作品タイトル不明
859 聖者真贋
「勝者リテセウスくんー」
勝負は決まった。
教皇が送り出す勇者たちを片っ端から屠り、改革後も残る旧体制の亡霊を討ち果たすことができた。
さすが農場卒業生のリテセウスくん。
わざわざ来てもらった甲斐があったな。
「バカな……! 教会が誇る勇者軍団が壊滅……!?」
その現実を目の当たりにして、野望の祖である教皇本人も同様に打ち震え、その震えが伝わって頭に刺さった矢がみょいんみょいんしていた。
これでもう彼がプレジデントファイトに勝つことができなくなったし、さすれば彼自身が新しい人間国の王になるなどといった卑俗な野望もこれにて終焉だ。
そもそもファイトで優勝した者に国のトップという地位が与えられるんだが、ヤツ本人が出場せずに代理で戦った人から権利を委譲してもらうってできんの?
できて当たり前みたいな進め方をしていたが、それができたら何でもアリになっちまうよなあ?
とはいえそういうことに物言いする暇もなく、教皇の野望は即時潰えてしまったわけなのだが……。
「そんな……教会の復権が……!? 天の大神のあまねく加護が……!? 余は正義、絶対善なるゼウス様の意を受けた余が敗北するなどあっていいのか?」
自分の敗北をわかってか、教皇は引き続き刺さった矢をみょいんみょいん揺らす。
悪党ではあるが自分の終わりを受け入れる程度の潔さは備えているらしい。
あとはもう神妙に縛について厳正な裁きを受けてもらうか……。
「いや! まだだ……! 聖なる神の代理人たる余が敗北してはならん! それは善が悪に屈することだからだ!!」
訂正、潔くない。
多くの悪党がそうであるようにひたすら往生際が悪く、悪あがきを実行する。
「おお! そうじゃ、そこのお前!!」
「え? 僕?」
教皇の標的は、見事全勝を飾りしリテセウスくんへ。
「そなたの働き見事であった!! その強さ、人族のために役立ててこそ意味がある! そこでじゃ、お前を我が臣下に取り立ててやろう!!」
「は?」
「嬉しいだろう光栄だろう! この教皇直属の部下になれるなど人族にとって最高の栄誉! 謹んで拝命するがよいぞ!」
突然の任命にリテセウスくん本人どころか周囲も理解できずに困惑。
「ぐッふぁふぁふぁふぁふぁ……! これだけの強者であれば優勝は確実……! そしてコイツから国王の位を譲られたら余が王で確定! なんと鮮やかな逆転の一手よ! こんな素敵な策を思いつくからこそ余は教皇なのだ!」
「お断りします」
「何ぇええええええええええええッッ!!」
しかし教皇の目論見は僅か三秒で崩れ去るのだった。
「断る!? この罰当たりが! この教皇が命じているのだぞ! 世界でもっとも神聖で尊い教皇の命令を受けられるなど生涯最高の栄誉ではないか! それに逆らうなど自分の人生の勝ちを崩壊させるほどの愚行であるではないかはいかほいかぁああああああッッ!!」
「語ってるうちに思考がぶっ壊れても、僕は従いませんよ。僕は教会も教皇も嫌いですから」
きっぱりと言うリテセウスくん。
大勢の女性に囲まれている時の優柔不断ぶりはどこへやら。久々に彼のラノベ主人公体質ぶりを見た。
「僕は庶民の生まれです。自分で土を耕し、実る作物の多少が直接自分たちの生活に影響してくる。そんな生き方をしていれば嫌でもアンタたち教会の横暴がわかるんですよ」
珍しく感情剥き出しに言うリテセウスくんだな?
「僕の住んでいた村は土地が枯れていて、村人全員を食わせるだけの作物を育てることができませんでした。だから僕は領主様のお屋敷へ奉公に出された。村の食い扶持を減らすために。アンタたち教会の使う魔法のせいで大地のマナが吸い尽くされて土が枯れてるってこと、知ったのは大分あとになってからだがな」
「ふ……ひぇ……!?」
「だから僕がお前たちを恨みに思っても、尊敬することなんか絶対にない。お前たちの邪魔をすることはあっても、お前たちの喜ぶことなんか絶対にしてやらない。ましてお前を新しい王様にするなんて、そんな皆から恨まれるようなバカなことを誰がするか!」
普段温厚なリテセウスくんの、やる時はけっこうやるラノベ主人公張りの怒り。
彼の怒りは案外、全人族を代表する怒りなのかもしれない。
昔から人間国の土地は枯れて、農作業などをするのに適さなかった。だからこそ魔族を攻めて豊かな土地を奪い去ろうと戦争の原動力にもなっていたんだが。
それが教会の使う魔法のせいであると知れたのは戦争が終わってから。しかも国内全土にわたって知らしめられた。
いまや人族の恨みは集中し、教会の復権などとても叶わぬ。
その現実を、直接本人へ叩きつけるリテセウスくんだった。
「う、うっさい! うっさいうっさいうっさいッ!! 教会は神聖だ! その教会の頂点に立つ教皇は、神聖の究極だ! その教皇である余が命令するのだから従うのが筋ではないか! 教会が崇める天神ゼウスから生み出された人族ならば!!」
「お前のどこが神聖なんだ? 本当に神聖なお方は他にいる」
ん?
