軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

934 恐るべし人族

私は魔族冒険者のベリアード。

かつて魔王軍四天王になれるところまでチェックメイトをかけた存在。

そんな強豪の私であれば冒険者など余裕よ! すぐさま頂点を取ってくれるわ! などと思っていたのは遥か昔のように思える。

急遽開かれたS級冒険者昇格試験が、私の自信を完膚なきまでに打ち砕いた!!

一体どういうことだ!?

ノーライフキングやドラゴンの住むダンジョンなんて、魔王軍でも魔王様が直々に指揮をとって乗り込むべき虎口だというのに。

そんな主ありダンジョンが二つ……いや三つ? も隣接しているなんて常識では考えられない!

というか主ありダンジョンをクリアしないとなれないなんてS級冒険者とかいうのは、そんなに凄まじいのか!?

ウソだろう!

少なくとも魔王軍四天王になるには、そこまで厳しい条件のクリアはないぞ!!

まさかS級冒険者が四天王より上……などと言うまいな?

そんなことがあるわけない! さすればこれは不当に難易度を引き上げられた不法試験! 正当なものではない!

やり直しを要求する!!

私と同じ感想を持った者は他にもいたようで、轟々の非難が上がった。

そうだ、こんな誰もクリアできない試験、不当が当然なんだ。

このままブーイングが続けばきっと運営側も自分たちの非を認め、より的確な難易度を設定された試験を作り直すはず。

と期待したが……運営側の答えは意外なものだった。

「……情けない。クリアできないからとギルド側に文句を言うのか? 実際の冒険でもそんな恥ずべきことをするつもりか?」

そう言ったのは運営側の一番偉いヤツ。

最初見た時はオオカミの頭をしてモンスターの一種かと思ってしまった。

あとで聞いたのだが、人族固有の亜人種である獣人というらしいな……!

その獣人はシルバーウルフと言って、現役のS級冒険者。

ヤツの引退がきっかけで今日の試験が行われる流れになったらしい。

アレが全冒険者の頂点に君臨する者……!

そう思うと、ただ立っているだけのアイツの姿に気圧されるかのようだった。

「そもそも、お前たちはS級冒険者の力をどれほどと思っている? たとえ主ありダンジョンだと言っても、なすすべもなく当たって砕けておめおめ逃げ帰るのがS級冒険者のすることか?」

シルバーウルフは引き続き演説するが、その内容の苛烈さにも気圧されるかのようだった。

手足がちぎれてもダンジョンを進み続ける……。

そんな恐ろしい覚悟が冒険者には必要なのかと。

それほどまでに心を鉄のように強固にしないと冒険者の頂点には立てないのかと。

「しかしまあ、口だけならば何とでもいえるものだ」

こっちは衝撃を受けている最中だというのに、シルバーウルフはさらなる提案で畳みかけてくる。

「私もこれから聖者の農場にあるダンジョンの一つに挑戦してみせよう。引退を表明したものの、今はまだ現役のS級冒険者。その実力を直に見せてあげようではないか」

と。

S級冒険者みずから、あの超高難易度ダンジョンに入るというのか?

四天王候補であった私ですら秒単位ではじき出されたダンジョンに?

私の想像では、たとえ最強冒険者といえども我々と同様すぐさまやられてリタイヤするのが目に見えていた。

しかし別の視点では、彼は何かやってくれるのではないかと、そんな期待も帯びる。

実際にダンジョンに入ってみてすぐさま、その期待は正しかったと思った。

S級冒険者シルバーウルフの身のこなしは、私の想像を遥かに超えていて、襲い来るモンスターをやすやすと叩き伏せていくのだ!!

あの身のこなし、間違いなく四天王並!

人族は戦争に敗けたのだから魔族より弱いと思っていたが、実はそうでもないものか?

魔族における四天王級の強さの持ち主こそ、S級冒険者……!?

「さすがS級冒険者シルバーウルフ! ダンジョン探索の基礎をしっかりと抑えている!」

ん? なんだ?

私の隣で見学している受験者の一人が、急に解説しだした!?

「素材稼ぎの目的とは違って、ダンジョン制覇を目指す際は戦闘回避が鉄則。無駄な行程を最小限に抑えることで体力消費も抑える! 特にシルバーウルフはオオカミ獣人としての鋭敏な嗅覚があり、それで敵との距離はもちろんのこと一説には感情まで読むと言われている! それによって敵モンスターのテンションを即座に見分け、戦闘不可避なら一撃離脱の対応ができるという判断を瞬時に行えることが、彼の強み……!」

な、なるほど……!?

