作品タイトル不明
864 群雄割拠
森の中で戦いが繰り広げられている?
どういうこと?
「植林作業に樹霊たちの助けも借りてな」
あー、わかっちゃった。
その言葉だけですべてを理解しちゃった。
悲しいわ。
そんな俺の懊悩を知ることもなくエルザリエルさんは説明を続ける。
「アイツらがいると便利なんだ。樹霊は、樹木に憑依して自由に動かせるだろう? その能力を利用して、苗木畑で育った苗木を、そのまま自分で移動させるんだ。一切手間がかからない」
そう、樹霊が絡むと樹木に対する面倒は大抵がなくなっちゃうんすよ。
樹木自体が人のように自立歩行したりするんでね。
移植するのに人が運ぶことなく、木が自分で移動したらこれほど楽なことはあるまい。
俺の農場にも樹霊どもは住み着いているので、もうお馴染みの相手だ。
その便利さは身にしみてわかっている。
「ということで植林作業には樹霊たちの助けを大いに借りた。そして移植が済んだあとも樹木に宿って、森に住み着いてな」
「はいはい」
「そしたらいつの間にか、それぞれの木の種族に分かれて領地を主張するようになり。森の中はまさに群雄割拠の戦国時代」
杉、茶、松、白樺、竹……。
それぞれの種族が森林統一を目指して争いあう。
ノブの野望みたいな森になっている……!?
「別に争いたくば命尽きるまで争えと思うのだが、そうしたら折角広げた森がまた縮小してしまうのでな。この際どい問題を解決するのに……折角来たんだ聖者、何か知恵を出せ」
気づけば便利使いされていた。
しかしいつも通りの扱いといえる。
「せっかく植林で広がった森がこんな状態に追い込まれていたなんて……!?」
樹霊どもは、隙あらば異種異木の間で優劣を競おうとする。
案外好戦的な生き物(霊?)なのだろうか?
まあとにかく争いは何も生まないから、喜んで仲裁を買って出ようじゃないか。
「じゃあ実際に樹霊どもから話を聞いてみるかのう」
話を聞いてみて、通じるようなら説得を試みて矛を収めさせよう。
ではまず、どこの樹木から面談してみるか。
「ここからだと近いのは杉のエリアだな」
杉か……。
知らんうちにこの異世界にも根を張りやがったな。
俺としては花粉的な問題でできれば根絶やしにしたいところだったんだけれども。
「杉は頑強だしまっすぐ伸びるし、建材として人族どもが高値で買ってくれるんだよなー。既に人族や魔族から木材の買い付けがきて、いー稼ぎになるんだ」
エルザリエルさんの声が浮かれていた。
ええい、俗に浸りおって!
「というわけで、できることなら争いによって他の樹種が滅びるとしても杉の木だけは保っておきたいな」
花粉症サイドからは過ぎこそ根絶やしにしてくれという声が聞こえてきそうだがな。
この国民症が地上から消え去らない理由がわかった気がした。
「じゃあ、まずは杉の樹霊に会ってみるか」
『やだ、私の値段、高すぎ……!?』
早すぎ登場、杉の樹霊。
『私は杉の樹霊、ウエスギ・ケンシン』
「ほうほうほう」
『ライバルは竹の樹霊のタケダ・シンゲンです』
上手いこと符合つけてんじゃねえよ。
しかも竹の樹霊ってタケノッコーンじゃないのか。
場所が変われば樹霊も変わってくるってこと?
『我々は「 木(ギ) 」を重んじ「木」のために戦う!』
『「 木(モク) 」は城、「 木(モク) 」は石垣、「 木(モク) 」は堀』
唐突に現れた竹の樹霊と共に川中島を開始しやがった。
元ネタ通りならば、そうそう決着はつくまい。第二次第三次と続いていくんだこの戦いは。
放っておいても大丈夫だから一旦他を当たってみるとするかな。
この森の勢力図を担うさらなる樹霊は……。
* * *
白樺の樹霊たちであった。
白樺って言うと、その名の通り表面が白い、細幹の木。
火が付きやすく焚火の燃料に適するとか。
そういう蘊蓄とは関係なく、白樺の木に憑りついた樹霊たちと今度はどんな会話ができるのか……。
『我らはシラカバ派です』
白樺の樹霊が言った。
『我々は真の文学を追い求める派閥なのです! 文学とは真の芸術であり、魂の表現であり! くだらぬ大衆娯楽とは一線を引くべきなのです! しかるに我々は、この地に文学の金字塔を築き上げ……!』
「はいはいはい、ストップストップストップストップ……!」
ヤバい話になりそうなので取り押さえた。
どうして樹霊って連中は執拗に個性を求めていくんだろうか。
「ええいダメだッ!! コイツらの主張に沿ってたらいつまでも未来永劫の戦国乱世だ! 誰かこの混乱をまとめる者がいなくては!!」
「じゃあやっぱり杉を……!」
だからソイツはダメだと言ってるでしょうエルザリエルさんッッ!!
