作品タイトル不明
986 聖者から見た魔王子
俺です。
……激しい戦いだった。
まさか畑の野菜がいきなりテックセットしてシンメトリカルドッキングし、挙句には『人でもなく獣でもなく、神になるのだ』とか言いだした時はどうしようかと思った。お前野菜だろ。
ウチの農場では往々にしてこういったことが起こる。野菜だって春先になったら独りでに踊り出して変身したり合体したりもする。
春先だからってハッスルちゃんが過ぎる。
とにかくオークボやゴブ吉たちの協力を得て、合体した野菜どもを細切れにし、ジックリコトコト煮込んだスープがコレ。
おかげで今日訪問するはずの魔王さんの息子……ゴティアくんの出迎えにすっかり遅れてしまった。
もうこの頃だとプラティが農場学校へ案内しているかな?
では現場へ直接向かって、生徒の皆にもこの野菜たっぷりスープを振舞ってやるとするか!!
……と思って農場学校に駆けつけてみたら、案の定の風景が広がっていた。
「ぎゃああああああああああッ!! ノーライフキング!? ノーライフキングがああああああッッ!!」
『元気な若者じゃのう』
あそこで腰抜かしてビビり散らかしているのがゴティアくんであろう。
大きくなったなあ。以前目撃した神プラ大会から大きく成長したものだ。
あの年頃の子はちょっと間を置くだけで別人ぐらいに成長する。
背が高くなるだけじゃなくて、顔つきも精悍、心身もガッシリとしている感じがする。
まあ、今は情けなく腰を抜かしているけれど。
「世界二大災厄のノーライフキング!? そんな、さっきはドラゴンまでいたというのに!?」
ヴィールにはもう会ってしまったか。
大体すぐ会っちゃうんだけれどな。ゴティアくんはもう既に充分な農場の洗礼を受けているらしい。
「あッ、旦那様やっと来た。お客様の訪問時にルーズよ!」
プラティに怒られた。
すまんな農場に突発的トラブルはつきものなのだ本当に。
しかしせっかくのお客様を待たせた不始末は事実なので素直に謝罪する。
「やあやあゴティアくん、出迎えが遅れて申し訳ないね。俺がこの農場の主です!」
「のーら、のらのらのらのらのら、ノーライフキング……!?」
こりゃダメだ。
目の前に現れた最恐存在を前にすっかり気力が消し飛んでしまっている。
まあ、これがノーライフキングを目の前にしての極めて普通の反応なんだが……。
「このままでは埒が明きませんので先生、ご紹介させていただきます」
『うむ』
問題のノーライフキング……先生を面前に引き立てる。
「ゴティアくん。この御方は先生と呼ばれるノーライフキングで、いい人だから害はありません。だから安心して接していいよ」
「無害ッ!?」
完全にビビッた子どものゴティアくんは、俄かに信じられぬようで先生のことを凝視する。
『…………』
見詰められてニコッと笑い返す先生。
しかしそれが余計に恐怖を呼んだのか……。
「びえぇええええええええええッッ!!」
ついにはガン泣きしだすゴティアくん。
さすがに先生に失礼。
『まあまあ、普通ノーライフキンブはすべての生物にとって恐怖の対象ですので……。忘れがちになりますが彼の対応こそ正しいのでしょう』
とりなす先生もちょっぴり寂しそうじゃないか!?
ちょっとちゃんとフォローしてあげて!?
しかし当のゴティアくんはビビりにビビり散らかし……!
「一体何なんだ、ここは!? ドラゴンはいるしノーライフキングもいるし! さらにはドラゴンと互角に戦える翼の生えた人までいるし、しかもやたら怪力の人間国の王女や、人魚王の妹だと! こんな滅茶苦茶な土地があっていいのか!?」
ああ、ホルコスフォンとかにも会ったんだ?
天使の存在はそりゃ知らない人には衝撃だよね。あえて言うなら三番目の世界二大災厄。
「危険だ! やっぱり危険だ! この土地は世界にとってあまりに危険すぎる! こうなったら魔王軍の全軍を率いてこの地を攻め滅ぼさなければ! 先制攻撃しかない!!」
なんか発想が危険な方へと向かっていっている?
どうしようコレ?
何とかして説得を試みた方が……!?
「見苦しいぞゴティアッッ!!」
ビクッ!?
