軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

100話 師匠の家族③初めての晩餐

わたしの滞在中の部屋も用意してくださった。他の部屋と違い、若いお嬢さんが好まれそうな大変可愛らしいもので揃えられている。お部屋にわたしがそぐわないんじゃないかと心配だ。この短い時間でしつらえてくれるなんて。自分にこっそり、せめてものクリーンをかける。

ふかふかベッドの横にはふわふわのクッションが押し込まれた籠が置いてある。クーとミミの寝床も完備だ。素晴らしい。ふたりも見たらきっと喜ぶ。黄虎が帰ってくると、クーとミミは黄虎にひっついてしまった。ちょっと寂しい。けれど着替えたりなんだりだから、一緒にいてもクーとミミも退屈だろう。

ご飯をいただくのに相応しい装い。貴族、大変だな。なんと、メイドさんが支度を手伝ってくれる。今のわたしと同じか、ちょっと上ぐらいでアンナさんといった。アンナさんもとても優しく接してくれる。わたしは若草色のドレスに、お姉さんが選んでくれた装飾品をつけた。柔らかい室内ばきも履く。

ノックされてアンナさんが出ると、お母様、お姉さん’Sだ。

「綺麗! 素敵です!!」

テンションが上がる。

お姫さまだ! すっごいキレー。元々、皆様美しい方々だ。それが装ったら、もっと美しくなるのは当然だ。お母様は深いモスグリーンのドレス。お姉さんたちはマーメイド型の絞られたドレスを可憐に着こなしている。皆様、瞳の色に合わせた何かをアクセントにしている。このままお城の舞踏会にでも行けそうだ。眼福だ。ナマでいいもの見せていただきました!

3人はふふと笑って顔を見合わせ、そしてわたしに向き合う。

「お支度できたのね、かわいいわ」

「とても可愛らしいわ」

「髪も少しいじりましょうか」

「リン、髪飾りを持ってきて。翡翠の」

お化粧台の前に座らされ、お母様とミリセントお姉さんがなんだかんだ言いながら、髪をいじってくれて、ディアーナお姉さんのメイドさんが持ってきてくれた髪飾りで留めてくれる。

ディアーナお姉さんに、

「肌が綺麗だから、これだけね」

と、頬紅と口紅だけさしてもらった。普通はメイドさんがやることだろうに、お三方は自らわたしの世話を焼いてくれる。

みんな鏡の中のわたしを見て満足そうに頷く。地味などこにでもいそうなところは変わらないけれど、綺麗なドレスに装飾品、さらに化粧までしてもらって、わたしは間違いなく、今までで一番綺麗だろう。

「綺麗にしてくださって、ありがとうございます」

とお礼を言うと、微笑んでくれた。

「さぁ、食事にしましょう」

みんなで連れ立って、また違う部屋へと向かう。

部屋のドアを開けてくれたのはお父様で、男性陣はもう揃っていた。ドアのところで立ったまま待っていてくれたようだ。男性陣もそのまま舞踏会にも行けそうな正装で、みなさん似合っている。って言うか、それぞれの良いところを引き立てる服装で、かっこよさが際立っている。モードさんも、もちろんカッコイイ。こんな姿は女性に見せて欲しくない。すぐに惚れられてしまいそうだ。前髪を少しあげて固めていて、それが大人っぽさを加味している。ジャケットは体格の良さが際立つカットラインで、薄い青と紺の切替で洗練された感じだ。スカーフでタイをした胸元で、翡翠の宝石が輝く。わたしの胸で煌めく翡翠のネックレスと同じカットだ。お姉さんが翡翠の髪飾りを貸してくれたのも、合わせるためにだ。何だか嬉しい。

居間よりももっと広くて、天井には居間よりもゴージャスなシャンデリアで、真ん中には長いテーブルと重厚な椅子が置かれている。テーブルには真っ白のテーブルクロス。大きな真っ白なお皿がそれぞれの席に。お皿の上には立体的に折られたナプキンがお花のように咲いていて、お皿の左右にはフォークやナイフがセットしてある。これから始まる素晴らしい食事を予感させる。

