軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

99話 師匠の家族②甘く聞こえる関係

「な、なんでみんな帰ってくるんだ?」

「坊ちゃんが帰られたんです。当たり前じゃないですか」

皆さんが帰ってくると聞いたモードさんは執事さんに胡散臭そうな目を向ける。

「俺が帰ってきたくらいで、長兄まで帰ってくるわけないだろう? しかも連絡入れたの今だろ? 当日に帰ってくるなんて無茶でしかない。姉さんがなんか言ったのか?」

ミリセントお姉さんはふふふと笑っている。

でも郊外とか王都から帰ってくるっていったら、結構時間かかるんじゃないのかなと思ったが、そんな心配はいらないみたいだ。魔術師のお兄さんがみんなを転移させるとのこと。すげー。

「ティアちゃん、晩餐の時に着るドレスを買いにいきましょう」

「やめろ。こいつは俺の弟子だ。ドレスなんかきたことないんだ。こいつにはワンピースみたいのでいいから。堅苦しいことはさせるな」

「弟の弟子だから私の妹ね」

「何、ばかなことを」

「わかった、堅苦しいことはさせないから。若いお嬢さんなんだから可愛い格好させてもいいでしょ? モードも見たいでしょ?」

モードさんは額を押さえる。

「ティア、嫌だったら断っていいからな」

貴族だもん、食事の時に着る服がいるんだろう。

船賃は使っていないからその分はあるが、恐らく、ドレスなんかそんなんじゃ足りないよね。

「あの、わたし、お金がそこまでなくて……」

と焦っていたら。

「お前にかかる金は、ずっと俺が払う取り決めだろ?」

と、こともなげに言われる。ミリセントお姉さんが、ばっと口を押さえた。

それは普通にかかるお金であって。そりゃ、塵ツモを馬鹿にはできないけれど、ドレスなんて高価なもので3年とかは左団扇で暮らせる金額になるんじゃないだろうか。

「でも、モードさん、ドレスってすっごく高いんでしょう? 何年も暮らせる金額になるんじゃない?」

そのやりとりを聞いて、お姉さんはなんだか、さらに嬉しそうになる。

「モード持ちなのね。それはいいわ」

馬車に乗って、お姉さんに服屋に連れられていく。いや、服屋じゃ違いすぎるか、ドレスの店だね。馬車も高価かどうかで全然違うんだね。お尻がそんなに痛くならない。

クーとミミはお留守番だ。モードさんのお家も気に入ったみたい。モードさんもいるから問題ないだろう。

むしろ、問題があるのはわたしだ。コルセットとか無理だと思うんですけど。

不安に思うことを告げるとお姉さんはふふと笑った。

今は王宮での格式高い何かである以外はコルセットを使わなくなってきているそうだ。

家での食事だし、そんな堅苦しいものにする気はない、と。でも、お高いドレスなんか買ってもらうのは非常に心苦しいのだが、師匠が弟子の衣食住の面倒は見るのが当たり前だそうだ。

時間があれば採寸からするんだけど、と怖いことをおっしゃる。

既製品のドレスをいくつか見て、どういうタイプが好きか聞かれる。なるべくシンプルなのが好みと告げると、これを着てみてと試着させられる。5着も。

どれも触り心地がよく、品がよくて、でもところどころ乙女心をくすぐる気遣いある可愛らしさがあって、お姉さんのセンスも良いのが窺える。ちらりと見ただけでこれだけ選んだからね。

1着ずつ着て、お披露目。後ろで紐を縛って絞り込んでいくドレスが多いのでひとりでは着られない。大人しくお店の人に着せてもらう。お披露目をするとお姉さんのじっくりチェック。そしてまた次だ。

わたしは明るい若草色のドレスが気に入った。シンプルなんだけど、スカートのサイドにドレープがあり、そこにレースがあしらってある。それがめちゃくちゃ可愛いと思ったのだ。

着替えて出ていくと、盛り沢山にものがおいてある。まさか、大人買いじゃないよね。モードさんが破産しちゃう。

「ティアちゃんは、どれが気に入った?」

「若草色のがとても気に入りました」

答えるとにっこりと笑う。

「私もそう思ったわ。一番似合っていたし」

とわたしに言ってから

「青のドレスだけ、ウエストのところ、1センチつめてくださる? あとはこのままでいただくわ」

はい?

「あのぉ」

恐る恐る声をかける。

「なぁに?」

「若草色のドレスを」

「ええ、今日はこちらを着てね。後のは着替え用よ」

うっそぉ。1着でもきっと恐ろしいくらい高いはず。こんなのを5着も?

