軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

115話 組織をぶっ潰せ④敵か味方か

「一目瞭然なのに、尋ねるのか?」

わたしはかけていい言葉を見失う。アークはわたしから目を逸らす。

「ひと段落着いたら、お前は返してやるから心配するな。大人しくしていてくれ。お前を害したくないんだ」

わたしの知っているアークはいつも楽しそうだった。魔物に向かって行く時でさえ、未知の領域に出会うのを喜んでいるみたいで、まさに少年っていう感じがした。

今のアークはちっとも楽しんでいない。そりゃぁ、人攫いを楽しむような人はイヤだけどさ。でもそんなイヤなことをイヤなことと隠せないでいるアークは、やっぱりわたしの知っているアークで合っているんじゃないかと思える。

「ねぇ、アーク。みんなを助けられない?」

わたしに背を向けたアークに訴える。

「お前、それを俺にいうのか?」

馬鹿にしたように言って振り返る。わたしはアークの目をみつめた。

「アークは悪い人じゃないもん」

アークの顔が歪みかけて、持ち直す。

「お前、本当黙っていられないやつだな」

アークはため息をつく。

「今捕まっている者たちは助かるから、心配するな」

やっぱり。心から安堵する。

アークはなんらかの理由で奴隷狩り組織の一員なのだ。でもそれをよくは思っていなくて、捕まえた人たちは逃す手筈になっているのだろう。

「アークって将軍なの?」

「今はヒラだけどな。前はソコンドルの将軍だった」

ソコンドル。

「もう、そこまで知ってるのか」

わたしの顔色を見て、こちらがソコンドルが関係しているところまで突き止めているとわかったみたいだ。というかそれを知るために国の名前をあげたのだろう。

「アークはどうするつもりなの?」

「お前は何者なんだ?」

アークが目を細める。

「ただの冒険者だよ」

「奴隷狩りに関わっているのに? 騎士なのにか?」

まぁ、わたしも怪しいよね。

「奴隷狩りの依頼だよ」

「奴隷狩りの依頼?」

「そう、奴隷狩りの組織をぶっ潰す依頼」

わたしが依頼者だけどね。

「騎士ではないよ。わたしの実力知ってるでしょ?」

そこは聞き返すでもなく納得している。自分で言ったが、すんなり納得されると面白くない。

「どれくらいわかってるんだ?」

奴隷狩りの組織のことだろう。

「アークはどうするつもりなの?」

アークが口を噤む。

言いにくいか。……賭けになるが、わたしは告げることにする。

「世界裁判にかける。証拠は揃う」

アークの顔が歪んだ。

「俺は結局、間に合わないんだな」

辛そうに呟くアークの声が耳に残る。

「……まだわからないよ?」

「お前、何言って」

「世界裁判にはかける。奴隷組織はぶっ潰す。有能な人たちが動いているからそれは間違いない。でも、アークが大切にしている、間に合う、間に合わないは、組織のことじゃないよね?」

アークはあの時止められないって言っていた。この奴隷狩りのこと? そういえばアークはオーデリアに災厄がとかなんとか言っていた。奴隷狩りはオーデリア大陸で起こった。災厄ってこれのこと? でも止める、止めないはなんか違う気がするんだよな。

「ねー、アーク、行き詰まっているならさ、洗いざらい話す気ない?」

アークはいつだって余裕綽綽で、いつも無駄に楽しそうなのに。でも、今そんな様子は微塵もない。追い詰められているように感じた。

「……裁判でか?」

低い声だ。

「ううん、適材適所のブレーンたちと。自分だけじゃいい案出ないかもしれないけど、みんなで考えればいい案が浮かぶかもよ?」

「ブレーンって誰だよ。それに崖っぷちまで来てるんだ。誰が考えたって状況が良くなるとは思えない」

「ブレーンを馬鹿にするもんじゃないよ。だってアークは将軍ってことは頭もいいんだろうけど、どっちかって言ったら、知力より剣で語る方なんでしょ? 考え事に向いている人に考えてもらった方が絶対いいってば。わたしも今までは全部『自分で派』だったけど、ひとりでは限界があるんだよ。だったら、それぞれ得意な人を頼って、任せて、自分が頑張れるところで頑張る方が建設的なんだよ」

わたしはそれをアジトで学んだ。元の世界の仕事場でも学んで知っていたけど、わたしには育てると言うのがどうも難しくて、どうしても早く終わらせたくなっちゃって手順を1から10まで教えてしまうことがあった。アジトではみんな丸投げだった。丸投げは丸ごと任せることだ。任せるというのは信頼していることだった。10代の少年たちが息をするのと同じぐらい普通にしていたことを、わたしは倍以上生きているのに獲得できていなかった。だけどそうと知ることができたから、わたしはこれから信じたいと思う。信頼して丸投げできる人が周りにいることを感謝したいと思う。

「またお前は怪しげな理論を」

そう言いながら、アークの目が少しだけ力強くなった気がして、少し安心する。

「で、アークにお願いしたいことが」

「何だよ」

「お腹空いた」

言葉に反応するようにお腹がギュルっと鳴った。

パサパサパンと野菜のスープ、果物を持ってきてくれた。パンをスープに浸して食べる。久しぶりの食事だったから、少し食べると咳が出る。

うー、元の世界では船酔いなんかしなかったのにな。

パンは食べない方がいいかも。スープの汁だけをいただく。

「どした? どっか悪いのか?」

「船酔いでしばらく食べてなかったから」

「ごめんな。あの辺りでその髪と瞳の色だと狩られるんじゃないかと思ったんだ。俺のことがお前から報告されるのも不味かったし。お前は俺の奴隷として俺のところに連れてくる手筈にしといたんだけど、手違いがあったみたいで船に乗せられたって聞いた時は焦った」

