軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

134話 四神獣の飛来

とくん、とくんと音がする。

世界で一番、安心する音だ。

あれ? なんだっけ? なんか大事なことがあったような。

なんとか目を開けて。わたし、抱きついているなぁ。思い切り誰かの胸に耳をつけて、上向きに寝ている人に抱きついている形だ。え? ヒョエーーーー。

「起きたか?」

モードさんの声だ。

「モードさん?」

恐る恐る顔をあげると、わたしが抱きついて寝ていたのは、モードさんだった。

あれ、何がどうなって。

『ティア!』

『ティア! うわぁあああん』

顔にクーとミミがジャンプして張り付いてきて、勢いで仰向けに倒れる。息ができない。窒息するかと思ったところに、モードさんがクーとミミを拾い上げてくれた。

わたしは咳き込む。クーが足をバタバタさせたので、口に入ってきて、足を食べそうになっちゃったよ。寝ている体勢で顔にこられるのは危険だ。

「大丈夫か?」

モードさんが起こしてくれて、背中をさすってくれる。

大丈夫と手で止める。

クーとミミがわたしの胸に突進してくる。クーとミミを存分に撫でまくる。頬擦りしちゃう。朝からもふんもふんを顔で堪能できてラッキーだ。

ああ、なんだっけ。ええと。

「どこまで覚えている?」

「モードさん、お帰りなさい。いつ帰ってきたの?」

「3日前だ。お前は鞭で背中を打たれた。神経毒が塗ってあったから、記憶がやや混乱するかもしれないとのことだ。治療は完璧に施されているから、背中の傷もない。治癒には体力も使うからな、3日間眠っていたんだ」

「ああ、思い出した。貴族のお嬢さんが牧場に来てて」

それで外に出てもらおうと思ってなんだかんだあって、鞭があたったんだな。痛いというより熱かったのを覚えている。そこからはあやふやだ。神経毒が塗ってあったって、そんな鞭を牧場に持ち込むなんてどういうつもりだ。

「ごめん、心配かけたね」

クーとミミが絶叫していたことを思い出して、もう一回頬擦りする。

「あ、モードさん、試験は?」

「……合格した。SSだ」

「うわぁ、すごい! おめでとうございます! お祝いしなくちゃね。おいしいの作るよ!」

「ありがとう。でも無理はするな。まだ体が本調子ではないはずだ。みんな心配しているから、起き上がれるようなら、食事の時に姿を見せてやれ」

うん、と頷く。

っていうか、なし崩しになっちゃったんだけど、聞いた方がいいか、聞かない方がいいか。

ここは未来の寝室だ。わたし、3日間モードさんと眠ってたのかな? 胸に頭置いてたら、モードさんよく眠れてないよね。でも尋ねるのはなんだか恥ずかしい。

着替えて、モードさんと一緒に下に降りていく。

朝の挨拶より先に、ルークさんに跪かれた。

「え?」

「私が留守にしたばっかりに、申し訳ありません」

「いや、渋っていたのに行ってもらうようお願いしたの、わたしだし。でも、ルークさん、わたし約束通り牧場から出てないからね。あっちから来たんだからね、不可抗力だからね」

ルークさんを引っ張って、立ち上がらせる。

また3日も寝込んだみたいだから、心配させちゃったな。

朝からバンとドアを開けて入り込んできたのはバラックさんだ。わたしを見るなり、ガーっと駆け寄って、抱きしめられた。というより、締め付けられた。苦しい、アップアップしてると、モードさんがバラックさんを剥がしてくれた。

