軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

848 人魚王妃の界隈

私の名はアーリー。

人魚宮にて働く侍女ですわ。

生まれついてのエリートで、マーメイドウィッチアカデミアを首席で卒業。

すぐさま宮仕えに上がり、色々素っ飛ばして人魚王妃様のお付きにまで抜擢されましたの。

まさに有能な証明ですわ。

私がお仕えすることとなった人魚王妃パッファ様は、それはもう素晴らしい御方ですの。

見目麗しいのはもちろんのこと、様々な魔法薬の知識に通じ、その奥深さは海溝にも引けを取りません。

マーメイドウィッチアカデミア主席卒業だった私ですら、新たに覚えるべきことをパッファ王妃から教わります。

あの方の魔法薬の知識は、世代の先を越えているのですね。

私、人魚宮に上がったら是非ともプラティ王女にお仕えしたいと希望していましたがパッファ王妃でも全然オッケーですわ。

パッファ王妃の身の回りのお世話をしながら様々な知識を吸収し、いずれは私自身最高の淑女となって、やんごとない殿方へと嫁いでいく。

それが私たち人魚令嬢の務めなのですわ。

パッファ王妃のようなレディの中のレディにお仕えするのは、私たちのように生まれから貴く、しかるべき教育機関で第一級の教養を身に着けたエリートにのみ許されること。

選ばれし者の特権なのですわ。

にもかかわらず、そんな摂理を無視してパッファ王妃に近づく身の程知らずがおりますの。

庶民女人魚のディスカスですわ。

彼女は、学校もロクに出ていない無教養な御方のくせに『パッファ妃の直弟子』を名乗る大変な身の程知らずなのですわ。

たしかにパッファ妃は、王家へと輿入れする以前の経歴が大変曖昧で、謎に満ちています。

その期間中、誰かに魔法薬のイロハを叩き込んでいたとしてもおかしな話ではありません。

しかしそれでも高貴なる人魚王妃が指導したとなれば、相手はひとかどの名家の出でなければなりませんわ。

どこのシーホースの骨かもわからない庶民娘が関わりを持ってはならぬのです。

それなのにディスカスさんは、王妃様の弟子を名乗りたびたび人魚宮を訪ねてきますの。

王妃様に近づく者の身元チェックも侍女の役目ですわ。

その権力と財力でもって調査を進めてみると、驚くべきことがわかったのですわ。

ディスカスさんは貧民街出身のド庶民。

両親も何の変哲もない一般平民。財もなく彼女自身家計を支えるために若いうちから雇われ人になったという。

そんなのだから当然ロクに学校にも通っておらず、学歴なんて白紙同然ですわ。

何てことなのでしょう。

高貴なる人魚王妃にそんな無学の方がまとわりついてくるんなんて。

王妃たる者、接する人間も厳選されなくてはならないのですわ。

私たちのような生まれ気高いエリートならまだしも、無名無学の貧乏人魚を近づけさせては人魚王家……引いては人魚国全体の品位に傷がつきます。

あのような下賤の輩を近づけさせてはなりませぬと、私パッファ王妃に進言いたしましたわ。他の侍女たちといっしょに。

王妃様の風評品位を守ることも侍女の務めですもの。

しかしながら王妃様は、私たちがこんなに親身になってご忠告申し上げているのに全然取り合ってくれません。

名門令嬢の私たちよりも、あの庶民娘を大事にされるということですの?

あんな庶民より私たちの方が断然出自も正しく、能力も高くて、美しいですわ!

私たちこそが、パッファ王妃にお仕えするのに相応しいのです!

そう何度も何度も訴えていたらさすがに真心も通じたのかパッファ王妃がこう言われたのですわ。

――『うっぜぇなあ。だったらお前らも実力で何とかしてみろよ』と。

と。

はい言質取りましたわ。

つまり今度ディスカスさんがやってきた時には、私たちが実力行使で排除していいとのこと。

マーメイドウィッチアカデミアで上位の成績をとった私たちからしてみれば、無学の庶民などサメの前の稚魚にすぎませんわ。

今度来た時こそ、私たちエリートの実力を見せつけて、住む世界が違うということを骨身にわからせてやります。

そうこうしているうちに数日が過ぎ去り、数ヶ月が過ぎましたわ。

さあ来い、と思っているとなかなかやってこないものですわ。

しかしその日、ついにやって来ました。

ディスカスさんが、いつも通りパッファ王妃の関係者を名乗って面会を求めてきました!

しかしそうは海鮮問屋が卸しませんわ!

王妃様の許可も出ていることですし、私たち精鋭侍女たちによって蹴散らしてごらんに入れます!!

