紫だけど。顔もありえないぐらい小さくて整ってて可愛いけど。

世界でたったひとりの、わたしの同胞だ。わたしは親指で彼女の涙を拭った。