「あのなー。人族なんだから加減してくれ」

「悪い悪い。お前は心臓に悪いやつだな。あんな怪我をして。生きた心地がしなかったぞ」

「ご心配をおかけして、すいません。ありがとうございます」

朝ごはんにやってきたパズーさんとペクさんからも言葉をもらう。

「よかったです、本当に」

「ありがとうございます、パズーさん」

「何もできなくて、すいません」

「いえ、とんでもない。ありがとうございます」

ペクさんにもお礼をいう。みんなに心配をかけてしまった。

ケイリーさんがいない。時々彼は家に帰っているから、それかな。

「で、体の方は大丈夫なのか?」

「はい、もうスッキリしてます」

朝ごはんはルークさんが用意してくれていた。

パンと目玉焼きにサラダと丸ネギのスープだ。

クーとミミも満足そうに食べている。

日常が戻ったことに、大感謝だ。目覚めたらモードさんも居るんだもん、魔法にかかったみたいだ。

ハウスから出ると、ぴーちゃんが駆けてきたと思ったら、みんなに囲まれた。わたしはテイムしているぴーちゃんとしか喋れないんだけど、みんなが心配してくれていたことはわかる。

ひとりずつにハグして感謝を伝える。

最後に黄虎がやってくる。いつもだったら、もっと遠慮なく寄ってきてくれるのに。

「黄虎、お帰りなさい。怪我はしてないよね?」

体のあちこちを見ていると、大きな舌がわたしをペロンと舐める。それから凄い勢いで顔中を舐められた。

「キトラ、ティアはもう大丈夫だ」

モードさんの掛け声で、黄虎にもずいぶん心配をかけていたんだとわかった。

首にしがみつく。

「元気だよ。心配してくれたんだね、ありがとう」

モードさんたちはわたしが鞭に打たれた時、まだ遠くの空を飛んでいたらしい。そこにクーとミミの呼び声が聞こえ、黄虎が本気で駆けつけてくれたのだそうだ。そうだったんだ。ありがとうと、黄虎のお腹に顔を突っ込ませてもらう。癒される〜。

モードさんもよくはわからないけれど、神獣同士通じる何かがあるのだろうとのことだ。

「疲れたか?」

「これくらいで疲れないよ」

モードさんは朝からずっとわたしに着いてくれている。

「父上も謝りたがっていた。2、3日したら、領地の家に一緒に行ってくれるか? 母上と一緒に来るというのを止めているんだ。今、領地を手薄にしたくないから」

「謝るってなんで?」

「ルークを借りていたから」

「ああ、そんな偶然だし。わたしは元気だし」

モードさんは微かに笑って、池の縁に座って、隣をポンと叩いて、わたしにも座るように促した。クーとミミも縁から池とにらめっこしている。魚なんかいないのに。黄虎もわたしたちの足元でお座りをする。

「偶然じゃなかった」

「え?」

「ケイリーが最後までお前に申し訳ないと謝っていたが、辞めてもらった」

「辞めて、もらった?」

「あの貴族の令嬢は、アクイリア伯爵家の次女だ。伯爵家だが幅広く事業を展開していて、ハーバンデルクの西をほぼ掌握していた」

ふうとモードさんは息をつく。

「ローディング家を疎ましく思っていてな、近頃はソコンドルと親しくしていたようだ」

「それって」

「ああ、いずれ世界議会から通達があるだろう。ハーバンデルクの残党はアクイリア家だ。オーデリアを捨てて、大金と土地、爵位をもらい、カノープス大陸で暮らす気だったらしい。それがダメになったのは、俺たちのせいだと思っている。子供は詳しくは知らないだろうが、俺たちのせいで、外国にいけなくなったと伝えられていたようだ。

それなのに、こんな近くで俺たちが牧場なんかやり出すのが気に入らなかったんだろう。ケイリーはアクイリア家の使用人で、忠誠心が厚かった。牧場ができなくなるよう妨害するためにここにやってきた」

…………。

「でも、彼は俺たちが主人たちのいう卑怯な手を使って何かするようには思えず、何を仕掛けるでもなく3ヶ月も経ってしまった。次女は突発的にだろう。留学すると言い回っていたそうだから、それができなくなり、腹を立てていた。魔物を牧場から外に出して誰かに怪我を負わせるつもりでいたようだな。実行日を狙っていて、護衛のルークがいないことをケイリーから聞いた。相手がお前と使用人だけならやりやすいと思ったんだろう。ところがうまくいかなくて、腹いせに鞭を振るったみたいだ」