「装飾品や靴も見繕っておいたわ。靴は履いてみて」

店員さんに椅子に座らされ、靴を履かせてもらう。

立ち上がってみて、歩いて、大丈夫かのチェックだ。何足か試し履きをする。

大丈夫とみてとると、お姉さん、またしても大人買い。

装飾品だって、もう恐ろしい。

「すべてうちに届けてください。なるべく早くによろしくね」

お店の人は90度にお辞儀だ。

「あのー、ダメです。モードさんが破産しちゃう」

お姉さんは小さい声で止めるわたしをぎゅーっと抱きとめる。

「モードがあんなに人間らしいところを見せて、嬉しいの。だからこれはお礼よ。私からのプレゼントよ」

「多すぎます!」

まだまだ足らないとお姉さんは微笑む。

「それにモードにこの店ごと2、3軒買わせたぐらいで、破産する甲斐性なしではないから安心して」

わたしこそ、モードさんに助けてもらってばかりなんですけど、と言えば、くすりと笑う。

ん? 今店ごとって言った? お店の商品全部ってことだよね? それでもすごいけど。まさかのお店ごとじゃないよね。それにしてもモードさんもかなりお金持ちらしい。

買ってもらったのはそれだけじゃない。晩餐以外のワンピース7点、部屋着7点、夜着7点、室内ばき5足、キャミソールなどのインナー、下着、それから普段使いの髪飾りや装飾品が盛り沢山だ。ところどころ抵抗したのだが、お子さんは男の子だそうで、女の子のものを選べるなんてと目を輝かせていらして、もうどうしようもなかった。もう、あれだね。わたしも甥っ子や、友達の赤ちゃんの服や子供服をプレゼントするときは、そうなった。

本当にいいのかな? と思いながらもお礼は言いまくるが、これは大人買いにもほどがある。

帰ってからモードさんにどうしようと言ってみたが、お姉さんの好意だから使ってやってくれと言ってもらった。めちゃくちゃ好遇されている。早速、普段使いのドレスなるものを着させてもらう。質がいいのもあって、とても過ごしやすい。いつもはほぼ男の子の格好をしていたから、それはそれで楽チンでいいのだけれど。ミミが可愛いと言ってくれて、テンションが上がる。こんな女の子って感じの格好ができる日が来るとは!

夕方になると、次々とモードさんのご家族が到着した。最初に帰っていらしたのはお父様とお母様。魔術師のお兄さんも一緒だったけれど、まだ途中だから後で挨拶すると言って、すぐにまた消えた。

お父様は威厳がある。背も高くてモードさんぐらいあるんじゃないかな。体も結構たくましい。厳しい雰囲気の中にも目が優しい。モードさんと同じ鈍い色の金髪に、深い碧色の瞳。

お母様はとても可愛らしい感じの方だ。とっても優しそう。夫婦でとても仲がいい。そして若い! とても50代には見えない。それに7人も子供がいるようには絶対、見えない! 明るい金髪に水色の瞳。

お父様はモードさんの手をとってからぎゅっと抱きしめる。お母様にはモードさんがハグする。とても優しい時間だ。紹介してもらって、わたしは頭を下げた。

お父様は騎士みたいにわたしの手の甲に口付ける。平民なのに破格のレディ扱いだ。お母様もわたしの頬に手を置いて、歓迎の言葉を口にしてくれた。

クーとミミも可愛がってくれて、クーもミミも嬉しそうだ。

次に当主である一番上のお兄さんが帰ってきた。スタンさんというそうだ。お兄さんもモードさんをぎゅうっとして、お帰りとお兄さんが言う。モードさんは長く帰ってきてなかったみたいだ。だからみんな帰ってくるんだね。とても素敵だ。

お兄さんはお父様みたいに、わたしの手の甲にキスをする。髪と瞳の色もお父様と一緒で、その上、仕草がそっくりだった。

「義姉上や、子供たちは息災か?」

モードさんがスタンお兄さんに尋ねる。

「ああ、元気にやっている。お前に会いたがっているぞ。王都に来る時は寄ってくれ。ティアちゃんも一緒に来てくれ。こいつひとりだと絶対に来ないから」

「ティア、王都に行ってみたいか?」

モードさんに不意に聞かれて、思わず頷くと

「じゃぁ、そん時はお邪魔する」

モードさんが言うと、お兄さんは口元をほころばせた。

次は2番目の騎士のお兄さんだ。大きなモードさんよりさらに大きい。モードさんに肩を組み、元気だったかと力強く頭を撫でまくる。あんな強さでやられたら、首がもげるんじゃないかと少しドキドキしてしまう。