ヤツらが栄えて世界中に花粉がバラまかれたら大変なことに!!
「だったら茶ノ木?」
「推しが強いなあ!」
エルフたちの自分たちの気に入った木への傾倒ぶりが凄い。
お茶への執着は九割エルロンの原因なんだろうが、エルフが緑茶運動に総力を挙げておった。
しかしながら……。
俺が求める戦国乱世のまとめ役は別にいる。
心当たりがあるんだ。
実は農場の方でも住み着く樹霊どもが、すぐ優劣を競おうとするのを即座に抑える有能なストッパーがいる。
ドラゴンのヴィールですら持て余す農場の樹霊ども、それをもしっかり手綱を取るのは……。
* * *
「大地の精霊よ! 行け!」
「おっけーなのですぅうううううーーーーッ!!」
大地の精霊。
それは大地の営み、その息吹が実体化し、人格を持った者たち。
その姿は可愛い女の子のようだが、その正体は大地の運行を下支えする霊的存在で、普段は触れることもできなければ目に見ることもできない。
ウチの農場でのみ、大地の守護者も兼ねる冥神ハデスの祝福で実体化できるんだが、その大地の精霊の少女たちがここ復活エルフの森で、その勇姿を勇躍させる。
「ひかえおろうですーッ!!」
「そのケンカ、あずかるですーッ!!」
「てーせんきょうていですーッ!!」
大地の精霊は種族なので、呼び出されたのは複数。
ソイツらが樹霊相手に飛びかかってはマウント取って無力化する。
不毛な対決を重ねるタケダ・シンゲンとウエスギ・ケンシンもひとまとめに絞められて。
『ぐおおおッ!? 待ってくれッ! 宿敵との対決が……!?』
「そーやって足をひっぱりあってるから、オダッチにだしぬかれるんですーッ!!」
「てんか・ぐふかすたむですーッ!!」
小難しいことを言う白樺の樹霊シラカバ派も、大地の精霊の前では無力で……。
『ぐぼはぁ!? ぶ、文学とは、人間性の解放ぅ……ッ!!』
「しゅっぱんぶつはうれてなんぼですーッ!!」
「しゅっぱんぶつのおもしろさは、はっこうぶすーの多さできまるんですー!!」
すべての樹木は土から芽吹き伸びるもの。
大地なくして樹木はない。
ゆえにこそ樹霊たちにとって、母なる大地の精霊たちに逆らうことはできない。
一方的にボコされて終わりだった。
「せーあつかんりょうですー!」
「けんかりょうせーばいですーッ!!」
シュピッとポーズをとる大地の精霊たち。
本当なら農場以外で実体化できないはずの子たちだが、エルフの森ではすでに充分な復興がなされているおかげで大地のマナも潤沢。
そのうえで、ついこないだ三界神から本格的に聖者と認定された俺が呼びかけたら、こっちでも実体化するようだった。
精霊は、生命の営みがあるところどこいでも存在する。
だからエルフの森にも当然存在するし、俺が望めば実体化もする。
「大地の精霊たちよ……。また樹霊たちが争ったらお前たちで仲裁してやってはくれまいか?」
「おやすいごよーですー!」
小さな大地の精霊たち、自分の胸をポンと叩いて請け合う。
「ちじょーから、あらそいをこんぜつするのですー!」
「あらそうものには、しあるのみですー!」
「りゅーけつの上にきずかれる、へーわなのですー!」
よし、ここは大地の精霊たちに任せておけば大丈夫だろう。
エルフの森も復活し、新しい人間国はこれからますます豊かになっていくこと請け合い。
この場は見届け終えたことにして。
もう一つ気になるところがあるので行ってみよう。