軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

114話 組織をぶっ潰せ③久しぶり

わたしは騙したのに。眠り玉で眠らせたのに。

悪い人なのに、なんで助けてくれたりするのよ。

動かしていいものかもわからず、魔法の水で、呼び出したタオルを濡らして、ニルスの顔をふく。まぶたがピクッとした。うっすらと目が開く。

「……何、泣いてんだよ」

「ありがとう。……ごめん」

「惚れたのか?」

「惚れるか」

ニルスは顔をしかめながらも起き上がり、なんてことないと言った。これぐらいは痛めつけられたうちに入らない、と。

「あなた、裏切り者と思われちゃったのよね、どうするの?」

「裏切ってねーから、大丈夫だろ?」

この人、頭悪いの?

「痛めつけられたじゃん!」

「それはボスのやろうとしたことを止めたケジメだろ」

わたしがおかしいのか彼がおかしいのか、何が正解かはわからない。

「それより、お前バカだな」

バカにバカと言われる屈辱。

「おれの嫁になってから逃げ出せばよかったのに」

彼は痛みに顔をしかめながらも、なんでもないことのようにそう言った。

「こうなると、俺はもう何もできないからな。お前、奴隷になったら大人しくしとけよ。言うこと聞かなければもっと殴られるだけだぞ」

彼は本気でわたしのいく末を心配している様だった。人攫いには違いないのに、体を張って助けてもらったこともあり、心底悪い人とは思えなかった。

わたしは重りのついた足枷をつけられた。けっこう重たくて片足では重りを引っ張りながらだとかなりの遅足になるので、重りのボール部分を手で持つことを許された。重りまでの鎖を長くしたから、ジャラジャラと歩くたびにうるさい。

足枷のせいで足首にひとまわりのアザができてしまった。重りは常に手に持って運んでいるが、それでもだ。奴隷判別で、わたしは海外行きが決まったようだ。また船で帝国に行くことになった。狭い一室に多くの同じ格好をした少女と詰め込められる。寒さをちっとも防げない、麻袋みたいなワンピースに着替えさせられた。ゴワゴワしていることより、寒さが堪える。わたしは逃げ出す危険性がありと、声を出せなくする魔具まで足枷につけられて、声を出せずにいる。そして散々酔って、具合も悪くなり、船の中ではほぼ寝て過ごすことになった。

船の中でもみんな何かしら働かされていたが、わたしは酔って最初に吐きまくったので、 嫌厭(けんえん) され距離をとられた。そして重りで両手が塞がっているのでつまり役立たずと見なされ、寝ていろということになった。足枷は皆つけられているものの目印みたいなもので、重りまでつけられるペナルティーがあるのはわたしだけだった。悪目立ちしているくせに働くこともしないので、大いに嫌われたようだ。御不浄へと赴けばすれ違いざまに足を出されたり、ぶつかったフリで小突かれたりする、同じ奴隷なのに。でもそうやって他の何かに目を向けていないと、心が壊れそうなのかもしれない。

とにかく、この重りをなんとかしよう。

陸に降り立った時、心から安堵したが、わたしは体調不良で倒れたみたいだ。

次に起きた時、上から覗き込んできたのは、ソレイユだった。

キラキラの美少年に磨きがかかっている。

何がどうなって? なんでソレイユ?

お医者さんがやってきて、ベッドで寝かせられたわたしを診る。

ソレイユはお医者さんと一緒に出て、少しすると戻ってきた。

「2、3日静養すれば、ポーションを飲んでも大丈夫だろうとのことだ」

体を動かすと聞き慣れたジャラッという音がする。

「助けるから、もう少し待ってくれ」

次に部屋に入って来たのは魔術師みたいな人だった。

重りを持ちソファーまで促され、座る。

やってきた魔術師さんは付与を解除できる人なんだろう。足枷についた魔具を外してくれた。

声を出せるようになった。しばらく水分をとってなかったから、掠れた声しか出ない。

ソレイユにまたベッドへと促される。

足枷は手続きが終わったら外せるからちょっと待ってくれと言われた。

メイドさんがソレイユに指示されてお水を持ってきてくれた。頭をちょっと下げて、一気にいただく。もう一杯注いでくれたので、今度はそれをゆっくりちょとずついただく。やっと頭も動き出し、自分の状況を慎重に探らなくてはと戒める。

「無事でよかった」

ソレイユは部屋からみんなが出ていくと、ベッドの横に跪く。

ベッドで体を起こしているわたしの手をぎゅーっと握った。

「私が君を欲しがったばっかりに、危険な目に合わせた。謝ってすむことではないが、ラオスは私のためを思って、君を連れ去ったようだ。本当に申し訳なかった」

この人は、なんだってわたしって確信しているんだろう。

「見回り中に、運ばれている君をみつけた時には、本当驚いたよ。神の采配に感謝する」

ソレイユは胸の前で十字を切るような仕草をして、終わりにトントンと自分の胸を2回叩いた。それでも黙っていると彼は言った。

「君を害さないから。君の嫌がることはしないから、嘘はつかないで欲しい。君が同じところにずっといられないって言っていたのは、それが理由だね。でも、君ってすぐにわかった」

