軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

865 茶の道

俺のもう一つの気になっているところとは、またしてもエルフ絡みだ。

そもそもエルザリエルさんやL4Cよりも馴染み深いエルフが俺にとってはいる。

そう、農場住みのエルフたちだ。

我が農場に住んで日夜皿焼いたり木像を彫ったり皮をなめしたり、ガラス細工を製作したりとそんなことをする人たち。

彼女らも彼女らで何かの動きを常にしている。

よからぬことでなければ基本放任するが、ちょっと経過どうなっていますかねえ、といい機会なのでたしかめてみる。

何を?

我が農場エルフたちの……お茶拡散事業。

いつぞや農場でお茶っ葉を生産したことがあり、それに大いに心酔してしまったエルフらが『お茶を世界全土へ広めよう!』と思い立ってしまったんだな、これが。

それでなんか色々しているみたいだが俺はあえて黙認していた。

下手に関わり合いになりたくなかったからじゃない。

でも放任していたとしても知らぬうちに話が進みすぎて暴走なんてことになったら却って被害が増えるし、様子を見とくにはいいタイミングかなと思った。

同じエルフ事業の植林を視察したついでに。

するとすぐさま悪い予感が当たったことを悟ったよ。

何故かって?

なんか今、お茶文化拡散を意図したイベントを人間国のある都市で行われているというんだ。

マジかよ。

そんな一都市でイベントが行われるほどに流行しているってこと!?

距離的にもエルフの森の近場だったので転移魔法を使わず物理移動。

もっともドラゴン馬のサカモトに乗れば世界中のどこだろうと一瞬だがな。

そして着いた。

この人間国のリキュー街で。

行われるお茶イベントとは一体!?

* * *

「ん? なんだアンタも来たのか聖者様?」

街ではなんと見知った顔、農場エルフのエルロンがいた。

お前こそ何してんだこんなとこで?

「今日のイベントの主催は私だからな。世界中にお茶を席巻させようと目論む私にとって、外すわけにはいかない」

「そっすか」

いつの間にやらそんなにお茶を推すようになって……。

そもそもコイツら、どうやってこんな遠くまで来れるようになった?

転移魔法か。

魔族しか使えないはずだった転移魔法を、何故か農場に住む者たちは全員使えるようになったんで……俺以外は。

皆気軽に農場から出かけたり帰ったりしておる。

そうじゃなくてもエルロンは元エルフ盗賊団でお尋ね者だし、農場からしても保護観察みたいな立場にいるから、あんまり気軽にお出かけされても困るのだが。

「この世界中の人々が朝昼夕にお茶を飲み続けるようになることが我が望み! そのためにも今日のイベントを成功させるんだ!!」

静岡かよ。

何がそこまでエルロンのお茶情熱をヒートさせるのか。

そしてさっきは農場エルフが一丸となってお茶を背内に広めようとしているみたいな言い方をしたけれど。

結局モチベーション全開でしているのはエルロン一人なんだよな。

主語が大きすぎた。

この場にはマエルガもミエラルもポーエルも来てないし、彼女らは相変わらず農場でそれぞれの仕事に勤しんでいるに違いない。

エルロンだけがこんなところで独自の活動に勤しんでいる。

そんな彼女の下へ、現地住民らしい人族の方々が集まってくる。

「エルロン宗匠!」

「エルロン宗匠! 本日のイベントも満員御礼ですぞ!!」

「これも皆、宗匠のお陰! 宗匠の莫大な資金援助があってこそですぞ!」

なんかめっちゃ慕われておるエルロン。

謎の宗匠呼び。

「宗匠がその見事な独創性で生み出す器を売って得た代金を、ほとんどお茶事業の発展につぎ込んでいるのは有名ですからな!!」

「あの神が作りたもうたかと錯覚するほど美しく素晴らしい器……! 一体どれほどの値段で取引されるか想像もつきませぬ……!」

「まだまだ駆け出しのおぬしには考え付かぬことよ。……されば宗匠、今度の新作ですが、お茶仲間のよしみで私に格安にてお譲りいただけぬか?」

「あッ、抜け駆けはいかぬぞ!!」

エルロン、人族のいかにも富豪みたいな者たちから大人気。

彼女が農場で焼いているお皿の芸術性が、世界中に広まりつつある?

そんな彼女がかつては盗賊として人魔両国を股にかけてお尋ね者だったことを知っているのだろうか?