ダンジョン攻略も考えて進行されている。

身体能力が高いだけでなく、頭脳も高いというわけだな……!?

しかし早口でしゃべるな……!?

「ちなみに、それでもシルバーウルフの本領はまだまだ発揮されていない! 何故ならシルバーウルフはオオカミの獣人! オオカミとは群れを作る動物だからだ! その因子を色濃く受け継ぐ彼の冒険者スタイルは、パーティを組んでこそ精彩を放つ。よってたった一人での攻略は、彼の強みを切り離したもの!“一匹狼”などという造語は、所詮人間の先入観が生み出した誤用に過ぎないのだよ!!」

そ、そうなのか?

『ちなみに』から随分長文続くなあ……!?

そんな長文説明を聞いている間に、気づいたらシルバーウルフが随分進んでいる!?

説明聞いてて肝心のアクションを見逃すなんて愚かの極みだ!

「にゃんにゃにゃん! シルウルちゃんにだけカッコよくはさせないにゃん!!」

しかもまた新しい誰かが乱入してきた!?

なんだアイツは!?

黒猫頭の女!? オオカミ頭のシルバーウルフに対して好対照すぎないか!?

「おおおーッと! あれこそもう一人のS級冒険者ブラックキャットだ!!」

隣にいるヤツがすかさず解説を入れてくる!

こういう時、解説役がいるって有難いなあと思った。

「ブラックキャットは現ギルドマスター夫人にして夫同様引退が囁かれているが、それでも充分すぎる実力でS級に列せられる資格を持っている。間違いなく近年の冒険者業界を支えてきた功労者の筆頭だ!」

相変わらずよくしゃべるなー。

「ちなみに、このブラックキャットが前ギルドマスターの実娘だということは知る人ぞ知る事実! シルバーウルフがギルドマスターに着任したのも彼女との結婚が大きな要因だが、これはシルバーウルフが逆タマに乗ったというわけではなく、ギルマス一家総出の罠にかかった説が濃厚だ! それだけシルバーウルフの能力が買われたということでもあり、何としてでも彼を取り込もうというギルマスファミリーの執念が、敗戦を経てなお冒険者ギルドを存続させた奇跡の原動力にもなったという……!」

そして『ちなみに』が多い。

ホントに多い。

そんなうちにも、そのブラックキャットとやらも凄まじい速さでダンジョンを縦横無尽に駆け抜けていく。

「S級冒険者ブラックキャットの真骨頂は黒豹獣人としての攻撃性の高さにある! ネコ科猛獣として足音、匂いなどを完全に消し、気配ゼロで襲い掛かってくる。それに対応できる人類はもちろんモンスターもほとんどいない! 夜ならば、あの黒い毛並みが闇に紛れて隠形率は六百倍!」

なるほど。

「ちなみにS級冒険者といえばゴールデンバットとシルバーウルフの二大巨頭が、とかく話題になるが、それにブラックキャットを加えた三人がここ十数年の冒険者業界を賑わせてきた! 彼女もまた紛れもないトップクラスの冒険者であることは疑いない!!」

たしかに現役S級冒険者たちの実力は本物だった。

……いや、本物以上?

今まで人族を『敗者の種族』と侮ってきたが、どれだけ迂闊なことだったか今ならわかる。

先の戦争の勝者は魔族であったが、何かちょっとした手違いの一つ起こっただけでも勝敗は逆転していたのかもしれない。

私の認識は間違っていた。

人族を侮るのは金輪際やめにしよう。

私は、この人族の作った冒険者というシステムの中で、改めて一番を目指す。

それにしてもS級冒険者たちの実力もさることながら、それを完璧に解説しきったヤツの知識も素晴らしきものだったな!

ずっと私の隣にいたヤツのことだが。

「フッフフフフフ驚いたかね? 我が名はタマーリム、遥かなる時の逆巻きより冒険者たちを見守りし者である!」

そっかぁ。

ちなみにこれだけの知識量と解説を述べられる話術。

きっと人族の社会でも名のある立場に違いないが、職業は一体何を?

「自宅警備員である!!」

……。

それは、どのようなお仕事で?

「自宅を警備するのが主な任務である!!」

……。

そのお仕事は、そう……お賃金は発生するのかな?

「見返りを得るために労働するなど卑しい行為だ!!」

相手は胸を張ってそう言った。

……。

また考えを改めた。

人族も凄いヤツとダメなヤツが入り混じってるんだなあ、と。