お兄さんの視線がふとわたしに留まる。明るい金髪に水色の瞳だ。

「こちらがモードの弟子殿だな」

「ティアです」

挨拶するとふわっと抱っこされる。

「これは可愛らしいお嬢さんだ」

「レノン兄、ティアは子供じゃないんだ、軽々しく抱き上げるな」

お兄さんは優しい目でわたしを見る。

「これはレディ、失礼しました」

おどけた感じで言っておろしてくれる。

三男のお兄さんは小柄だった。仕立てのいいスーツを着て、ハの字のヒゲをはやしている。先がちょっとくるんとしていてかわいい。似てないかと思ったが、目を細めて微笑った顔が、モードさんと重なった。

モードさんに袋にいっぱいの何かを渡す。中をちょっと見て、モードさんはお礼を言った。

お兄さんはわたしの頭を撫でてくれる。鈍い金髪に濃い碧色の瞳。

「欲しいものがあったら、言いなさい。世界中を探してでも、私が届けよう」

そうウインクする。流通を請け負っているゼノお兄さん。

最後にやってきたのは黄虎のマスターである、ディアーナお姉さんだ。

お姉さんはモードさんを見るとぎゅーっと抱きしめる。モードさんも背中に手を添えてポンポンと叩く。

それからわたしに向き直る。

「あなたがティアちゃんね。キトラも可愛がってくれてありがとう」

ディアーナお姉さんも、わたしをぎゅっとしてくれる。明るい金髪に輝くような翠色の瞳。お姉さんが帰ってくると、黄虎もどこからか帰ってきた。お姉さんが首のところをかいてあげると気持ちよさそうに目をつむった。

何度も魔術で行ったり来たりしていたのは、4男のお兄さんだ。ウォルターお兄さん。

お兄さんはモードさんの肩に手を置く。

わたしの頭にも手を置いた。薄い金髪に、薄い淡い水色の瞳。

「魔力がすごいな」

と言った。わたしって魔力すごいの? モードさんを見上げる。

「低くはないな」

さすが、モードさんのご家族だ。みんなとっても優しくて、温かく素敵な人たちだ。たちまちわたしは大好きになった。

居間に移動した。みんなでお茶をいただく。こうしてみんなが揃うのはずいぶん久しぶりなことのようだ。

「モードが本当にあなたの面倒をみたというのですか?」

お母様がすっごく不思議そうにおっしゃる。

わたしはどんなにモードさんによくしてもらったかをご家族に伝えなきゃと張り切った。

「はい、ご飯を作ってくれたり、食べさせてくれたり」

「食べさせて?」

首を傾げられる。

「はい。膝の上で、食べさせてもらってました」

みなさんが、ばっとモードさんに目を走らせる。

最初は確かにやり慣れてはいない感じで、食べるのは大変だったが、すぐに工夫してくれて美味しくいただくことができた。でもそれはマイナスポイントになるかもしれないから言わないでおく。

「モードがねぇ〜。ハハハ。じゃ、なんだ、子守唄も歌ってくれたか?」

高らかに笑い声をあげる、ゼノお兄さん。モードさんがお世話してくれたことを本気にしていない感じだ。

「歌は聞いたことはありませんが、一緒に眠って、眠れるまで背中をポンポン叩いてくれました」

みなさんが、ばっとモードさんに顔を向ける。

モードさんを見ると、こめかみを親指と小指で押さえている。ちらりとこちらを見て言う。

「お前、わざとだろう?」

モードさんに言われてハッとする。もう幼児じゃなかった。

「あの、小さい頃です!」

9歳はちっちゃいよね?

慌てていう。

「モードと会ったのは?」

「……1年ぐらい前です。あの、具合の悪い時の話です」

声がどんどん小さくなる。心の中でモードさんに謝る。

くっとお父様が笑われて、失礼と言う。

お母様もクスクス笑われて、お兄さんやお姉さんも笑い出す。

ミリセントお姉さんは、バシバシ、隣りのモードさんの背中を叩いた。

「あなたが人間らしくなってホント良かったわ」

わたしは挽回しなきゃと、モードさんと森に入って、どんなにモードさんが強くってかっこいいかを熱く語った。それもまた、なぜかすっごく笑われた。