「……あの人、こんなちっちゃいクーやミミに鞭をふるおうとしたんだよ」

わたしはそれだけは許せない。

「そうだな、でも、お前が守った。お前は俺のいない間、しっかり牧場を守ってくれた。体を張って。ありがとな」

おでこに口づけが落ちる。

わたしはそれだけで舞い上がれちゃう。お手軽だな、わたし。

鞭は少し前に売りに出されたが、使用すると皮などが使い道のない酷い有り様になるし、痛みは凄いしHPが高ければ高いほど苦しむ時間が長引くもので、いかに魔物相手といえど、残虐すぎるとして製造禁止となったものだったらしい。一見しなやかな鞭に見えたけれど、その鞭は茨のようなトゲトゲをみっちり施したもので、そのトゲトゲも三角錐状の傷つけるだけを目的としたものでなく、傷つけた先から肉をえぐりとれるよう三角錐の頂点の下に抉るための溝があるものだそうだ。硬い皮を持つ魔物にもダメージが与えられ、その肉を抉る。そして溝には、ヒトトカブトという神経毒が塗ってあり、生命活動を徐々にできなくなるものが仕込まれていた。モードさんはそんな話を聞いてわたしが気分が悪くなったりしないかを心配したようでチラチラ見られたが、わたし的には怒りがふつふつと湧いてくる。そんな危険なものを持って、街中歩くって何なの?

「それからな、お前の傷は、クーやミミが呼んだ親戚のようなものが治してくれたんだ」

クーとミミの親戚が? そうだったんだ。

「だからこうして完治しているが、お前はかなり危ない状態……だった」

モードさんが声を詰まらせて、わたしの手を手で挟む。祈るようにその手をおでこにつける。

「ローディング家としてもアクイリア家を告訴する。例の世界議会からのことからしても取り潰されるのは間違いないだろう」

モードさんはそこで言葉を切り、わたしの手を挟む手に力を入れた。

「人は弱いから、だから相手の一番弱いところを攻撃する。今回は魔物やクーやミミだったが、それは相手が成人したての子供だったからだ。ここが狙われるとしたら、その対象はお前になる確率が高い」

わたしは頷く。相手の弱いところを叩くのは、当然知っている行為だ。

「だから俺はそんな考えを今後起こさせないために、今回の出来事を完全に潰す」

「完全に潰す?」

お家が断絶するなら、それ以上はないのでは?

「お前に鞭をくれたあの次女は成人している。自分のしたことの重みの責任はとってもらわないとならない」

そりゃ、やったことの責任はとるべきだと思う。でもそれをわざわざ言うってことは何なんだろう?

「家が潰れるんだよね?」

「そうだ」

「それだけじゃなくて?」

「子供も子孫も親戚も使用人縁者、全てをオーデリアから締め出す。助けがあると良からぬことを考えたりするから、希望を残させるわけにいかない」

え?

片方のモードさんの手がわたしの頬に添えられる。

「領地内で自分に危険が迫ったわけでもないのに、毒を仕込んだ鞭を出しただけで法を犯している。製造禁止の鞭を持っていたのも違法だし、敷地内で鞭をふるったのもおかしな行動だ。おまけに営業していないことをお前は告げていて、外に出るよう勧告しても聞かなかった。逆上してお前に鞭をあてた。人の敷地内で武器を振り回す、ましてや毒のあるものをだ。それは相手が何者であろうと法律で国から追放することができる大罪だ。しかも怪我をしたのはお前、侯爵家の婚約者だ。本来なら同じ鞭打ちの刑の執行の後の追放となるが、あの女はお前に鞭を打とうとしたわけでないのに勝手に間に入ってきただけだとほざいているからな。クーとミミに対して鞭を打とうとしたのだって十分罪だが、法的には弱くなるから鞭打ちの刑にはできないだろう」