わたしはスープをすすりながら考える。モードさんたちブレーンと合流する手段。

「アークって監視されてる?」

顔が何でわかった?と言ってる。

そういうことか。アークはわたしを助けてくれるつもりでいた。なのに、わたしを奴隷扱いで連れてきたから、そうする必要があるんだろうと思った。

アークは怪しまれているんだ。お屋敷にいる部下たちも見張りの役目なのかもしれない。なんかね、部下ってわりに、アークがぞんざいに扱っているから変な気がしたんだ。アークは人に対してそういう態度をとる人じゃない。アークは孤軍奮闘しているんだ。だったら場所を移さないと。一応、尋ねる。

「アークの計画に味方はいる?」

アークは首を横に振った。

「じゃあさ、ソレイユにわたしを売りつけてよ」

「はぁ?」

アークが動くとバレてしまうなら、他の人に動いてもらうしかない。

「ソレイユってソレイユ皇子だろ? 皇子巻き込むなんてできるわけないだろ?」

「え? ここ帝国内でしょ? 帝国内で違法な奴隷売買やってるんだったら、見過ごせないんじゃない? さすがに。協力してもらおうよ。アークが動くとアークを監視している人からバレて、今動いているみんなの働きがパーになるのは避けたいから」

わたしはもう一度重り付きの足枷をつけ、アークはわたしを連れてきた細目の人を呼び出した。

「コイツに聞いたんだけど、前の貴族が倍額出すって言ったんだって?」

細目に睨まれた。

「アーク将軍、言われましたがお断りしましたよ。だからちゃんとコイツを連れてきたんじゃないですか?」

「もう一度、繋ぎをつけろ」

「え?」

「聞こえなかったか?」

細目は慌てたよう言う。

「何だってまた?」

「金がいるんだよ。四の五の煩い奴だな」

短剣の 鍔(つば) に手をかけると、細目は大慌てで部屋を出ていった。

「アーク、悪役似合うね」

そう言うと、頭を小突かれた。

「アークっていくつなの?」

成人したてで将軍はヤバすぎる。今の悪役ぶりも純粋な少年なら難しいだろう。若く見えるけれど、もしかして20歳を超えているのかもと思って聞いてみる。

「いくつだと思った? 25だけど、若く見られがちなんだよな」

ええっ? 嘘でしょ。

「成人したてぐらいかと」

アークは息を吐き出す。微妙に気にしていることみたいだ。

「若く見られるってことは、年とってから喜べることだよ、きっと」

わたしは励ました。

でも、そうだね。わたしも16歳に見える46だしね。いや、誕生日が過ぎただろうから47か。人は見かけじゃわからんね。

細目はソレイユと話をつけてきたみたいだ。アークは自分が連れていくと押し切った。

わたしは重りを持って、引っ立てられる 体(てい) で、歩く。

ソレイユはわたしを見ると、ほっと息を吐き出した。

「いくら欲しいんですか?」

「その前に、皇子さん、ちょっと話そうや。あんた以外は人払いしてくんねーか」

周りの『なりませんブーイング』を宥め、ソレイユは従った。

扉が閉まり、わたしは息を吐き出す。

「ソレイユ、巻き込んでごめん。助けて欲しいんだ」

言っているうちに、アークが足枷を外してくれる。

「こちら、アーク。将軍だそう。アーク、こちらがソレイユ皇子、知っているだろうけど」

ふたりを紹介すると、ソレイユがわけわからんって顔をしている。

そうだよね。謎だよね。

アークはピシッと姿勢を正し、胸の前で、片手はパーで、片手は拳で、掌に拳を叩きつけて心地よい音を弾き出した。

「帝国の第一皇子様にご挨拶申し上げます。ソコンドル、十二景、羽澄のアークと申します」

「ソコンドルの若き獅子将軍でしたか。お目にかかれて光栄です。とりあえず、座りましょう。かけてください。それから、ティアの知り合いのようだから、言葉を崩してくださって結構ですよ」

「ティア?」

「オーデリアではティアなの」

わたしが告げると、アークはそうかと頷いた。

それから、今起きている奴隷狩りのこと。その組織をぶっ潰すのに世界裁判に持ち込むため、人が動いていることを話した。

アークはひとりでこの奴隷狩りを失敗させるように動いていた。あの貴族のお間抜けなみえみえのところはアークが仕掛けた小細工が生きてきたようだ。

この件を踏まえて話したいのだと、今動いている人たちとつなぎをとって欲しいことを伝える。

ソレイユは少し考えるようにしてから、請け負ってくれた。

わたしはモードさんか王子かルークさんの誰かと連絡が取れれば、話はみんなに伝わるはずだと告げる。時は急を要する。短時間で信用してもらうのに、わたしが呼んでいるのだとわかる方法があるかと聞かれた。

「ハナの依頼だって言ってみてください」

それを最後に、あとはソレイユとアークで話を詰めるから休んでいていいと言われたので、お言葉に甘え眠らせてもらうことにした。