今や人魔両国を股に掛けたカリスマ陶芸家。

そしてお茶発展運動のけん引役。

人生どうなるかわからないものだ……。

そんなエルロンが、自信に満ち溢れた表情で言う。

「皆、今日はよく集まってくれた。お茶の発展のため、皆が力を合わせてくれることこそ私は嬉しい」

「「「「「押忍ッッ!!」」」」」

「我々の力でもって、今日もまた一人でも多くの人にお茶の素晴らしさを知ってもらおうではないか。ひいては本日一番頑張ってくれたと感じたモノに、私が今日焼いてきた小皿一枚を無料で進呈しよう」

「いやっふぅうううううううッッ!!」「なんと慈悲深い!」「そんな太っ腹でいいんですか!?」「やったらぁあああああああッッ!!」

謎の盛り上がり。

で、結局のところお茶イベントってどんなことやるの?

お茶というだけでは漠然としすぎてどんなことをするのかわからん。

皆で試飲会とか?

あるいは利き茶で産地やブレンドを当てるとか?

もしくは……お茶の掛け合い? 柄杓でぶっかける?

「ふっふっふ……イベント初参加の聖者様は、何もわからず戸惑っているようだな。さすれば一から懇切丁寧に解説してしんぜよう」

なんか偉そうだなエルロン?

巨匠気取りか?

「このイベントは……茶道だ!」

「茶道?」

というとあの?

茶室で、大きな茶碗の中でお茶をシャカシャカ言わせて『けっこうなお手前で』っていうヤツ!?

表千家と裏千家、表と裏の戦いに発展するアレ!?

茶道がこのファンタジー異世界に渡ってきていたのか!?

「聖者様から聞いた茶道の話を元にな……。私みずから茶道というものの再現を試みた! 茶を飲むことによって真理に通じ、自然といったになろうとする茶道……! お茶発展のために組み込むに相応しい!」

なるほど、そうして茶道イベントを開いて、お茶そのものと一緒に世に広めていこうと?

……ってーことは、やっぱり青空の下に囲炉裏を挟んで、訪れたお客に茶をたてて……、などという催しを行おうというのか!?

それはそれで風靡で面白そうだが。

お茶も美味しかろうし。

日本出身の俺からしたらなかなかいいイベントだと思ってしまうんだが、それはファンタジー異世界を知る者としては迂闊な思考だろうか。

「宗匠、そろそろ開始の時間です」

「セレモニーのご準備を……」

セレモニー?

スタッフらしき人に促されてエルロン壇上へと向かう。

「聖者様よ、せっかくだから見ていくがいい。この私がこの世界で完成させた、エルフ流裏茶道の神髄を」

うん? うん……!?

どうやらエルロンが、この世界で再現した茶道を御披露してくれるらしい。

さて、一体どうなることやら……!?

* * *

なんか地面から一段高い場所へ上がるエルロン。

壇上というよりも広く、なんというかリング?……というのがシックリくる。

そんなところで何をするの?

茶道をするんなら茶室とか、そんな場所でするんじゃないのか?

と思っていたらさらなる困惑の事態。

エルロンの前に立ちはだかる、身長二メートルは終えるかと思われる巨漢。

「宗匠、よろしくお願いいたします」

「うむ」

礼を交わし合ったあと、二人がぶつかり合った!?

なんで!?

茶道の実演じゃなかったの!?

「一服!」

「一喫!!」

なんかよくわからん掛け声でぶつかり合う。

……!?

ああッ、今気づいた!

格闘する二人の手には、お茶がなみなみと注がれた茶碗がッ!!

「手に持つ茶がこぼれぬように、優雅なる体捌きで戦い合う! それこそ茶道の神髄! 食らえこはぁあああああッッ!!」

エルロンが、茶碗を手にしたまま解き放つ蹴りが、相手側巨漢の顎を吹き飛ばす。

体格に見合って筋骨隆々で、いかにも強そうな男であったが、その烈蹴にあえなく陥落し……。

その前に最後の力を絞って、手に持つ茶を飲み干し……。

「……けっこうなお手前で……!」

そう言い残して崩れ去った。

「茶道を志す者、茶の一滴も無駄にしてはならぬ。倒れる前にキッチリと飲み干すその作法見事なり」

俺は何を見せられているんだろう?

一つだけわかることがあるならば、このファンタジー異世界に正しい茶道の心得は一切伝わっていないということだった。