ごくんとわたしの喉がなる。……アークにもすぐバレたしな。

9歳から16歳の成長はバックレようと思えばバックレられるとも思ったけど、ソレイユだしな。

わたしは覚悟を決める。

「……久しぶり」

わたしが挨拶すると、ソレイユは嬉しそうに笑った。

「ありがとう」

もう一度、ぎゅっとわたしの手を握る。

「名前は? ランディじゃないよね?」

「……リィヤ」

「……ちょっと違う感じがするな。君にはもっと軽やかで可愛らしい名前が合う。名前は?」

帝国での名前を言うと、少し首を傾げる。王族は皆、勘がいいのか?

「……ティア」

「ああ、ぴったりだ」

ソレイユが本当に嬉しそうに微笑う。

こうしてみると、背が高くなっている。成長期、スゴイな。今のわたしと同じくらいかも。顔もスッと引き締まったかもしれない。

「アジトではその名前、誰か知ってる? トーマスは?」

頷く。

「そうか。カルランは?」

カルラン? わたしは首を横にふる。

「そうか、2番目か」

ソレイユはなぜか嬉しそうに笑った。

「君はオーデリアに帰れていたんだね。オーデリアで奴隷狩りがあったというから、髪と瞳の色で君も対象となりうるから心配だった。カノープスにまだいるかと思っていたんだけど。もしかしてってね。静かだね」

そう言われた時、お腹がギュルっと鳴る。

「ごめん、至らなかった。すぐ用意させるよ」

ベルを鳴らして人を呼ぶ。執事さんに何やら指示をする。

ソレイユは戻って来てベッドの横に椅子を持って来て座った。さらさらの銀髪を耳にかける。

知り合いの顔を見て安心したのか、眠くなってきて、わたしはいつの間にか眠り込んでいたみたいだ。話し声が聞こえて、目を覚ます。

細目の人がソレイユと言い合いをしていた。

「すいませんね、皇子さん。手違いがあって。コイツにはもう買い手が決まってたみたいなんですよ」

「倍額出そう」

「普段ならホイホイ乗るところなんですがね、相手が悪りぃ。某国の将軍なんっすわ。逆らったら命ないですからね、申し訳ないですが」

重りを抱えさせたわたしをヒョイっと持ち上げる。

「助けるから、少しだけ待ってて」

ソレイユがわたしの手をギュッとした。

辛そうな顔のソレイユが印象に残った。

細目は重りを抱えたわたしごと毛布で巻きつけて、馬車に放り込む。ガタゴトと揺れて辛かったが、毛布で多少のクッションになり、なんとかなった。

見目のいい、少し広い屋敷の前で馬車は止まり、わたしはまた毛布ごと担ぎ上げられた。

屋敷の主はアークだった。わたしの知っている冒険者風ではなく、商人みたいな格好をしている、居間のようなところに連れていかれ、絨毯の上にゴロンと転がらせられる。

「お前ら、出ろ」

アークは 下(げ) 卑(び) た笑いを張り付かせた奴らを部屋から追い出した。

毛布ごとわたしを起こしてくれて、巻きつけられた毛布を取ってくれた。

「暴れるなよ」

そういって、足の戒めを解いてくれた。

やっと自由になり、わたしは息をついた。

「アザになっちゃったな」

重たかったからな。足首を一周したアザはしばらく消えないだろう。手首も何度も縄で縛られたりしたので、擦れて血が滲んでいる。

「巻き込んで、ごめんな」

アークがわたしを見ない。

「えっと、傷薬。ちょっと待ってろ」

「アーク」

アークが背中でピクッとする。わたしに向き合わないまま尋ねてくる。

「お前、側室聖女なのか? それとも聖女の子供なのか?」

「違うよ。調べればすぐわかる。わたしに浄化の力はないよ」

「じゃぁ、その姿は何だよ」

「若返る呪い、じゃなくて祝福?を受けて、子供まで若くなっちゃってたんだよ」

アークがこちらを振り返る。

「いっとき、ソレイユとラオスと同じ場所で過ごした。皇子なんて知らなくて。そんで働き手に見込まれて、断ったら拉致られたんだよ、皇太子に。それで逃げ出して、後は知っているよね? その上、お尋ね者になって、何でか聖女の子供になってた。で、アークは何をやっているの?」

「役職をとられたって言っただろ。でも、もう一度挑戦しようと思って、下っ端から挑戦してる」

わたしは勢いに任せて尋ねる。

「アークは奴隷狩りの組織の一員なの?」