「『冷蔵の魔女』ディスカス、パッファの姐御にお目通りいただきたく参上した」

「お黙りなさい! 王妃様はアナタごとき下賤者とはお会いになりません! 身の程を弁えなさいですわ!!」

王妃の居室を前に、私他、数名の侍女が取り囲んで戦闘態勢ですわ。

マーメイドウィッチアカデミアで戦闘用魔法薬の扱いも修めています私たちは、有事の際には王妃様王子様の御身をお守りすることも務め。

アナタのような不審者など吹き飛ばしてごらんに入れますわ!!

「通りたくば腕ずくってことか。パッファ姐さんらしい歓迎の用意だ」

「慣れ慣れしくあの方をお呼びで話ありませんわ! 庶民が!」

このような庶民に時間を割くこと自体、私たちエリートにはナンセンスですわ。

マーメイドウィッチアカデミアの授業で習った、この爆炎魔法薬で吹き飛ぶがいい!

どーんと爆音響き渡り、その爆心地にいるディスカスさんは無事では済まないことでしょう。

多少のケガは、王妃様へみだりに近づいた身の程知らずの罰として受け入れるのね。

この一撃で終わったと思っていたら……。

薄らいだ爆炎の向こうから……まったく無事のディスカスさんが現れましたわ!?

「どういうこと!? マーメイドウィッチアカデミアで認証された爆炎魔法薬が効きませんの!?」

「無駄のない出来のいい魔法薬だ。でもだからこそ解析して無力化するのは容易い」

「だったらこれならどう!」

炎熱が効かないなら、逆の凍結よ!

私の他の侍女たちも一斉に魔法薬を投げつけて、人魚宮の一間は瞬時に氷結地獄と化しましたわ。

しかしそれでも……!

「効かない!?」

「『凍寒の魔女』の直弟子にして、みずからも『冷蔵の魔女』を名乗る、そんなアタシに氷結魔法をぶつけるなんて迂闊が過ぎるぜ」

まったく変わらない!?

炎熱も氷結も最初らないかのように悠然と佇む女だわ。

「アタシは、農場の冷蔵倉で食品がダメにならぬよう常に備えている。温度を一定の保つことこそが最大の使命なんだよ。そんなアタシに高温だの低温だのぶつけても意味がない。すべて瞬時に中和してみせるぜ」

マーメイドウィッチアカデミアで学んだ魔法薬がまったく通じないなんて……!?

無学のはずの彼女が、何という技術なの!?

「わかったかい、実地で学んだ者の強さを……?」

は!?

パッファ王妃!?

「ディスカスには、アタイの魔女としての技の多くを叩き込んである。お嬢様育ちのアンタらが束になっても勝てる相手じゃないよ。……だからと言ってアタイが教えたら誰でも強くなれるわけじゃないが。石を齧って耐え抜いたコイツ自身の努力が何よりの勝因さね」

「パッファ姐さん!!」

ついに対面を果たした王妃様の下へ、ディスカスさんが駆け寄ります。

「今日は、完成した新作を持ってきました! これで今度こそ姐さんを唸らせてみせます!」

「アンタがアタイを唸らせるなんて十年早いよ。こんな箱入りを蹴散らしたところでいい気になったかい?」

「その程度で慢心していたら農場では暮らしていけません! とにかく見てください! アタシの自信作を!!」

マーメイドウィッチアカデミア首席生の実力を遥かに超え、魔女を名乗るに差し支えないディスカスさんが差し出したのは……!

「いぶりがっこです!!」

何ですのそれは!?

「農場の醸造蔵で熟成させた漬物を、煙で燻しました! 姐さんが管理していた時代にはなかったシロモノです!!」

「フッフッフ……。アタイの教えから完全に抜き出たモノを作ってこい……という宿題を果たせたようだね。たしかに煙で調理するっていう発想は、この『凍寒の魔女』にはできなかった」

「では、合格ですか!?」

「しかしアタイを甘く見ないことだね。……どうせこの発想、また聖者のヤツが出したんだろう!?」

「バレてたぁーーッッ!?」

あッ、ディスカスさんが崩れ落ちましたわ!!

「大体あそこでは黙って待ってりゃプラティの旦那が思ってもみないことをしだすんだよ! ヤツの動向はプラティが教えてくれるんだからアタイをたばかるなんて百年早いね!」

「うわぁああああーッ!! 今度こそ行けると思ったのにーッ!!」

「それはそうとして、煙の味がついた漬物の味はいいじゃないか。貴族の奥様連中にばらまく心付けのレパートリーが増えたね」

私たちを圧倒するディスカスさんですら、パッファ王妃を満足させるには足りないんですの!?

まだまだですわ。

王妃様のお役に立てように、私たちだって気合を入れて精進しなければ!!