淡々と話していたが、怒りを抑えていたみたいだ。一旦区切って、冷たい声を出した。

「だからというわけでもないが……大陸追放にする」

モードさんの親指が心配そうにわたしの唇をなぞる。

「二度とこんなことが起きてはならない。俺たちはここを立ち上げると決めたのだから、牧場も牧場に住む魔物も、従業員も守る義務がある。魔物に鞭をやろうとしただけだから罪にはならないと言う前例を作るわけにはいかない。

お前は心を痛めるだろうけど、これは俺たちが背負うべき戒めでもあるから告げた」

もし、そこまでやらずにいれば、家断絶は悪いことを企んだからであって、牧場に手を出したことは別問題と思われる。牧場に手を出す分には、魔物や動物に何かしようとしたならば、その結果何が起こっても大したことにはならない、そう解釈する人がいるかもしれない。そう思われてしまったら、今後何が起こるかわからない。

だけど、……成人したての女の子をこの大陸から追い出すんだ。その親類縁者も、使用人も。もし、自分がそんなことを考えたのではなくても、縁者が何かを企てていてそれを見過ごすなら、止められないなら、自分にまで被害が及ぶのだと見せつけるために。

「……重たいね」

「辛いか?」

それができるのはモードさんに力があるからで、モードさんのお家に権力があるからだ。わたしはその恩恵に与れるだけだ。

そんなただのわたしができることは……。

「……モードさんが大丈夫?」

常に表に立ってくれているのは彼だから、モードさんの方が辛いはずだ。

モードさんの瞳が揺れる。モードさんは優しい人だ。だからそりゃ辛いよね。

「モードさん、絶対にひとりで背負わないでね。何でも半分こしてね。わたし体力はないけど、気持ち的にはタフだから!」

伊達に長く生きてないのだ。

「俺は……お前がいてくれれば大丈夫だ。だから、もう怪我はしないでくれ」

その顔を見て、本当に危ない状態だったんだなと思った。優しいモードさんにそんなことを思いつかせるほどの。権力を振りかざすことを厭わないと思わせるほどの。

「そんなにまずかったんだ、わたし。それをブルードラゴンが治してくれたの? 凄いんだね」

ブルードラゴンって怪我を治す力もあるんだ、それは凄いなぁ。

モードさんの目が泳ぐ。

「治癒とは違うがな。背中はほぼ再生、だ。神獣たちが助けてくれた。そうじゃなかったら…………。そうだな、本当に。わかるやつには神獣に愛されていることがバレたわけだが、このことで手を出せないと捉えられる頭の良さがあるといいんだがな」

「手を出せない? 頭の良さ? 誰に?」

尋ねても、頭を撫でてくれるだけだ。

それにしても、ほぼ再生って、なんか凄いことになっていたみたいだ。そういえば、生命活動を止めるほどの神経毒が塗ってあったわけだし、わたしのHPは低いからそりゃイチコロとなってもおかしくない。毒も抜いてくれて、鞭があたり抉り取られた背中を再生する……。

わたし、マジでヤバかったね。そんな状態を助ける力を持つ神獣。それも、すごいな。

そして、本当に助かったのはクーやミミが親戚を呼んでくれたからだ。

「クー、ミミ、ありがとうね、親戚を呼んでくれて」

そういうと、はにかんで、尻尾をゆらりと揺らした。

親戚か。ブルードラゴンの親戚はブルードラゴンだよね?

わたしはステータスの称号が増えていて、そのことを話したかったのだが、怖い気がして言葉を飲み込んだ。

名前:ティア(17+$$) 人族

性別:女

レベル:4

職業:テイマー+付与師

HP:35/48

MP:311/518

力:10

敏捷性:5

知性:90

精神:51

攻撃:17

防御:5

回避:8

幸運:98

スキル:言語マスター

生活魔法(火F・水F・風F・土F・光F・闇F・聖F・無SS)

鑑定

創造力

隠蔽

探索

テイム

付与

称号:管理人の憐れみ

ブルードラゴンの加護

ダンジョンマスターの加護

翼竜人の加護

ブラックトータスの加護

ホワイトタイガーの加護

ヴァーミリオンバードの加護