部屋の一角に置かれたソファーに黄虎が寝そべり、その黄虎に埋もれていたミミが褒めてくれる。

『ティア、絵本で見たお姫しゃまみたいよ』

「ありがとう」

『にゃんでご飯を食べりゅのに着替えりゅんだ?』

「すっごくおいしいものをいただくのに相応しい格好をしているの」

後ろのディアーナお姉さんがくすっと笑われているから、多分何を言っているのか分かったのだろう。

お父様やお兄さんたちから何気ない感じに様相を褒められまくる。自然な感じで悪い気はしない。嘘です。嬉しくてテンションあがる。そんな中でもモードさんは通常運転だ。

「腹減っただろ。お前の作るもんも上手いけど、うちのシェフのもおいしいから期待していいぞ」

わたしは、うんと頷いた。

「ちょっと、モード。それだけ?」

「それだけ、とは?」

「着飾っている女性に何か言葉があるでしょ?」

お姉さんにはそう言われ、他男性陣にも呆れたような目を向けられている、味方はいない感じだ。

「ごめんなさいね、ティアちゃん。着飾った女性に言葉ひとつ言えないように育てた覚えはないのだけれど」

「いえ、とんでもない」

貴族、大変だな。わたしも貴族に生まれたとしても、冒険者選ぶかも。

「こいつは着飾っても着飾らなくても、そのままで十分だからいいんだよ。さ、食おうぜ」

手を引かれて、席に案内される。椅子を引いてくれる。立派にレディのエスコートを受けている。

そのままで十分って、殺し文句だな。モードさん、懐に入った者に優しいからね。弟子への優しさだ。

わたしがそう心に刻んでいるのに、皆様の視線がちょっと『いやん』な感じだ。

あまあまと思っていそうだ。なんか、すいません。

隣にモードさんが座る。よかったマナーとかわからないから、心強い。

食前酒から、晩餐は始まった。

わたしはなぜかジュースだった。成人してるけど。でもまだお酒を飲んだことないから、どうなるかわからないから良かったか。

前菜は葉っぱ野菜と、お魚のカルパッチョ風だ。こんな内陸で生のお魚ってすっごく大変なことのはず。さすが貴族。と思ったが、火が入ってるや。やはり生は食べないか。

レモンで酸味をきかせ、オリーブ油みたいのとお塩で味を引き出している。丸ネギを何かしたソースを使っているのかも。塩だけじゃない工夫したおいしさだ。

お父様がそれぞれのご家族の様子や、王都の様子を尋ねた。

それぞれのご家族もみんなお元気なようだ。

王都だけでなく今話題でもちきりなのは聖女さまのことだそうだ。アルバーレンの聖女さまはピンクブロンドの髪で、その色のウィッグが少し前までバカ売れしていたそうだ。そして側室聖女の本来の姿の噂が出てからは、薄い茶色の髪のウィッグが爆発的に売れているとか。

帝国で側室聖女の子供が行方不明の噂が出てからは、茶色の髪、葉っぱ色の瞳の子供の誘拐される事件が起きているそうだ。子供ではないけれど、気をつけた方がいいと言われる。

聖女の子供を探しているの? 浄化できるかどうか、一人ずつチェックしてるのかな?

お料理が次々と運ばれてくる。梨みたいなフォレスかな?を半分に切って芯のところをくり抜き、そこにチーズと鳥系のお肉を詰め合わせて焼いたものだ。梨の火を入れてねっとりした甘さとチーズの濃厚さがたまらん。柔らかいお肉もおいしい! あまじょっぱさが後をひく。

きのこのフリッターと、口直しのためだろう、スプーンに一口分だけ乗ったシャーベットみたいのが目の前に置かれる。

きのこは旨味が十分だから、塩を振るだけで美味しいもんね。そして熱くなり、舌の覚えたいろんな味を一度ゼロにするのに、果物のシャーベットかな。ミリョンと何かを合わせてる。おいしい。凍らせる技術があるんだ。どうやっているんだろう。後でモードさんに聞かなきゃ。

メインは赤身のお肉だ。マッシュポテトみたいのと、火を通した野菜が付け合わせてある。

モードさんが素早くお肉を切り分けて、そのお皿をわたしのと交換してくれる。おお、ミディアムだ。色の入り方も美しい。わたしはお礼を言う。

まず、お肉を塩だけでいただく。え? 牛肉?

「モードさん、これ牛肉?」

「ぎゅうにく? いや、ホルスタの肉じゃねーか。どした、食えないか?」

「ううん、ホルスタのお肉、大好き」

牛だ。ホルスタちゃん、いるんじゃない!

そうだ、生クリームも元の世界と同じ味だったもん、牛、いるんじゃない!