凄まじい大声に、ゴティアくんだけでなくそこにいた全員が驚きビビる。
一体誰の声だろうかと注目が集まって、そこにいるのは……。
「父上!?」
「魔王さん!?」
ゴティアくんのお父さんにして俺の友だち。
地上最強の勢力、魔族を束ねる魔王さんだった。
「情けない! この程度で平静さを欠き、みだりに軍を動かそうとするとは! そのような体たらくで我の跡を継げると思うてか!」
「ち、父上何故ここに? 一緒に来てくれなかったので、てっきり魔都で政務をしていると……」
たしかにゴティアくんの言う通り。
お父さんならちゃんと息子に付き添ってあげなさいよ魔王さん。
「あえて来るタイミングをずらしたのだ。ゴティアがただ一人で雑念なく、農場をどう受け止めるか確かめたくてな。結果は無残たるものだったが……!」
「ですが父上! この農場の存在はあまりに危険です! 魔国永年の繁栄を望むためにも、災いの種は早いうちに刈り取るべきかと……!!」
なかなか過激なことを言うなあゴティアくん。
そんなに怖いかなウチの農場って?
潜在する戦力はともかく、住んでる皆、根は気のいいヤツらだと思うんだけど……!?
「いいゴティア、よく聞きなさい……」
そこへ静かにアスタレスさんが寄り添う。
ゴティアくんのお母さんである彼女も、夫である魔王さんに伴してきたようだ。
そんなアスタレスさんが息子へ、優しく耳元で囁く。
「……どれだけ魔王軍が全力を挙げても、農場には絶対に勝てぬぞ」
「!?」
ゴティアくんの全身が弾けるように震えて……。
「そうだ……、そうだった……『魔王軍の戦力を十倍にしてかかっても農場には勝てない』と言われたばかりだった……!」
「あまりの混乱で忘れてしまっていたか情けない。そのような胆力の弱さではたしかに次代の魔王は背負わせられぬぞ」
皆さんゴティアくんに厳しい。
「いいかゴティアよ。世界には、人が触れてはいけない絶対の領域というものがある。迂闊にもそこへ踏み込んだ時、その者は破滅するのだ。これまで人類にとってその危険な領域は、ドラゴンやノーライフキングであった。しかしこれからはそれに加え、聖者の農場というもう一つが加わる」
え? アスタレスさんウチのことそんな風に思っていたの?
ウチはどこまでも善良な無害の農場だが?
「かく言う母も最初は、この農場を滅ぼさんと攻め込んでな……!」
「ええッ、それでどうなったんですか!?」
「普通にボコボコにされた。先生やヴィール様が出るまでもなく数人のオークゴブリンによってな。あそこまでの一方的な敗北は、我が生涯通して他にない」
ああ、そういやそんなこともあったね。
思えばアレが、魔王さんたちと仲良くなるきっかけであったか。
「かつて魔王軍四天王の一人で、最強と謳われたという母上が……! 母上に敵う者など誰もいなかったと聞いていたのに……!」
「え? そんなフカシこいてたの? 普通にもっと強いヤツがゴロゴロいるでしょうに魔王軍?」
プラティよ……。
子どもの前で見栄を張りたがるお母さんの気持ちを汲み取ってあげて。キミだって覚えがあるだろう。
「力ですべてを押さえつけることだけが覇道ではない。現にこの農場を敵に回せば、魔国など一日のうちに潰されてしまうだろう。しかしこうして好意をもって接すれば、限りない恵みを分け与えてくれる。そのことを理解するための農場留学でもあるのだ!」
「母上ッ!」
あッ、息子への洗脳が完了した。
魔王さん、以下の主張についてどう思われます?
「いやまあ……、我らと聖者殿の仲はそんな打算的なものではないと思いたいが……」
めっちゃ難しい表情をしてられた。
でもまあ普通に友だちになれた魔王さんはともかく、二代目となるゴティアくんはそれなりに条約的な付き合いをしていかなきゃだし、難しいところだなあ。
「わかりました父上母上! このゴティア次代の魔王として農場で学び、友好な関係を築き上げてみせます」
「いやいやいや、違う違う違う……!」
その志高いのはいいけれども。
「お前には、普通にこの農場学校で勉学に励んでほしいのだ。もはや想像もつくと思うが、この農場で学べることは役立つことばかりだからな」
「え?」
そう、そしてその役立つことを教えてくれるのが、こちらノーライフキングの先生です。
その見た目的には世界に二つとないほど恐ろしい姿に、ゴティアくんは今度こそ恐怖に泡吹いて失神した。