「本当に神聖なお方は、心も……そして振る舞いも、存在も、一点の汚れもなく神聖な御方なんだ。……そう、ここにいる聖者様こそが!!」
へッ? 俺っすか?
突然話を振られてきたのでビビる俺。一気に周囲の視線が集中してきた。
「そ、そうだ! いかにも聖者様は、この世でもっとも神聖なお方! その所業は偉大! それでいて振る舞いや考え方は貞淑として不遜さはなし! 聖者様こそ、この世でもっとも神聖なお方と呼ぶにふさわしい! だからこそ聖者!」
ダルキッシュさんまで便乗するように言ってくる。
何なの? となる。
お陰でさらなる注目が俺に集まって、一躍事態の中心=俺じゃん!?
「お前が聖者だとぉ……!? そんなバカな!」
ついにはワルモノ教皇まで俺の方に注目してきたじゃないか。
今まで存在を空気にできてきたのに!
「この世でもっとも聖なる存在は、天神ゼウスの代理人であるこの余、教皇しかおらぬのじゃ! それを差し置いて聖者を自称するなど何たる傲慢、何たる不敬! その思い上がった心根に必ずや天罰がくだろうぞ!」
その言葉そっくりそのまま自分に返って来そうじゃありませんか?
そもそも俺が聖者ってんのは周りがそう言ってるだけで、自称したことは一度もないんだがなあ……。
「自分の罪深さがわかったら今すぐ世に許しを乞え! 真に神聖な神の代理人……教皇クインセッド様を騙って聖なる身分を偽って申し訳ありませんでしたと言え! そして罪滅ぼしに、余が王となれるように全力で手助けせよ!!」
「なんでそうなる?」
いや、そんなお手伝いなんて断固しませんことですが。
何でも自分の栄達に結び付けようとしてんじゃねえよ。
かといって俺が聖者かどうかなどいうことは立証のしようもないからなあ。
コイツを黙らせるために何とか立証したいものだがどうしたらいいか?
うーんと考えていると……。
『聖者様が聖者様であることなど自明の理。何故改めて立証する必要がある』
「その声は!?」
天地が怯えるほどの怒りの瘴気を伴って……。
現れたのはノーライフキングの先生。
「ヒィッ、ノーライフキング!?」
現場には先生のことを知る者、知らない者と入り乱れていたために現場は騒然となった。
これでも最近はよく娑婆にも現れる先生なので、けっこう有名でもあったりなんだりもする。
「先生わざわざこっちに来られるなんて!?」
『教会の仕出かしたことならワシも出なければですのう。何しろ千年前は関係者だったのですから』
そういえばそうでしたっけ?
先生はアンデッドの王としてあまりにも長く生きすぎて(死んでるんだけども)人間だった頃の記憶も忘れてしまっていた。
しかし俺たちと過ごすようになってから刺激が出てきたのか色々思い出すようになったのだった。
まあ、とりあえず教皇は、先生の発する瘴気に腰が抜けながらもアワアワと言う。
「か、関係者じゃと? お前のような邪悪なバケモノが神聖なる教会と関わりがあるわけがなかろう!!」
『ワシにも生きた人であった時期もあったのでな。その当時はトマクモアという名で呼ばれておった』
先生が名乗った瞬間周りからざわめきが。
「トマクモア!?」
「歴史に記された反骨の聖人!?」
「教会に所属しながら唯一その腐敗を弾劾し、ついには暗殺されてしまったという……!?」
「たった一人の教会の良心……!?」
「まさか不死者となって今日まで在り続けていたとは……!?」
先生は、生きていた頃は歴史に名を遺すほどの重要人物だった!
「トマクモアは何百年もの間、教会に苦しめられてきた人たちの心の拠り所だった。今この時、教会の最期に立ち会われるに相応しい御方だ!」
リテセウスくんが厳しい声で言う。
「ふひッ、最期だなどと……不滅だ、教会は不滅だ……!!」
『権力に縋って生きる人間のなんと見苦しいことよ。そんなに現実を直視できぬなら、いかにしても認めざるを得ぬ動かぬ証拠を提示してやるしかなさそうじゃの』
先生?
いきなりやってきた一体何をなさるおつもりなのです!?
『証明すればいいのだろう? お前ごとき愚俗よりも聖者様が聖なることを? これほど簡単なことはない。お前が自分を神聖であるとほざくのは、神の代理人だというからだったな。では、その神自身に証言してもらえばいいだけのこと』
そして先生、杖を振る。
即して天空掻き曇り、次元を歪めて現れたモノたちは……!