軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

935 金蝙蝠襲来

はい、俺です。

俺なのです。

S級昇格試験に参加した人々それぞれに様々な想いが去来したものと思う。

過信を打ち砕かれたか。

想像を絶するS級冒険者の領域に衝撃を受けたか。

とにかく価値観の広まりを受け、より闘志を燃やす者がいれば、諦めて去っていく者もいるだろう。

いずれも各自が下した決断で、誰かがとやかく言う筋のことじゃない。

悔いのない選択出ないことを祈るばかりだ。

で。

S級昇格試験全体についてはいかなる結末を迎えるのだろうか?

そもそもが『新しいS級冒険者を迎えよう』というのがこの試験の目的のはず。

何にしろ合格者が出ることは喜ばしいはずだ。

しかしながらちょっとありえんレベルでの超高難易度で、このままでは合格者ゼロ名となりかねない展開。

主催者でもあるシルバーウルフさんは、この状況をヨシとしているのだろうか。

「とりあえず合格者は一人出るな」

そっすか。

ところでシルバーウルフさんなんで酒飲んでるの?

しかもウチの農場でバッカスが作ったヤツを?

え? それはよしとして?

まったくよくないが、まあいいか。

「A級冒険者のコーリー。彼を新たなS級冒険者に任命しようと思う」

ほう彼を?

情報によれば泣きの再試験で唯一、五大明王が守護するピラミッドに単身突入した猛者だな。

男の子の割に犬耳など装備していたから印象に残って覚えていた。

「今回、ピラミッドの難易度が明らかに突出してたもんなー。それを知っていながらあえてその最高難易度に突入する度胸。そこを買ったんですか?」

「度胸だけではS級冒険者は務まらない。最高難易度に挑戦し、そして見事突破したからこそのS級任命と思っている」

そうだなアレはビックリした。

ピラミッドからコーリーくんに続いてゾロゾロと、仏様が出てくるんだもの。

憤怒形の明王たちが、何をきっかけにアルカイックスマイルの菩薩に変化したのか?

え? 違う?

如来?

とにかく何が起こったか容易に想像がつかず、今回一番の大事件と見ていいだろう。

「彼のピラミッド攻略成功は、運によるところが非常に大きいが、しかし運を引き寄せるにも最低限の実力は必要だ。賭けに出る度胸もな。それに免じてS級を名乗ること許してもいいと判断した」

しかし本人は戸惑っている模様。

『S級にはまだまだ実力が足りない!』と。

「私の実演を見てのセリフらしいが、私だってS級に上がった直後からあんな動きができたわけではない。S級となることでさらに実力を磨く機会を得て、飛躍的な成長を遂げることができた。ある一定のステージまで登らないと見えてこない地平もある」

さらなる成長に期待……ということか。

ギルド側には、せっかくなので魔族の合格者も出させてあげたいという意図もあったらしいが、こちらは生憎沙汰やみとなった。

理由は単純、S級に見合った実力の持ち主がいなかったということだ。

「一番有力だったのがベリアードという受験者だな。魔王軍からの退役組で実力実績共に充分だったが、今一歩S級の要求する基準に届かなかった。今回は据え置きとして、誰か現役S級の補佐につかせて経験を積ませてみるかな」

現役というと、今回合格したコーリーくんに加えて、ゴールデンバットさんやピンクトントンさんやカトウさんのいずれかか。

「ピンクトントンさんがいいんじゃないですか? あの人面倒見がよさそうだし……」

「アイツに預けると、また知らぬ間に女子レスラーに仕立て上げられそうなのがなあ……」

え?

ベリアードさんって女の子だった?

「実際ピンクトントンに預けた冒険者の中でS級を狙える才覚が何人かいたんだけど、試験の呼びかけに応えなくてなあ。『それよりもお姫様に勝つ方が大事なのよ!』とか何とか言って……!」