次はマッシュポテトと一緒に。野菜と一緒に。丸ネギのソースかな。次はこちらをつけて。

おお、どれもおいしい!

デザートはアップルパイ、もとい、リンゴンパイだ! 生クリーム付き。

牛がいるなら、バターあるよね。パイできるよね! 素晴らしすぎ!

バターが濃厚で、パイ生地はわたしの好きなタイプのだ。

リンゴンは甘く、中にちょっとカスタードっぽいものも入っている。

パイにリンゴンにカスタードに生クリーム、これを一緒に頬張れば、ちっちゃい悩みぐらい吹っ飛ぶよね。おいしー。ああ、貴族、素敵。ホルスタちゃん系のものがどれくらいで手に入るものなのか聞かないと。

リンゴンパイはモードさんの好物らしい。モードさんが帰ってきたので、料理長が腕を奮ったんだって。凍らせられるなら、アイスクリーム作れるね。リンゴンパイにアイスクリームもぜひ味わってもらいたいな。

そしてコーヒーが出てきた。

「ティアには苦いかな」

とモードさん。

「飲めるよ。ミルク入れたりするけどね」

「ティアちゃんは飲んだことあるのかね?」

「琥珀湯ですよね?」

尋ねると、やはりあっていた。コーヒーの匂いは間違えない。うん。

「はい、あります。ミルクを入れてですが」

そう言ったら、横からミルクが出てきた。おお、この白さは牛乳っぽい。

「ありがとうございます!」

ああ、マジモンのコーヒー牛乳が飲める。

「すごいですね、閉鎖的なジュゲイト大陸から輸入したんですか?」

「ティアちゃんこそ、よく琥珀湯がジュゲイト大陸のものだと。しかも情勢まで」

ゼノお兄さんに驚かれる。

「ダンジョンで会った傭兵の方がそうおっしゃっていたんです」

「お前、ダンジョンに行ったのか?」

「うん」

「お前のレベルで、よく死ななかったな」

モードさんが憮然とした表情で言った。

「うん。わたしも無謀だったと今は反省してる」

そこから、なぜか怒涛の質問タイムになった。

モードさんやご家族に聞かれたことを答えるうちに、いろいろ話してしまった。

エオドラントを目指す途中で人攫いにあったこと。帝国の皇太子が実行犯な事実は言えないのが悔しいところだ。

気がついたら帝国に向かう船の中だったこと。奴隷商人に売られそうになって、逃げ出したこと。幸い荷物は無事だったけれど、手持ちが船代まではなかったこと。冒険者として採集とかをしてみたが、物価が高く、出ていくお金の方が多くていつまでも帰れないと思ったこと。それならいっそのこととダンジョンで一攫千金を目指したこと。

ダンジョンに向かう馬車が盗賊に襲われたこと。乗り合わせた賞金稼ぎのふたりが強かったので、回避できたこと。わたしのレベルが低くてダンジョンにひとりでは入れないことを知ったこと。そうしたらそのふたりがダンジョンに付き合ってくれたこと。それでめでたく船代をゲットできたこと!

「お前の弟子は大したもんだな」

ウォルターお兄さんに言われたモードさんは頷く。

「こいつはすげーんだ。何せ街をひとつ救った。神獣の子供を拐おうとした実行犯に捕まりながらも、神獣の子供を助けたんだ」

モードさんが言うと、黄虎と一緒に果物をもらっていたクーとミミが騒ぐ。

『ティアがいたかりゃ、また母しゃまに会えた!』

『そうなの、ティアが首の嫌にゃのを壊してくれたの』

あ。クーとミミが何を言ってるかは分からないとは思うけど。

モードさんも一瞬しまったと言う顔をしたが、勘のいい皆さんはわかったみたいだ。

元々、ディアーナお姉さんは黄虎から聞いて知っていたみたいだしね。

「すいません、アンモニャナイトではなく、ブルードラゴンの子供です」

わたしは申告した。

「「「ブルードラゴン?」」」

真っ白だし、すっごく可愛いから、恐ろしいと言われるドラゴンとはとても思えないと思う。

「なるほど」

スタンお兄さんがなぜか頷いた。

「この部屋に神獣が3体もいるってことか」

レノンお兄さんがコーヒーを飲みながら感嘆する。

あんな喉をならして懐きまくっているのを見たら、とてもそうとは思えないけどね。