そう言ってため息を吐くシルバーウルフさん。

ギルドマスターになっても苦労しているようだ。

「ゴールデンバットのヤツに人を育てる甲斐性なんてないし、結局はまたカトウくんに頼ってしまうな……。彼が新たな苦労人にならねばよいが……」

そうは言ってもカトウさんは、責任の投げだし方を心得ている人なので押し潰されることはないように思う。

手の抜き方が上手いというか……。

とにかく、せっかくのS級昇格試験、全員不合格という最悪の事態だけは免れてよかった。

たった一人でも新しいS級冒険者が生まれればシルバーウルフさんたちの抜けた穴は幾分埋まるからな。

できることなら二人は合格者が出て数合わせだけは完璧にしたかったものだが。

やるべきことはすべてやり終えて、試験も締め括りへと差し掛かってきた。

受験者全員を集めて、シルバーウルフさんが閉幕の議を執り行う。

「……ということで合格者してS級冒険者となれたのは一名。不合格となった者たちは残念だが、今日の経験を糧としてより実力を培い、次なるチャンスに挑戦してほしい」

「挑戦こそ冒険者の本分にゃーん!」

ギルマス夫人であるブラックキャットさんまで一緒になってコメントする。

今回は彼女の株も上がる日だったな。

「私たちもこれをもって第一線から完全に身を引く。これからはキミたちの時代だ。よりよい冒険者業界を作り上げるために一致団結して頑張って行ってほしい」

「ギルドはそのサポートを全力で行うにゃーん」

不合格となった受験者たちにも不満の表情はなく、素直に結果を受け入れている様子だった。

……そりゃまあ、あんなどぎつい鬼畜試験を食らえば『もういいや』って気分にはなるだろうが……。

「ではS級昇格試験の全過程は終了した。これより順次、受験者は転移魔法で帰還してもらう。試験会場を提供してくださった聖者様のご厚意に報いるためにも試験後、農場に残ることは許さない」

「逆らったらS級どころか冒険者資格そのものをはく奪にゃん!」

そこのところはしっかりしてくれる冒険者ギルド。

ウチとしても、これで冒険者たちにこっそり残られて何かトラブルになっても困るからなあ。

「ちょおおおおおおーーっと! 待ったぁあああああーーッッ!!」

うおッ、なんだ?

突如上空から叫び声が?

それは冒険者たちにも予想外だったのか、動揺しながら空を見上げる者多数。

「この声まさか……!?」

シルバーウルフさんが何やら心当たりのありそうな素振りを見せるが……やがて声に遅れて空から降ってくる本体。

それは黄金色に輝く、コウモリの翼を持っていた。

S級冒険者、その中でも最高の使い手と称されるゴールデンバット。

「ゴールデンバットか、呼んでもない時に何故ここに?」

「読んでない時だけ颯爽登場してくるヤツにゃーん」

同僚からの評価はひたすら辛辣。

さすがゴールデンバットは問題児ズの一角だ。

「オレが未登録ダンジョン探しの遠征に出ている間に、何をしていた? ついさっき帰ってきて状況を聞いて、慌てて飛んできたんだぞ?」

自力で飛んで農場まで到達できるところがおかしい。

迷惑であることはたしかだが、さすがS級冒険者ナンバーワンの実力者というべきか。

そんな最高冒険者の急遽登場に、受験者たちも困惑気味。

えッ? 終わったんじゃないの?

こんな終幕ムードでサプライズゲスト出されても……という感じ。

「なんだ連絡がなかったことに怒っているのか? しかしお前、昇格試験なんて興味ないだろ?」

「むしろ連絡したら『くだらんこといちいち知らせてくんな』って怒るタイプにゃーん。日頃の行いにゃーん」

シルバーウルフさん&ブラックキャットさんも、同僚の性格をよく把握してらっしゃる。

だからこそ、まったく関与してこないと思われていたゴールデンバットが自分から乱入してくることに驚きと戸惑いを隠せない様子だった。

「当然だ。こんな才能スッカラカンの駄馬どもにオレの興味は一片も向かない。オレの貴重な時間の無駄だからな」

実際そう思っていることはわかっていたが、そこまで言うか。

ゴールデンバットの徹底した個人主義に、今日S級冒険者を目指して集まった受験者たちは鼻白む。

『同じS級でもシルバーウルフとは大違いだ』と……。

「それこそがゴールデンバット! 高慢孤高しかしそれが許されるだけの実力の持ち主! 絶対個人主義のゴールデンバットと、和を尊しとするシルバーウルフの双璧が絶妙たるバランスとりをすることで、ここ数年のギルドは絶頂期にあったのだ!!」

また早口で解説している人がいる。

で、そんな実力カンスト他人なんてカスほどの価値もないゴールデンバットさんが何用で?

「オレが用があるのは……貴様だシルバーウルフ!」

「私?」

『オレはテメエに用なんかねえが』とあからさまに顔に出ているシルバーウルフさん。

しかし次にゴールデンバットが言うことはさらに厄介だった。

「冒険者を引退するとはどういうことだ!? そんなことはオレが許さん! 撤回しろ! オレがより先に冒険者を辞めるなど絶対に許さないぞ!」